馬鹿犬は高嶺の花を諦めない

phyr

文字の大きさ
6 / 116
狂犬、猟犬、あるいは盛りの付いた

1-1

しおりを挟む
 この光景を誰が見ても、師匠の方が悪いと判断するだろう。複雑な柄の布張りの長椅子に踏ん反り返って、高級そうなローテーブルの上に踵を乗せ、その上長い足を組んで煙草をスパスパやっているのだ。どう見ても悪役で間違いない。その後ろに立っている俺はたぶん、手下その一。
 それに師匠の前で体を折り曲げて、床だったら絶対土下座していそうな体勢になっているのがこの店の主人だから、さらに良くない。どう見ても店の主を恐喝している悪人だ。
 周りには慣れている使用人の人たちしかいなくて、他の客がいないからいいものの、うっかり王都の警備部隊とか呼ばれたら、申し開きの猶予もなく捕まるだろう。俺で警備部隊に勝てるだろうか。さすがに騎士とまともに戦ったことはないから、予測がつかない。負ける気はしないけど。

「頼む、バルトロウ、この通り!」

 実際は、店主が何とか頼みを聞いてもらおうと、師匠に平身低頭お願いしている場面だけど、それにしたって悪役が似合い過ぎないか。
 金髪碧眼で綺麗な人だから、にっこりしてればひたすら格好いいだけのはずなのに、師匠は大概しかめっ面をしているし、表情によってはいつも一緒にいる俺でもぞくっとするくらいの顔になる。意識して顔を作っている時も、自然体で寛いでいる時も、ガキの頃からずっと育ててもらっているのに、いつまででも見飽きない。やっぱり一番綺麗だと思うのは金色の滲む碧の瞳だけど、小さい頃、思ったままに宝石みたいだって言ったら大笑いされたから、それ以来一度も本人には言っていない。
 それに、一番が目だと思うだけであって、師匠は全部が綺麗な人だ。

「俺に何のメリットもねぇ。他当たれ」

 その綺麗な人のにべもない言葉に、店主が泣きそうな顔を上げる。俺に救いを求めるような視線を向けられても困る。決めるのは師匠であって俺じゃないし、俺がうんと言ったからって、店主が求めているのは師匠の協力だ。俺じゃない。
 首を横に振って示してみたら、がっくりとうなだれてしまった。

「……そこまで言うなら仕方がない……」

 そこまでがどこまでかわからないし、師匠は断りの言葉以外ほとんど何も言ってない。その上、何が仕方ないのかわからない。師匠が冷徹すぎて店主が壊れたのかと思ったけど、ゆらりと立ち上がった顔は笑っていた。
 いや、これ壊れてるな。

「君の煙草一年分無償提供で手を打とうじゃないか!」
「師匠、話だけでも聞こう」

 煙草代一年分馬鹿ニナラナイ。

 さらっと手の平を返した俺に心底嫌そうな顔をした後、師匠はため息をついて煙草を灰皿に突っ込んだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

魔王の息子を育てることになった俺の話

お鮫
BL
俺が18歳の時森で少年を拾った。その子が将来魔王になることを知りながら俺は今日も息子としてこの子を育てる。そう決意してはや数年。 「今なんつった?よっぽど死にたいんだね。そんなに俺と離れたい?」 現在俺はかわいい息子に殺害予告を受けている。あれ、魔王は?旅に出なくていいの?とりあえず放してくれません? 魔王になる予定の男と育て親のヤンデレBL BLは初めて書きます。見ずらい点多々あるかと思いますが、もしありましたら指摘くださるとありがたいです。 BL大賞エントリー中です。

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

推しの完璧超人お兄様になっちゃった

紫 もくれん
BL
『君の心臓にたどりつけたら』というゲーム。体が弱くて一生の大半をベットの上で過ごした僕が命を賭けてやり込んだゲーム。 そのクラウス・フォン・シルヴェスターという推しの大好きな完璧超人兄貴に成り代わってしまった。 ずっと好きで好きでたまらなかった推し。その推しに好かれるためならなんだってできるよ。 そんなBLゲーム世界で生きる僕のお話。

異世界にやってきたら氷の宰相様が毎日お手製の弁当を持たせてくれる

七瀬京
BL
異世界に召喚された大学生ルイは、この世界を救う「巫覡」として、力を失った宝珠を癒やす役目を与えられる。 だが、異界の食べ物を受けつけない身体に苦しみ、倒れてしまう。 そんな彼を救ったのは、“氷の宰相”と呼ばれる美貌の男・ルースア。 唯一ルイが食べられるのは、彼の手で作られた料理だけ――。 優しさに触れるたび、ルイの胸に芽生える感情は“感謝”か、それとも“恋”か。 穏やかな日々の中で、ふたりの距離は静かに溶け合っていく。 ――心と身体を癒やす、年の差主従ファンタジーBL。

敗戦国の王子を犯して拐う

月歌(ツキウタ)
BL
祖国の王に家族を殺された男は一人隣国に逃れた。時が満ち、男は隣国の兵となり祖国に攻め込む。そして男は陥落した城に辿り着く。

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

【完結】悪役令息の従者に転職しました

  *  ゆるゆ
BL
暗殺者なのに無様な失敗で死にそうになった俺をたすけてくれたのは、BLゲームで、どのルートでも殺されて悲惨な最期を迎える悪役令息でした。 依頼人には死んだことにして、悪役令息の従者に転職しました。 皆でしあわせになるために、あるじと一緒にがんばるよ! 透夜×ロロァのお話です。 本編完結、『もふもふ獣人転生』に遊びにゆく舞踏会編、完結しました! 時々おまけを更新するかもです。 『悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?』のカイの師匠も 『悪役令息の伴侶(予定)に転生しました』のトマの師匠も、このお話の主人公、透夜です!(笑) 大陸中に、かっこいー激つよ従僕たちを輸出して、悪役令息たちをたすける透夜(笑) 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

処理中です...