異世界の学園物語

白い犬

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第1章 売却少女

第14話 虎

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 さてさて、1回戦がすべて終わり2回戦の相手が発表されたわけだけれど。俺の相手は、あの吸血鬼たるエミリアということになった。

 そして今、1試合目の後の休憩時間に、俺はエミリアと隣り合って座っている。

 クーネたちはどっか遊びに行った。リヒター殿たちを引っ捕まえて。もちろん俺が生贄として捧げたのだけれど。

「て、ことでよろしくエミリア。」

「入学試験首席のトランさんと戦えるなんて光栄です!胸を借りるつもりで行きます!」

「はは、お手柔らかに頼むよ。」

 とは言うが、実際勝てるかどうかはだいぶ怪しい。あの霧になられたら、対応しづらいし、何より一度倒しても生き返ることはわかっている。生き返ることのできる回数によっては、負けもあり得るだろう。

「トランさんは、私が吸血鬼だともう知ってますか?」

 唐突にエミリアが何かを期待するような目で俺に聞いてきた。

「あぁ、まあ知ってるよ。」

「それを聞いて‥‥どう、思いますか。」

 どう?どう、思うって何だろうか。うーん、俺の吸血鬼のイメージといえば、

「そうだな、かっこいいなと思うよ。」

「ーーへ?」

「ほら、吸血鬼って伝説になるような種族なんだろう?その血を引いているって、かっこいい感じがするだろ?」

 あ、やばいかこれ?エミリアが俯いてプルプル震えだした。失言だっただろうか。でも、かっこいいと思うんだけどな、吸血鬼。

「ーーあは、あはははは!!」

 びっっっくりした!?唐突に横で笑いださないでほしい。一体どうしたのかと、怪訝な目でエミリアを見ていると、

「あは、すいません。でも何だかおかしくって。」

「何かまずいことでも言ったか、俺?」

「いえいえ、ふふっ。でも変なことは言いました。」

 変なこととは。単純に思ったこと言っただけなんですけどね。

「ーー吸血鬼というのはですね。忌み嫌われる存在なんです。」

 エミリアは笑いを収め、俺の目を見ながら、そう語りかけてくる。

「人の血を啜り、その命を糧に命を繋ぐ生命。それが吸血鬼です。吸血鬼というのは、搾取をしないと生きていけないんです。」

 なるほど、それはそうだろう。 俺も元の世界でいくつもの吸血鬼の逸話を聞いてきたが、そのどれもが、吸血鬼という存在は危険だと、そうほのめかしていた。

「私は、吸血鬼の中では特異な体質で血を飲まなくても、普通の食事で生活ができます。でも、今までどんな人も私が吸血鬼だと分かれば、みんな怖がって、気持ち悪がっていたんです。」

「変な奴らだな。」

「変、ですか?」

「ああ、だってーー別に吸血鬼と会話していた訳じゃなくて、エミリアと会話してるんだ。そこに種族云々の話があったとして、別に関係性まで変わらなくていいと思うんだけどな。それが害のない話ならなおさらだ。」

「ーー。」

 心底そう思う。友好関係というのはそういうものではないのだろうか。もちろん、裏切りだって起こるし、こんなものが理想だということはわかってはいるが、その理想に近づくことはできるだろう。

「ほんと、変な人です。」

 その言葉と共に花のような笑顔を浮かべたエミリアに俺はらしくもなく胸が高鳴ってしまった。

 いかんいかん、期待というのは毒みたいなもんだ。変に期待して、勘違いだった時ほどきついものはない。

 ちなみに実体験である。

「あれ、トランさんなんか赤くなってませんか?」

「ナッテナイヨ。」

「もしかして、照れたんですか?」

「テレテナイヨ。」

 ニヤニヤとこちらを見てくるエミリア。ええい、照れてなんかいないったらいないのだ。

「さて、じゃあそろそろ休憩時間終わりですし。1回戦私たちですし。行きましょうトランさん。」

「あぁ、もうそんな時間か。そうだな、行こうか。」

「手加減なしでお願いしますよ?トランさん、女性だからって理由で手抜きそうですし。」

「戦いの場では相手に失礼だからそんなことしないよ。うん、だから手加減なしで行くとも。」

 その言葉に笑みを浮かべるエミリア。そうだな、彼女とやるには本当に本気を出すべきかもしれない。人の姿ではなく、人外としての姿で。

 校長先生の声が響く。休憩時間はそろそろ終わりだ。



 #####



 ほんとに変な人。

 私がトランさんに抱いた感想は最初からそれだった。強いのに、驕らないし。性格も温和。なのに、常識に疎いところがある。

 私が今まで見てきた人間の中では、ほんとに変な人。もしかしたら、人間じゃないのかもしれない。でも、そんなのはもう関係なかった。

 私は嬉しかった。怖い、気持ち悪いって思われていなかったことが。

 かっこいいなんて言われるとは思ってもなかったけど。思わず笑っちゃった。

 私の胸に今あるこの感情は、初めての感情。でもきっと、人はコレを。

 恋と呼ぶのだろう。



 #####



「はーい、じゃあ選手もいるので、1回戦始めまーす。みんなちゃんと休憩できたー?」

 相変わらず気が抜ける声だ。まあこれが、この人のいいところでもあるのかもしれないな。

「1回戦から、首席のトランくんと、吸血鬼のエミリアちゃんの試合とは、後に続く子が可哀想だねー。」

 別にコレはエンターテイメントでもないんだし、可哀想でもなんでもないのでは・・・。

「トランくんほんとに快進撃だねー。先生応援してるよー。」

「なんで先生が一個人応援してるんですか・・・。」

 駄目だあの人。早くなんとかしないと。

「戦場に選ばれるのはー、ジャン!おぉ、コレはまた。なかなかですなぁ。」

 どこだよ。なんでもったいぶってるんだこの人。未だにこの人の雰囲気についていけない。

「場所はねー、天上となっておりますー!」

 ーー天井?

「んじゃー、いってらっさーい!」

 まて、あの馬鹿校長さては酒飲んだな!?酔ってるじゃないか!?

 と、信じられない光景に絶句しながら、俺は幻想の世界へとまた飛ばされた。

 あー、てんじょうって、天上か。

 目の前の光景に素直にそんな感想を抱く。俺の今いる場所は、一面まっさらな雲の上だ。雲の上を踏みしめることができるというのもまた変な話だが、足場は見た目以上にしっかりしている。

 そして、一面まっさらだからこそ、すぐにエミリアがいるのもわかる。距離は数10メートル程度か。彼女が霧になれば一瞬で、俺も体に色を付ければ、1秒程度で詰められる距離。

 互いに目が合う。そして、構える。

 よし、試合開始だ。

 まず俺が仕掛ける。いつものように体に能力推進の青、負荷軽減のエメラルドを塗る。だが、今回はそれだけでは終わらない。

 彼女の霧になる能力はとても厄介だ。いつものままでは対応しきれない。故に今回は、新しく重複の茶色を使用する。この色は、すでに塗られている色に重ねることで効果を高めるというものだ。

 しかし、今まで使わなかったのにはもちろん理由がある。人間のままでは、重複によって加速された自分の体に脳の処理が追いつかないのだ。

 今までは特に人の姿のままでも一応なんとかなっていたが、今回はそうはいかない。

 彼女を倒すには、あの速度では足りないのだ。

 だから、今こそ俺の本来の姿になろう。

「ーー!?」

 エミリアが息を呑む声が聞こえる。はは、そりゃそうだ。誰だって、目の前の人間が、虎になったら驚くだろうよ。

「くっ!?」

 エミリアが霧になって避ける。もちろん俺はそれを見過ごしたりなどしない。追従し、攻撃を重ねる。

 だがしかし俺の攻撃は空を切るばかりで全くエミリアには当たっていない。正確には、霧に当たっているのだが、効果がないのは同じことである。

 距離を少し取り、再び体を形成するエミリア。

「ーートランさん、虎人だったんですか。」

『あぁ。』

「びっくりしました。」

『隠してはないが、言ってもないからな』

 今頃観客席でも驚いていることだろうな。特にリヒター殿。コレだけ長い付き合いなのに、俺が虎人と確か教えたことがなかったからな。

「どーいうことだーー!!トラーーーン!!!」

 おい待て、そこ魔力障壁に包まれてんじゃないのか。なんでリヒター殿の声貫通してきてるんだよ。

「ーーでも、トランさん無駄ですよ。いくら速くなっても私は霧になれるし、たとえ殺しても・・・。」

『生き返れる、か?』

「そうです、だからーー。」

『なるほど、では。なぜ貴殿は入学試験で最後に立っていなかったのだ?』

「ーーっ!?」

 そう、エミリアの発言には矛盾がある。死んでも生き返れる?霧になれば攻撃を喰らわない?ならなんで、あの時は死んでしまったのか。

 それは恐らく。

『俺の攻撃を避ける時、随分と距離を取るな君は。それは、連続して殺されないための処置かな?』

 生き返るのには、クールタイムが必要だと言うこと。恐らくコレだろう。だから、ディーナのあの大爆発で数回不意を突かれて死んだエミリアは生き返りができなかった。

「ーー、トランさんの一番厄介なところって多分そこですよね。」

『む?』

「見抜くの早すぎです。ていうかばれたの初めてです。」

『はは、それは光栄だ。』

 さて、ここからが肝心だ。秘密は見抜いたが、結局のところ彼女の霧について行く速度が必要なのだ。そのためには虎になる必要があった。

「もうこうなったら普通に勝ってやります。バレたからって負けたわけじゃないですし。」

『そうだな。むしろここからが本番だとも。』

 会話を終えたと同時にエミリアが霧と化して、急接近して実体化し、ロングソードを振るってくる。

 ディーナやグウェントのような鋭い一撃ではないが、それでも当たれば致命傷になる程度の速度で振るわれたロングソードを俺は、前右脚で弾く。

 そのまま、回転しながらの左後ろ脚で、エミリアの腰を打ち抜こうとするが、もちろんエミリアはもう一度霧化。

 もちろん俺はそれに対し対策を練っていた。霧というのは水蒸気ということだ。なら、そこに異物が混ざれば、どうなるのかな?

 そう考えた俺は、朱色をばらまいた。するとすぐにその効果は現れる。

「ーーやってくれましたね、トランさん。」

『はは、成功して何よりだ。』

 俺の使う魔法は絵の具のようなものだ。水に混ざれば、当然水全てに影響が及ぶ。

 更に、エミリアはこの状態で霧になれない。なぜなら、今霧になればその水蒸気は重量に負け、下に落ち、二度と纏まれないだろうからな。

「あー、もう。トランさん相手だと調子が狂いまくりです。」

『戦いってのは相手に主導権を渡さないことが肝心なのさ。』

 まぁよく渡してるけど俺。エミリアが観念したように項垂れ、そして若干の涙目で俺を見て

「もうこうなったら、お互い最強の一撃で行きましょう。漫画とかでよくあるあれです。」

 なるほど、まぁ一応俺は首席だったわけだし、何より面白そうだ。受けてたとう。

『はは、わかった、そうしよう。』

 エミリアのロングソードに血が集まって行く。どこからきてるのかと思えば、エミリア自身の血だった。

 俺も今できる最大の一撃の準備をする。とは言っても、攻撃魔法など持ち合わせていないので、ただ吠えるだけだ。その代わり、全力で咆哮にバフつけるけど。

「行きますっ!!血の飛剣!!」

『受けて立つ!!グルァァァァァ!!』

 エミリアが全力で振り下ろしたロングソードから、赤黒い刃の波動が飛んでくる。それに対し俺は今使える全ての色によって一時的に高火力にされた咆哮を行う。

 ぶつかり合った2つのエネルギーは一瞬の拮抗を見せたが。

「く、うぅ!!」

 俺の咆哮は、彼女の飛剣を打ち破り、そのまま彼女を吹き飛ばした。

 そのまま彼女は起き上がらない。かと思えば、その体は薄れていき、この世界から消えた。今の一撃でどうやら2度以上彼女を殺したようだ。

 エミリアは現実に戻った。つまり、この戦いは俺の勝ちだ。

「トランくんの勝ちー!じゃあトランくん帰ってきてねー。」

 はいはい自殺自殺。もうなんとなく投身自殺台を作るのにも慣れてきて、数秒で作れるようになってきた。

 なんとも締まらない終わりなんだよなぁ、と思いながら俺は虎の姿のまま、その台を駆け上がり。

 そしてまたもや自殺を経験しました。
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