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Episode-5
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まるで町中が夢を見ているような、そんな一日が終わろうとしている。
ベルネはベッドの脇に腰を下ろすと、アミエルの額に滲む汗をそっと拭った。
「だいぶ良くなったみたいね」
そうは言ってみたものの、彼女の容態は“良くなった”という表現に違和感を覚えるほど、深刻化していた。
いくらかマシになった、と言う方が意味としては合っているのかもしれない。
「……そんな悲しそうな顔しないでよ」
アミエルが言う。ベルネは慌てて取り繕った。
「もう私の夢を叶わないけど、……ベルネが指輪をくれたあの日から、とっても幸せな夢ばかり見るの」
声と同時に涙が出そうだったため、ベルネはただ黙っている事しか出来なかった。
彼女はもう、死期を悟っている。
そして、ベルネも心の何処かでは覚悟していた。
「……二人でお花畑で走り回ってね、……蝶を捕まえるの。……たくさん捕まえた蝶を一気に空に放って、それを眺めるのよ……」
アミエルは視線を宙に漂わせた。
きっと、もう叶う事のない夢を思い描いているのだろう。
「きっと、現実になるわよ」
泣きそうになりながらも、お互いにとって一番酷な言葉を敢えて選んで口にした。
偽善者ぶるつもりも、嘘を吐くつもりでもなかった。
ただ、アミエルを少しでも生に縛り付けたかったのだ。
ベルネはベッドの脇に腰を下ろすと、アミエルの額に滲む汗をそっと拭った。
「だいぶ良くなったみたいね」
そうは言ってみたものの、彼女の容態は“良くなった”という表現に違和感を覚えるほど、深刻化していた。
いくらかマシになった、と言う方が意味としては合っているのかもしれない。
「……そんな悲しそうな顔しないでよ」
アミエルが言う。ベルネは慌てて取り繕った。
「もう私の夢を叶わないけど、……ベルネが指輪をくれたあの日から、とっても幸せな夢ばかり見るの」
声と同時に涙が出そうだったため、ベルネはただ黙っている事しか出来なかった。
彼女はもう、死期を悟っている。
そして、ベルネも心の何処かでは覚悟していた。
「……二人でお花畑で走り回ってね、……蝶を捕まえるの。……たくさん捕まえた蝶を一気に空に放って、それを眺めるのよ……」
アミエルは視線を宙に漂わせた。
きっと、もう叶う事のない夢を思い描いているのだろう。
「きっと、現実になるわよ」
泣きそうになりながらも、お互いにとって一番酷な言葉を敢えて選んで口にした。
偽善者ぶるつもりも、嘘を吐くつもりでもなかった。
ただ、アミエルを少しでも生に縛り付けたかったのだ。
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