蒼い春も、その先も、

秘める春信

3-5

　完成した料理の芳しさが、部屋を満たす。

　今日の昼食は、目玉焼きが乗った焼きそばだ。一週間ぶりの手料理は、インスタント食品よりも格段に美味しく感じた。

　黙々と食べ進める穂希の姿を、葉月が満足げに見つめる。
　それが何だか恥ずかしくなって、穂希は平然を装い問い掛けた。

「葉月は最近どう？」
「変わらないよ。高校入って勉強が難しくなった、それくらいかな」
「お父さんとお母さんは？　元気？」
「……うん、変わらず」

　そう答えた葉月の微笑に、翳りが落ちる。
　会話は途絶えて、静寂が過ぎった。彼女を一瞥し、躊躇いがちに二度目の質問をする。

「……ここに来てること、お母さんやっぱり知らないの？」
「言ってないもん。大丈夫だよ、お父さんが協力してくれてるし」

　葉月がわざと平気そうな振る舞いをしている事に、穂希は気付いていた。忽ち罪悪感が募り表情が崩れかけたが、精一杯の笑みを頬に貼り付ける。

「俺のために……ごめんね」
「顔と言葉が合ってないよ。気にしなくていいから、謝らないで。……それより、目玉焼きの黄身、いつ割るか迷わない？」

　不自然な話題の切り替えは、恐らく彼女なりの配慮だろう。

　既に黄身を崩して麺に絡めていた穂希は、『割りたくなったらでいいんじゃない？』と微笑んだ。