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第5話
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見返りなんて、友人に求めるだろうか。いや、ヒトそれぞれだろって言われたらソレまでだけど……。
「なんだよ……見返りって」
「んー。イロイロあるけど手っ取り早くお金でいーや。友人価格で5千円にまけてあげる」
友人として認識はされているらしい。
あげるの後に見えないハートマークを感じ取った。
悪びれもせず、ヒトとしてダメな発言をかます友人を、呆れた顔で見上げる。
なに言ってんのコイツ。
「お前、最低」
「知ってるよ」
嫌なら別にいいよー。と再び背を向けた相手に怒りが湧いた。
「ダチだろ!俺ら!何でそんな意地悪いこと言うわけ!助けろよ」
「ふーん。オトモダチとキスするんだ、尾上は。で、オトモダチなら何しても許されるし、どんなときでも助けてくれるんだ?へぇ」
オモシロいね。と久賀が笑った。
ドキリとする。
はじめに、友だちの枠を越えたのは俺だ。
何であんな事をしてしまったのか。分からない。
分からないと、脳内で繰り返すだけで、答えは一向に導き出せない。
黙ってしまった俺に「もう、行っていい?」と久賀が投げかける。無言を了承と理解したのか、彼はくるっと背を向けると、ひとりで路地から出て行こうとした。
優しさなんか、欠片ほどもない。
「……バラしてやる!」
ムカついて、悲しくて、惨めで、じわりと湧き上がる涙を必死に引っ込めながら俺は叫んだ。
頭だけを動かして、久賀が視線を俺に向けた。
「バラしてやるからな冷血漢!」
「何をバラすの?ああ、尾上とのキス?アレって俺のセイ?」
「売春だよ!金もらって男と寝てるって言いふらしてやる!サイテーだ!最悪だ!お前なんかとダチになりてぇだなんて頑張ってた自分にムカつく!見る目ねぇ俺も最悪!くそっ、早く行けよ!見捨てて帰ればいいだろ!?」
ずきずきと、心が痛んだ。
鼻の奥がツンとして、涙が顔を覆った腕を濡らした。
サイテー男だと知った。思い知らされた。なのに、熱が少しも引かない。
雨の日の、崩れ落ちそうなくらい儚い横顔が浮かんできた。何でこんな時に思い出すのかと、自分自身に腹がたった。
悔しくて、ムカついてるのに、あの雨の日の記憶を頭の中から消し去ることが出来ない。
どうしてだろう。
なんで、こんな時に、思い出すんだろう。
目の前に立っている意地の悪い男とは、ちっともリンクしない雨の日の横顔。
「いいよ。取引してやる」
「あ?」
取引って何のことだ?
問う間もなく、腕を掴まれて引っ張られた。
驚いて久賀の顔を凝視すると、ふっと笑った相手がおもむろに顔を近づけてくる。
ぺろりと、目尻を舐められた。
「なっななななっなにっ」
「ぷっ、日本語になってないよ」
誰の所為だと、言葉をうまく発せない変わりに、目で訴えてみる。
「行くよ」
何処に?
再び、問う間も与えられず、掴まれた腕を引っ張られた。
「ちょっ、なんだっ!」
よろめきながら、必死に足を動かした。
この状態で何処に連れて行くつもりだと、心臓がバクバクする。
カバンで危険部位を隠しながら、歩調を合わせる気もない相手の背を恨みを込めて睨んだ。
二の腕を掴まれたまま歩くのって、ガチ危ない。せめて手首とかにしてくれたら良かったのに……。
転ばないように緊張し、ナニがアレな事がバレないかとハラハラし、掴まれた場所から広がる熱にクラクラする。
「おい!何処に連れてく気だ」
「うるさいよ。注目浴びたいなら好きにしたら良いけどさ、見られて恥ずかしい思いするのは尾上だし」
ぼぼっと顔が燃える。
なんてヤツ、なんてヤツ、なんてヤツだ!このサイテー男めっ。
ぎりりと奥歯を噛み締めた所で、久賀が立ち止まった。
声一つかけてくれなかったので、視線を下に向けていた俺は背中に鼻を打ちつけた挙げ句「痛いよ。ちゃんと見えてるの、その両目」と、実に優しいお言葉まで頂いてしまった。
悲しい。
「こっち」
「え、ちょっ」
株式会社××という看板が目に入る。何処ここ、と頭の中は疑問でいっぱいだ。
久賀に引っ張られて、どっかの会社に不法?侵入。誰もいないロビーに二人分の足音が響く。
「おい!勝手に入っていいのかよ」
「良いんじゃない、正面あいてるし。トイレ借りるだけだし」
いいのかよ。いや、どう考えても、良くないだろう。
防犯用の監視カメラとかあるんじゃねぇの?
「駅のトイレまで我慢できるなそっちでもいいけど、出来るのソレ」
わざわざ立ち止まって、ヒトの下半身に視線を送りながら久賀が言った。
……屈辱的だ。
鞄で必死に危険部位を隠しながら、ぽつりと呟く。
「…………………………無理」
穴があったら入りマス。
墓でもいい。
恥ずかしくて心臓が爆発しそうだ。
「じゃぁさっさと済まそう。因みに上にはまだ人がいるから静かにな」
男子トイレに入り、個室のドアを久賀が開けた。
幸いトイレにも人はいなくて、ほっと息を吐いた。
早く入れば。そして、とっととソレをどーにかすれば、と目で示される。
「なんだよ……見返りって」
「んー。イロイロあるけど手っ取り早くお金でいーや。友人価格で5千円にまけてあげる」
友人として認識はされているらしい。
あげるの後に見えないハートマークを感じ取った。
悪びれもせず、ヒトとしてダメな発言をかます友人を、呆れた顔で見上げる。
なに言ってんのコイツ。
「お前、最低」
「知ってるよ」
嫌なら別にいいよー。と再び背を向けた相手に怒りが湧いた。
「ダチだろ!俺ら!何でそんな意地悪いこと言うわけ!助けろよ」
「ふーん。オトモダチとキスするんだ、尾上は。で、オトモダチなら何しても許されるし、どんなときでも助けてくれるんだ?へぇ」
オモシロいね。と久賀が笑った。
ドキリとする。
はじめに、友だちの枠を越えたのは俺だ。
何であんな事をしてしまったのか。分からない。
分からないと、脳内で繰り返すだけで、答えは一向に導き出せない。
黙ってしまった俺に「もう、行っていい?」と久賀が投げかける。無言を了承と理解したのか、彼はくるっと背を向けると、ひとりで路地から出て行こうとした。
優しさなんか、欠片ほどもない。
「……バラしてやる!」
ムカついて、悲しくて、惨めで、じわりと湧き上がる涙を必死に引っ込めながら俺は叫んだ。
頭だけを動かして、久賀が視線を俺に向けた。
「バラしてやるからな冷血漢!」
「何をバラすの?ああ、尾上とのキス?アレって俺のセイ?」
「売春だよ!金もらって男と寝てるって言いふらしてやる!サイテーだ!最悪だ!お前なんかとダチになりてぇだなんて頑張ってた自分にムカつく!見る目ねぇ俺も最悪!くそっ、早く行けよ!見捨てて帰ればいいだろ!?」
ずきずきと、心が痛んだ。
鼻の奥がツンとして、涙が顔を覆った腕を濡らした。
サイテー男だと知った。思い知らされた。なのに、熱が少しも引かない。
雨の日の、崩れ落ちそうなくらい儚い横顔が浮かんできた。何でこんな時に思い出すのかと、自分自身に腹がたった。
悔しくて、ムカついてるのに、あの雨の日の記憶を頭の中から消し去ることが出来ない。
どうしてだろう。
なんで、こんな時に、思い出すんだろう。
目の前に立っている意地の悪い男とは、ちっともリンクしない雨の日の横顔。
「いいよ。取引してやる」
「あ?」
取引って何のことだ?
問う間もなく、腕を掴まれて引っ張られた。
驚いて久賀の顔を凝視すると、ふっと笑った相手がおもむろに顔を近づけてくる。
ぺろりと、目尻を舐められた。
「なっななななっなにっ」
「ぷっ、日本語になってないよ」
誰の所為だと、言葉をうまく発せない変わりに、目で訴えてみる。
「行くよ」
何処に?
再び、問う間も与えられず、掴まれた腕を引っ張られた。
「ちょっ、なんだっ!」
よろめきながら、必死に足を動かした。
この状態で何処に連れて行くつもりだと、心臓がバクバクする。
カバンで危険部位を隠しながら、歩調を合わせる気もない相手の背を恨みを込めて睨んだ。
二の腕を掴まれたまま歩くのって、ガチ危ない。せめて手首とかにしてくれたら良かったのに……。
転ばないように緊張し、ナニがアレな事がバレないかとハラハラし、掴まれた場所から広がる熱にクラクラする。
「おい!何処に連れてく気だ」
「うるさいよ。注目浴びたいなら好きにしたら良いけどさ、見られて恥ずかしい思いするのは尾上だし」
ぼぼっと顔が燃える。
なんてヤツ、なんてヤツ、なんてヤツだ!このサイテー男めっ。
ぎりりと奥歯を噛み締めた所で、久賀が立ち止まった。
声一つかけてくれなかったので、視線を下に向けていた俺は背中に鼻を打ちつけた挙げ句「痛いよ。ちゃんと見えてるの、その両目」と、実に優しいお言葉まで頂いてしまった。
悲しい。
「こっち」
「え、ちょっ」
株式会社××という看板が目に入る。何処ここ、と頭の中は疑問でいっぱいだ。
久賀に引っ張られて、どっかの会社に不法?侵入。誰もいないロビーに二人分の足音が響く。
「おい!勝手に入っていいのかよ」
「良いんじゃない、正面あいてるし。トイレ借りるだけだし」
いいのかよ。いや、どう考えても、良くないだろう。
防犯用の監視カメラとかあるんじゃねぇの?
「駅のトイレまで我慢できるなそっちでもいいけど、出来るのソレ」
わざわざ立ち止まって、ヒトの下半身に視線を送りながら久賀が言った。
……屈辱的だ。
鞄で必死に危険部位を隠しながら、ぽつりと呟く。
「…………………………無理」
穴があったら入りマス。
墓でもいい。
恥ずかしくて心臓が爆発しそうだ。
「じゃぁさっさと済まそう。因みに上にはまだ人がいるから静かにな」
男子トイレに入り、個室のドアを久賀が開けた。
幸いトイレにも人はいなくて、ほっと息を吐いた。
早く入れば。そして、とっととソレをどーにかすれば、と目で示される。
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