元天才子役は悪役王女に転生する 名誉回復したら、なぜかいろんな人から溺愛されるんですけど!?

りーさん

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第二章 溺愛はいりません

2. 高貴なお姉さまのお誘い

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 彩花が部屋に戻ったとき、気分はもう落ち着いてきていた。
 手の甲へは初めてだったが、恋愛でのキスなどは、両手では数えきれないくらいに、おこなってきたのだ。
 あれは急にされて初めてだったから動揺しただけだろうと考え、彩花はベッドに寝転がる。

「あの、エルルーア王女殿下。フランキスカ王女殿下から、お手紙が」
「お姉さまが?」

 エルルーアの記憶で、姉のことは知っている。自分を王女として見てくれた数少ない人物だ。
 手紙を開けて、中身を読む。そこには、手短に用件が書いてあって、話したいことがあるから、今から部屋に来てくれないかということだった。
 彩花は、了承の返事を手紙に書いては使用人に渡す。
 そして、すぐに身支度を始めた。姉は、自分より二つ年上で、初等部の生徒会長。兄は、姉のさらに一つ年上なだけの中等部一年生。
 
(王子で天才だから、中1から生徒会長やってんだよね)

 元の世界では、ほとんどなかったことだが、王子よりも上の身分を作るわけにはいかなかったことと、王子が上級生すらも凌ぐ天才であったので、中等部に入学してすぐに生徒会入りと同時に会長になった。
 この学園には、初等部、中等部、高等部とあり、すべてが同じ敷地内にあり、エスカレーター方式で進級していく。
 だが、校舎はそれなりに離れているので、自ら会いに行こうとしない限りは、遭遇することはない。
 部屋での軟禁も、マティアスがエルルーアを運んだから起こったことだ。
 だが、生徒会なら話は別。お互いのことを報告するために、会長同士は顔を合わせる。そして、人手が足りなくなったら、助っ人を頼まれることもある。
 逆に言えば、人が足りなくなることがあるくらいには、人材が少ない。だが、適当に人を生徒会に入れるわけにもいかない。つまり、エルルーア以外の王族は、忙しいのだ。やりたいことをやっているエルルーアが異様なのである。

 彩花は、六年生の寮まで移動して、三階の一番奥の部屋をノックする。
 中からどうぞという声が聞こえたので、彩花は中に入った。そこには、椅子に座ってくつろいでいるフランキスカがいた。

 どこもおかしくない。そのはずだが、それに彩花は少し違和感を覚えた。

「お呼びですか?フランお姉さま」
「ええ。ちょっとお話ししたいことがありまして。ほら、そこにお座りになって」

 言われた通りに、彩花はフランキスカの向かいの椅子に座る。

「話とはなんですか?闇の眷族のことですか?」
「いいえ。それはすでに兄上に聞いたから問題ありませんわ。ちょっと、お誘いしたいことがありましたの」

 フランキスカはそう言うと、一枚の紙を彩花の前に差し出した。

「これは……生徒会への入会許可書ですね?」
「ええ、そうですわ。兄上から聞いたけど、あなたは事務処理能力があるそうですわね。初等部は特に、生徒会に入るにふさわしい人間は少ないのですわ。だからこそ、猫の手も借りたい状況なのですよ」

 事務処理能力を買われて、生徒会長直々にエルルーアにお誘いがかかったのだ。
 以前までのエルルーアならすぐに首を縦に降っただろうが、彩花は少し考える素振りをする。
 誘った理由は、事務処理能力があるからと言った。生徒会は、能力だけ高ければ入れるという場所ではない。生徒の手本となる場所なので、人間性も評価される。そこが、少し引っかかった。
 悪評がなくなってきたとはいえ、以前のエルルーアの言動が悪かったのは事実。それを、目の前にいる聡明な姉が知らないわけがない。

「お姉さま。理由はそれだけですか?事務処理能力があるだけで、私を生徒会に入れると?」

 彩花がそうたずねると、水を打ったように静かになった。
 少しの間沈黙が続いてから、フランキスカはふふっと笑う。

「聡くなりましたわね。ええ、それは表向きですわ。本当の目的は、あなたの保護」
「保護……ですか?」
「わたくしの目を欺けるとは思わないでほしいですわね。あなた、闇の眷族に命を狙われているのでしょう?」

 何の言葉も飾らずに、ストレートにそう言った。ばれるとまずいんじゃと思い、視線だけを動かしたが、周りには人がいない。
 最初に感じた違和感はこれかと理解した。使用人が一人もいなかったのだ。エルルーアが複数の使用人を連れているように、フランキスカも、王女としての威厳のために、最低でも一人は連れているはずだ。
 それなのに、部屋には一人もいなかった。

「……それと、生徒会入りに何の関係が?」
「生徒会に入る人間は、後の国政を担うことが多いのですわ。わたくしも、学園を卒業したら、隣国の王妃として、政務に関わってくることになります」

 フランキスカは、隣国との同盟強化のために、隣国の皇太子と婚約している。本来なら、隣国の学園に通うはずだったが、魔法使いとして優秀なフランキスカは、魔法の勉学が進んでいるこの国で学ぶことになった。
 王妃教育も、教師にこちらに来てもらっている。

「つまりは、そんな重要な存在が多く集まっているのです。だからこそ、警備が一番厳重なのですわ。襲撃されて、脳であり心臓となっている存在が失われないために」
「学園では、そこが一番安全だから、保護しなければならない私を生徒会に入れたい。でも、理由もなく入れるわけにはいかないから、私の事務処理能力を買ったということですか?」
「ええ。理解が早くて助かりますわ」

 理にはかなっている。命を狙われている存在を、安全な檻に閉じ込めるのは、一番確実な方法だ。

「ですが、闇の眷族をそこらの裏の人間と一緒にしてはならないと思いますが」
「問題ありませんわ。だって、あなたのお母さまが結界を張ったのですもの」

 その言葉に、彩花は少し驚いた。母親が結界を張っていたのも驚きだが、母親のことを知っているような口ぶりをしているからだ。

「……母をご存じなのですか?」
「逆よ。宰相を除く王族で知らない人はいませんわ。まぁ、表向きでは、グリーティア皇家の庶子としか発表されていないので、知らなくても無理はないですわね」
「お母さまは庶子だったのですか?」
「ええ。そうみたいですわよ?わたくしも詳しくは知らないのだけどね」

 紅茶を飲みながら、そんな説明をする。自分は、側妃である母親のことを知らなさすぎだ。
 国王が、黙っていろと言われたと言っていたので、意図的に自分の耳には入らないようにしたのだろうが、仲間外れのような気分で、彩花は落ち込んだ。

「話を戻すけど、一人で闇の眷族を複数相手したと言われている巫女姫さまが張った結界ですもの。下っ端は、通り抜けることすらできないそうですわよ?」

 それを聞いて、母親が遠い存在に思えた。エルルーアにとっては、実の母親でも、交流したことなんてないのだから、そもそも母親という実感がない。
 自分は、彩花だからというのもあるかもしれないが。

「それで、どうしますの?」
「選択権があるのですか。強制だと思っていましたが」
「当然ですわ。生徒会に入るかどうかは自由ですもの。あなたが嫌だというのなら、別の方法を考えるまでですわ。でも、生徒会の仕事があるというのは、良い言い訳になりますわよ?」
「……はい?」

 何のことかわからず、彩花は首をかしげる。

「あなた、メルリーナ嬢によくお茶会に誘われているそうではありませんか」
「……よくご存じで」
「これくらいは知っていて当然ですわよ。あなたのお母さまのように、隠すのがうまくはないですもの」
「フランお姉さまも知らなかったのですか?お母さまの本性が」

 アルフォンスは、側妃がしおらしい女性だと思っていた。
 というかそもそも、エルルーアが生まれたと同時に亡くなったことになっているので、そのときはフランキスカは2歳だ。覚えているとも思えない。

「あぁ、知らないのですわね。あなたが生まれてから二年間は生きておりましたわよ?」
「えっ?それじゃあ、どうして……」
「その方が都合がいいから、としか聞いておりませんわ」

 ますます、巫女姫の考えがわからない。生まれたと同時に死んだことにしたのは、自然死と思われたかったというのは理解できたが、なぜその方が都合が良かったのかがわからない。

「それはともかくとして、どうしますの?」
「……わかりました。お受けします」

 うまく乗せられた感が否めないが、言い訳になるのは事実だった。さすがのメルリーナも、生徒会の仕事を放棄してまでお茶会に来いとは言えないはずだから。

「それでは、こちらは生徒会の証である腕章ですわ。常に着けておくように」

 フランキスカは、紫の生地に、銀の線が一本と、学園の校章が入った腕章を渡してくる。
 それは、ゲームに出てきた生徒会の腕章に似ていた。

「どうやって着けるのですか?」
「腕に着ければ、自然と身につけられますわよ?」

 そんなことがあるのかと思いながらも、騙されたと思って腕に着けてみる。すると、まるで接着剤でくっついているかのように、落ちることはなかった。自然と縮まって、腕に巻きついている。

「外したいときは、魔力を通せば外せますわ。では、これからよろしくお願いしますね」
「はい、会長」

 彩花はニコッと笑って、紅茶を一口飲んだ。
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