手加減を教えてください!

りーさん

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第二章 赤い月と少年の秘密

24 再会

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 翌日、ルイスはギルドに顔を出していた。
 昨日のマルスからの指名依頼の報酬を受け取るためだ。

「は~い。銀貨四枚」
「ありがとうございます」

 ルイスは、受け取った銀貨四枚を懐に仕舞う。
 依頼を受けようかとルイスが受付を離れようとすると、「ねぇねぇ」と声をかけられた。
 ルイスが後ろを振り返ってみると、そこには、共に迷宮に潜った『蒼風の刃』がいた。

「あっ、お久しぶりです!」
「そんなに間は空いてないけどね~」
「そ、そうでしたか……?」

 言われてみれば、久しぶりというほど、間は長くなかったかもしれない。時間にして、一週間ほどだろう。
 だが、ルイスからしてみれば、その間にいろいろとありすぎて、何日も時間が経ったような感覚だった。

「おい、そいつはなんだ?」

 リリカの後ろから、見覚えのない大男がルイスを覗き込むようにして話しかけてくる。
 リリカは、肘で男を制しつつも、質問に答える。

「ルイスくんよ。あなたが怪我で休んでいたとき、一時的にパーティーを組んでいたの」
「ルイスって、あの落ちこぼれとか!?」

 そう驚愕する男の腹に、リリカが強烈な一撃をお見舞いする。
 痛みからか、その男は腹を抱えているが、リリカは、そんなのは気にする素振りもない。
 ルイスがポカンとその光景を見ていると、不意にリリカと目があった。

「ごめんね、ルイスくん。悪気はないのよ、こいつも」
「あっ、いや……そう思われているのは仕方ないですし……」

 言ってしまえば、手加減ができないルイスが悪いのだ。
 ちゃんと討伐証明を持ってこられたら、こんな誤解などは受けずに済む。やっかみは余計に増えるかもしれないが……

「それに、悪気があるかないかくらいはわかりますよ。この人は優しい人です」

 普段から冒険者たちに陰口を叩かれたり、ダグラスから挑発されているルイスは、悪意には敏感なほうだ。
 その言葉に悪意があるのかどうかくらいは、感覚で判別することができた。

「あら、ダンカがそんなこと言われたの初めてよ。子どもには、大抵怖がられるから」
「そうなんですか……」

 ルイスにとっては、見上げるようにしないと顔がわからないくらいに大きいが、どことなく雰囲気がダグラスに似ており、恐怖感は抱かなかった。
 むしろ、この人はダンカという名前なのかというほうに、意識を向けていた。

「そういえばルイスくん、何か受け取っていたけど、もう依頼を終えたの?」

 リリカが思い出したようにルイスに尋ねる。
 今はまだ朝だ。日の入りから一時間も経っていない。
 こんな早い時間に、依頼を受ける存在はいても、達成できる存在なんてほとんどいなかった。
 ルイスは、いいえと否定する。

「昨日の指名依頼の報酬を受け取っていなかったので、受け取っていたところです」

 ルイスは、懐に仕舞った銀貨を見せた。
 それを見たリリカはぎょっと目を見開く。

「ぎ、銀貨……?ルイスくん、9級なのにすごいわね……」

 一般的に、薬草採取や街の雑用といった、魔物を倒す力を持たない10級や9級の冒険者たちへの依頼は、簡単なものであるがゆえに、報酬も少ない。ほとんどが銅貨、場合によっては、大銅貨があるくらいだ。 
 以前、ルイスが薬草採取の依頼を受けたときも、五本につき銅貨一枚だったので、十本しか採取していなかったルイスは、銅貨二枚しかもらえていなかった。
 魔物の討伐依頼以外で、銀貨を報酬としてもらうのは、それだけ珍しいことなのである。

「マルスさんは、これでも足りないって言ってくれるんですけどね」

 ルイスは、興奮状態にあるマルスの様子を思い浮かべる。
 研究が捗っているからと、マルスは当たり前のように金貨を出そうとしていたが、ダグラスが止めていたらしい。
 子どものルイスが金貨を持っていたら、狙われる可能性があるとのことだった。
 それから交渉して、銀貨四枚という報酬になったのだ。

(これでも僕は充分なんだけど……)

 ルイスがやっていることといえば、部屋の片づけをしてから、石に魔力を注いでいるだけなので、働いているという感覚を、そこまで持てていない。
 銀貨ですらもらいすぎだと思うくらいだ。

「いや、これ以上はまずいわよ。等級が低い冒険者がお金なんて持っていたら、狙われる理由にしかならないもの。ルイスくんも、絡まれるのは嫌でしょ?」
「う~ん……確かにそうですね……」

 ルイスは、自分をよくバカにしている冒険者たちに囲まれているのを想像して、露骨に嫌悪感を示す。
 別に、嘘だと思われて責められるのはいい。
 ルイスだって、孤児院の子どもがいきなり大金を持ってきたら、どこかから盗んできたと思って、責めてしまうだろう。
 だが、それで話が拗れて、殴り合いのようになってしまったら、ルイスは加減ができないため、下手に手出しができない。一方的に殴られたりするだけで終わりそうだった。
 それは、ダグラスも恐れていることだろう。
 この銀貨たちは、いつものように、養母を経由して、孤児院に送っておくのが一番いい。
 手元に残しておいてもいいものではないような気がする。

「まぁ、注意していればいいわよ。それよりも、ルイスくんは何か依頼を受けたりしないの?」
「う~ん……受けてもいいんです……けど……」

 ルイスは、リリカの質問に、少し言い淀む。
 ルイスの脳裏によぎったのは、以前に街を追い返された時のことだ。
 別に、あのパーティーを悪者のように言うつもりはないが、街の外に出るような依頼を受けても、またあのように追い返されてしまう可能性がある。
 だからといって、街中の依頼はほとんどなく、あったとしても安いものばかりで、わざわざ受けようとは思えないようなものばかりだ。

「嫌なら受けなくてもいいんじゃないか?」

 クロードが呆れたような、それでいて裏表なく聞いてくる。
 それに、ルイスは答えづらそうにしながらも、ボソボソと答えた。

「いや、そうしたら、ちょっと大変というか、嫌というか、疲れるというか、苦しいというか、死にそうになるというか……」
「だんだんとマイナスの方向に向かってるよ……?」

 だんだんと声が小さくなっていくルイスに、アズサは心配そうな顔で言う。

「何があるんだよ?」

 ダンカがぶっきらぼうに聞くと、ルイスは一言だけ返した。

「母さんの熱血指導です」
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