元天才子役は悪役王女に転生する 名誉回復したら、なぜかいろんな人から溺愛されるんですけど!?

りーさん

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第一章 悪役王女になりまして

30. 闇の眷族 3

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 彩花は、錆落としを終えてから、そのまま国王の私室に向かう。今回のことについて、聞いておこうと思ったからだ。

「陛下、今よろしいでしょうか?」
「エルルーアか。入っていいぞ」

 許可を得たので、彩花は中に入る。

「あっ、宰相閣下もおられましたか」

 私室なので、てっきり中には国王一人しかいないと思っていたが、宰相とともに仕事をしていたようだった。

「いえ、私のことはお気になさらなくて大丈夫ですよ。なにかご用があって来られたのでしょう?」
「ええ。それなら気にしません」

 良い子を演じるのならば、ここで宰相のことも気にするのが普通だが、そんなことはしない。
 癇癪を起こさなくなっただけと思われないといけないからだ。いきなり変わりすぎると、警戒してくるのも増えてくるので、それを同時に相手するのは面倒だった。なので、少しずつ変わっていくという仕様にした。
 厨房でも、わがままを通していたのは、それが理由。かしずかれることになるので、それは気に入らないが、王女である以上、完全になくなるわけではないことも理解している。

「街に出かけたときに、気になることがあったのですが……」

 彩花は、街であった出来事を報告する。騎士のサイフを盗んだことは言わなかったが。

「それで、闇の眷族の出現情報があるのですか?」
「……公表してはいないが、あるのは事実だ。いるとするならば、スラムだろうな。調査を命じたのも事実だ」

 国王の言葉に、彩花はなるほどと納得する。スラムは、職を持っていない人が多くはびこっている場所だ。治安もそんなによくはなく、王都の住民達も、あまり近寄らない。
 近寄らないので、潜伏するにはもってこいの場所だ。

(あいつらの主もそこにいるのかな……?)

 あの三人は、自分のことを、真の主としては見ていないように感じた。
 別に、それはそれでかまわない。自分だって、あの三人を信用しているわけではないので、向こうに信用しろとは言わない。だが、それで自分に危害を加えられるなら話は別だ。
 直接確かめに行くのが、一番確実だが、もしそこに闇の眷族が潜んでいるのならば、とばっちりを喰らう可能性がある。
 たとえ下っ端でも、騎士が数人はいるくらいの強さだ。幹部並みの強さだったら、勝てる確率はゼロに近い。

(う~ん……でも……)

 少し考えて、彩花は「失礼しました」と言って、部屋を出ていく。

「……カシティアと似ているな。あの目は。スラムに行くかもしれないな」
「さすがに、王女殿下も殴り込みにはいかないと思いますが……?」

 幼いころからよく命を狙われており、自分の命を惜しんでいることが多かったエルルーアが、わざわざ死にに行くような真似をするとは思えなかった。

「そうか?アルフォンスの話では、窓から逃亡したり、木を伝って城壁を乗り越えたりしたそうだ。カシティアとまではいかなくても、じゃじゃ馬かもしれないぞ?」
「……」

 国王の言葉を聞いた宰相は、嫌な予感が脳裏によぎった。

*ー*ー*ー

「どうする?」
「あれは、半分くらい気づいてそうだったけどね~」

 スラムの建物の影で、二人の男女が会話している。
 ロイドとアヤメだ。もう月が出始めているくらいには暗いので、その姿は近くまでいかないと視認できないくらいだった。

「お前が余計なことを言ったからな」
「う~ん……。お馬鹿なら気づかないかなぁって思ってたんだけど、気づかれたね」

 ロイドがへらへらしているので、アヤメは黒い縄で首を絞め始める。

「痛い痛い痛い!何するのさ!」
「お前は一度死んだ方がいいと思ってな」
「いいと思ってなじゃない!いくら僕でも、さすがに痛いんだよ!」

 ロイドは、首を絞められたくらいじゃ死なないが、それでも痛覚や苦しさは感じる。

「大丈夫。あんたが死んでも代わりはいる」
「そういう問題じゃなくて!」
「お前ら、何やってんだ?」

 後ろから声が聞こえて、アヤメが首を絞めるのを止めると、そこにはルカが立っていた。

「これの首を絞めていたところ」

 アヤメがロイドを指差しながら説明する。解放されたロイドは、息を荒くした。

「お前、なんかやったのか」
「いや、ご主人さまに、君がどこに行ったのか聞かれたから言っただけだよ?」
「ああ、うん。もう少し絞めておくべきだったかもな」
「だろう?ってなわけで、続き行こうか」
「ちょっと待って?」

 アヤメが、再び縄を出して絞めようとするが、不意に背筋に寒気が走る。

「……面倒なの連れてきた?」
「いや、勝手についてきた」
「それを連れてきたって言うんだよ。めんどくさいから連れてこないでくれない?」
「お前らは相変わらずの減らず口だな」

 ため息をつきながら、ある男が三人の前に現れる。
 その姿を視認したとき、三人はその場に跪く。

「用があるなら手短に願います。こいつを締め上げる必要があるので」
「いらないいらない。長くて大丈夫ですよ」
「心配はいらん。聞きたいことがあっただけだ」
「何でしょう?」

 予想はできていたが、アヤメはあえてたずねる。

「いつになったら、巫女の娘を始末できるのかと、あの方がおっしゃっている」
「う~ん……。なんか、殺気や敵意に敏感になってるっぽいんですよねー。それに、あの毒もそんなに効いてなかったし、服毒量が少なかったのを見ると、混入に気づいていたようですし……」
「もう覚醒しているとでも言いたいのか?」

 言い訳のような言葉を並べ立てるロイドに、男は少し苛立ち始める。

「そうは言ってませんけど?」
「本当に生意気なやつだ」
「勘違いされたら困りますけど、あなたの方が立場が上だから敬語を使っているだけであって、僕が従うのは、今のところは・・・・・・あの方だけですから」

 そう言って立ち上がり、膝を払う。他の二人も立ち上がって、その場を立ち去ろうとする。

「どこに行く気だ」

 アヤメと同じような黒い縄で三人を捕らえる。勝手な行動なんかさせないという意志が伝わってきた。
 
「任務を遂行しに行こうかなと。忠告されましたので」
「巫女の娘を始末するのか」
「ええ、一応」
「それなら、その必要はない」

 その声が聞こえたとき、体が後ろに引かれる。

「もうお前らには任せない」

 思いきり引かれたので、三人が男の後ろに行ったとき、男が三人に手をかざす。
 その瞬間、三人の周りに黒い透明な壁が現れる。

(((絶対隔離の陣か!)))

 絶対隔離の陣は、闇の眷族がよく使う結界魔法。
 中級くらいの実力を持った闇の眷族しか使えないので、あまり知名度はない。

「絶対隔離の陣か。生で見るのは初めてだな」

 知名度はないはずが、明らかに知っているような口ぶりの、この場に似合わない幼い声が響く。全員が一斉にその方向を見ると、建物の上に、月が逆光のようになり、小さな影が見える。

「そいつとどういう関係なのかは知らないけど、お仲間なら容赦はしないわよ?」
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