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第一章 悪役王女になりまして

20. 呼び出され

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 2日後、彩花は再び人目のつかないところに向かった。
 今日は授業があったので、それが終わった午後の時間だ。噂が広まってから、イルーミアが距離をとるどころか、ずっと離れたがらなくなったので、撒いてくるのが大変だった。

「なんであんなに懐かれてるのかな……」

 自分がやったことと言えば、魔法を教えたくらい。それも、そんなに上手ではなかったと思っている。イルーミアの理解力が高かったから、あんな拙い説明でも理解できて、魔法が強くなった。
 そんななのに、やけに自分を慕うような、そんな思いが透けて見える。彩花は、友人、良くても親友くらいに思ってくれれば全然かまわない。慕われてしまえば、以前の恐れられて道を開けられたりしていたのとほとんど変わらない。

(ちょっと話し合いをしておくとして、とりあえずはあいつを呼ぶか)

 イルーミアの件は隅に置いておき、彩花は呼びかける。

「ルカ」
「はいはい」

(『はい』は一回でいいって何度言ったらわかるのかな……)

 そうは思ったものの、言っても聞かないのはわかっているので、もう半ば諦めている。

「2日たったけど、ここにいるなら終わったみたいね」
「あぁ、これだ」

 ルカは、何枚か束になった紙を渡してくる。
 そこには、貴族の派閥関係がびっしり書いてあった。表向きにはこちらの派閥だが、本当はこちらの派閥という風に、細かく調べてあった。

(2日でこのクオリティ……いい拾い物したわね)

 彩花としては、表向きの派閥さえわかっていればかまわなかったのだが、自分の期待以上の成果を出してくれることに、過去の自分の行いを誉めている。
 紙をペラペラとめくりながら、数秒だけ見て、その後は燃やしてしまった。
 こんな機密が書かれているものを、保管しておくわけにはいかないからだ。

「ずいぶんと速読だな」
「そう?一応、じっくり見たつもりなんだけど……」

 内容が内容なので、軽く目を通すだけでなく、きちんと意識して読んでいたつもりだったが、それでも速いらしいことに、彩花は少し戸惑う。
 
「三枚分あった紙を5、6秒で読んだやつが何言ってるんだ」
「あら、目を通すだけなら3秒で充分なんだけど」

 アルフォンスの資料と同じくらいの文章量だったので、一瞬、目を通すだけでも、全部はさすがに無理だが、半分くらいは理解できる。
 それが三枚分なので、軽く目を通すだけなら、3秒あれば充分というわけだった。
 それが、すべて理解しようとなったら、倍の時間がかかってしまう。なので、5、6秒かかってしまった。

「どこで身につけたんだよ、その速読は」
「本を読んでたらね」

 本当のことは言っていないが、嘘も言っていない。彩花が速読スキルを身につけたのは、子役時代に台本を手早く覚えるためだが、前世は子役してたんでと話すわけにはいかない。
 そのために、本を読んでいたら身につけたということにした。台本も本ではあるし、台本を読むことで身につけたので、間違ってはいない。

「それじゃあ、しばらくは用事を(たぶん)言わないから安心して」

 『たぶん』の部分を少し小声で言いながら、彩花はその場を立ち去ろうとする。
 その小声は、ルカにはしっかりと聞こえていた。

「おい!たぶんってなんだ!」
「そんなこと言ったっけ?」

 彩花は、本当に用事を言うつもりはなかった。
 今は、派閥の構成さえ知ることができれば、対策を考えられる。その対策を考えている間は、仕事を言いつけるつもりはない。
 それなのに、こんな風に対応しているのは、ルカに一番合うタイプが、こうやってちょっとした冗談を言ったりするキャラなのもあるが、一番はルカをからかうのが楽しいからだ。

(さて、この辺りからお馬鹿なエルルーアに戻るか)

 背伸びをしてから、大きく息を吐いて、彩花は気持ちを切り替える。

「さて、お父さまからのお手紙はいつ来るのかな~」

 鼻唄混じりに、エルルーアは寮に戻っていった。

*ー*ー*ー


「お、王女殿下……」
「何?」

 休日に、のんびりと寝転がっていたエルルーアに、侍女が声をかける。
 エルルーアは眠そうにあくびしながら返事した。

「陛下からです……」
「お父さまから?早く見せなさいよ!」

 そう言って、侍女が手紙を渡してこようとしたのをぶんどった。それを見た彩花は、内心ほくそ笑みを浮かべた。

(ついにか)

 ルカから報告をもらってはいたので、近いうちにあるだろうとは思っていたが、それがまさに今だった。
 彩花は、ペーパーナイフで手紙を開けて、中を読む。中には、手紙と、一枚の紙が入っていた。その紙は、国王の印章入りの呼び出し状。手紙には、理由について書いてあった。

 そこには、アルフォンスから話はある程度は聞いたこと、噂が城でも広まっていることなどが書かれていた。

(調子に乗っちゃってまあ……)

 城で噂が広まるのは、全然想定内だった。でも、少し早く感じている。罠にかかってくれたと、嬉々として広めたんだろうということが想像できた。

 彩花は、ぱぱっと服を着替えて、呼び出し状を持ってお城に向かった。

(なんか、久しぶりな感じがする)

 時間にしては、学園に復帰してから1ヶ月もたっていないだろう。ちょうど五月の上旬から中旬辺りで、もうすぐで梅雨になるというくらいの季節だ。
 だが、婚約者とのやり取りや、アルフォンスに軟禁されたりしていたので、彩花の中では時間の経過が早く感じていた。
 彩花は、廊下を歩いているが、エルルーアを見る目は城に出る前とあまり変わっていない。それどころか、ひどくなっているような気がする。

(どれだけ根回ししていたのかしら?まぁ、その方が都合がいいけど)

 彩花の考えている作戦を遂行するためには、噂の広がり具合が重要だ。
 学園では、アルフォンスがうまい具合に広めてくれたが、お城では、相手に任せるしかない。この噂が偽であるのを知っているのは、ルカ、ロイド、アヤメ、エルルーア、アルフォンス、国王のみ。最初の三人は除外すると、知っているのはエルルーアとアルフォンスと国王のみ。
 エルルーアとアルフォンスは学園に通っているので、やれるとすれば、国王ぐらいだが、国王が真偽不明の噂を自ら広めるわけにはいかない。
 それなら、できるのはエルルーアを罠にかけようとした、サティレス侯爵のみだろう。娘や息子にこんな計画を話しているとは思えないし、噂を広めるとすれば、やっているのは侯爵本人だと思われる。

(侯爵が広めたという証拠はおそらくないだろうから、それは切り札にはならない)

 そう考えたら、やはり向こうに口を滑らしてもらうしかないだろう。あの刺客達の存在は知られていないし、知られていたとしても、証言能力はあまり高くない。
 そうなると、証人がいなくなる。そのために、相手に話してもらうしかないが、相手が口を滑らせるかどうかは、彩花の演技力にかかっている。

(アヤの血が騒ぐわね……やってやろうじゃない!)

 彩花は、わくわくするような、少しドキドキするような複雑な思いで謁見の間に向かう。事が事なので、私室ではなく、謁見の間で話すことになった。

「お父さまに呼ばれて来たわ。通しなさい」

 謁見の間に来て、部屋の前にいる兵士に、国王からの呼び出し状を見せる。

「エルルーア・フィン・ランディミア王女殿下ご入室!」

 軽く一息を吐いて、彩花は中に入っていった。
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