元天才子役は悪役王女に転生する 名誉回復したら、なぜかいろんな人から溺愛されるんですけど!?

りーさん

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第二章 溺愛はいりません

14. 舟遊び

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※お待たせしました!催促されたので慌てて執筆して更新しました。
催促自体は、どれが読みたいのかすぐにわかるので、どんどんしてください。

↓本編

 連休になり、家族でランドルバードの領地に訪れた。
 とはいっても、いわゆる別邸のような場所だ。
 彩花としては、兄と姉は来るだけだと思っていたため、メンツに驚いていた。

(なんで王妃までいるのよ……!)

 彩花は、少しイライラしている。
 フランキスカの策略とはいえ、彩花は純粋に舟遊びを楽しむつもりでもいたのだ。
 転生してから心が休まるときが、まったくといってなかったためである。
 そのため、恋仲の演技はするつもりではあるものの、それ以外は素の性格で楽しもうと思っていたのだ。
 それなのに、王妃がいると少し計画が変わってくる。
 王妃に彩花の記憶を持って会うのは初めてではあるものの、国王たちにはしおらしい王女として振る舞っていたのに、急に変わると猫かぶりだと思われかねない。そうなると、せっかく回復してきている名誉がまた地に落ちてしまう。
 それだと、今までの生活が全部台無しになると言っても過言ではない。
 なんとか、キャラ崩壊しないように演じるしかないのだが、マティアスが変に思えば国王も愚者ではない。勘づくだろう。

(まぁ、アドリブでなんとかするか)

 少し計画は狂ったものの、王妃がいるのは好都合でもある。
 王妃ほどの傍観者がいれば、恋仲の噂も拍車がかかりやすい。
 それに、明らかにしおらしくしなくてもいい。傲慢な態度を出さなければいいだけの話だ。
 予想外のことなんて、芸能界では当たり前のようにあることなのだから、焦ることでもない。
 軽く呼吸を整えて、彩花はマティアスに笑みを向ける。

「マティ。今日は舟遊びに付き合ってくれるのでしょう?行きましょう」
「待ってくだ……あっ、待てよ、エル!」

 思わず敬語を使いそうになっていたが、エルルーアに言われたことを思い出して慌ててため口にしているところに、彩花は物わかりのいいお姉さんのような視線を向ける。
 天才子役として活躍してきた彩花が、言い間違いをすることなどないが、マティアスはしっかりしているところもあれど、別に演技を専門にしているわけではないし、言い間違いしてもおかしいことはない。
 むしろ、さらりと演技に入れる彩花のほうが一般人からはかけ離れている。

(私がリードしてあげますか)

 そんな上から目線のようなことを考えながらも、表情は優しい笑みを心がけ、声のトーンも少し落ち着いた具合で話しかけている。

「それで、普通に乗ればいいのかしら?」

 彩花は子役のときもあまり舟には乗ったことがないため、乗り方はわからない。でも、大型の船には乗ったことがあったので、その感覚で乗ろうとしていた。

「舟に特殊な乗り方はないのですが」

 マティアスはエルルーアを怪訝な目で見る。
 それにエルルーアはふてくされた顔をする。

「だって、乗ったことがないんですもの。舟なんて見たこともありませんし」
「舟なら城にも……いや、それならエスコートしますので、どうぞ手を」

 もう敬語に戻っていると思いながら、彩花は手を乗せる。それと同時に、彩花のいたずら心が沸いてきた。
 彩花は顔をマティアスの耳元まで近づけると、「敬語になってるわよ」と呟いた。
 堂々と敬語になっていると伝えるわけにもいかない。それをマティアスもわかっているので、怒ったりはしないが、顔を近づけたからか少し恥ずかしそうに、「すまない」とだけ言った。

(やっぱり、マティアスはこういうのは慣れてないか)

 恋仲の演技は多くはないものの、それなりにやっていた彩花は、こういうのは慣れているのだが、エルルーアとは冷たい関係だったマティアスはあまり異性に慣れていないようで、恋仲のような行動をエルルーアがすると、少し慌てる様子がある。
 公爵子息として育ってきたからか、すぐに平常心を取り戻しているが。

「おうじょ……エルは、ずいぶんと慣れているな」

 舟の上で、マティアスがオールを漕ぎながら話しかけてくる。
 彩花は、あなたのオール漕ぎのほうが手慣れているような気もするけどなどと考えながら返事した。

「だって、いつもしていたからね。私がお馬鹿なほうが都合がいいから」
「なら、もう都合が悪いのか」
「別にそうではないわ。ただ、お馬鹿なふりしていようがしていまいが関係なくなったからやらなくなっただけよ」

 エルルーアからしてみれば、あれは演技ではない。
 だが、以前のエルルーアとはまったく違う様子を見せている以上、演技というしかない。アルフォンスも、同じように考えているのだから。

(お姉さまには勘づかれているような気もするけど……)

 フランキスカは、本当にあれは小学生なのかと疑いたくなるような頭脳明晰ぶりだ。
 精神は早熟しているだろうし、先ほどの出来事すらも把握するほどの情報網を持っている。
 彩花には気づいていないにしても、演技にしては別人すぎるくらいの疑いは持たれていてもおかしくない。

「意味がないというのか」
「ええ。どちらにしても、命を狙われているなら当然じゃない?」

 ああやって暴れまわろうが、今のように好き勝手していようが、命を狙われることは変わらない。
 それは、巫女姫の血が流れている限り、終わることはない。

(闇の眷族はなんとかなるかもしれないけど、人間はそう簡単にはいかないわ)

 闇の眷属が狙っている理由は、力をつけられないうちにというだけなので、力を見せつけるか、害がないことを示せば問題はないだろうが、人間はそんな簡単に諦めるような存在ではない。
 王族を抜けたとしても、念には念を入れるのが貴族。
 むしろ、チャンスとばかりに狙ってくる可能性がある。王女を殺すのと、平民を殺すのとでは、リスクに差があるからだ。
 当然ながら、平民を殺すほうが簡単だし、バレたとしても罰はあまり重くないだろう。元王族というところを含めても。

「……ふっ切れたというほうが正しい気もするが」
「あら。それはないとは言えないけど」

 ないどころか、もうそれが答えのようなものだ。
 エルルーアの記憶だってはっきりと残っているし、今はこのエルルーアの体を彩花という存在が支配しているだけであって。

(そういえば、私の意識が消えたらどうなるのかしら……)

 だって、死んだ覚えがないのだから、生まれ変わりなどではないはずだ。それなら、呼ばれたということになるが、誰が、なんのために呼んだのかわからない以上、終わりは突然やってくる可能性がある。
 そうなれば、またエルルーアとしての意識が表に出てきて。
 勝手にエルルーアとして動いた体が関係を改善していて。
 あの頃に比べたら嘘のように気にかけてくれて。

(エルルーアが望んでいたことではあるけど、それを喜ぶのかしら)

 彩花からしてみれば、自分が知らない間に周りが纏わりついてくるようになったら、気持ち悪くて仕方ないだろう。
 まったく見ず知らずの存在が友達になっていて、冷たく接しているだけだった婚約者がちょっとましになっていたら。
 気持ち悪いし、怖い。
 エルルーアがそう嫌がるくらいなら、いっそーー

「……エル?どうかしたか?」
「いえ。なんでもないわ。意外と私って欲張りなんだと再認識しただけよ」

 クスクス笑っている彩花に、マティアスはおかしなものを見るような視線を向けていた。
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