2 / 17
第1章 売却少女
第2話 実力テスト ー朝ー
しおりを挟む
ー次の日。
もそりと、昨日与えられた部屋のベッドから起き上がる。寮の部屋は、人1人が過ごすには非常に十分なスペースを確保しており、さらに、キッチン、風呂なども完備。文句など全くない部屋だった。
さて今日は、軍事学校トルーパーの入学直後の実力テストである。もともと俺のいた世界でも、入学直後は、何らかのテストをやってた気がする。
とはいえ、トルーパーは軍事学校。もちろん座学もあるが、入学直後の試験といえば、戦闘能力の測定である。今回の実力テストは、単純にまとめてしまえば、バトルロワイアルとなる。
今回の入学者、約300人ほどだろうか。その数が、この学校の中にある闘技場でやりあう。とはいっても、約300人が一挙に入れる場所など流石にリアルに作るのは不可能なので、話を聞く限りでは、魔法でそういう空間を作っているらしい。なんでも、結構広いところらしく、俺としても、戦うことは嫌いではないので、少し楽しみにはしている。
しかし、ここは軍事学校。各地から腕に自信のあるやつらが集まってきているはず。そんな簡単には勝ち抜けないとは思うので、気は引き締めておこう。
「トラン!起きているか?」
俺の部屋のドアから響くノックの音。どうやら、来客らしい。ドアに近づき、開けるとやはりというか何というか。予想通りの人がいた。
「リヒター様、まさか本気でご飯食べにきました?」
「当然だろう!部屋の食材は持ってきた、頼んだぞシェフ!」
昔もよくこうして、リヒター様に料理を振るっていた気がする。ガキの頃から料理をする奴ってことで、不思議な目を向けられたものだ。
「貴殿の料理はこの俺も見たことのないものばかりだったからな。しかもどれもこれもうまいときた。ハマるのも仕方ないということだ!」
日本風の料理ですので。そりゃこの世界では見ないかもですね。まぁそれはともかくとして。
「まだ俺起きたばかりなので、もう少し待ってください。」
「おう、待つとも。」
ということで着替える。俺はファッションセンスとかあまりないので、地味目の色の服を着る。
「しかし貴殿も、それなりに良い見た目をしているのに昔から地味な服を着るなぁ。」
「リヒター様に見た目の話されても嫌味にしか聞こえませんよ。」
本当に、めっちゃイケメンに見た目いいとか言われても、全くもってお世辞としか思えない。
「ふむ、本気なのだがな。それはそうとトラン。」
「はい?」
着替えたし、料理の準備をしながら返事を返す。なんだろう。
「俺たちはすでに学友である。そろそろ様付けはやめろ。」
「え、いやしかし。王族に向かって様をつけないというのはちょっとですね。」
「はっはっは、ここでは俺は王子ではなく、リヒターという一生徒であることを優先するつもりなのだ。それなのに近くの貴殿がいつまでも様付けで呼んでいては、俺の心構えも乱れてしまうだろう?」
あ、ずるい。そういう言い方されると、ノーと言いにくい。
「・・・まぁ、そうですね。では、リヒター殿と。」
「そうだ、それでいい。」
まーた、色んな人に目つけられそうだなぁ。今から不安が渦巻いてくる。
さて、そんなことをやっているうちに。
「リヒター殿、料理を出すの手伝ってください。後、簡素なものですけど文句は無しで。」
「おぉ、これで簡素か。見事なものだ。」
米と、スクランブルエッグ、味噌汁、ウィンナー、サラダ風味のもので固めたごくごく普通の飯なんですけどね。まぁ少し違うのは、味噌とウィンナーとサラダのドレッシングが自作なことくらいだ。
「ふむ、やはりこの味付けがすごいな。こんなうまいものは貴殿のもの以外食ったことがない。」
「まぁ、確かに薄味が多いですかね、巷の料理は。」
ほんとに、この世界の料理は味が薄い。思わず俺が自作で調味料作るレベルだった。
「さて、テストまで時間はありますが、早めに動けるようにさっさと食べてしまいましょう。」
「そうだな、そうしよう。」
その後、カチャカチャと、朝飯を二人で食べて、食器を片付ける。そして、外に出ようとしたところで。
「ちょっと!リヒター!早く起きなさいよ!」
「姉上、声大きい・・・。」
外から声が聞こえてきた。俺の覚え違いでなければ、リヒター殿の妹2人のはずだが。
「あー・・・。トラン先に謝っておく。」
「なんですかやめてくださいほんとに。」
「あの2人に、貴殿の部屋の横と教えてしまった故にな。」
「・・・来ると?」
「すまん。」
直後目の前の扉が叩かれる。びっくりした。
「ちょっと、さてはこっちにいるんでしょリヒター!昨日はよくも見捨てたわね!意外にめんどくさかったんだから!」
「・・・姉上が、もう少しおしとやかになればいいのに。あと、ここ一応他人の部屋。」
「リヒターがどうせいるんだしいいわよ!」
隣のミーナ様だっただろうか?は結構冷静で助かる。しかしどうするか。もはやぶち破られそうな勢いで叩かれてる。
「リヒター殿、俺窓から出ますんで、どうぞ扉から。」
すっとその場を離れようとすると。
「待てトラン。何故俺は扉からなのだ。」
捕まえられた。ちくしょう。仕方ない、こんなこと言いたくはなかったのだが。
「ーー1人は生贄、いりますよね?」
「ーーならば貴殿が生贄でどうだ?」
がっと、互いを掴みあう。相手は王族?知らぬ!今この場では、面倒ごとに巻き込まれたくなどないのだ!
「リヒター殿は、立派な王子なのですから、民に苦しみを押し付けたりしませんよねー?」
グググと引き離そうとする。
「先ほども言ったが、俺は1人の学生としてここにいる。故に、その理屈は通らん。」
リヒター殿が押し返して来る。くっ、このままではジリ貧だ、どうすれば・・・!?
と、ここでノックの音が止んでることに気づく。
「リヒター殿、リヒター殿。あの2人帰ったのでは?」
「む?・・・音が止んでいるな。そうかもしれん。」
「そろそろ実力テストですし、流石に会場に向かったんじゃないですか?」
「それもそうだな。では俺たちも行こう。」
リヒター殿が扉の鍵を開けて、出て行く。そして、部屋から一歩出たところで。
「やっぱいたわねリヒター。」
横に隠れていた王女に確保された。
「むぅ!?アマリアまさか貴殿隠れていたのか!?」
「声が聞こえているのはわかってたから、わざといないふりしたのよ!」
「なにぃ!?」
よし、計画通り。わざと聞こえるように声を出した甲斐があった。さて、それでは。
「リヒター殿、がんば!」
「まさかトラン、貴殿わざとかぁ!」
魔法を展開。使う色は、青。
「また後で会いましょう、リヒター殿!」
爽やかな笑顔とともに逃走。触らぬ神に祟りなしというやつだ。後ろから怨嗟の声が聞こえるような気もするが、まぁ気のせいだろう。
#####
「よいしょっと。」
魔法を切って、ゆっくりと停止する。さて、会場に着いた。しかし、少し早く来すぎたか?まだ人が全然いないぞ。
まぁ、それなら気長に待とう。ちょうどそこにベンチもある。座って待たせていただこう。
ーーさて、それにしても。異世界転生というものをした割には、俺は普通の人生を送っているな、とふと思う。まぁ、軍事学校とかにいるのは前の世界では妙な話だが、この世界では普通だ。特に魔王を倒せ、なんてこともなく。神とかとも会わず。俺の異世界転生は何によるものなのかもわからない。
まぁ、そんなことはどうでもいいのだけれど。そういえば、この世界だが、まぁなかなか奇妙なものである。色々混ざっているというかなんというか。日本風味の食べ物があるかと思えば、調味料系はなかったり。単純に言えば、材料はあるが、加工品はないという感じだ。そう考えると元の世界と結構似ている部分も多い。
だが、この世界には、魔物もいるし、魔法もある。魔王がいるかは知らないが、対立している国同士もある。でもこの学校は独自のものなので、どこの国にも所属していない。逆に言えば、卒業後どの国にも就職できるという話でもある。
魔法、と言えば。この世界の魔法は俺の考えていた魔法とは随分違った。超常的な現象を引き起こす、という意味では想像通りだったのだが、汎用されるものじゃなかったのだ。つまり、個人が個人特有の魔法を持ち、まったく同じ魔法を使う者はいないのだ。なかなかびっくりである。
しかしまぁ、この世界では良き友人とも出会えたし、なかなか良い人生を送っている。
ーーまぁ、人生なのかどうかはわからんが。
なんてつらつらと考えていると。
「お、早い奴がいるな。」
誰かが近くに立っていた。
「貴殿は・・・?」
「おー、俺はグウェントという。よろしく頼む。」
「グウェント、俺はトランだ。貴殿も1年か。」
「あぁ、お前もだろ?というか、お前あれだろ。王子様と仲良しって奴だろ?」
噂が広まるのは早いものである。まぁ見られてただけかもしれないが。
「そうだ。恐れ多くも親友をやらせてもらっている。」
「ほー、本当に仲良いんだな。ま、そいつはいいや。」
ニヤリと笑うその感じは随分と感じがいい。さて、改めて目の前の男を観察してみよう。髪の毛は真紅、目も同様。背中には、巨大な大剣。ラフな格好をした、少しチャラそうな感じ。しかし、先日出会ったあーいう安っぽい感じとも違う。なんというか、慣れてそうな感じである。
「しっかし、実力テストって確かバトルロワイアルだろう?それで本当に実力が分かるのかねぇ。」
グウェントは、背中の大剣を降ろし、ベンチに座り、後ろに伸びをしながら言う。
「戦況把握も含めた能力を見たいんだろう。死なないことも強さだからな。」
「まぁそうかもしれんが。あ、お前も戦闘テストだけか?」
「あぁ、補助はあまり得意でないからな。」
ー今回の実力テストには、二つの部門が存在する。
戦闘テスト部門と、補助テスト部門である。
戦闘テストの方は先ほども確認したが、バトルロワイアルのことである。こちらには、生徒のほとんどが出る。
逆に補助テストの方は、いわゆる支援能力の測定となる。治癒や、指揮など、そういったものを試験する。
戦闘テストに多くの生徒が参加するのは、いくら補助に長けていたとしても、自分の身を守る程度の実力は必要という考えからくるものである。
「なら俺とも戦闘中に会うかもな。その時は頼むぜ。」
「あぁ、こちらこそだ。」
グウェントが、立ち上がり、手を振って歩いていく。俺も手を振り、彼が離れていくのを見守っていると。
「トラァァァン。」
背後にゾンビに見紛う何かがいた。
「ーーあー、リヒター殿?俺も悪気があったわけでは・・・。」
「あれで悪気がなかったら、最悪だぞ貴殿。」
少し疲れた顔、いや、かなり疲れた顔のリヒター殿がいた。こってり絞られたらしい。
「いやでもそもそもリヒター殿が妹たちを見捨てたからですよね?俺は関与してませんよ?」
「まぁ、それはそうなんだが。もう少し親友を助けようとしてくれても良かったではないか。」
「親友だからこそ、俺は厳しくしたのです。」
「どの口が言うのだ。それとそろそろ行くぞ。」
あ、もう時間か。思ったより時間は経ってたらしい。
「それでは行きましょうか。リヒター様、戦場であったら容赦無く行くので、恨まないでくださいね。」
「はっはっは!逆に貴殿が俺を恨むなよ?」
軽口を叩き合いながら、会場に入る。すると、最初に俺が思ったのは。
ーーぎゅうぎゅう詰めじゃん。
と言う感想だ。いや、とてもではないが戦えない。通勤途中の電車並だぞこれ。どうするのだろう。
「ーーはーい!じゃあみなさん注目ー!」
と、ここで我らがセレナ校長が闘技場の観客席側にいる。
「今からバトルロワイアルを始めまーす!」
いやしかし、狭すぎるんじゃ?と思っていたら、誰かが声をあげる。
「はーいはいはい!こうちょーせんせー!」
めちゃ元気に手をあげてる。どこかで見たような真紅の瞳に真紅の髪の毛、先ほどのグウェントを想像するが、しかしそこにいたのは、ちっちゃい女の子だった。
「なんですかー?」
「ここじゃあ狭すぎると思うんだけど、どうなんですかー?」
と、小さな女の子が言う。その言葉にセレナ校長はムフフと笑う。
「それはですねー。こうするんです!」
と、校長が叫ぶと同時に。俺の視界がぼやけ始める。そのまま、視界は薄れて行き、いつのまにか閉じていた目を開けると。
「・・・まじか。」
俺が立っていたのは、密林だった。
「はーい!ということで、私の魔法で皆さんを幻想の世界に連れてきましたー!ここで死んでも現実では死なないので、存分に、戦ってくださーい!あと、降参すれば、元の世界に戻れまーす!」
ルール無用なのは知ってたが。無茶苦茶である。まさか殺しまでありなのか。こんな状況、
「ーーちょっと楽しくなってしまうじゃないか。」
思わず、ニヤリと笑うほどには。
もそりと、昨日与えられた部屋のベッドから起き上がる。寮の部屋は、人1人が過ごすには非常に十分なスペースを確保しており、さらに、キッチン、風呂なども完備。文句など全くない部屋だった。
さて今日は、軍事学校トルーパーの入学直後の実力テストである。もともと俺のいた世界でも、入学直後は、何らかのテストをやってた気がする。
とはいえ、トルーパーは軍事学校。もちろん座学もあるが、入学直後の試験といえば、戦闘能力の測定である。今回の実力テストは、単純にまとめてしまえば、バトルロワイアルとなる。
今回の入学者、約300人ほどだろうか。その数が、この学校の中にある闘技場でやりあう。とはいっても、約300人が一挙に入れる場所など流石にリアルに作るのは不可能なので、話を聞く限りでは、魔法でそういう空間を作っているらしい。なんでも、結構広いところらしく、俺としても、戦うことは嫌いではないので、少し楽しみにはしている。
しかし、ここは軍事学校。各地から腕に自信のあるやつらが集まってきているはず。そんな簡単には勝ち抜けないとは思うので、気は引き締めておこう。
「トラン!起きているか?」
俺の部屋のドアから響くノックの音。どうやら、来客らしい。ドアに近づき、開けるとやはりというか何というか。予想通りの人がいた。
「リヒター様、まさか本気でご飯食べにきました?」
「当然だろう!部屋の食材は持ってきた、頼んだぞシェフ!」
昔もよくこうして、リヒター様に料理を振るっていた気がする。ガキの頃から料理をする奴ってことで、不思議な目を向けられたものだ。
「貴殿の料理はこの俺も見たことのないものばかりだったからな。しかもどれもこれもうまいときた。ハマるのも仕方ないということだ!」
日本風の料理ですので。そりゃこの世界では見ないかもですね。まぁそれはともかくとして。
「まだ俺起きたばかりなので、もう少し待ってください。」
「おう、待つとも。」
ということで着替える。俺はファッションセンスとかあまりないので、地味目の色の服を着る。
「しかし貴殿も、それなりに良い見た目をしているのに昔から地味な服を着るなぁ。」
「リヒター様に見た目の話されても嫌味にしか聞こえませんよ。」
本当に、めっちゃイケメンに見た目いいとか言われても、全くもってお世辞としか思えない。
「ふむ、本気なのだがな。それはそうとトラン。」
「はい?」
着替えたし、料理の準備をしながら返事を返す。なんだろう。
「俺たちはすでに学友である。そろそろ様付けはやめろ。」
「え、いやしかし。王族に向かって様をつけないというのはちょっとですね。」
「はっはっは、ここでは俺は王子ではなく、リヒターという一生徒であることを優先するつもりなのだ。それなのに近くの貴殿がいつまでも様付けで呼んでいては、俺の心構えも乱れてしまうだろう?」
あ、ずるい。そういう言い方されると、ノーと言いにくい。
「・・・まぁ、そうですね。では、リヒター殿と。」
「そうだ、それでいい。」
まーた、色んな人に目つけられそうだなぁ。今から不安が渦巻いてくる。
さて、そんなことをやっているうちに。
「リヒター殿、料理を出すの手伝ってください。後、簡素なものですけど文句は無しで。」
「おぉ、これで簡素か。見事なものだ。」
米と、スクランブルエッグ、味噌汁、ウィンナー、サラダ風味のもので固めたごくごく普通の飯なんですけどね。まぁ少し違うのは、味噌とウィンナーとサラダのドレッシングが自作なことくらいだ。
「ふむ、やはりこの味付けがすごいな。こんなうまいものは貴殿のもの以外食ったことがない。」
「まぁ、確かに薄味が多いですかね、巷の料理は。」
ほんとに、この世界の料理は味が薄い。思わず俺が自作で調味料作るレベルだった。
「さて、テストまで時間はありますが、早めに動けるようにさっさと食べてしまいましょう。」
「そうだな、そうしよう。」
その後、カチャカチャと、朝飯を二人で食べて、食器を片付ける。そして、外に出ようとしたところで。
「ちょっと!リヒター!早く起きなさいよ!」
「姉上、声大きい・・・。」
外から声が聞こえてきた。俺の覚え違いでなければ、リヒター殿の妹2人のはずだが。
「あー・・・。トラン先に謝っておく。」
「なんですかやめてくださいほんとに。」
「あの2人に、貴殿の部屋の横と教えてしまった故にな。」
「・・・来ると?」
「すまん。」
直後目の前の扉が叩かれる。びっくりした。
「ちょっと、さてはこっちにいるんでしょリヒター!昨日はよくも見捨てたわね!意外にめんどくさかったんだから!」
「・・・姉上が、もう少しおしとやかになればいいのに。あと、ここ一応他人の部屋。」
「リヒターがどうせいるんだしいいわよ!」
隣のミーナ様だっただろうか?は結構冷静で助かる。しかしどうするか。もはやぶち破られそうな勢いで叩かれてる。
「リヒター殿、俺窓から出ますんで、どうぞ扉から。」
すっとその場を離れようとすると。
「待てトラン。何故俺は扉からなのだ。」
捕まえられた。ちくしょう。仕方ない、こんなこと言いたくはなかったのだが。
「ーー1人は生贄、いりますよね?」
「ーーならば貴殿が生贄でどうだ?」
がっと、互いを掴みあう。相手は王族?知らぬ!今この場では、面倒ごとに巻き込まれたくなどないのだ!
「リヒター殿は、立派な王子なのですから、民に苦しみを押し付けたりしませんよねー?」
グググと引き離そうとする。
「先ほども言ったが、俺は1人の学生としてここにいる。故に、その理屈は通らん。」
リヒター殿が押し返して来る。くっ、このままではジリ貧だ、どうすれば・・・!?
と、ここでノックの音が止んでることに気づく。
「リヒター殿、リヒター殿。あの2人帰ったのでは?」
「む?・・・音が止んでいるな。そうかもしれん。」
「そろそろ実力テストですし、流石に会場に向かったんじゃないですか?」
「それもそうだな。では俺たちも行こう。」
リヒター殿が扉の鍵を開けて、出て行く。そして、部屋から一歩出たところで。
「やっぱいたわねリヒター。」
横に隠れていた王女に確保された。
「むぅ!?アマリアまさか貴殿隠れていたのか!?」
「声が聞こえているのはわかってたから、わざといないふりしたのよ!」
「なにぃ!?」
よし、計画通り。わざと聞こえるように声を出した甲斐があった。さて、それでは。
「リヒター殿、がんば!」
「まさかトラン、貴殿わざとかぁ!」
魔法を展開。使う色は、青。
「また後で会いましょう、リヒター殿!」
爽やかな笑顔とともに逃走。触らぬ神に祟りなしというやつだ。後ろから怨嗟の声が聞こえるような気もするが、まぁ気のせいだろう。
#####
「よいしょっと。」
魔法を切って、ゆっくりと停止する。さて、会場に着いた。しかし、少し早く来すぎたか?まだ人が全然いないぞ。
まぁ、それなら気長に待とう。ちょうどそこにベンチもある。座って待たせていただこう。
ーーさて、それにしても。異世界転生というものをした割には、俺は普通の人生を送っているな、とふと思う。まぁ、軍事学校とかにいるのは前の世界では妙な話だが、この世界では普通だ。特に魔王を倒せ、なんてこともなく。神とかとも会わず。俺の異世界転生は何によるものなのかもわからない。
まぁ、そんなことはどうでもいいのだけれど。そういえば、この世界だが、まぁなかなか奇妙なものである。色々混ざっているというかなんというか。日本風味の食べ物があるかと思えば、調味料系はなかったり。単純に言えば、材料はあるが、加工品はないという感じだ。そう考えると元の世界と結構似ている部分も多い。
だが、この世界には、魔物もいるし、魔法もある。魔王がいるかは知らないが、対立している国同士もある。でもこの学校は独自のものなので、どこの国にも所属していない。逆に言えば、卒業後どの国にも就職できるという話でもある。
魔法、と言えば。この世界の魔法は俺の考えていた魔法とは随分違った。超常的な現象を引き起こす、という意味では想像通りだったのだが、汎用されるものじゃなかったのだ。つまり、個人が個人特有の魔法を持ち、まったく同じ魔法を使う者はいないのだ。なかなかびっくりである。
しかしまぁ、この世界では良き友人とも出会えたし、なかなか良い人生を送っている。
ーーまぁ、人生なのかどうかはわからんが。
なんてつらつらと考えていると。
「お、早い奴がいるな。」
誰かが近くに立っていた。
「貴殿は・・・?」
「おー、俺はグウェントという。よろしく頼む。」
「グウェント、俺はトランだ。貴殿も1年か。」
「あぁ、お前もだろ?というか、お前あれだろ。王子様と仲良しって奴だろ?」
噂が広まるのは早いものである。まぁ見られてただけかもしれないが。
「そうだ。恐れ多くも親友をやらせてもらっている。」
「ほー、本当に仲良いんだな。ま、そいつはいいや。」
ニヤリと笑うその感じは随分と感じがいい。さて、改めて目の前の男を観察してみよう。髪の毛は真紅、目も同様。背中には、巨大な大剣。ラフな格好をした、少しチャラそうな感じ。しかし、先日出会ったあーいう安っぽい感じとも違う。なんというか、慣れてそうな感じである。
「しっかし、実力テストって確かバトルロワイアルだろう?それで本当に実力が分かるのかねぇ。」
グウェントは、背中の大剣を降ろし、ベンチに座り、後ろに伸びをしながら言う。
「戦況把握も含めた能力を見たいんだろう。死なないことも強さだからな。」
「まぁそうかもしれんが。あ、お前も戦闘テストだけか?」
「あぁ、補助はあまり得意でないからな。」
ー今回の実力テストには、二つの部門が存在する。
戦闘テスト部門と、補助テスト部門である。
戦闘テストの方は先ほども確認したが、バトルロワイアルのことである。こちらには、生徒のほとんどが出る。
逆に補助テストの方は、いわゆる支援能力の測定となる。治癒や、指揮など、そういったものを試験する。
戦闘テストに多くの生徒が参加するのは、いくら補助に長けていたとしても、自分の身を守る程度の実力は必要という考えからくるものである。
「なら俺とも戦闘中に会うかもな。その時は頼むぜ。」
「あぁ、こちらこそだ。」
グウェントが、立ち上がり、手を振って歩いていく。俺も手を振り、彼が離れていくのを見守っていると。
「トラァァァン。」
背後にゾンビに見紛う何かがいた。
「ーーあー、リヒター殿?俺も悪気があったわけでは・・・。」
「あれで悪気がなかったら、最悪だぞ貴殿。」
少し疲れた顔、いや、かなり疲れた顔のリヒター殿がいた。こってり絞られたらしい。
「いやでもそもそもリヒター殿が妹たちを見捨てたからですよね?俺は関与してませんよ?」
「まぁ、それはそうなんだが。もう少し親友を助けようとしてくれても良かったではないか。」
「親友だからこそ、俺は厳しくしたのです。」
「どの口が言うのだ。それとそろそろ行くぞ。」
あ、もう時間か。思ったより時間は経ってたらしい。
「それでは行きましょうか。リヒター様、戦場であったら容赦無く行くので、恨まないでくださいね。」
「はっはっは!逆に貴殿が俺を恨むなよ?」
軽口を叩き合いながら、会場に入る。すると、最初に俺が思ったのは。
ーーぎゅうぎゅう詰めじゃん。
と言う感想だ。いや、とてもではないが戦えない。通勤途中の電車並だぞこれ。どうするのだろう。
「ーーはーい!じゃあみなさん注目ー!」
と、ここで我らがセレナ校長が闘技場の観客席側にいる。
「今からバトルロワイアルを始めまーす!」
いやしかし、狭すぎるんじゃ?と思っていたら、誰かが声をあげる。
「はーいはいはい!こうちょーせんせー!」
めちゃ元気に手をあげてる。どこかで見たような真紅の瞳に真紅の髪の毛、先ほどのグウェントを想像するが、しかしそこにいたのは、ちっちゃい女の子だった。
「なんですかー?」
「ここじゃあ狭すぎると思うんだけど、どうなんですかー?」
と、小さな女の子が言う。その言葉にセレナ校長はムフフと笑う。
「それはですねー。こうするんです!」
と、校長が叫ぶと同時に。俺の視界がぼやけ始める。そのまま、視界は薄れて行き、いつのまにか閉じていた目を開けると。
「・・・まじか。」
俺が立っていたのは、密林だった。
「はーい!ということで、私の魔法で皆さんを幻想の世界に連れてきましたー!ここで死んでも現実では死なないので、存分に、戦ってくださーい!あと、降参すれば、元の世界に戻れまーす!」
ルール無用なのは知ってたが。無茶苦茶である。まさか殺しまでありなのか。こんな状況、
「ーーちょっと楽しくなってしまうじゃないか。」
思わず、ニヤリと笑うほどには。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
50
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる