異世界の学園物語

白い犬

文字の大きさ
16 / 17
第1章 売却少女

第16話 本能と計算

しおりを挟む
さて、火山地帯へといつものごとくやってきたわけなのだが、これまた開幕早々かなり面白いことになっている。

今回のティナとグウェントの戦いは、とてつもなく簡潔に言えば接近戦が始まるか否かで勝負が決まる。それもそのはずで、ティナは接近されたときの対応策を多く持ち合わせていない。それに対し、グウェントにとって接近戦はまさに自分の土俵。近づけば勝ちのようなものだ。

以前の入学テストの時は乱戦だったこともあり、ティナの演算化がグウェントの動きに間に合っていたが、一対一ではそうはいかないだろう。

さらに言えば、グウェントの獲物は大剣で、ティナの獲物は魔道杖。武器のパワー的な意味でも、近づかれてティナが避けきれなければ、そこでティナの敗北は決まる。

ここまでつらつらとティナが勝つのがなかなかに難しいという話をしてきたのだが、今俺の目の前に広がる光景は、こんな考えはばかげていたのだと教えてくれる。

何が馬鹿げてるか、なんてそりゃ簡単だ。近づかれたら終わり、なんて話は不毛だった。

まず、グウェントはティナを見つけることすらできないかもしれない・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ーー!!



#####



「はは・・・。」

思わず乾いた笑いが口から洩れる。正直、こんな光景見せられたら、それしかできないだろう。

開始した直後、俺はまずティナすけを探すべく、火山地帯をうろうろしていたのだが、その時から少し違和感があった。

妙に、溶岩が俺に向かって飛んでくるのだ。まるで意志があるかのように。

最初はこのステージがそういうギミックなのかと思った。だが違った。

一分もたてば、これがそういうものじゃないと気付く。明らかに俺に対しての敵意のようなものを後ろに感じる攻撃が飛び始めた。これも溶岩だ。

そして、それをいなしながらティナすけを探してさらに一分。もはや俺に飛んでくる溶岩の数は数え切れないほどになっていた。

そこでようやく理解する。これは、演算化の魔法だ。

あの魔法は、規則性を与える魔法だ。つまりこれはきっと、俺が通るたびに偶然俺に向かって溶岩が噴き出るような規則性を与えられている。

これは想像をはるかに超えて厄介だ。なぜならこの攻撃は、ティナすけが俺を見る必要がない。つまり、ティナすけは俺から逃げ続けるだけでも、俺に攻撃を仕掛け続けられる。

もし、俺が疲弊する前にティナすけを見つけられなければーー。

その時は、俺の負けになる。

そして場面は今に移る。

「くく、だけどなティナすけ。」

首を鳴らし、迫ってくる溶岩を切り伏せる。そして口元に獰猛な笑みを浮かべ。

「そう簡単に負けるつもりはねえぞっ!」

俺の魔法を使う!


#####


「ーーお、これは。」

「もしかして・・・?」

グウェントが魔法を使う気だな。まだ俺たちの誰もグウェントの魔法を見たことがない。確か、敵味方の区別がつかなくなるので、仲間のいるところでは使えないんだったか。

と、観客席の俺たちが反応したところで、グウェントが静かに目を閉じ、顔を下に向けた、次の瞬間。

「ウオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!」

グウェントが吠える。観客席には、戦いの影響は全く届かないはずなのだが、なぜか俺たちはその声に気圧される。

「これは・・・すごいな。」

思わず俺の口からその言葉が漏れる。正直想像していたよりずっと戦闘能力が上がってる。

俺の視線の先では、右から噴き出した溶岩を大剣の一薙ぎでかき消すどころか、その先の岩盤部分を風圧のみでえぐり、さらに足元から噴き出ようとしていた溶岩は右足で踏みつぶしている。熱くないのか、あれ。

いや、そもそも今のグウェントには痛覚があるように見えない。先ほどから、ひっきりなしに噴き出る溶岩に対処できない部分を焼かれたりしているのだけれど・・・。

まったく痛そうなそぶりを見せない。まさに狂戦士といった風貌だ。

そんな神話にでも出てきそうな威圧感を持つグウェントだったが、空中を見つめ、2,3秒立ち止まったかと思うと、急に走り出した。その先は・・・。

「ティナ、見つかった。」

ミーナの言う通り、グウェントはティナのいる方向へと急接近している。実際に目で見えたわけではないはずなので、獣としての嗅覚のようなものだろうか。

「まったく、獣人の俺にもそんなことできないんだけどな。」

思わずあきれてしまう。いや、ほんとに。そりゃ、知ってる相手のにおいの場所を普通にかぎ分けるくらいなら、やったらできるかもしれないけどね。いくら何でも、火山の中の人のにおいまでは、追えないって。

グウェントが頂上まで上り詰める。そして火口をのぞき込むと、そこにあるのはただの溶岩。しかし確かにその奥にはティナがいる。演算化によって、自分の周りの溶岩を遠ざけたのだろう。

グウェントは、その溶岩をにらみ、そして大剣を大きく振りかぶる。そしてそのまま、全力で振り下ろした。

すると、グウェントが振った大剣によりとてつもない風が発生。いや、風というどころか、刃と言えそうだ。とにかく、そのレベルの風が、溶岩を真っ二つに切り裂いた。

これは、ティナの負けかもしれないな、と最初に思ったこととは正反対の感想を抱く。ティナのとった作戦は正直とても優れた作戦だと思う。普通であれば、ティナのとったこの作戦を初見で敗れる存在はまずいないだろう。それは、俺や、リヒターにも言えることだ。

近距離戦が圧倒的に得意だという相手に対しては、最善の手だったようにも思える。

だが、今回は相手が悪すぎたとしか言えない。居場所を獣の嗅覚を超える制度で見つけられるような奴に対してはこの作戦の効果はかなり薄くなってしまう。

と、俺は勝手に結論を出そうとしていたのだが、ここで違和感に気づく。

待てよ、ティナはなぜ、あの溶岩から出てこなかったんだ?

グウェントは山を登っている最中にも片っ端から溶岩を切り伏せ、轟音を鳴らし続けていた。ティナからしてみれば、自分の作戦が思い通りにいってないのはグウェントが近づいてくる音からもわかったはずだ。

なら、ティナがあの溶岩の中にとどまり続けていた理由は、一つしかない。

あの場にいることが、最も勝率の高い行動だと考えたんだ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

つまりそれは・・・。

火山の中央、ティナが先ほどまでいたところ。

グウェントのめちゃくちゃな一撃によって、岩が砕け、砂煙を巻き上げていたそこには。

魔道杖を構え、その一撃を耐えきったティナがいた。

「けほっ、けほっ・・・。まったくどんなでたらめな威力ですか・・・。演算化で固めまくった溶岩の壁が全部壊れるなんて、思ってもみませんでした。」

口元を抑えるティナ。その手は赤く染まり、ティナが今の一撃を止めきれなかったことを示唆していた。

だけど、ティナは笑う。

「でも、これで終わりです。まったく、失敗しましたねグウェントさん。」

地鳴りがなり、地面が揺れる。

「小さいころ言われませんでした?火口に近づいたら危ないって。」

そうか、そういうことか。俺はようやくティナの狙いを理解する。ティナははじめから、逃げ切るつもりなどなかったんだ。あの状況下で、グウェントが魔法を使い、自分の場所を見つけることまで、計算済みで。

「それじゃあ、グウェントさん。またあとで。」

ティナのその言葉とともに、火山の外側を駆け上がってきていた溶岩が一斉に火口に飛び込む。

「・・・!?」

それによって、火口のすぐ近くにいたグウェントは巻き込まれ、そのまま火山の奥深くにのまれていく。

もちろんティナも火山内部にいたのだから、それには巻き込まれるが、先に死んだのは、それこそ当然のことではあるが、グウェントだった。

こうして、グウェント対ティナの戦いは、ティナの勝利で終わった。しかし、ティナに負けたとなると、グウェント悔しがりそうだなー。

・・・あとで、ジュースでもおごってやるか。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界転生した女子高校生は辺境伯令嬢になりましたが

ファンタジー
車に轢かれそうだった少女を庇って死んだ女性主人公、優華は異世界の辺境伯の三女、ミュカナとして転生する。ミュカナはこのスキルや魔法、剣のありふれた異世界で多くの仲間と出会う。そんなミュカナの異世界生活はどうなるのか。

神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします

夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。 アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。 いわゆる"神々の愛し子"というもの。 神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。 そういうことだ。 そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。 簡単でしょう? えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか?? −−−−−− 新連載始まりました。 私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。 会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。 余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。 会話がわからない!となるよりは・・ 試みですね。 誤字・脱字・文章修正 随時行います。 短編タグが長編に変更になることがございます。 *タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。

転生貴族の領地経営〜現代日本の知識で異世界を豊かにする

ファンタジー
ローラシア王国の北のエルラント辺境伯家には天才的な少年、リーゼンしかしその少年は現代日本から転生してきた転生者だった。 リーゼンが洗礼をしたさい、圧倒的な量の加護やスキルが与えられた。その力を見込んだ父の辺境伯は12歳のリーゼンを辺境伯家の領地の北を治める代官とした。 これはそんなリーゼンが異世界の領地を経営し、豊かにしていく物語である。

家族転生 ~父、勇者 母、大魔導師 兄、宰相 姉、公爵夫人 弟、S級暗殺者 妹、宮廷薬師 ……俺、門番~

北条新九郎
ファンタジー
 三好家は一家揃って全滅し、そして一家揃って異世界転生を果たしていた。  父は勇者として、母は大魔導師として異世界で名声を博し、現地人の期待に応えて魔王討伐に旅立つ。またその子供たちも兄は宰相、姉は公爵夫人、弟はS級暗殺者、妹は宮廷薬師として異世界を謳歌していた。  ただ、三好家第三子の神太郎だけは異世界において冴えない立場だった。  彼の職業は………………ただの門番である。  そして、そんな彼の目的はスローライフを送りつつ、異世界ハーレムを作ることだった。  二月から週二回更新になります。お気に入り・感想、宜しくお願いします。

最強令嬢とは、1%のひらめきと99%の努力である

megane-san
ファンタジー
私クロエは、生まれてすぐに傷を負った母に抱かれてブラウン辺境伯城に転移しましたが、母はそのまま亡くなり、辺境伯夫妻の養子として育てていただきました。3歳になる頃には闇と光魔法を発現し、さらに暗黒魔法と膨大な魔力まで持っている事が分かりました。そしてなんと私、前世の記憶まで思い出し、前世の知識で辺境伯領はかなり大儲けしてしまいました。私の力は陰謀を企てる者達に狙われましたが、必〇仕事人バリの方々のおかげで悪者は一層され、無事に修行を共にした兄弟子と婚姻することが出来ました。……が、なんと私、魔王に任命されてしまい……。そんな波乱万丈に日々を送る私のお話です。

家ごと異世界転移〜異世界来ちゃったけど快適に暮らします〜

奥野細道
ファンタジー
都内の2LDKマンションで暮らす30代独身の会社員、田中健太はある夜突然家ごと広大な森と異世界の空が広がるファンタジー世界へと転移してしまう。 パニックに陥りながらも、彼は自身の平凡なマンションが異世界においてとんでもないチート能力を発揮することを発見する。冷蔵庫は地球上のあらゆる食材を無限に生成し、最高の鮮度を保つ「無限の食料庫」となり、リビングのテレビは異世界の情報をリアルタイムで受信・翻訳する「異世界情報端末」として機能。さらに、お風呂の湯はどんな傷も癒す「万能治癒の湯」となり、ベランダは瞬時に植物を成長させる「魔力活性化菜園」に。 健太はこれらの能力を駆使して、食料や情報を確保し、異世界の人たちを助けながら安全な拠点を築いていく。

【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~

ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。 王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。 15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。 国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。 これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。  

半竜皇女〜父は竜人族の皇帝でした!?〜

侑子
恋愛
 小さな村のはずれにあるボロ小屋で、母と二人、貧しく暮らすキアラ。  父がいなくても以前はそこそこ幸せに暮らしていたのだが、横暴な領主から愛人になれと迫られた美しい母がそれを拒否したため、仕事をクビになり、家も追い出されてしまったのだ。  まだ九歳だけれど、人一倍力持ちで頑丈なキアラは、体の弱い母を支えるために森で狩りや採集に励む中、不思議で可愛い魔獣に出会う。  クロと名付けてともに暮らしを良くするために奮闘するが、まるで言葉がわかるかのような行動を見せるクロには、なんだか秘密があるようだ。  その上キアラ自身にも、なにやら出生に秘密があったようで……? ※二章からは、十四歳になった皇女キアラのお話です。

処理中です...