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野良犬、迷い犬、あの手が恋しい
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ティハリッツァの走り方はそこまで上下に揺れないから、そんなに気持ち悪くならない。左右には振られるけど、元々山道を進んでるから、仕方ない、で済ませられる。前に一度連れてきてもらっただけだったから不安だったけど、何とかヒューさんの家まで辿りつけてほっとした。
戸を叩いて出てきたヒューさんが、俺を見てちょっと不思議そうな顔をする。
「バルトロウが一人で来るなんて、とは思ったんだが……今は別行動なのか?」
「ししょっ、来たんですか!」
思わず詰め寄って、落ちつけって肩をぽんぽんされて、大人しくちょっとだけ後ろに下がる。だって、今まで全然、何の手掛かりもなかったから。
そわそわしてるのがわかったのか、ヒューさんがちょっと困ったような顔で笑って、家の中に入れてくれた。工房と家は別の建物として建っていて、たまに人を泊めることもあるそうだ。
俺を木の椅子に座らせて、ヒューさんがお湯を沸かしに行く。飲み物はいいから、早く、師匠の話が聞きたい。でも、もてなしてもらう側が文句を言うのは失礼だから、じっと我慢する。礼儀はちゃんと守らないと、師匠に怒られる。
「バルトロウが来たのは、わりと前なんだけどな」
少し前に、一人でふらっと来たらしい。いつも通り剣の手入れと、何気ない話をして、最後に重たい袋を置いていった。
「そのうちお前が一人で来るだろうから、剣の手入れをしてやってくれだとよ」
袋の中身は、その分のお金だ。
英雄という称号があるから、師匠は定期的に王様からお金をもらっている。他にも、各地の魔物を倒したり、町や村の問題を解決して回ってたから、その褒賞金もある。
師匠が俺を育てられたのは、たぶんそういうお金があったからだ。おかげで俺は、師匠に拾われてから飢えたことがない。野宿もあったけど、初めてふかふかのベッドで寝たし、着替えの服をくれたのも師匠が最初だ。
今は、勇士っていう称号がくっついたから、俺にも王様がお金をくれる。モンドール商会の店に行くと受け取れるから、師匠の情報が入ってないか、聞きに行くついでにもらってる。
その、生きていくためのお金を、自分で使わないで俺のために置いていってくれた。どこの店にも、師匠は一回も来てないのに。
胸のところが苦しい。師匠がいないから、ぽんぽんしてもらえないから、大丈夫にならないのに。
「そんな顔すんな。あいつのことだから、ちゃんと配分してるから」
飲んで落ちつけって勧められて、お茶を飲んで胸が痛いのをごまかす。ちょっと熱かった。いつもは師匠が飲むのを見てから飲んでたから、こんなに熱い状態で飲んだことがない。おいしいかおいしくないかよくわからなかった。
「……まあ、とにかくだ。頼まれたからにはやるしかねえし、前金ももらってるからな。ほら、剣見せてみろ」
鞘を剣帯から外して、机の上に置く。元々、ヒューさんに剣を見てもらおうと思ってここに来たから、本来の目的ではある。
師匠を見つけたら、カーメルに教えてもらった通り甘やかすとして、その場で引き離されないように強くなっておかないといけない。甘やかす、が上手く出来るかわからないけどとにかく、強くなる方は剣が大事だから、ヒューさんに一度手入れをしてもらいたかった。磨いたり柄の革を巻き直したりは俺にも出来るけど、本質的なところは俺にはわからない。
刃の部分を眺めたり、柄から刃先を確認したりしているヒューさんを待って、さっきよりは少し冷めたお茶を飲む。
「ちゃんと丁寧に使ってるな。まあ、クライヴが教えてたらそりゃそうか」
作業を見るか聞かれたから、頷いて工房についていく。一人でここで待ってても仕方ない。砥石を水で濡らして、ヒューさんが刃の細かい傷を研いでいく。
「昔、クライヴもお前みたいに眺めてたことがあったな」
昔。たぶん、俺が想像出来るより、ずっと前。
そんな感じの声に聞こえて、話す余裕があるなら聞いてみようと、前なら言わなかったことを口にする。
「……ヒューさん、いつから師匠と知り合いなんですか」
戸を叩いて出てきたヒューさんが、俺を見てちょっと不思議そうな顔をする。
「バルトロウが一人で来るなんて、とは思ったんだが……今は別行動なのか?」
「ししょっ、来たんですか!」
思わず詰め寄って、落ちつけって肩をぽんぽんされて、大人しくちょっとだけ後ろに下がる。だって、今まで全然、何の手掛かりもなかったから。
そわそわしてるのがわかったのか、ヒューさんがちょっと困ったような顔で笑って、家の中に入れてくれた。工房と家は別の建物として建っていて、たまに人を泊めることもあるそうだ。
俺を木の椅子に座らせて、ヒューさんがお湯を沸かしに行く。飲み物はいいから、早く、師匠の話が聞きたい。でも、もてなしてもらう側が文句を言うのは失礼だから、じっと我慢する。礼儀はちゃんと守らないと、師匠に怒られる。
「バルトロウが来たのは、わりと前なんだけどな」
少し前に、一人でふらっと来たらしい。いつも通り剣の手入れと、何気ない話をして、最後に重たい袋を置いていった。
「そのうちお前が一人で来るだろうから、剣の手入れをしてやってくれだとよ」
袋の中身は、その分のお金だ。
英雄という称号があるから、師匠は定期的に王様からお金をもらっている。他にも、各地の魔物を倒したり、町や村の問題を解決して回ってたから、その褒賞金もある。
師匠が俺を育てられたのは、たぶんそういうお金があったからだ。おかげで俺は、師匠に拾われてから飢えたことがない。野宿もあったけど、初めてふかふかのベッドで寝たし、着替えの服をくれたのも師匠が最初だ。
今は、勇士っていう称号がくっついたから、俺にも王様がお金をくれる。モンドール商会の店に行くと受け取れるから、師匠の情報が入ってないか、聞きに行くついでにもらってる。
その、生きていくためのお金を、自分で使わないで俺のために置いていってくれた。どこの店にも、師匠は一回も来てないのに。
胸のところが苦しい。師匠がいないから、ぽんぽんしてもらえないから、大丈夫にならないのに。
「そんな顔すんな。あいつのことだから、ちゃんと配分してるから」
飲んで落ちつけって勧められて、お茶を飲んで胸が痛いのをごまかす。ちょっと熱かった。いつもは師匠が飲むのを見てから飲んでたから、こんなに熱い状態で飲んだことがない。おいしいかおいしくないかよくわからなかった。
「……まあ、とにかくだ。頼まれたからにはやるしかねえし、前金ももらってるからな。ほら、剣見せてみろ」
鞘を剣帯から外して、机の上に置く。元々、ヒューさんに剣を見てもらおうと思ってここに来たから、本来の目的ではある。
師匠を見つけたら、カーメルに教えてもらった通り甘やかすとして、その場で引き離されないように強くなっておかないといけない。甘やかす、が上手く出来るかわからないけどとにかく、強くなる方は剣が大事だから、ヒューさんに一度手入れをしてもらいたかった。磨いたり柄の革を巻き直したりは俺にも出来るけど、本質的なところは俺にはわからない。
刃の部分を眺めたり、柄から刃先を確認したりしているヒューさんを待って、さっきよりは少し冷めたお茶を飲む。
「ちゃんと丁寧に使ってるな。まあ、クライヴが教えてたらそりゃそうか」
作業を見るか聞かれたから、頷いて工房についていく。一人でここで待ってても仕方ない。砥石を水で濡らして、ヒューさんが刃の細かい傷を研いでいく。
「昔、クライヴもお前みたいに眺めてたことがあったな」
昔。たぶん、俺が想像出来るより、ずっと前。
そんな感じの声に聞こえて、話す余裕があるなら聞いてみようと、前なら言わなかったことを口にする。
「……ヒューさん、いつから師匠と知り合いなんですか」
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