蒼い春も、その先も、

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春愁は君だけに

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 背筋を伸ばし正座した椿だったが、その姿はどこかぎこちなかった。

 対照的に、以前と何も変わらない様子で穂希も腰を下ろす。近頃は外傷を伴う自傷ではなく、過量服薬ばかりをしていたので、椿の視線が過度に動く事もなかった。

 出された紅茶に見向きもせず、椿は俯いている。発言を促そうとしたところで、彼が震える唇を開いた。

「穂希君、ごめんね……」

 予想していたにも関わらず、どっしりと心に響いてきたその言葉に、穂希は些か驚いた。たった四文字の中に、彼の苦悩を垣間見たのだ。

「許してとは言わない。……だけど、ちゃんと話を聞いてほしいんだ」

 椿は顔をあげて、真っ直ぐに穂希を見据えた。視線が絡み合った瞬間、柔らかな微笑みを返す。

「椿、許すも何も怒ってないよ。話だって、聞きたくて家にあげたんだから」

 また、椿の瞳が揺らいだ。
 泣きそうになりながら、彼は懸命に話を続けた。

「僕、葉月さんから話を聞いた時、僕なんか居ない方が良いって思ったんだ。……それが、穂希君の幸せに繋がるって、そう思った」

 自分勝手で、だけど自己犠牲的で、全く椿らしい結論だ。
 穂希は時々目線を送りながら、相槌と共に紅茶を口に含んだ。

「……でも、実際離れてみたら、穂希君のことが気になって仕方なくて、何も手につかなくなって、毎日が憂鬱だったんだ」
「じゃあ何で、俺が倒れた時抱き返してくれなかったの? 会えたの、嬉しくなかった?」
「それは……えっと、あんなに傷を求めて、穂希君に傷付けさせていたのに『傷作って待ってた』って言われた時、すごく可哀想で、胸が苦しくなったから……。なんか、混乱しちゃって」

 意想外な言葉に、沈黙する。
 椿が、自身の“精神安定剤”とも言える傷や怪我を見て、自己嫌悪以外の心苦しさを募らせていたと言うのだ。

 不意に、自身の右手が程好い体温に包まれる。重なった椿の手を、ごく自然に握り返す。

「その時に気付いたんだ。穂希君に傷があっても無くても、ただ穂希君が居てくれるだけで良かったんだって」

 出会った頃から、彼は誠実で素直な人間だ。
 ゆえに、歯の浮くような台詞も全て本音だということを確信する。

 椿は握った穂希の手を、目頭につけた。コツン、と眼鏡のフレームが当たる。

「僕は穂希君が好きだ……」
「うん、そう言ってくれるってずっと信じてたよ」

 表情を和らげて、穂希は椿を抱き寄せた。躊躇うことなく背中を包み込む椿の両手から、懐かしい温もりが伝わった。
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