元天才子役は悪役王女に転生する 名誉回復したら、なぜかいろんな人から溺愛されるんですけど!?

りーさん

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第一章 悪役王女になりまして

34. 霊峰の巫女姫 4

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 お城の城壁を乗り越えて、そーっと戻ろうとしたとき、後ろから寒気を感じて、彩花が振り返ると、明らかに怒っているような風貌で、アルフォンスが仁王立ちしている。

「あ、あるふぉんすさま……!」

 ヤバイという思いで、思わずたどたどしい言葉遣いになってしまった。

「どこに行っていた?晩餐を運んだ使用人に、部屋にいないという報告を受けたが」
「……外に」
「スラムに行っていたのではないだろうな?」

 それを聞いて、胸がドキドキと鳴っているのを感じる。

「なぜそのようなことを?」
「宰相と父上が話しているのを聞いたからな。お前の母親とそっくりになってきたと。しおらしいだけの女と思っていたが、本当はお前みたいなじゃじゃ馬だったとな」

(本当にどんな人だったのよ!?)

 闇の眷族は巫女。アルフォンスはしおらしいだけの女。国王はじゃじゃ馬。
 イメージしようとしても、どんな人物がまったく想像ができない。
 特に、じゃじゃ馬としおらしいだけの女というイメージが真反対で、彩花の脳内の母親像ができあがらない。

「それで、用事は説教ですか?それなら私の部屋でやってください。寝たいので」
「聞く気がないのはよくわかった」

 言われた通り部屋に行っても、ベッドで寝転がりながら説教を聞かせても意味がない。エルルーアには、反省の意志などはないということだ。
 彩花は、勝手に出かけたのは悪いと思っているが、今はとにかく横になりたい。それくらいには疲れているのだ。

「そうでした。一つ聞きたいのですが」
「なんだ?」
「アルフォンスさまは、巫女ってご存じですか?」
「聞いたことはあるが、詳しくは知らない。父上ならご存じかもしれないが」
「ありがとうございます。聞いてきますね」
「そうか……って、うん?」

 ベッドで横になろうかと思ったが、まずは巫女のことを国王に聞いてみることにした。

「今から行く気か!?」
「あれ?お仕事中でしたか?それなら、明日にでも……」
「時間を考えろ!もう夜の9時だろうが!」

 それを聞いて、彩花はぎょっとする。まだ8時くらいの感覚でいたのだが、もう寝ていてもおかしくない時間だった。

(どおりで、ドンパチやっていても誰も外に出てこないわけだ)

 そんなに物音はたてていないが、あそこまでやっていれば、一人くらいは外に出て確認してもおかしくない。
 だが、寝ていたのなら話は別だ。寝ていては、あまり気にならないくらいの物音だったから。

「それなら、明日にします。お休みなさいませ」

 彩花は、国王の元に行くのはやめて、自分の私室に戻ることにした。
 途中で、なぜアルフォンスは起きていたのか疑問に思ったが、ベッドに寝転がれば、その考えは忘れ、深い眠りについた。

*ー*ー*ー

 その翌日。彩花は、国王の元をたずねる。突然のことではないので、事前に一報は入れていた。

「陛下。エルルーアです」
「入れ」

 中から入室の許可があったので、エルルーアは部屋の中に入る。
 そこには、国王の他に、宰相もいた。

「今回は何の用だ?」
「陛下にお聞きしたいことがございまして」
「なんだ?」
「巫女、とはなんでしょうか?」

 彩花がそう言った瞬間、その場の空気が冷えるのを感じた。

「……誰から聞いた?」

 国王は、ドスのきいた、低い声でエルルーアにたずねる。たずねるというよりかは、尋問のような感じだ。

「……ある男から」
「……そいつは、闇の眷族か」
「……そうです」

 まるで圧迫面接のような、冷え冷えとする雰囲気に飲み込まれそうになる。
 こんなことは、初めてだった。国王は、エルルーアの言動にため息をついたりはしていたが、こんな風に低い声で尋問するような真似はしなかった。

「……カシティアからは、話さないでほしいと言っていたが、知ってしまったのなら話そうか」
「カシティア……とは?」
「カシティアは、お前の母親の名だ。正確には、カシティア・エル・グリーティア。グリーティアがどこの名なのかは知っているだろう?」

 グリーティア。その名前には、聞き覚えがあった。
 それは、美月が見せてくれたファンブック。

『ねぇねぇ!これ見てよ!手に入れたんだよ!』
 
 興奮しながら、一枚の冊子を彩花に見せてくる。

『それなに?』

 本当に何なのかわからないので、演技なしで聞いた。

『ラビ恋の攻略本兼ファンブック!これはね、攻略法も書いてあるけど、裏設定も書いてあるんだよ!』
『へぇ。面白そうだね』

 彩花は、作り込まれているゲームは好きなので、そういう裏設定には興味がある。

『そうでしょ!?たとえばさ、これ!エルフの裏設定!』

 エルフは、冒険パートを進めるときにちょくちょく出てきたキャラなので、彩花もよく知っている。
 攻略対象にも、エルフの国の関係者がいる。

『どういうのがあるの?』
『私が驚いたのはこれかな。国家はグリーティア皇国!ってやつ』

 エルフの国は、グリーティア皇国。この世界に住む者なら、誰でも知っているような常識だ。

『だからね、エルフの皇族の家名?は、グリーティアなんだって!エルフの住んでいる国があったなんて、知らなかったなぁ!』

 エルフの皇族の家名は、国と同じ名前のグリーティア。
 そして、母親である側妃の旧姓は、グリーティア。

 それが意味するのは、エルルーアの母親は、エルフの国の皇族だったということだ。

「話すと長くなるから、簡潔に説明するが、カシティアは、元はグリーティアの皇女だった。だが、浄化の力を持つ聖属性を持っていたから、霊峰の巫女姫と呼ばれるようになった。グリーティアは霊峰の麓にあるからな」

 ゲームのグリーティア皇国の説明も、そんな感じだった覚えがある。
 エルフの間では聖地と崇められる霊峰の麓に国を作り、その当事者がそのまま皇族になった国だ。
 皇族のエルフはハイエルフと呼ばれて、見た目は人間と似ている。
 違うのは、人間を遥かに凌駕する魔力量と身体能力だ。エルルーアの異常な魔力量も、人間離れしたような身体能力や動体視力も、母親から受け継がれたものだった。
 それでも、人間の血が混じっているので、純血なエルフよりは低いが。

「なんで巫女姫が側妃とはいえ嫁いだのですか?皇国が黙ってなさそうですが……」
「黙ってはいなかったが、表向きは皇女とはいえ、巫女姫と呼ばれるほどの立場だったからな」

 実の父親でも真っ向から反対はできなかったのかと納得したら、予想外の答えが返ってきた。

話し合い・・・・で了承させたそうだ」
「……はい?」

 普通なら、交渉とかしたのだろうと考えるところだが、彩花にとっては、その話し合いが、物理的なものに思えて仕方なかった。

「えっと……言葉で・・・話し合ったんですよね?」

 演技も忘れ、おそるおそるたずねる。

体で・・話し合ったんだ」

 あのときの、アルフォンスの言葉を彩花は思い出した。
 国王は、側妃のことをじゃじゃ馬と言っていた。確かに、結婚を認めてもらう話し合いを体でやるのならば、じゃじゃ馬と言われてもおかしくないかもしれない。
 そんな可愛げのないような女性のどこが好きになったんだろうと思ったが、人の好みはそれぞれだからと片づけた。

「他にもいろいろやっていたな、ルレイク宰相」
「ええ。闇の眷族を倒しに行くと言って、隣国に飛んでいったり、無許可で下町に降りて、ならず者を片づけたのはまだ可愛いレベルでした」

(それで!?……いや、私と同じような感じか)

 自分も、街に勝手に出かけてならず者を退治したし、隣国ではないが、闇の眷族を相手するためにスラムに行っていた。
 倒したときの記憶はないが、他にいた三人が結界内にはいたので、自分が倒したのだろうとは思っている。なぜ記憶がないのかがわからないが。

「一番ひどかったのは、あの国のやり方が気に入らないと、魔法で小国を滅ぼしたことだな」
「あれは、15年ほど前でしたね」

(何をやってんの!?)

 国王も宰相もため息をついて話しているが、そんなレベルではないように感じた。
 法律にはそこまで詳しくないが、一つの国を滅ぼしておいて、無罪放免にはならないだろとは思っている。

「そして、お前もカシティアに似てきた気がしてな……」
「そこは似なくてもよろしかったのに……」

 そんな常識の欠片もないような人には似ていない!と強く否定したかったが、事実、城壁を乗り越えて逃走したり、窓から逃走したりなどの前科があるので、否定ができなかった。
 これからはもう少しおとなしくしていようと、彩花は心に誓った。


※第一章ここで終了です。次から第二章に入ります。やっとタイトルの溺愛を回収します。遅すぎましたね。
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