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7.スカベンジャーというもの
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王都に滞在してしばらく、ロクトたちの用事がようやく終わり、ジーノもモンテツェアラに帰れることになった。
ロクトたちの話では、国王への謁見が叶うまで相当時間がかかったらしい。確かに、何も事情を知らずにいきなり話を聞かされても、魔王が倒されたなどジーノも信じられなかっただろう。グリニアが神殿経由であちこちに根回しをかけ、冒険者ギルドからも後押ししてもらって何とか謁見にこぎつけ、魔王を倒したときの状況を身振り手振りを交えて熱弁し、最終的には信じてもらえたそうだ。
そこからさらに内密な話をする時間を取ってもらい、少しだけ虚実を混ぜて、魔王討伐の真の功労者のことと、ペンダントのことを伝えたのだという。
「大丈夫ですよ、ジーノさんとレイさんのことは明かしていません」
「そ、そうか……」
ぎょっとしたのがわかったのだろう。グリニアに宥めるように言われて、ジーノはほっと胸を撫で下ろした。ロクトたちには同席するよう勧められたのだが、ジーノ自身は何かをしたわけではないので、同席を断った上で話題にも出さないでくれと強く頼んでおいたのだ。レイも、事情は違うが国に知られれば厄介なことになる立場には変わりないので、ジーノと同じく存在を伏せるよう依頼していた。
しかし、それだとペンダントに魔王の魂が封印されていることの説明がしにくい。
そこで、ロクトたちが魔王と対峙したときすでにある神官が魔王と交戦していて、ロクトたちはそこへ助太刀に入り、神官が持てる力の全てを振り絞って魔王をペンダントに封印した、そして託されたペンダントをロクトたちが王国へ持ち帰った、という筋書きを作ったのだ。その神官の名前はわからなかったが、魔王討伐はロクトたちの力だけでなし得たものではなく、彼の偉業も称えてほしい、と国王に伝えたところ、王都に銅像が立つことになったそうだ。
「よかったな、レイ。セスカのこと」
「それは……よかった、のか? わからんが……」
「名前は伝わらないかもしれないけど、セスカの頑張りがきちんと世の中に伝わるってことだろ?」
そういうものか、と首を傾げるレイに、そういうもんだろ、と返す。
二人で王都を歩いた日から、ジーノはレイにあまり気後れしなくなっていた。表情は薄いし言葉もストレートだが、レイが怖い人間ではないことがわかったからだ。
「それから、魔物の活動に変化が見られることや、ダンジョンからの魔物の発生が活発化してることも報告してな」
各地の魔物が活性化している話、ダンジョンから魔物が溢れる話は国王の耳にも入っていて、軍や冒険者ギルドと対応を協議していたのだという。
ひとまず、各地には魔王が討伐されたことを知らせ、活発化した魔物の被害を抑えるために、国が軍を派遣して対処する。ダンジョンについては冒険者ギルドが今までより積極的に冒険者を派遣し、ダンジョンコアを破壊してダンジョンそのものを消滅させる活動を推し進める。
ロクトたちも冒険者なので、ダンジョンの攻略活動に回ることになった。まずは王都周辺のダンジョンを攻略するよう言われたそうなのだが、それより前に依頼を受けているからと、ジーノをモンテツェアラまで送ることを優先してくれたらしい。
「……そういうわけで、まだしばらくは旅生活が続きそうです」
「魔王を倒した勇者様だってのに、大変なもんだな」
「急にやることがなくなっても困るし、俺はいいけどな」
魔物が一掃され、ダンジョンがなくなったらそれはそれで困るような気がする。魔物を狩る冒険者、その周辺でうろちょろするスカベンジャー、魔物素材を扱う職人、魔石の加工職人。魔物がいることを前提とした仕事をしている人間は大勢いるはずだ。その辺りの解決策はあるのか、一瞬考えてから、ジーノは思考を彼方に追いやった。ジーノ個人がどうこうできる問題ではない。
それより今は、モンテツェアラにようやく帰れる喜びを十分に味わいたい。やはりジーノは王都のような煌びやかなところには馴染めないし、旅暮らしは落ちつかなくて何となく疲れてしまう。もう若くないし、住み慣れた家でゆっくり過ごすほうが好ましい。
帰ったらまずは家の空気を入れ替えて、と予定を組み立てている横で、イサラが少し顔をしかめているのにジーノは気がついた。
「どうかしたのか」
以前なら不機嫌そうならそっとしておこうと思っただろうが、魔物の領域から長い間一緒に旅をして、多少は機微もわかるようになってきたつもりだ。機嫌というよりは、調子が悪そうに見える。
「ん? んー……ちょっと朝から頭痛くて」
頭痛持ちらしい。周囲を見回して目的のものを見つけると、ジーノは道を外れて野草を摘み取った。
「これ噛むといいぞ。あ、葉っぱは飲むなよ、最後に吐き出すんだ」
頭痛に効くのはヒェンシラ草の汁だ。葉を飲んでも大きな害はないが、人によっては腹を下すらしいので念のため止めておく。本当は薬があればいいのだろうが、ないものを頼んでも仕方がない。
そう言って差し出してから、イサラが軽く眉を寄せているのにジーノは気がついた。
「……すまん、嫌か」
「だって、それ……雑草じゃない……?」
効能を知らなければ、確かに雑草に見えるだろう。スカベンジャーはだいたい金がないから外で採れるものに頼るのだが、冒険者なら普通は薬を買える。
出しゃばったな、と手を引っ込めようとして、意外な方向から聞こえた声にジーノは振り返った。
「ヒェンシラ草は立派な薬草ですよ」
グリニアが近づいてきて、ジーノの手にあるヒェンシラ草に苦笑を浮かべてみせた。
「あまり好ましい味とは言えませんが」
「使ったことあるの?」
「薬はできるだけ、神殿に求めて来る方に差し上げるべきものでしたので」
そっとグリニアにヒェンシラ草を渡して、ジーノはそそくさと二人の傍を離れた。たまたま一緒に旅をすることになったおっさんよりは、ずっとパーティを組んできた同性のほうが、話もすんなり信じられるだろう。すぐにレイがジーノの傍に来て、静かな視線を向けてくる。
「詳しいんだな」
「薬草か? まあ……だいたい金がなくて、ああいうのに頼るしかねぇからな」
肩をすくめて返し、ジーノは改めて周囲を見回した。
モンテツェアラの周りにある草や木の実なら、だいたいの効能は知っている。鳥や獣の気配、鳴き声をもとに周囲の状況を把握し、危険を避ける慎重さもスカベンジャーには必要だ。
例えば、ちょうど今見えているボノアは死告鳥とも呼ばれる鳥で、ボノアが飛ぶ下には必ず何かの死体がある。屍肉を漁る性質があるからだ。
「……すまん、あっち行ってもいいか」
一応断って、ジーノは返事を待たずに駆け出した。
獣が何かを襲うのは、身を守るためか、食料を得るためだ。人もだいたい同じ。
一方、魔物が人や獣を襲う理由ははっきりしていない。身を守るためというには攻撃性が高いし、よほど弱い魔物以外は滅多に逃げない。では人や獣を食べるためかというと、殺すだけ殺して骸は放置されていることのほうが多い。食らうものもいないわけではないようだが、いるらしい、というレベルだ。
だから、ボノアが見えるのであれば、おおよそ、その下には魔物に襲われて命を落とした何ものかがいる。
「何だよおっさん、急に走り出したと思ったら……」
ボノアの下にたどりつくと、ジーノは自然と足を止めた。追いついてきたダルカザも、ジーノに文句を言いかけて口を閉ざす。後からきた他の面々も、息を呑んだり、声にならない声を漏らす。
「何これ……」
街道からはわからなかったが、辺りには腐臭が漂っていた。地面の色が所々変わっているのは、おそらく血の跡だ。人が現れたのでボノアたちは飛び去って、魔物に千切られたのか食い荒らされたのかわからないものが散らばっている。
口を引き結ぶと、ジーノは惨状に足を踏み入れた。後ろで引き留める声を無視して、まだ原形を留めている装備や道具を拾っていく。
「ジーノさん! 何をしてるかわかってるんですか!」
意を決して近づいてきたのだろうロクトに胸ぐらを掴まれて、ジーノは手にしていた剣に視線を落とした。
「……これは、トーゴってやつの剣だ」
訝しむような顔になったロクトの手を静かに外し、血と泥で汚れた鞘を拾って剣を納める。
「こっちは、ベスキウって男の持ってた道具袋だ」
トーゴもベスキウも、モンテツェアラのギルドに所属する冒険者だ。トーゴの父親も冒険者で、ダンジョンで命を落とした。その剣を受け継いでトーゴも冒険者になったのだが、もっと危険の少ない仕事についてほしいと母親が案じていたのを知っている。ベスキウはジーノと同じくらいのいい歳だが、まだ独り立ちしていない子どもがいて、養うためにもがんばらないと、と冒険者を続けていた。
荒らされている遺体は、ジーノも見知っている冒険者たちだ。
「それを拾って、どうするんだ」
普段と変わらないレイの声に、のろのろと顔を向ける。レイの青い目が思いのほか穏やかで、ジーノは自分の体が強張っていたことに気がついた。
「ギルドに届ける。そうすりゃ……家族のもとに、帰れる」
本人が戻るわけではないが、何か少しでも、面影を求める遺族はいる。それで救われるとも限らないし受け取らない家族もいるだろうが、ジーノができるささやかな貢献として、こうして亡骸を見つけたときには、遺品を拾い集めるようにしているのだ。
「……スカベンジャーの、仕事って……」
「他のやつらがどうかは知らねぇ。俺がやってるだけだ」
勢いを失ったロクトたちの前で黙々と死体漁りを進め、汚れた状態で戻ろうとすると、ざっと一歩引かれる。いつものことだ。直前まで死体を触っていた人間に、誰しも近寄りたがらない。
ただ、レイはジーノに魔法をかけてくれた。
「汚れたままは不快だろう」
「……ありがとな」
遺品を入れた大袋もジーノから受け取って、軽々と担いだレイがロクトたちに声をかける。
「行くぞ」
四人のついてくる気配は感じたが、ジーノはそちらを振り返ることができなかった。
ロクトたちの話では、国王への謁見が叶うまで相当時間がかかったらしい。確かに、何も事情を知らずにいきなり話を聞かされても、魔王が倒されたなどジーノも信じられなかっただろう。グリニアが神殿経由であちこちに根回しをかけ、冒険者ギルドからも後押ししてもらって何とか謁見にこぎつけ、魔王を倒したときの状況を身振り手振りを交えて熱弁し、最終的には信じてもらえたそうだ。
そこからさらに内密な話をする時間を取ってもらい、少しだけ虚実を混ぜて、魔王討伐の真の功労者のことと、ペンダントのことを伝えたのだという。
「大丈夫ですよ、ジーノさんとレイさんのことは明かしていません」
「そ、そうか……」
ぎょっとしたのがわかったのだろう。グリニアに宥めるように言われて、ジーノはほっと胸を撫で下ろした。ロクトたちには同席するよう勧められたのだが、ジーノ自身は何かをしたわけではないので、同席を断った上で話題にも出さないでくれと強く頼んでおいたのだ。レイも、事情は違うが国に知られれば厄介なことになる立場には変わりないので、ジーノと同じく存在を伏せるよう依頼していた。
しかし、それだとペンダントに魔王の魂が封印されていることの説明がしにくい。
そこで、ロクトたちが魔王と対峙したときすでにある神官が魔王と交戦していて、ロクトたちはそこへ助太刀に入り、神官が持てる力の全てを振り絞って魔王をペンダントに封印した、そして託されたペンダントをロクトたちが王国へ持ち帰った、という筋書きを作ったのだ。その神官の名前はわからなかったが、魔王討伐はロクトたちの力だけでなし得たものではなく、彼の偉業も称えてほしい、と国王に伝えたところ、王都に銅像が立つことになったそうだ。
「よかったな、レイ。セスカのこと」
「それは……よかった、のか? わからんが……」
「名前は伝わらないかもしれないけど、セスカの頑張りがきちんと世の中に伝わるってことだろ?」
そういうものか、と首を傾げるレイに、そういうもんだろ、と返す。
二人で王都を歩いた日から、ジーノはレイにあまり気後れしなくなっていた。表情は薄いし言葉もストレートだが、レイが怖い人間ではないことがわかったからだ。
「それから、魔物の活動に変化が見られることや、ダンジョンからの魔物の発生が活発化してることも報告してな」
各地の魔物が活性化している話、ダンジョンから魔物が溢れる話は国王の耳にも入っていて、軍や冒険者ギルドと対応を協議していたのだという。
ひとまず、各地には魔王が討伐されたことを知らせ、活発化した魔物の被害を抑えるために、国が軍を派遣して対処する。ダンジョンについては冒険者ギルドが今までより積極的に冒険者を派遣し、ダンジョンコアを破壊してダンジョンそのものを消滅させる活動を推し進める。
ロクトたちも冒険者なので、ダンジョンの攻略活動に回ることになった。まずは王都周辺のダンジョンを攻略するよう言われたそうなのだが、それより前に依頼を受けているからと、ジーノをモンテツェアラまで送ることを優先してくれたらしい。
「……そういうわけで、まだしばらくは旅生活が続きそうです」
「魔王を倒した勇者様だってのに、大変なもんだな」
「急にやることがなくなっても困るし、俺はいいけどな」
魔物が一掃され、ダンジョンがなくなったらそれはそれで困るような気がする。魔物を狩る冒険者、その周辺でうろちょろするスカベンジャー、魔物素材を扱う職人、魔石の加工職人。魔物がいることを前提とした仕事をしている人間は大勢いるはずだ。その辺りの解決策はあるのか、一瞬考えてから、ジーノは思考を彼方に追いやった。ジーノ個人がどうこうできる問題ではない。
それより今は、モンテツェアラにようやく帰れる喜びを十分に味わいたい。やはりジーノは王都のような煌びやかなところには馴染めないし、旅暮らしは落ちつかなくて何となく疲れてしまう。もう若くないし、住み慣れた家でゆっくり過ごすほうが好ましい。
帰ったらまずは家の空気を入れ替えて、と予定を組み立てている横で、イサラが少し顔をしかめているのにジーノは気がついた。
「どうかしたのか」
以前なら不機嫌そうならそっとしておこうと思っただろうが、魔物の領域から長い間一緒に旅をして、多少は機微もわかるようになってきたつもりだ。機嫌というよりは、調子が悪そうに見える。
「ん? んー……ちょっと朝から頭痛くて」
頭痛持ちらしい。周囲を見回して目的のものを見つけると、ジーノは道を外れて野草を摘み取った。
「これ噛むといいぞ。あ、葉っぱは飲むなよ、最後に吐き出すんだ」
頭痛に効くのはヒェンシラ草の汁だ。葉を飲んでも大きな害はないが、人によっては腹を下すらしいので念のため止めておく。本当は薬があればいいのだろうが、ないものを頼んでも仕方がない。
そう言って差し出してから、イサラが軽く眉を寄せているのにジーノは気がついた。
「……すまん、嫌か」
「だって、それ……雑草じゃない……?」
効能を知らなければ、確かに雑草に見えるだろう。スカベンジャーはだいたい金がないから外で採れるものに頼るのだが、冒険者なら普通は薬を買える。
出しゃばったな、と手を引っ込めようとして、意外な方向から聞こえた声にジーノは振り返った。
「ヒェンシラ草は立派な薬草ですよ」
グリニアが近づいてきて、ジーノの手にあるヒェンシラ草に苦笑を浮かべてみせた。
「あまり好ましい味とは言えませんが」
「使ったことあるの?」
「薬はできるだけ、神殿に求めて来る方に差し上げるべきものでしたので」
そっとグリニアにヒェンシラ草を渡して、ジーノはそそくさと二人の傍を離れた。たまたま一緒に旅をすることになったおっさんよりは、ずっとパーティを組んできた同性のほうが、話もすんなり信じられるだろう。すぐにレイがジーノの傍に来て、静かな視線を向けてくる。
「詳しいんだな」
「薬草か? まあ……だいたい金がなくて、ああいうのに頼るしかねぇからな」
肩をすくめて返し、ジーノは改めて周囲を見回した。
モンテツェアラの周りにある草や木の実なら、だいたいの効能は知っている。鳥や獣の気配、鳴き声をもとに周囲の状況を把握し、危険を避ける慎重さもスカベンジャーには必要だ。
例えば、ちょうど今見えているボノアは死告鳥とも呼ばれる鳥で、ボノアが飛ぶ下には必ず何かの死体がある。屍肉を漁る性質があるからだ。
「……すまん、あっち行ってもいいか」
一応断って、ジーノは返事を待たずに駆け出した。
獣が何かを襲うのは、身を守るためか、食料を得るためだ。人もだいたい同じ。
一方、魔物が人や獣を襲う理由ははっきりしていない。身を守るためというには攻撃性が高いし、よほど弱い魔物以外は滅多に逃げない。では人や獣を食べるためかというと、殺すだけ殺して骸は放置されていることのほうが多い。食らうものもいないわけではないようだが、いるらしい、というレベルだ。
だから、ボノアが見えるのであれば、おおよそ、その下には魔物に襲われて命を落とした何ものかがいる。
「何だよおっさん、急に走り出したと思ったら……」
ボノアの下にたどりつくと、ジーノは自然と足を止めた。追いついてきたダルカザも、ジーノに文句を言いかけて口を閉ざす。後からきた他の面々も、息を呑んだり、声にならない声を漏らす。
「何これ……」
街道からはわからなかったが、辺りには腐臭が漂っていた。地面の色が所々変わっているのは、おそらく血の跡だ。人が現れたのでボノアたちは飛び去って、魔物に千切られたのか食い荒らされたのかわからないものが散らばっている。
口を引き結ぶと、ジーノは惨状に足を踏み入れた。後ろで引き留める声を無視して、まだ原形を留めている装備や道具を拾っていく。
「ジーノさん! 何をしてるかわかってるんですか!」
意を決して近づいてきたのだろうロクトに胸ぐらを掴まれて、ジーノは手にしていた剣に視線を落とした。
「……これは、トーゴってやつの剣だ」
訝しむような顔になったロクトの手を静かに外し、血と泥で汚れた鞘を拾って剣を納める。
「こっちは、ベスキウって男の持ってた道具袋だ」
トーゴもベスキウも、モンテツェアラのギルドに所属する冒険者だ。トーゴの父親も冒険者で、ダンジョンで命を落とした。その剣を受け継いでトーゴも冒険者になったのだが、もっと危険の少ない仕事についてほしいと母親が案じていたのを知っている。ベスキウはジーノと同じくらいのいい歳だが、まだ独り立ちしていない子どもがいて、養うためにもがんばらないと、と冒険者を続けていた。
荒らされている遺体は、ジーノも見知っている冒険者たちだ。
「それを拾って、どうするんだ」
普段と変わらないレイの声に、のろのろと顔を向ける。レイの青い目が思いのほか穏やかで、ジーノは自分の体が強張っていたことに気がついた。
「ギルドに届ける。そうすりゃ……家族のもとに、帰れる」
本人が戻るわけではないが、何か少しでも、面影を求める遺族はいる。それで救われるとも限らないし受け取らない家族もいるだろうが、ジーノができるささやかな貢献として、こうして亡骸を見つけたときには、遺品を拾い集めるようにしているのだ。
「……スカベンジャーの、仕事って……」
「他のやつらがどうかは知らねぇ。俺がやってるだけだ」
勢いを失ったロクトたちの前で黙々と死体漁りを進め、汚れた状態で戻ろうとすると、ざっと一歩引かれる。いつものことだ。直前まで死体を触っていた人間に、誰しも近寄りたがらない。
ただ、レイはジーノに魔法をかけてくれた。
「汚れたままは不快だろう」
「……ありがとな」
遺品を入れた大袋もジーノから受け取って、軽々と担いだレイがロクトたちに声をかける。
「行くぞ」
四人のついてくる気配は感じたが、ジーノはそちらを振り返ることができなかった。
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