江戸咲く花にて

暁エネル

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別れ③

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おいらは 目を覚ますと 布団をたたみ 押し入れに入れた





(この部屋とも 今日でお別れだ・・・ ここへ来てから あっという間だったなぁ~)





おいらは 荷物を部屋の真ん中に置いて 部屋を出た






(いろんな所を 良く見ておかなくっちゃ・・・)






おいらは カワヤの中庭や 井戸 かまどへ 目をこらして見た




「玄太・・・ おはよう」



水仙の元気な声






(水仙が いつも通りで・・・ 良かった)






「おはよう」



みんなが 手を止め おいらを見た




「玄太・・・ お膳は持って行くから 玄太は ゆっくりしていて」



「ありがとう・・・」



水仙の声に みんながうなづいた




おいらは 長い階段を背にして 萬斎寺を全体に見渡した






(この階段を上って来た時 月あかりに照らされた 水仙と雪菜さんを見たっけ・・・ そして この本堂・・・ もう 見る事はないのかなぁ~)






おいらは 雪菜さんが本堂から 出て来るのが見え おいらは みんなの所へ




おいらが 部屋へ行くと 雪菜さんの隣に席が おいらはいつも 雪菜さんから 一番遠い席 でも 今日は



みんなはすでに お膳の前に座り 水仙は 笑ってうなづいた



おいらが座ると 雪菜さんも部屋へと入って来た




「みんなさん お待たせしました 玄太の迎えのカゴが来るまでに 玄太に挨拶を済ませておいて下さい では いただきましょう」



「いただきます」



おいらは 雪菜さんに 自然と視線を向けた



雪菜さんのしぐさは とてもキレイだ



「玄太・・・ あとで 私の所へ来て下さい」



雪菜さんは 小さな声で そう言った



おいらは 少し驚いて 雪菜さんにうなづいた





(びっくりした・・・ まさか雪菜さんが 話かけてくるとは・・・ 雪菜さんって・・・ 凄く食べ方がキレイなんだよなぁ~)





おいらは 雪菜さんの食べる様子を 横目で見ていた





雪菜さんが 部屋を出て行くと みんなが おいらの所へ



「玄太・・・ 元気でなぁ~」



「玄太・・・ いろいろ ありがとうなぁ~」



みんなが おいらに声をかけてくれた



「ありがとう・・・ みんな ありがとう」



お膳が 片付けられ おいらと水仙は二人に



「玄太・・・ カゴ屋さんが来るまで 一緒に居てもいい?」



「水仙・・・ ありがとう さっき 雪菜さんがおいらに 来てほしいって・・・」



「そう・・・ 雪菜も 玄太にお礼をしたいんだと思うよ」



「えっ おいらの方だよ お礼を言うのは・・・」



おいらの言葉に 水仙は 嬉しそうに笑った





「ねぇ~ 水仙 おいら 前から思っていた事があるんだけど・・・」



「えっ 何?」



「雪菜さんが 着てる黒の・・・」



「あぁ~ 袈裟のこと?」



「多分それ・・・ 凄く 雪菜さんに 似合うよね」



「うん 私も 雪菜の袈裟を着ている姿は・・・」



水仙の顔が 凄く嬉しそうに・・・



「玄太・・・ 私 玄太に渡したい物があるんです」



「えっ 何?」



「ちょっと ここで待っていて下さい」



そう言って 水仙は部屋を出て行った





(なんだろう・・・ 水仙がおいらに・・・ 水仙には 昨日たくさんの絵を書いてもらった・・・)








しばらくすると 



「ごめん下さい」



声が聞こえ おいらが行ってみると カゴ屋さんが・・・



「あっ カゴ屋さん」



「へい」



「今 支度をして来ます 下で少し待っていて下さい」



「へい」



そう言って カゴ屋さんは 軽い足取りで行ってしまった







(こんなに早く 迎えのカゴが来るとは 思わなかった・・・ みんなに別れの挨拶をしないと・・・)






おいらは 自分の部屋へ行き 荷物を持った







(水仙は どこだろう・・・)






おいらは かまどへ



水仙は おむすびを握っていた



「水仙・・・」



「あっ 玄太 今 出来るから待ってて・・・」



「水仙・・・ おいらを 迎えに来たカゴが・・・」



「え~ もう来たの?」



おいらは 水仙にうなづいた



水仙は 慌てておむすびを握っていた



「玄太・・・ お待たせ」



「うん」



「玄太・・・ みんなは 本堂だよ」



おいらと水仙は 本堂へ



みんなは お経を唱えていた



「どうしよう・・・ 水仙」



「大丈夫だよ 玄太・・・ もうすぐ終わる」



水仙が 言った通り お経を唱えるのは終わった





「雪菜・・・ みんな・・・ 玄太の迎えのカゴが来たみたい」



水仙の声に みんなが 振り向いて みんながおいらの所へ






「玄太・・・ 少し待っていて下さい」



雪菜さんは そう言って 本堂を出て行った



みんながおいらと水仙を 囲む様に集まった



「玄太・・・ 元気で・・・」



「玄太・・・ いろいろ ありがとう」



みんなが 声をかけてくれた



雪菜さんが 木箱を持って おいらの前へ



「玄太・・・ 待たせてしまいましたね」



「いいえ」



「玄太・・・ これを・・・」



雪菜さんが 木箱をおいらに



「これは・・・」



「開けてみて下さい」



おいらは 持っていた荷物を 水仙に渡して 木箱を開けた



中に入っていたのは 萬斎寺の数珠だった



「雪菜さん・・・ これ・・・」



「玄太・・・ またいつか 玄太のお父上と一緒 ここ萬斎寺へ来て下さいね 私達は いつでも 玄太を歓迎しますよ」



「雪菜さん ありがとうございます 大切にします・・・ おっとさんにも おいら この萬斎寺を見てもらって おっとさんが 何て言うのかを 聞いてみたいです」




おいらは 水仙から荷物を 受け取り みんなに 深々と頭を下げた



「雪菜 私 玄太と下まで行って来ます」



「玄太・・・ 行こう」



水仙に うながされ おいらは また みんなに頭を下げた







水仙と長い階段を下りる



「ねぇ~ 水仙・・・ 水仙は 髪の毛を落とさないの?」



「うん 私は お坊さんではないから・・・ それに 雪菜が 私の髪を好きだから」



水仙は 嬉しそうに そう言った



おいらは 萬斎寺に来る前に 水仙に肩まで 切ってもらった



壮志郎さんも キレイな髪の毛だったけど 水仙も 長くてキレイだ




「水仙・・・ 今 幸せ?」



「うん・・・ 雪菜に ずっと会いたかったから・・・ 雪菜と毎日を過ごせる今は 凄く幸せだよ・・・ 玄太 玄太も 絶対に幸せになってね 絶対だよ 絶対・・・ そして 雪菜も言ってたけど・・・ 私は 雪菜と玄太が来るのを待ってるから」



水仙の目から 涙がこぼれ落ちた



おいらの姿に 気が付いた カゴ屋さんは 立ち上がって 準備を始めた



「玄太・・・ おむすび」



「水仙・・・ ありがとう」



おいらは 水仙から おむすびを受け取った



「水仙も 元気で・・・」



おいらは カゴ屋さんへ



「お願いします」



「玄太 待ってるからね」



おいらは カゴに乗り込んだ



「玄太・・・ 待ってるから」



「玄太・・・」



カゴが動き出し 水仙の声も遠くなり おいらは カゴの中で 水仙が握ってくれた おむすびをかかえて 涙をふいた




(つづく)


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