元天才子役は悪役王女に転生する 名誉回復したら、なぜかいろんな人から溺愛されるんですけど!?

りーさん

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第一章 悪役王女になりまして

1. 元天才子役でした

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「彩花さん。これ先生に持ってってくれない?」
「いいよ」

 彩花は、それを渡された紙を受け取って、廊下を歩いていく。
 いつもの日常。メガネで隠された素顔には、誰も気づかない。言われなければ思わないだろう。彼女がかつては日本中で愛された天才子役など。

(これでいいの。もう、アヤには戻らない)

 アヤとは、彼女が芸能界にいたころの呼び名。アヤは、とてもきれいな美少女だった。3歳から芸能界に入り、その美貌と、一瞬で大粒の涙を流すほどの演技力、アクション俳優なみの身体能力で、一躍時の人となった。
 その高い演技力は、両親が育てたものだ。彩花の母親は、有名な女優だった。そして、父親はスタントもやるくらいのアクション男優。
 完全な芸能一家だったのだ。

「あれー?彩花じゃん!」
「美月……」

 彩花は、今気づきましたと言った感じで返事をする。
 美月は、大学での同級生だ。地味な格好をしている彩花をいつもからかっている。でも、別に悪意があるわけではなく、メガネをはずした方がかわいいと思っているからだ。
 それを、彩花もわかっている。なので、彼女をおせっかいだなと感じたことはあっても、それを否定したり、拒否したことはない。

「まーた押しつけられたな~?」

 このこのと彩花のほっぺをつつきながら、からかっている。

「いいターゲットだからじゃない?」

 彩花は、それに少し困っているように笑いながら答えた。

(まぁ、本当は全然いいんだけど)

 困っているように答えたが、実は全然そんな風には思っていない。
 特別扱いされるよりは、こんな扱いされる方がマシだというもの。でも、こうやって困ってますアピールをしないと、変な子だと思われるかもしれないので、わざとそうやって笑っている。
 天才子役だった彼女には、こんな演技は朝飯前で、それが演技だと見破られることは少ない。

「そうだ、彩花。午前で講義終わりっしょ?」
「そうだけど……?」

 どうしたんだろうと不思議そうに美月を見るが、この後のセリフはわかりきっていた。

「あのゲームやんない!?ラビ恋!」
「本当に好きだね」

 予想通りの答えだと思いながらも、微笑みながら相づちを打った。

「だってさぁ~、声優が神だし、グラフィックきれいだし、冒険要素もあるしさ!いろーんな人がプレイできるんだよ!?」
「私も冒険要素は好きだなぁ」
「でしょ!?RPGで有名な会社と、乙女ゲームの会社の共同製作だって聞いたし、売れないわけがないって!」
「そうだね~」

(もう何回聞いたかな、これ)

 もう耳がタコになるくらい聞いたその話に、彩花は微笑むしかできなくなっていた。
 彩花は、ゲームのことについて思い出す。

 ラビリンスの恋。通称、ラビ恋。これは、恋愛パートと冒険パートに別れている。だけど、どちらかをおろそかにすると、ハッピーエンドを迎えにくい。
 恋愛パートをおろそかにすれば、連携がうまくできなくなり、冒険パートでラスボスまではいきにくくなる。きちんと冒険パートで手助けしなければ、自分たちの地位を狙っているだけの女として見られて、うまく行かない。そんなバランスがとられている。
 この乙女ゲームのすごいところは、ある程度は自分でキャラクターのカスタマイズができるところ。万能型か特化型。回復か攻撃などで区分されて、そのキャラの特性によって、攻略キャラや、キャラの攻略方法が違う。
 名前も変えられるので、自分の好きなキャラで恋愛したり、冒険できる。そんなゲームだ。

 もちろん、ハッピーエンドを迎えにくいだけであって、プレイング能力が高ければ、どちらかを一方でもハッピーエンドを迎えることはできる。いわゆる、ハードモードのようなものだった。
 恋愛パートだけでやると、少し選択肢を間違えればハッピーエンドにはならないし、冒険パートも、少し攻撃のタイミングなどを間違えるとすぐに全滅する。

「というわけで彩花さま!冒険パートは任せました!」
「りょーかい!彩花さまに任せなさい!」

 右手をグーの形にして、胸にトンと当てる。

 美月は、恋愛パートが好きでよくやるが、ハッピーエンドを迎えるのが難しかった。なので、冒険パートを、RPG系のゲームが得意な彩花が代わりにやっていた。

「それじゃあ、早く帰るためにも!私も手伝うわ!」
「ありがとう」

 美月が手伝ってくれたおかげで、早く終わり、彩花と美月は一緒に帰り始めた。
 そのとき、彩花はふらついた。

(……?なんかくらくらする)

 そうは思ったものの、美月に心配させないために、転びそうになっただけだと説明した。美月にドジだなーとからかわれながらも、彩花は少し不安な気持ちになった。
 すると、だんだん体の力が抜けて、その場に倒れてしまった。

「彩花!」

*ー*ー*ー

 この言葉が、彩花の覚えている最後の記憶。目が覚めたら、広いベッドの上にいた。

(ここはどこ?)

 彩花は辺りをキョロキョロと見渡す。自分は何をしていたんだったか。思い出そうとすると、頭がズキズキと痛んだ。
 その後思い出そうとしても、思い出せない。

(記憶喪失ってやつ?でも、ハッキリと覚えてるのに、何かを思い出せない)

「エルルーアさま!お目覚めになられたのですね!」

 声が聞こえた方を見ると、そこには女の人が。

(エルルーアさまって誰?そもそもこの人も誰なのかな?見たことはあるのに、名前が出てこない)

 そうは思いながらも、記憶喪失かもしれないのを悟られないために、彩花はええと笑いかける。

「今、陛下をお呼びしてきます!」

 女の人は、そう言って部屋を出ていった。

 彩花は、現状を整理する。今度は落ち着いて思い出そうとしてみる。頭が痛いなら、どこかにぶつけたのかもしれないなど考えながら。

「あっ、そっか。さっきのは前世だ」

 そう考えると、腑に落ちた。少しだけだが、思い出してきたのだ。自分の名前は、エルルーア・フィン・ランディミア。10歳。ランディミア王国の王女。そして、自分がさんざんな行いをしてきた、いわゆるわがままなお姫様だったことを。
 でも、なんでそんな癇癪を起こしていたのか?彼女は、愛されたかったのだ。やり方が過激すぎただけ。
 それはともかく、そのせいで、お城の使用人からは恐れられ、家族からは軽蔑されて、通っている学園でも腫れ物扱い。

「マイナスからスタートかぁ」

 普通なら、最悪だとか、自分の現状に嘆くかもしれないが、彩花はそうはならなかった。

「愛されたかったなら、その願いを叶えてやってもいいけど……私は生きていられればそれでいいわ」

 もう癇癪を起こすようなお子さまではない。もうバカな王女ではない。
 彩花は、一つの決心をした。

「まずは、国王の印象操作から始めましょうか」
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