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宮殿
50.仲直りより難しい
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目を覚ますと傍らに人が座っていて、キアラはびくりと身を震わせた。
「……お目覚めですか」
「……ルガート、様……?」
聞き覚えがあるような気がして尋ねれば、肯定の返事が聞こえてほっとする。起き上がると水の入ったコップを差し出されて、キアラはお礼を言って受け取った。
「お加減はいかがですか」
「……少し、休めた、ので……大丈夫です。ありがとうございます、ルガート様」
ディニラスの庭で導の灯火について警告してきてからも、エドゥアルドが頻繁に会いにくるようなことはなかった。キアラのほうも特段エドゥアルドに用事があることもなく、交流がないでもない、くらいの仲だと思う。
そうして今までと比べれば穏やかな生活を送っていたのだが、マナヴィカがヴァルヴェキアに帰ったことで抑制剤を手に入れられなくなってしまい、キアラは今回のヒートでひどく苦しむことになった。うなされてもがいているところにミオが来てくれて、これを飲むようにと渡された何かを飲んだ覚えはあって、そのあとから少し楽になった気がする。
「抑制剤をお持ちするのが遅くなり、申し訳ありません。今は効いているようで……安堵いたしました」
こくり、と水を一口飲んだキアラに、ルガートが目を細める。今日も、剣も鎧もつけずにゆったりとした服装だ。
「……ルガート様が、お持ちくださったのですか」
ミオとシアに聞いてみたときは、カガルトゥラードには抑制剤というものがない、という答えだった。オメガがヒートを迎えたのなら、誰かアルファが鎮めればよいという考え方が普通で、オメガがアルファを拒むということは、考えられてもいないようだった。
「……神子様のご友人から、内密に」
いつのまにか、ミオとシアがマナヴィカとルガートを繋いでくれていたらしい。ルガートの任地である国境の砦に、カガルトゥラード国内からの荷物を装って、マナヴィカから抑制剤が届けられたのだそうだ。
しかし、ルガートからキアラのもとに抑制剤を届ける手立てがない。キアラのヒートの周期に合わせて呼び寄せられたときに、自分の日用品の一環として持ち込むしかなかった。おそらくそれを受け取ったミオが、うなされていたキアラに飲ませてくれたのだろう。
「ありがとうございます、ルガート様。マナヴィカ様にも……いつか、お礼をしなくてはいけませんね」
いつか。手紙を出すことはできないし、会えるときがくるのかわからないが、離れてしまっても心を砕いてくれていることが嬉しい。
コップをベッドサイドに置いてもらって、もう一度横になるか起きたままでいるか、少し悩む。
「……お傍に近づくことを、お許しいただけますか」
「はい」
ただ、立ち上がったルガートはすぐにはベッドに近寄らず、部屋の椅子に置いてあるクッションを集めて戻ってきた。さらにひと言断ってから、キアラの後ろにクッションを重ねて置いていく。
「体を倒してみていただけますか」
言われた通りクッションにもたれてみて、キアラは目を瞬いた。これなら自分で姿勢を保たなくても、体を起こしていられる。
「ルガート様、ありがとうございます、体が楽です」
「……大したことではございません」
ヒートが終わったら、ミオとシアにクッションをたくさん集めてくれるように頼んで、ベッドをふかふかにしてみたい。怒られてしまうだろうか。
考え込んでいたら、ルガートが上掛けを引き上げてくれた。
「お体を冷やされませぬよう」
ルガートも、ミオとシアくらい甲斐甲斐しい気がする。それとも、キアラがあまりにも頼りなく見えるのだろうか。
「ルガート様」
「はい」
「私は大人です」
「……はい、存じております」
不思議そうな顔をされてしまった。うまく伝わらなかったのかもしれない。
どう言えばいいのかと首を傾げて、聞きたいことがあったのを思い出す。
「ルガート様、お伺いしたいことがあるのです」
クッションに助けてもらいながら体勢を直して、ルガートのほうに体を向ける。少し行儀が悪いかもしれないが、ルガートなら許してくれるだろうという甘えが少しだけあった。
「……私の、答えられることでしたら」
「導の灯火とは、どのような方たちなのですか」
ルガートがわずかに眉をひそめて、少し考え込むような顔をした。
「……何か、ございましたか」
「エドゥアルド様は、ご存じですか」
知っているだろうとは思ったが、キアラは念のためルガートに確認してから話を始めた。
エドゥアルドに、導の灯火に気をつけるように言われたこと。ミオとシアに尋ねてみようかとも思ったが、あまりいい気持ちはしないだろうから、一人で考えていたこと。
「……ですが、私がお話ししたことのある導の灯火の方たちは、皆様よい方です。それに、困っている方々を助けてもいらっしゃいます。エドゥアルド様がどうして、あのようなことをおっしゃったのか、知りたいです」
そこまで口にして息をつくと、キアラはじっとルガートを見つめた。以前話したとき、ルガートも、導の灯火にはあまりよい印象を持っていないようだった。
ただ、茶色の瞳が何を考えているのか、キアラには読み取れない。
「……表向きは、貧者や弱者への施しを行う、宗教組織になります」
「おもて、むき……」
表というからには、裏があることになる。小さくつぶやいたキアラを落ちつかせるように、ルガートは穏やかな笑みを浮かべた。
「悪の組織、というわけではございません」
カガルトゥラードでは火の精霊が信仰されているから、信仰を取りまとめる立場にある導の灯火は、それだけで人々の信頼を得やすい。その民衆からの支持を背景に、例えば導の灯火独自の領地を増やしたり、王位継承者の決定に影響を及ぼしたりしているのだそうだ。
「それ、は……いけないこと、なのですか」
王家や貴族といった人たちは、領地というものを持って、そこを経営するらしい、という知識は、キアラも本から知った。ただ、それを導の灯火がしてはいけないのかわからない。
それに、そもそも誰が次の王様を決めるのかもよく知らない。王子様が次の王様になるのだろうが、エドゥアルドとゲラルドが競っていたのも、誰かに選んでもらうためだったのだろうか。
「難しい質問ですね」
「む、難しい、のですか」
「立場によって、答えが変わってしまいます」
王家から見れば、国を治める地位にあるのは王家であって、各貴族の領地の持ち分などは王家の管理下にあるものだ。にもかかわらず導の灯火が勝手に領地を増やすようなことをしては、王家の権威というものが下がってしまう。王位継承者の決定にしたって、王家が決めるはずのことに口を出されては、ますます示しがつかなくなる。
しかし、民衆が支持している導の灯火を無下にしては、人々に反感を持たれてしまう。
一方で、国というものは人々が集まって成り立っているものだから、多くの人の支持を得ている組織が力を持つのは自然なことだ。導の灯火が王家より支持されるようになっているのであれば、今の治世がうまくいっていないということで、王家に落ち度があるとも言える。
「そういう……ものなのですか……」
「ただ、これも一つの側面から見れば、という理解にすぎません」
貧しい人とそうでない人の差が生まれてしまうことは、避けられない。そして、貧しさに苦しんでいる人を目に見える形で救ってくれる組織があれば、支持されるのは当然だ。
しかも、導の灯火には精霊に祝福された神子までいる。
「私、ですか……?」
「神子がいるのだから、導の灯火は精霊に認められた組織なのだ、と拡大して考えるものは少なくありません。また、導の灯火もそう思わせています」
「……私には、何も特別な力はないのに……?」
「導の灯火の信徒であっても、神子様のお姿を拝見できるのは月に一度の王都での礼拝のみ、さらには交流する機会はほとんどない。となれば、総主の言葉を信じるしかないでしょう」
いわく、神子の姿を見るだけでもご利益がある。また、神子の祈りには特別な力があり、同席しているだけでその恩恵にあずかることができる。さらに神子は精霊に授けられた癒やしの力を持っていて、神子が作った特別な薬さえあれば、どんな病も怪我もたちどころに治ってしまう。
「市井では、そのように言われております」
「……それは、私のこと、なのですよね……?」
最後の一つだけは間違いとも言いきれないとは思うが、ご利益やら恩恵やら、いったい誰の話なのか。
困惑して思わず聞き返したキアラに、ルガートも苦笑してみせる。
「白銀の髪をしたとても美しい方、という噂ですので、他にはいらっしゃらないでしょう」
とにかく、そのようにして導の灯火が力を増しているため、王家にとって煙たい存在になりつつある、というのが、今の両者の関係らしい。エドゥアルドが導の灯火に注意するように、と言ってきても、おかしくないわけだ。
そして、エドゥアルドとゲラルドが神子を妻に迎えようと競い合っていたのと同じように、王家と導の灯火、どちらが身の内に神子を抱え込むかで争っている。
「……神子様、お気持ちはわかりますが、あまりお顔に出されるのはよろしくないかと……」
「……どのような、顔ですか」
「大変、いやそ……いえ、渋い顔を、なさっておいでです」
両手を当てて、キアラはもにゃもにゃと顔を動かした。
キアラに特別な力はないし、すごいところがあるわけでもないのに、そのように重要な人物として扱われても困る。ヨラガンには戻れないのだと、あきらめる気持ちもなくはないが、キアラの帰りたい場所はユクガの傍なのだ。きっと、どちらにも抱え込まれてしまってはいけない。
「エドゥアルド様と、総主様に、仲良くしていただくには、何をしたらよいでしょう」
ひとまず二人に仲良くしてもらえばいいだろうと尋ねると、ルガートから渋い顔が返ってきてしまった。
「……あまり深入りなさらないほうが、よろしいかと存じます」
「どうしてですか」
「深く交わるほど、しがらみは複雑になります」
ルガートの言い回しは少し難しかったが、キアラは素直にうなずいた。複雑に絡んでしまった糸ほど、解くのが難しいことは知っている。
しかし、エドゥアルドと総主の仲を取り持たないということは、王家と導の灯火の争いが収まるまで、待っていなければいけないということだ。
しかも、どちらにも引き込まれないように。
「……仲良くしていただくより、もっと難しいことを、しなければなりませんか……?」
「……ご明察です」
はっとして尋ねたキアラに、なぜかルガートは微笑んでうなずいたのだった。
「……お目覚めですか」
「……ルガート、様……?」
聞き覚えがあるような気がして尋ねれば、肯定の返事が聞こえてほっとする。起き上がると水の入ったコップを差し出されて、キアラはお礼を言って受け取った。
「お加減はいかがですか」
「……少し、休めた、ので……大丈夫です。ありがとうございます、ルガート様」
ディニラスの庭で導の灯火について警告してきてからも、エドゥアルドが頻繁に会いにくるようなことはなかった。キアラのほうも特段エドゥアルドに用事があることもなく、交流がないでもない、くらいの仲だと思う。
そうして今までと比べれば穏やかな生活を送っていたのだが、マナヴィカがヴァルヴェキアに帰ったことで抑制剤を手に入れられなくなってしまい、キアラは今回のヒートでひどく苦しむことになった。うなされてもがいているところにミオが来てくれて、これを飲むようにと渡された何かを飲んだ覚えはあって、そのあとから少し楽になった気がする。
「抑制剤をお持ちするのが遅くなり、申し訳ありません。今は効いているようで……安堵いたしました」
こくり、と水を一口飲んだキアラに、ルガートが目を細める。今日も、剣も鎧もつけずにゆったりとした服装だ。
「……ルガート様が、お持ちくださったのですか」
ミオとシアに聞いてみたときは、カガルトゥラードには抑制剤というものがない、という答えだった。オメガがヒートを迎えたのなら、誰かアルファが鎮めればよいという考え方が普通で、オメガがアルファを拒むということは、考えられてもいないようだった。
「……神子様のご友人から、内密に」
いつのまにか、ミオとシアがマナヴィカとルガートを繋いでくれていたらしい。ルガートの任地である国境の砦に、カガルトゥラード国内からの荷物を装って、マナヴィカから抑制剤が届けられたのだそうだ。
しかし、ルガートからキアラのもとに抑制剤を届ける手立てがない。キアラのヒートの周期に合わせて呼び寄せられたときに、自分の日用品の一環として持ち込むしかなかった。おそらくそれを受け取ったミオが、うなされていたキアラに飲ませてくれたのだろう。
「ありがとうございます、ルガート様。マナヴィカ様にも……いつか、お礼をしなくてはいけませんね」
いつか。手紙を出すことはできないし、会えるときがくるのかわからないが、離れてしまっても心を砕いてくれていることが嬉しい。
コップをベッドサイドに置いてもらって、もう一度横になるか起きたままでいるか、少し悩む。
「……お傍に近づくことを、お許しいただけますか」
「はい」
ただ、立ち上がったルガートはすぐにはベッドに近寄らず、部屋の椅子に置いてあるクッションを集めて戻ってきた。さらにひと言断ってから、キアラの後ろにクッションを重ねて置いていく。
「体を倒してみていただけますか」
言われた通りクッションにもたれてみて、キアラは目を瞬いた。これなら自分で姿勢を保たなくても、体を起こしていられる。
「ルガート様、ありがとうございます、体が楽です」
「……大したことではございません」
ヒートが終わったら、ミオとシアにクッションをたくさん集めてくれるように頼んで、ベッドをふかふかにしてみたい。怒られてしまうだろうか。
考え込んでいたら、ルガートが上掛けを引き上げてくれた。
「お体を冷やされませぬよう」
ルガートも、ミオとシアくらい甲斐甲斐しい気がする。それとも、キアラがあまりにも頼りなく見えるのだろうか。
「ルガート様」
「はい」
「私は大人です」
「……はい、存じております」
不思議そうな顔をされてしまった。うまく伝わらなかったのかもしれない。
どう言えばいいのかと首を傾げて、聞きたいことがあったのを思い出す。
「ルガート様、お伺いしたいことがあるのです」
クッションに助けてもらいながら体勢を直して、ルガートのほうに体を向ける。少し行儀が悪いかもしれないが、ルガートなら許してくれるだろうという甘えが少しだけあった。
「……私の、答えられることでしたら」
「導の灯火とは、どのような方たちなのですか」
ルガートがわずかに眉をひそめて、少し考え込むような顔をした。
「……何か、ございましたか」
「エドゥアルド様は、ご存じですか」
知っているだろうとは思ったが、キアラは念のためルガートに確認してから話を始めた。
エドゥアルドに、導の灯火に気をつけるように言われたこと。ミオとシアに尋ねてみようかとも思ったが、あまりいい気持ちはしないだろうから、一人で考えていたこと。
「……ですが、私がお話ししたことのある導の灯火の方たちは、皆様よい方です。それに、困っている方々を助けてもいらっしゃいます。エドゥアルド様がどうして、あのようなことをおっしゃったのか、知りたいです」
そこまで口にして息をつくと、キアラはじっとルガートを見つめた。以前話したとき、ルガートも、導の灯火にはあまりよい印象を持っていないようだった。
ただ、茶色の瞳が何を考えているのか、キアラには読み取れない。
「……表向きは、貧者や弱者への施しを行う、宗教組織になります」
「おもて、むき……」
表というからには、裏があることになる。小さくつぶやいたキアラを落ちつかせるように、ルガートは穏やかな笑みを浮かべた。
「悪の組織、というわけではございません」
カガルトゥラードでは火の精霊が信仰されているから、信仰を取りまとめる立場にある導の灯火は、それだけで人々の信頼を得やすい。その民衆からの支持を背景に、例えば導の灯火独自の領地を増やしたり、王位継承者の決定に影響を及ぼしたりしているのだそうだ。
「それ、は……いけないこと、なのですか」
王家や貴族といった人たちは、領地というものを持って、そこを経営するらしい、という知識は、キアラも本から知った。ただ、それを導の灯火がしてはいけないのかわからない。
それに、そもそも誰が次の王様を決めるのかもよく知らない。王子様が次の王様になるのだろうが、エドゥアルドとゲラルドが競っていたのも、誰かに選んでもらうためだったのだろうか。
「難しい質問ですね」
「む、難しい、のですか」
「立場によって、答えが変わってしまいます」
王家から見れば、国を治める地位にあるのは王家であって、各貴族の領地の持ち分などは王家の管理下にあるものだ。にもかかわらず導の灯火が勝手に領地を増やすようなことをしては、王家の権威というものが下がってしまう。王位継承者の決定にしたって、王家が決めるはずのことに口を出されては、ますます示しがつかなくなる。
しかし、民衆が支持している導の灯火を無下にしては、人々に反感を持たれてしまう。
一方で、国というものは人々が集まって成り立っているものだから、多くの人の支持を得ている組織が力を持つのは自然なことだ。導の灯火が王家より支持されるようになっているのであれば、今の治世がうまくいっていないということで、王家に落ち度があるとも言える。
「そういう……ものなのですか……」
「ただ、これも一つの側面から見れば、という理解にすぎません」
貧しい人とそうでない人の差が生まれてしまうことは、避けられない。そして、貧しさに苦しんでいる人を目に見える形で救ってくれる組織があれば、支持されるのは当然だ。
しかも、導の灯火には精霊に祝福された神子までいる。
「私、ですか……?」
「神子がいるのだから、導の灯火は精霊に認められた組織なのだ、と拡大して考えるものは少なくありません。また、導の灯火もそう思わせています」
「……私には、何も特別な力はないのに……?」
「導の灯火の信徒であっても、神子様のお姿を拝見できるのは月に一度の王都での礼拝のみ、さらには交流する機会はほとんどない。となれば、総主の言葉を信じるしかないでしょう」
いわく、神子の姿を見るだけでもご利益がある。また、神子の祈りには特別な力があり、同席しているだけでその恩恵にあずかることができる。さらに神子は精霊に授けられた癒やしの力を持っていて、神子が作った特別な薬さえあれば、どんな病も怪我もたちどころに治ってしまう。
「市井では、そのように言われております」
「……それは、私のこと、なのですよね……?」
最後の一つだけは間違いとも言いきれないとは思うが、ご利益やら恩恵やら、いったい誰の話なのか。
困惑して思わず聞き返したキアラに、ルガートも苦笑してみせる。
「白銀の髪をしたとても美しい方、という噂ですので、他にはいらっしゃらないでしょう」
とにかく、そのようにして導の灯火が力を増しているため、王家にとって煙たい存在になりつつある、というのが、今の両者の関係らしい。エドゥアルドが導の灯火に注意するように、と言ってきても、おかしくないわけだ。
そして、エドゥアルドとゲラルドが神子を妻に迎えようと競い合っていたのと同じように、王家と導の灯火、どちらが身の内に神子を抱え込むかで争っている。
「……神子様、お気持ちはわかりますが、あまりお顔に出されるのはよろしくないかと……」
「……どのような、顔ですか」
「大変、いやそ……いえ、渋い顔を、なさっておいでです」
両手を当てて、キアラはもにゃもにゃと顔を動かした。
キアラに特別な力はないし、すごいところがあるわけでもないのに、そのように重要な人物として扱われても困る。ヨラガンには戻れないのだと、あきらめる気持ちもなくはないが、キアラの帰りたい場所はユクガの傍なのだ。きっと、どちらにも抱え込まれてしまってはいけない。
「エドゥアルド様と、総主様に、仲良くしていただくには、何をしたらよいでしょう」
ひとまず二人に仲良くしてもらえばいいだろうと尋ねると、ルガートから渋い顔が返ってきてしまった。
「……あまり深入りなさらないほうが、よろしいかと存じます」
「どうしてですか」
「深く交わるほど、しがらみは複雑になります」
ルガートの言い回しは少し難しかったが、キアラは素直にうなずいた。複雑に絡んでしまった糸ほど、解くのが難しいことは知っている。
しかし、エドゥアルドと総主の仲を取り持たないということは、王家と導の灯火の争いが収まるまで、待っていなければいけないということだ。
しかも、どちらにも引き込まれないように。
「……仲良くしていただくより、もっと難しいことを、しなければなりませんか……?」
「……ご明察です」
はっとして尋ねたキアラに、なぜかルガートは微笑んでうなずいたのだった。
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