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第1章 売却少女
第1話 入学
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「へぇ、活気付いてるなぁ。」
昼頃、いつものように市場が賑わい、客寄せの声が飛び交う中、その道の真ん中を歩く1人の青年がいた。
「うーむ、やっぱこっちきて正解だったかな。」
その青年は、その黒い瞳をしきりに動かし、周りをキョロキョロと見回しながら、歩いていた。そんな歩き方をしていれば当然。
「ってぇな、おい。」
人とぶつかるものである。
「おや、これはすまない。珍しいものばかりでつい周りが見えていなかった。」
黒い髪の毛を持つ頭を下げ、殊勝に謝る青年。しかし、ぶつかった相手が悪かった。
「あぁ?済まないで許されるかよ、おい!」
見るからにチャラそうな目の前の男は、青年の胸倉を掴み、突っかかる。その様子にため息を一つ吐き、青年は問う。
「ではどうすれば許してもらえる?」
「んなもん決まってんだろ、金だよ金!ちょっとくらい持ってんだろ!?」
青年たちの周りがざわついて来る。小さな声で、可哀想に、とかまたあいつかよ、なんて声が聞こえる。どうやら、チャラそうな男は、まあまあ有名らしい。
「おい、そこまでだ!」
そこに、人々をかきわけ、寄ってくる白い鎧の女性たち。周りの声から、どうやらこの国の騎士たちらしい。
「ちっ、めんどくせぇ。」
チャラそうな男は、面倒なことになりそうだ、と早々に逃げようとする。女性たちは、人の壁に邪魔されここに来るまでにもう少しかかるだろう。チャラ男はその前に逃げるつもりだったのだが。
「まぁ、待ってくれ。」
その手を、黒い青年に掴まれる。
「あぁ?んだよ、見逃してやるからどっか行けよ。」
不快そうにその手を払おうとするチャラ男。しかし、払えない。
「あ?くそ、なんだこれ。」
力強く握られているわけでもないのに、チャラ男は黒い青年の手を払えなかった。
「おい、離せお前!」
「まぁ、そう邪険にするな。」
チャラ男の怒号に、周囲の人たちが騎士らしき女性たちから目を離し、2人にもう一度視線を移す。
「ーーさっきのお返しをしたいんだよ。」
にこりと笑った青年が、そう言った瞬間。チャラ男は、上に投げ飛ばされた。
「うわぁぁぁぁぁ!?」
「おぉ、飛んだなぁ。」
周囲の人たちが、唖然としてその様子を見つめる。まぁそれもそうだろう。いきなり男が15メートルほど飛び上がったのだから。
「ま、怪我はしないよ。」
そのまま落ちて来れば、間違いなく大怪我をするチャラ男だったが、その着地点は、クッションのような弾力性で、チャラ男を受け止める。
「ほらな?」
その曲芸のような真似に、周囲が呆気にとられる。と、そこにいち早く正気に戻った、白い鎧の女性たちが黒い青年の元に行こうとするが。
「さて、逃げようか。」
黒い青年は逃走。スルスルと、人と人の間を抜け、そのまま消えていった。
その後、そこに到着した騎士たちは息を切らしながら青年の消えていった方を見つめて、
「なんだったんだ・・・?」
と、ぼやくのだった。
#####
さて、早速やってしまった。
もっと目立たないように立ち回るつもりだったのだが、そうもいかんらしい。自業自得?知らんな。
異世界転生後の初めての街だ。いささかテンションが上がってしまったのも仕方ないだろう。
それにしても、俺の故郷の、穏やかなのもいいが、この活気付いた街というのもいい。こう、みんなが笑顔でーー。
「おい、早く持っていけ!時間に遅れるだろう!」
「す、すみません。」
あったら、よかったのだが。さすがに、ムチで叩かれる人間が笑顔ではいられないよな。しかし、ここにも奴隷か。
「動きが遅い奴め!今日のエサを抜きにしてやろうか!」
「そ、それだけは、すいません、すいません!」
とはいってもこれはひどい。もう少し普通はマシな扱いだが。まぁ、どちらにせよ口は出せない。これはこの世界の文化であり、俺の世界の常識は使えないからな。
ーーっと、あまり悠長にもしてはいられないな。そろそろ、式が始まってしまう。少し急がないと。
#####
ふう、なんとか間に合った。
と、俺は周りを見渡しながら息をつく。広い、体育館のような場所で、様々な種族がこれからの日々を楽しみに話し合っていた。
猫耳を生やした少女に、鱗を生やした少年、羽を生やした少女に、ツノの生えた少年。誰も彼もが笑顔だった。
・・・まぁ、だからこそ余計にそういう風に思っちゃいけないとはわかってるんだけど、奴隷をかわいそうだなー、とか思っちゃうんだけど。
すると、先ほどまで賑やかだった室内が、静かになる。ひそひそ声で、「来たわ・・・!」とか、「噂は本当だったのか・・・」とか聞こえて来る。なるほど、彼が来たな。
皆が入り口の方を見つめる。そこには、気の良さそうな顔をした、少年と、気の強そうな少女、そしてつまらなさそうな顔をした少女が立っていた。
「はっはっは、随分と注目を浴びているなぁ。」
「まぁ、それはそうでしょうね。私達なら当然です。」
「めんどくさそう・・・」
全く反応の違う3人。本当にあの3人血の繋がった兄妹なのか?と、苦笑していた俺と、気の良さそうな顔をした少年の目が合う。すると、少年は大きくニカッ、と笑いずんずんと近づいてくる。それを見た残り2人も、こちらにやってくる。
目立ちたくなかったのだけれど、やはり無理らしいな。
「おい!」
声をかけられる俺、こうなってしまっては、返事をせざるを得ない。
「ーー久しぶりですね、リヒター様。元気そうで何よりです。」
「ーーあぁ、久しぶりだな、トラン。貴殿も相変わらずだ。」
固く、握手をする。その様子に周り(後ろの2人を含めた)の驚きが伝わってくる。まぁ、それもそうか。なんでただの庶民が、この国の王子と固く握手してんだって、話だからな。まぁ、とりあえずは周囲は置いておこう。せっかくの親友との再会だ、今はリヒター様との会話を楽しもう。
「しかし、まさかただの庶民の俺を学校に招待とは、家に伝達が来た時、親が揃って泡吹いてましたよ?」
「はっはっは、それは何よりだ!サプライズは成功したようだな!」
「俺の親をあまり困らせないでくださいよ。」
「うむ、しかしな。やはり貴殿のような優れた人材はスカウトしておきたいものだろう?」
「俺は自分がそんなに優れているとは思えないんですが。」
「謙遜はやめろ!貴殿が優れていなければ、誰が優れているのだ!」
褒められるのは嬉しいが、あまり手放しで褒められても困るのだが。
「ーーまぁ、それはともかく、リヒター様。此度の招待、感謝いたします。これで、親孝行もできそうです。」
「うむ、それは良かった。そう言ってもらえれば、俺が貴殿を誘った甲斐もあったというものだ。」
「さて、ではリヒター様、そろそろ壇上へ向かうべきかと。スピーチ、確かリヒター様がするんですよね?」
「む、もうそんな時間か。ではまた後でな、トラン!」
そう言って去っていくリヒター様。うーむ、相変わらずだなぁ。ああいう、真っ直ぐな人って個人的に、すごい好感持てるからリヒター様とは今後とも仲良くしたいものだ。
さて、後方の同じ王族のお二人がめっちゃ俺見てるんだけれど。なんか、めんどくさそうな予感がするので、今はそちらを見ないようにしよう。
王子であるリヒター様が俺と仲良くしていたことで、ざわざわとしている室内だったが、しばらくすると、声が小さくなっていく。
なんてったって、そろそろ入学式だ。みんな結構ドキドキしてるんだろうなぁ。俺は何回か体験してるからそんなにだけど、初めての入学式ってドキドキするよね。
なんて思っていると、壇上におっとりとした女性が現れる。なんだろう、もしかして校長かな?
「みなさんー、ご入学おめでとうございまーす。私が、校長のセレナです。わー、ぱちぱちー。」
ーーまぁ、予想はあってた、けれど思ったよりもほんわかしてる人だった。とりあえず、1人で手をパチパチやってるのは虚しいからやめてください。入学生たちが引いてます。
「皆さん、この学校に来たからには、わかってると思うんですけどー。我が校は、実力派の学校でーす。だから、皆さんも、これからいろんなイベントがありますけどー、是非とも良い成績を残せるように頑張ってくださいねー。」
その言葉に周りから息を飲む音が聞こえる。そうなのだ。この学校は実力主義。座学とかもちろんやるけど、1番大事なのは、戦闘力。なぜならば。
「ということでー、皆さん。軍事学校、トルーパーに、ようこそー!」
と、いうことだからである。
校長が頭を下げ、壇上から降りていく。続いて、リヒター様が壇上に上がる。さて、何を話すんだろう。
「ーーさて、初めましての者がほとんどであろうな。俺はこの国の第3王子、リヒター・ファイ・アイルベルクだ。これから、貴殿たちとともに学ぶ学友となる。」
周囲から、「かっこいい・・・」とか、声が漏れて来てる。まぁわかる。リヒター様は、赤茶の髪の美形だ。しかも鍛えてるから体つきもいい。あれでモテないわけがない。
「学友とは言ったが、無論この学校に通う以上、俺たちの関係性はそれだけではなくなるだろう。ともに研鑽し合い、ともに育つ、ライバルともなっていくことだろう。」
みんな、リヒター様の言葉に熱中してる。まぁ、一種のアイドルみたいなもんだろうからね。
「ーーまぁ、かくいう俺にも、すでにライバルがいてな。」
ちら、ちらとその言葉にみんなが俺を見る。リヒター様、この場面でそれ言ったら俺のことだと思われるんですが。
「そいつがまた、自覚のないやつでな。自分の凄さに気づいていないのだ。それゆえ、余計に俺もムキになって競い合おうとするのだがな。ーーもちろん、皆とも俺は、これからはライバルだ。是非とも、仲良く競い合っていこうではないか!」
その言葉に拍手が巻き起こる。うーむ、まだ話が上手いわけではないけど、さすがリヒター様、カリスマ性がある。
そしてリヒター様が礼をして、壇上を降りていく。そして、入学式はそのまま、後は俺の世界と同じように校歌歌ったりとか、そんな感じで進行して、特に何事もなく終わったのだった。
#####
「トラン!クラスを見にいくぞ!」
リヒター様が俺を呼ぶ。どうやら、外に張り出されるクラス分けを早く見に行きたいらしい。そわそわしてる。
「貴殿と同じクラスにはならんと良いのだが。」
「おや?どうしてですか?」
「この学校には、クラス対抗のイベントもあるのだ。そのイベントで、貴様とは競い合いたいのでな。」
リヒター様らしい理由だ。それにしても。
「リヒター様、妹様たちはいいんですか?」
「む?いいとはなんだ?」
「いえ、ほら。めっちゃ囲まれてますよ?」
入学式の後、王族と仲良くなりたいということで、王女様たちには、人がばっと群がった。助けてあげなくて良いのだろうか。
「はっはっは!あの程度、あの2人ならどうにでもできる。それより、早く行くぞトラン!」
ま、実の兄であるリヒター様がそういうなら、そうなのだろう。俺も、特に気にしないこととして、リヒター様の後についていった。
#####
「俺のクラスは・・・Cクラスですね。」
「ほう、ならば貴殿とは競えそうだ。俺はAクラスだ。」
どうやらリヒター様の望み通りクラスは別れたらしい。と、リヒター様は何かに気づいたように俺のクラスの紙を指差す。
「どうやら、俺の妹は貴殿と同じクラスのようだ。」
「え?どれですか?」
「貴殿の名前の4つ下だ。」
ほんとうだ。ミーナ・ファイ・アイルベルクとある。でも、顔と名前が一致しないからどっちかはわからないな。
「背の小さい方だ。つまらなさそうな顔をしていただろう?」
リヒター様が俺の困った顔を見て、教えてくれる。あー、あっちですか。確かにそんな顔してた。
「しかし、ミーナも貴殿と同じクラスなら、つまらんことにはならんだろうな。なんせ貴殿の周りでは、いつも何かが起こる。」
そんなことないと思うんですが。まぁいっか。
「そういえば、リヒター様。俺は今後、この学校の寮に泊まるんですが、やはりリヒター様は王宮に戻るんですか?」
「なぜそんな面倒なことをせねばならんのだ。在学中は、俺も寮生だ。」
「あ、そうなんですか。なら、明日は確か実力テストですし、今日はもう戻りますか?」
「そうだな、特に今日はもうやることもないだろう。貴殿の部屋番号は?」
「302です。」
学校に入る前から鍵はもらっているので、一応すでに部屋番号は知っている。
「ほう、俺は303だ。お隣というわけだ。」
「リヒター様、さては昔のように、また飯をたかりに来る気ですね?」
「はっはっは!バレたか!」
そんな風に話しながら、俺と、リヒター様は寮に向かった。そして、寮に入り、リヒター様とも部屋の前で別れ、そのまま俺は眠りについた。
昼頃、いつものように市場が賑わい、客寄せの声が飛び交う中、その道の真ん中を歩く1人の青年がいた。
「うーむ、やっぱこっちきて正解だったかな。」
その青年は、その黒い瞳をしきりに動かし、周りをキョロキョロと見回しながら、歩いていた。そんな歩き方をしていれば当然。
「ってぇな、おい。」
人とぶつかるものである。
「おや、これはすまない。珍しいものばかりでつい周りが見えていなかった。」
黒い髪の毛を持つ頭を下げ、殊勝に謝る青年。しかし、ぶつかった相手が悪かった。
「あぁ?済まないで許されるかよ、おい!」
見るからにチャラそうな目の前の男は、青年の胸倉を掴み、突っかかる。その様子にため息を一つ吐き、青年は問う。
「ではどうすれば許してもらえる?」
「んなもん決まってんだろ、金だよ金!ちょっとくらい持ってんだろ!?」
青年たちの周りがざわついて来る。小さな声で、可哀想に、とかまたあいつかよ、なんて声が聞こえる。どうやら、チャラそうな男は、まあまあ有名らしい。
「おい、そこまでだ!」
そこに、人々をかきわけ、寄ってくる白い鎧の女性たち。周りの声から、どうやらこの国の騎士たちらしい。
「ちっ、めんどくせぇ。」
チャラそうな男は、面倒なことになりそうだ、と早々に逃げようとする。女性たちは、人の壁に邪魔されここに来るまでにもう少しかかるだろう。チャラ男はその前に逃げるつもりだったのだが。
「まぁ、待ってくれ。」
その手を、黒い青年に掴まれる。
「あぁ?んだよ、見逃してやるからどっか行けよ。」
不快そうにその手を払おうとするチャラ男。しかし、払えない。
「あ?くそ、なんだこれ。」
力強く握られているわけでもないのに、チャラ男は黒い青年の手を払えなかった。
「おい、離せお前!」
「まぁ、そう邪険にするな。」
チャラ男の怒号に、周囲の人たちが騎士らしき女性たちから目を離し、2人にもう一度視線を移す。
「ーーさっきのお返しをしたいんだよ。」
にこりと笑った青年が、そう言った瞬間。チャラ男は、上に投げ飛ばされた。
「うわぁぁぁぁぁ!?」
「おぉ、飛んだなぁ。」
周囲の人たちが、唖然としてその様子を見つめる。まぁそれもそうだろう。いきなり男が15メートルほど飛び上がったのだから。
「ま、怪我はしないよ。」
そのまま落ちて来れば、間違いなく大怪我をするチャラ男だったが、その着地点は、クッションのような弾力性で、チャラ男を受け止める。
「ほらな?」
その曲芸のような真似に、周囲が呆気にとられる。と、そこにいち早く正気に戻った、白い鎧の女性たちが黒い青年の元に行こうとするが。
「さて、逃げようか。」
黒い青年は逃走。スルスルと、人と人の間を抜け、そのまま消えていった。
その後、そこに到着した騎士たちは息を切らしながら青年の消えていった方を見つめて、
「なんだったんだ・・・?」
と、ぼやくのだった。
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さて、早速やってしまった。
もっと目立たないように立ち回るつもりだったのだが、そうもいかんらしい。自業自得?知らんな。
異世界転生後の初めての街だ。いささかテンションが上がってしまったのも仕方ないだろう。
それにしても、俺の故郷の、穏やかなのもいいが、この活気付いた街というのもいい。こう、みんなが笑顔でーー。
「おい、早く持っていけ!時間に遅れるだろう!」
「す、すみません。」
あったら、よかったのだが。さすがに、ムチで叩かれる人間が笑顔ではいられないよな。しかし、ここにも奴隷か。
「動きが遅い奴め!今日のエサを抜きにしてやろうか!」
「そ、それだけは、すいません、すいません!」
とはいってもこれはひどい。もう少し普通はマシな扱いだが。まぁ、どちらにせよ口は出せない。これはこの世界の文化であり、俺の世界の常識は使えないからな。
ーーっと、あまり悠長にもしてはいられないな。そろそろ、式が始まってしまう。少し急がないと。
#####
ふう、なんとか間に合った。
と、俺は周りを見渡しながら息をつく。広い、体育館のような場所で、様々な種族がこれからの日々を楽しみに話し合っていた。
猫耳を生やした少女に、鱗を生やした少年、羽を生やした少女に、ツノの生えた少年。誰も彼もが笑顔だった。
・・・まぁ、だからこそ余計にそういう風に思っちゃいけないとはわかってるんだけど、奴隷をかわいそうだなー、とか思っちゃうんだけど。
すると、先ほどまで賑やかだった室内が、静かになる。ひそひそ声で、「来たわ・・・!」とか、「噂は本当だったのか・・・」とか聞こえて来る。なるほど、彼が来たな。
皆が入り口の方を見つめる。そこには、気の良さそうな顔をした、少年と、気の強そうな少女、そしてつまらなさそうな顔をした少女が立っていた。
「はっはっは、随分と注目を浴びているなぁ。」
「まぁ、それはそうでしょうね。私達なら当然です。」
「めんどくさそう・・・」
全く反応の違う3人。本当にあの3人血の繋がった兄妹なのか?と、苦笑していた俺と、気の良さそうな顔をした少年の目が合う。すると、少年は大きくニカッ、と笑いずんずんと近づいてくる。それを見た残り2人も、こちらにやってくる。
目立ちたくなかったのだけれど、やはり無理らしいな。
「おい!」
声をかけられる俺、こうなってしまっては、返事をせざるを得ない。
「ーー久しぶりですね、リヒター様。元気そうで何よりです。」
「ーーあぁ、久しぶりだな、トラン。貴殿も相変わらずだ。」
固く、握手をする。その様子に周り(後ろの2人を含めた)の驚きが伝わってくる。まぁ、それもそうか。なんでただの庶民が、この国の王子と固く握手してんだって、話だからな。まぁ、とりあえずは周囲は置いておこう。せっかくの親友との再会だ、今はリヒター様との会話を楽しもう。
「しかし、まさかただの庶民の俺を学校に招待とは、家に伝達が来た時、親が揃って泡吹いてましたよ?」
「はっはっは、それは何よりだ!サプライズは成功したようだな!」
「俺の親をあまり困らせないでくださいよ。」
「うむ、しかしな。やはり貴殿のような優れた人材はスカウトしておきたいものだろう?」
「俺は自分がそんなに優れているとは思えないんですが。」
「謙遜はやめろ!貴殿が優れていなければ、誰が優れているのだ!」
褒められるのは嬉しいが、あまり手放しで褒められても困るのだが。
「ーーまぁ、それはともかく、リヒター様。此度の招待、感謝いたします。これで、親孝行もできそうです。」
「うむ、それは良かった。そう言ってもらえれば、俺が貴殿を誘った甲斐もあったというものだ。」
「さて、ではリヒター様、そろそろ壇上へ向かうべきかと。スピーチ、確かリヒター様がするんですよね?」
「む、もうそんな時間か。ではまた後でな、トラン!」
そう言って去っていくリヒター様。うーむ、相変わらずだなぁ。ああいう、真っ直ぐな人って個人的に、すごい好感持てるからリヒター様とは今後とも仲良くしたいものだ。
さて、後方の同じ王族のお二人がめっちゃ俺見てるんだけれど。なんか、めんどくさそうな予感がするので、今はそちらを見ないようにしよう。
王子であるリヒター様が俺と仲良くしていたことで、ざわざわとしている室内だったが、しばらくすると、声が小さくなっていく。
なんてったって、そろそろ入学式だ。みんな結構ドキドキしてるんだろうなぁ。俺は何回か体験してるからそんなにだけど、初めての入学式ってドキドキするよね。
なんて思っていると、壇上におっとりとした女性が現れる。なんだろう、もしかして校長かな?
「みなさんー、ご入学おめでとうございまーす。私が、校長のセレナです。わー、ぱちぱちー。」
ーーまぁ、予想はあってた、けれど思ったよりもほんわかしてる人だった。とりあえず、1人で手をパチパチやってるのは虚しいからやめてください。入学生たちが引いてます。
「皆さん、この学校に来たからには、わかってると思うんですけどー。我が校は、実力派の学校でーす。だから、皆さんも、これからいろんなイベントがありますけどー、是非とも良い成績を残せるように頑張ってくださいねー。」
その言葉に周りから息を飲む音が聞こえる。そうなのだ。この学校は実力主義。座学とかもちろんやるけど、1番大事なのは、戦闘力。なぜならば。
「ということでー、皆さん。軍事学校、トルーパーに、ようこそー!」
と、いうことだからである。
校長が頭を下げ、壇上から降りていく。続いて、リヒター様が壇上に上がる。さて、何を話すんだろう。
「ーーさて、初めましての者がほとんどであろうな。俺はこの国の第3王子、リヒター・ファイ・アイルベルクだ。これから、貴殿たちとともに学ぶ学友となる。」
周囲から、「かっこいい・・・」とか、声が漏れて来てる。まぁわかる。リヒター様は、赤茶の髪の美形だ。しかも鍛えてるから体つきもいい。あれでモテないわけがない。
「学友とは言ったが、無論この学校に通う以上、俺たちの関係性はそれだけではなくなるだろう。ともに研鑽し合い、ともに育つ、ライバルともなっていくことだろう。」
みんな、リヒター様の言葉に熱中してる。まぁ、一種のアイドルみたいなもんだろうからね。
「ーーまぁ、かくいう俺にも、すでにライバルがいてな。」
ちら、ちらとその言葉にみんなが俺を見る。リヒター様、この場面でそれ言ったら俺のことだと思われるんですが。
「そいつがまた、自覚のないやつでな。自分の凄さに気づいていないのだ。それゆえ、余計に俺もムキになって競い合おうとするのだがな。ーーもちろん、皆とも俺は、これからはライバルだ。是非とも、仲良く競い合っていこうではないか!」
その言葉に拍手が巻き起こる。うーむ、まだ話が上手いわけではないけど、さすがリヒター様、カリスマ性がある。
そしてリヒター様が礼をして、壇上を降りていく。そして、入学式はそのまま、後は俺の世界と同じように校歌歌ったりとか、そんな感じで進行して、特に何事もなく終わったのだった。
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「トラン!クラスを見にいくぞ!」
リヒター様が俺を呼ぶ。どうやら、外に張り出されるクラス分けを早く見に行きたいらしい。そわそわしてる。
「貴殿と同じクラスにはならんと良いのだが。」
「おや?どうしてですか?」
「この学校には、クラス対抗のイベントもあるのだ。そのイベントで、貴様とは競い合いたいのでな。」
リヒター様らしい理由だ。それにしても。
「リヒター様、妹様たちはいいんですか?」
「む?いいとはなんだ?」
「いえ、ほら。めっちゃ囲まれてますよ?」
入学式の後、王族と仲良くなりたいということで、王女様たちには、人がばっと群がった。助けてあげなくて良いのだろうか。
「はっはっは!あの程度、あの2人ならどうにでもできる。それより、早く行くぞトラン!」
ま、実の兄であるリヒター様がそういうなら、そうなのだろう。俺も、特に気にしないこととして、リヒター様の後についていった。
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「俺のクラスは・・・Cクラスですね。」
「ほう、ならば貴殿とは競えそうだ。俺はAクラスだ。」
どうやらリヒター様の望み通りクラスは別れたらしい。と、リヒター様は何かに気づいたように俺のクラスの紙を指差す。
「どうやら、俺の妹は貴殿と同じクラスのようだ。」
「え?どれですか?」
「貴殿の名前の4つ下だ。」
ほんとうだ。ミーナ・ファイ・アイルベルクとある。でも、顔と名前が一致しないからどっちかはわからないな。
「背の小さい方だ。つまらなさそうな顔をしていただろう?」
リヒター様が俺の困った顔を見て、教えてくれる。あー、あっちですか。確かにそんな顔してた。
「しかし、ミーナも貴殿と同じクラスなら、つまらんことにはならんだろうな。なんせ貴殿の周りでは、いつも何かが起こる。」
そんなことないと思うんですが。まぁいっか。
「そういえば、リヒター様。俺は今後、この学校の寮に泊まるんですが、やはりリヒター様は王宮に戻るんですか?」
「なぜそんな面倒なことをせねばならんのだ。在学中は、俺も寮生だ。」
「あ、そうなんですか。なら、明日は確か実力テストですし、今日はもう戻りますか?」
「そうだな、特に今日はもうやることもないだろう。貴殿の部屋番号は?」
「302です。」
学校に入る前から鍵はもらっているので、一応すでに部屋番号は知っている。
「ほう、俺は303だ。お隣というわけだ。」
「リヒター様、さては昔のように、また飯をたかりに来る気ですね?」
「はっはっは!バレたか!」
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