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第十話
しおりを挟む休憩と言って連れて行かれたカフェは、駅の栄えている側の裏手にある、茶葉などの嗜好品を取り扱う店の二階で。
ちょっとした商談に使う人が多いという、テーブル毎のスペースの広い落ち着いた店だ。
当たり障りのないものから入った会話は思いのほか盛り上がり、なかなかただの雑談は終わらなかった。今になれば、学園でしていた彼との会話も結局はそんなものだったのかもしれないな、とジェリーは思った。
彼は学園の単位を既に取り終え、次の試験が終わり次第、一足早く卒業するのだと言う。
「あと三ヶ月程? そしたら隣国に渡るから、そのつもりでいて」
「……わかったわ」
「なにも聞かないの?」
「……」
やはりモーガンの行動には理由があったのだ。
自分をあの家から排除する為──それはおそらく間違いない事実だとして。
その根本的な理由はなにか。
マドリンの言ったような理由だったのか、それともなにか別にあるのか。
それらはウォーレンに聞けばわかるのだろうと思う。ウォーレンとモーガン、ふたりの関係も、また。 だが──
「聞かないわ。 いいのよ、今は」
モーガンがジェリーを嫌いになったのか、それともなにかしらの事情があって避けたのか、それはわからないけれど。
彼は自分に『話せない』或いは『話したくない』と思って、メモをウォーレンに託したのだろうから。
(託した? ……のかしら?)
まあ、疑問はあれこれあるのだけれど。
聞くべきじゃない。
少なくとも、他人からは。
ジェリーはそう考えていた。
今の日々は、やはり必死で余裕がない。ただしその必死さと余裕のなさは、学園に通っていた時とは全く違う性質のもの──主に、時間と体力である。
ふとした瞬間に思い出すけれど、あれこれ考え込んではいられないし、たまに泣きながら目覚めるけれど大概は深く眠るし、横になればすぐ寝付く。予定した時刻より大幅に早く目が覚めることもない。
ほんの短い期間だがそれはジェリーに、心の余裕のようなものを齎していた。
ウォーレンは「ふぅん」とだけ返した後、豊富な茶葉など関係なく頼んだ珈琲を一口飲み、品良くカップを置いて言う。
「信じてるんだね」
その一言に、ジェリーは驚いた。
「なに、その顔。 やだな、無自覚? ……ホント、君って…………」
呆れた顔をしたウォーレンは途中で言葉を止める。代わりに口から発したのは、
「ジェリー、君が人を遠ざけたのはモーガン・アボットの為だ」
以前答えを聞かなかった、一方的な問い掛けを、再び。
今度は断言に変えて。
「あの頃の君にはそれくらいしかなかったからだろ? 区別し示す方法が」
それは沢山の後悔の中のひとつ。
それでも、どうしても曲げられなかったこと。
「……さぁ、どうかしら」
少し前の自分ならしないであろう返事に、ジェリーはふっと笑った。
「ああ、私にも聞こうと思ってたことがあったわ。 貴方、あの時……それに、さっき。 なんて言ってたの? なにを言う気だったの?」
「え? ……ああ~」
答えはきっと、ふたつとも同じ。
多分、少し前とは感じ方がやや違う、ずっと自分でもそう思っていた言葉。
案の定、ウォーレンは笑ってこう言った。
「『馬鹿だな』って」
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