元天才子役は悪役王女に転生する 名誉回復したら、なぜかいろんな人から溺愛されるんですけど!?

りーさん

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第一章 悪役王女になりまして

28. 闇の眷族 1

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 その言葉に、彩花は驚きの表情を浮かべる。エルルーアの知識としても知っていたが、一番は彩花としての知識だ。
 闇の眷族は、ゲームの冒険パートで敵キャラとしてよく出てきた。
 闇の眷族と呼ばれている理由は二つある。一つは、夜に行動することが多いから。多いというだけであって、昼に行動するのもいる。
 ゲームでは、夜に起きやすいイベントとして出てくることが多かった。
 そして、もう一つは、ゲームではラスボスだった、闇の王と呼ばれる者が主だから。
 だが、さすがに昼に全員が留守にしているというのもおかしな話だ。

「お城に戻ろうか」

 アルフォンスか、国王なら何か知っているかもしれない。教えてくれるかはわからないが、ダメ元で聞いてみようと思った。

「その前に、ちゃんとお金を返してくださいね」
「……あぁ、そうね」

 そのまま自分の資金にしようかと思ってたのにと、悪役令嬢よりも悪役な考えをしていた。
 忘れていればよかったのにと思いながらも、サイフを盗んだときと同じように、空間移動でお金を取り出す。
 持っているお金の額は覚えていないが、へそくりを隠している場所なら覚えている。
 使った金額を計算して、それぞれに入れて、騎士達に返した。

「よし、戻ろっか」

 彩花は、再び歩き出した。

「……殿下。ここから取り出せるなら、我々から取り上げる必要はなかったのでは?」

 騎士の一人がそう指摘すると、しばらくの間沈黙が続いた。
 エルルーアの動きも止まる。

「これだから賢い騎士さまは……」

 わかってても言うんじゃないという雰囲気を醸し出しながら、エルルーアが歩き始める。
 その瞬間、逃げるように走り出した。

「あっ!やっぱり盗もうとしてたんですかー!」
「ノーコメント!」

 そのまま、鬼ごっこのようになったが、魔力で体を強化していたので、追いつかれることはなかった。

(あっ、忘れないうちに……)

 ふと思い出して、再び空間移動で、お金を取り出して、それを花屋に置いた。

 そのとき、店員はその場を離れていたが、戻ってきたときに、なぜかお金が置いてあって、少し不思議な顔をしていた。

*ー*ー*ー

「はぁ……」

 彼は、何度目かもわからないため息をついていた。

 彼は、第二師団の団長のギルバート。彼は、本来なら街の警備をしているのだが、今はその街の中心から離れている。
 そこは、スラムと呼ばれる、家を持たない者が住んでいる場所のすぐ近くだ。
 そこは、ディーミア地区と呼ばれていた。彼がここにいる理由は、ここに潜んでいると言われている、闇の眷族の捜索。
 闇の眷族は、昼の時間に、たとえ一人でも、騎士が五人はいないといけないと言われるほどの強さなので、たとえ噂レベルでも、団長の彼が直接確認しに来た。

「……」
「……」

 言葉は、はっきりとは聞こえないが、何かしらの会話が聞こえる。
 音をたてないように、そちらの方に近づいた。

「なぁ、そっちは終わったか?」
「あぁ、今のところ、作戦通りにいっている」

 明らかに、スラムの住人ではない会話をしている。声からして、片方は男、もう一人女のようだった。
 ギルバートは、そのまま会話を盗み聞きする。

「な~んでこんな地味なことをしないといけないんだ?」
「そりゃあ、ここには厄介な存在がいるからだろう。気づかれたらいけないんだろうさ」

 一人の男の言葉に、ギルバートは首をかしげる。
 厄介な存在とは何なのだろうか。彼らが本当に闇の眷族だとすれば、厄介と評するような人物は、そんなに言うほどはいないのではないだろうか。
 もちろん、そんな存在になるかもしれない存在はいるが、まだそこまでのレベルに達していないのがほとんどだ。

「もう死んでるでしょ。あの女は・・・・
「そいつは死んでいるけど、子どもが引き継いでいるとも限らない」

 その言葉で、警戒しているのが子どもだということがわかった。
 だが、子どもにそんな存在はいただろうか?いるとするのならば、学園だろうが、そんな存在がいるとは聞いていない。いや、優秀な存在は何人かいるが、母親が警戒されるほどの存在だという生徒がいない。

「それもそうか。でも、そろそろ止めないと勘づかれないか?」
「あぁ、だから、そろそろ動くんだよ。と、その前に……」

 その言葉の後に、足音が聞こえ始める。それは、自分の方に近づき始めた。

「下等生物はやることも底辺ね。盗み聞きとは良い趣味をしているわ」

 自分の存在に気づかれていたことを察し、ギルバートは腰にさげている剣に手をかけた。
 そして、その存在が姿を現す。見た目は普通の人間のようにしか見えないが、対峙した誰もが人間ではないと本能的に感じるだろう。そんな覇気を感じた。

「あんたは、下等生物の中では、中の下といったところか」
「確かに、お前には勝つのは無理かもしれないが、時間稼ぎくらいはできるぞ」

 向こうが闇の眷族の中でもかなりの実力があることは予想ができる。
 さすがに単独で勝つのは不可能だ。だが、自分の実力なら、時間稼ぎくらいならできるのではないかと思っていた。

「ずいぶんとなめられたものだわ。貴様など足元どころか、私の立っている場所には手も届かない」

 女は、ギルバートの方に手をかざす。そのとき、ギルバートは体がピクリとも動かなかった。まるで、蛇に睨まれたカエルのように。
 自分の体を確認すると、黒い縄のようなものが、自分の体に巻きついている。
 いつの間にこんな魔法を使っていたのかと思ったが、それを考える余裕を、相手は与えてくれない。
 男の指の動きに合わせて、巻きついている縄が体を絞めてくる。

「うっ……ぐ……」

 縄は首にも巻きついているので、首も絞められている。このまま絞められ続ければ、確実に首が絞まって死ぬことになる。
 そのまま絞められ続けて、ギルバートは意識を失った。

「これで最後なのか?」

 その場に倒れたギルバートを見て、一人の男が隣にいる男にたずねる。

「いや、わからんが、こいつがおそらく長だろうな。今まで会った騎士という奴らの中では、それなりに強い方だった」
「それなら、殺した方がいいんじゃないのか?」

 そう言われたが、それとは反対に、意識を失っているのを確認すると、縄を消した。

「殺しの許可はもらってない。あの方のご意志に背いてはならない」
「君は、変なところで真面目だよなぁ。別に一人殺したところで、あの方は怒らないだろ」
「あんたが適当すぎるだけ。ばれたらどうするつもり?」

 先ほどからへらへらしている男に、女は軽蔑の目を向ける。

「別に大丈夫でしょ。ご主人さまは警戒はしてるかもしれないけど、気づいてないみたいだよ。昼間に会ったからじゃない?」
「あの存在は危険なんだから。隙あらばと思ってるけど、殺気には結構敏感らしいから、全力で相手しないと、こっちがやられかねない」
「だから、街に来てたのにやらなかったの?一人だったときがあったのに」

 男は、その存在が一人になったのを狙っていたが、彼女に止められていた。
 それに、彼はあまり納得していない。

「音をたてて気づかれるようなやつが、一人でいるからって殺せるわけがないでしょうが!」
「あれはあいつに押されたんだって」

 自分は悪くないとでも言いたげな様子に、女はため息をつく。

「なんであんたとペアにされないといけないのかしら」
「まぁまぁ。とりあえず会いに行ってみようよ」
「一応聞くけど、誰に?」

 少し微笑みながら、女は男にたずねる。男は決まっているだろという顔をしながら、質問に答えた。

「我らがご主人さま、エルルーアさまにね」
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