異世界の学園物語

白い犬

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第1章 売却少女

第15話 堅苦しいのは終わり

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「納得いかないです。」

 ムスッと、頰を膨らましているのはエミリア。先ほどからずっとこれである。理由は、先の戦いで俺がやった、バフ掛けまくり咆哮のせいらしい。

「私の必殺技だったのに、ただの咆哮でやられるなんて・・・。」

 どうも、全力の一撃が咆哮1つで打ち消された、どころかぶち抜かれたことが気にくわないらしい。

「いや、エミリア。俺の全力はあれだから。」

「ただの咆哮じゃないですかぁ・・・。」

 まぁ、確かにそうだけど。でもまともな攻撃手段を持たない俺としては、あれが全力なのは間違いない。

「むー、なんかでもムカつきます!」

 そうは言われても。俺にはどうしようもないことなのである。

「はっはっは、確かに咆哮1つでやられるのは気にくわんだろうな。」

「リヒター殿。」

 リヒター殿はもう試合がないから、観客に徹するらしいのだが、おれたちを見つけ、近寄ってきたようだ。ていうか、だからそんなこと言われても仕方ないんですって。

「ですよね、リヒターさん。ほんと、無茶苦茶すぎてなんとなく納得できません。」

「はっはっは、ならば今度埋め合わせでもしてもらうと良いぞ、エミリア殿。」

 え?

「ーーそ、そうですね。それが良いです。」

 待て、待て待て。

「と、ということでトランさん!今度なんか連れていってください!それで許してあげますとも。」

「待て待て待て!なんで俺が悪い雰囲気になっているんだ!?」

「い、いいじゃないですか!?どっか遊びに連れて行ってくれるくらい!」

「い、いやしかしだな・・・。」

「そ、それとも、なんですか。私と遊びに行くのは、い、嫌なんですか?」

 ぐ、ズルいぞ。涙目で上目遣いとか、美人にやられたら断れないじゃないか。

「ーーわ、わかった。今度どっかに連れて行く。」

 俺の肯定の言葉に、顔をぱあっと華やがせたエミリアは、

「は、はいっ!楽しみにしてます!じゃ、じゃあ、また今度会いましょうトランさん!」

 元気の良い返事をし、離れて行った。さて、さてさて。今回の元凶に少し話をしようか。

「おいこらリヒター。」

「おぉ、とうとう俺のことも呼び捨てで呼んでくれるようになったか、トラン。」

 その言葉に、俺は爽やかな笑みを浮かべ、

「ええ、俺もそろそろ堅苦しいのを直そうと思いまして。」

「それは良いことだ。ーーでは、俺はこれで・・・。」

「待ってくださいよ、リヒター。ついでに、俺が遠慮しなくなる練習を手伝ってくださいよ。」

「ーー具体的には何を手伝うのだ?」

「人のことを煽ったヤツは、1発くらい殴られても文句はないですよね?」

 あっ、あの野郎!!ある意味テンプレのこの展開に王道の魔法を適用させて、俺の手を振り払って、全速力で逃げやがった!?

「はっはっはっはっは!!いやつい、助け舟を出してやりたくなったのだ!!」

「誰に対しての助け舟だよ!?むしろあの場で困ってたのは俺だったでしょう!!」

「はっはっはっはっは!!!というか、長い付き合いのくせになぜ俺に虎人だと教えてくれんかったから、その嫌がらせも兼ねているけれどな!!」

「それが本音だろあんた!!!!」

 あっ、くそ。横道に入って行きやがった。
 大慌てで横道を覗くと。

「逃げられた・・・。」

 見事に撒かれてしまった。あの人、こういう時の逃げ足は昔から速いんだよな。

「ーー仕方ない。そろそろ戻るか。」

 気になる試合もあるし、戻るが吉だろう。そう思って、元の道を歩き出すと、

「あら、トランじゃない。どうしたのこんなところで。」

「アリス、そっちこそどうしたんだ?」

 アリスと遭遇した。手元にある飲み物から考えるに、恐らく飲み物が切れて買いに来たのだろうけれど。

「飲みものが切れたから買いに来たの。トランも何か買いに来たの?」

 やはりそうか。んー、俺は特に何か買いに来たわけではないけれど、先ほどのやりとり全てを説明するのも面倒だ。そういうことにしてしまおう。

「まぁ、そんなところだよ。ただ、どこに売り場があるかわからなくなってしまったんだ。」

「ふふ、迷子ってことね。じゃあ私が案内してあげるわ。」

「それじゃ、そのご厚意に甘えようかな。」

「ええ、こっちよ。」

 アリスに連れられ、道を歩く。

「にしてもトランは凄いわね。」

「どうした唐突に?」

「いえ、リヒターにも、エミリアさんにも私は勝てない気がするから凄いなって。」

 その時俺は気づく。アリスのその端正な顔に影がかかったことに。ふむ、何か気の利いたことでも言えれば良いが、俺はそんなに口がうまくない。

 ーーまあ、褒められたし褒め返すことにしようかな。

「はは、ありがとう。でも俺はアリスだって、すごいと思うけどな。」

「え?」

「誰かの為にと考えて、貢献部を作ったのもそうだし。その後、部を引っ張って行ったのもそうだし。俺にはできなさそうなことばかりだ。それができるアリスは、俺から見たら十分凄いと思うよ。」

「ーーっ!」

 そう、俺ではこんなことはできない。誰かをまとめたり、そう言うのが苦手な方だからな。だから素直に、アリスは凄いと、そう思う。

「・・・はぁー。」

 なのになんで俺はため息つかれてるのかな?

「ほんと、よくそんなこと平気な顔して言えるわよね、トランは。」

「そんなことってなんだ?」

「言っても多分トランにはわからないことよ。」

 わからないかどうかは言ってくれないと、どうとも言えないと思うんだが。しかし残念ながら、アリスに言う気はないらしい。

「もうそろそろ2人の試合じゃない?」

「ん、そうだな。戻ろうか。」

 さて、まぁ俺のことは今は置いておこう。それよりも気になる試合があることだしね。



 #####



「ん、来た。」

「隣いいか?ミーナ。」

「いーよ。」

 観客席に戻ったらミーナがポツンと座っていたので、隣に座らせてもらう。アリスはその俺の隣に座った。

「にしてもこの組み合わせはやっぱり面白いな。」

「ん。グウェントとティナの試合は面白そう。」

「ティナちゃん張り切ってたわね。」

 そう。今から行われる試合は、貢献部の身内試合となる、グウェントVSティナの試合なのだ。2人ともなんやかんやで仲が良いのだが、いやむしろだからこそなのか、お互い絶対に負けたくないと意気込んでいた。

 とは言え、もちろんグウェントとティナがまともにやり合えば、グウェントが勝つに決まっている。だが、ティナの魔法はどうもミステリアスな部分が残っている。戦場がどこか、そしてどのような作戦で戦いに挑むのか、それによってはティナがグウェントに勝つこともあるだろう。

「アリス飲み物ちょーだい。」

「いいわよ、はいミーナちゃん。」

「ありがと。」

 ちなみに和やかなこの2人はとっくに2回戦目を勝ち上がっている。先ほど俺がリヒターを確保しようとしていた間に終わったらしい。話によれば、そう大して苦戦はしなかったとのこと。

「トラン飲む?」

「あぁ、うん。」

「え?あっ・・・。」

 そう言えば、クーネはどうなったんだろうか。先ほどから全く姿を見ていない。確か試合自体はまだだったはずだが、どこかで遊んでいるのかもしれないな。

「ーーふぅ、ありがとうミーナ。」

「・・・う、うん。」

「・・・ミーナちゃん、トラン、無意識でやってるわ。」

「ーー怒っていいかな?」

「いいと思うわ。」

 あと勝ち残っているのはーー、いや、それだけかな。名前を挙げれば、俺ことトラン、アリス、ミーナ、グウェント、クーネ、ティナって感じか。

「乙女を弄んだ罰。」

「いっだぁ!?」

 なんだ!?いきなり頭になんか降って来たぞ!?
 と、いきなりの出来事にパニックになりながら、俺の頭に降りかかって来たものを見ると、タライだった。
 タライ?

「な、なんでタライなんか降って来たんだ?」

「ん、多分天罰。」

「え、俺なんか悪いことしたか?」

「ムカ。」

「いっだぁぁ!?て、ちょ、まて。うぉぉぉ!!??」

 タライはその後、俺の頭の上に連続で10個くらい降ってきました。なんでだ。

「ーーん、満足。」

「頭がぁ、脳がぁ・・・・。」

「まぁ、今のはトランが悪いわね。ーー地味に私ともだし・・・。」

「いつつ・・・。え、なんか言ったか、アリス?」

「へ?い、いえ何も?」

「そうか、なんか聞こえた気がしたけど・・・。」

 痛い、マジで頭がグワングワンする。タンコブががっつりできてそうだから、治癒の緑でも塗っておこう。

「はーい、じゃあ次の試合始めまーす。」

 お、もう始まるか。とりあえず頭の痛みは我慢して、試合を見ることにする。すでに選手の2人、グウェントとティナはお互いに向かい合いながら、何かを言い合っているようだ。

「戦場はー、火山地帯!じゃあ頑張って、GO!」

 あの人ブレッブレだなキャラ。
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