うそつきな友情(改訂版)

あきる

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第19話

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 久賀の腕をぐいっと引き寄せ、袖を捲った。
 痛々しい痕を見て絶句した。
 どう見ても、コレって、アレだよな。縄の痕的な……。

「……お前、なにされたの」

「あのね……何考えてんだか知らないけど、余計なお世話だから」

 ほっといてと手を払われた。

 あー……眠れないじゃねぇかと体を起こした久賀が、前髪を掻きあげて溜め息をついた。

 俺の頭の中では、いつかの会話がくるくるとリピート中だ。

『殴られるのは、趣味じゃねぇーですよ。もっともコレ次第で考えなくもないけど?』

 指で金を示しながらフザケ口調で笑った久賀を思い出して、ぞっとした。
 あれはヒトを馬鹿にして、からかっているのだと思ったけど、そうじゃなかったのかも。

 お金さえ払えば、誰とでも寝れて、俺が相手でもヤれて……コイツにとって大切なのは心や体より、お金で……。

(やめさせ、なきゃ)

 強く、そう思った。
 カラダを売るってそういうことなんだ。

『殴られるのは趣味じゃない』って言ったよな?それは、望んでないって事で、ホントは嫌だって意味だろ?

 でも、イヤなことでも、金を稼ぐためなら受け入れる。

 生きるために、手っ取り早く稼いでる。久賀はそういった。

「お前、やっぱりウリやめろよ!」

「……まぁたそのハナシ?それは却下だって」

「でもお前、こんなのっ。ダメだろ。死ぬぞ」

「大袈裟な」

「大袈裟じゃない。ああ、左手もかよ!お前これっ、ナガノさんにやられたのか?」

「ぶはっ!あははは。違うから、永野さんとの相性はいいからね俺。少々怒らせても、縛るまではしねぇよあのヒトは」

「やっぱ縛られた痕かよー!!誰にやられたんだ。馬鹿かお前、何やってんだよ!何笑ってんだよ!!」

 ちっとも可笑しくなんてねぇー。
 ケラケラ笑う相手を見てたら、なんだか急に鼻の奥がツンとした。

 ああ、クソッ。俺ってこんなに涙もろかったか?
 必死に涙を引っ込めながら、きっと相手を睨んだ。

 笑った所為で頭痛いですけど?とにやにやする久賀。
 キレーな、うそつきの笑顔だ。

「なぁ、どうして、お前が金を稼がなきゃならねぇの?お前さ、従兄弟さんにも秘密にしてんだよな?親と離れて、二人で暮らしてんだよな?学費とか、生活費とか、助けてくれる大人はいねぇの?」

 笑うのをぴたりと止めて、久賀が視線を動かした。
 黒い、夜の闇のような、綺麗な目が俺を見下ろしていた。

「家族のことを話すつもりはないって言ったよね?それとも、コレを取引条件にする?」

「取引とか、そーゆーのがないと訊いちゃだめなのか。知らないと力になれないじゃん」

「は?力に?」

 久賀は一瞬だけ呆れたっと言いたげな顔をして、それからふんっと鼻で笑った。

 ずけずけと他人の家庭の事に口を突っ込むのは確かに非常識だけど、何も知らなきゃ助けようがない。
 なんで高校生の久賀が、自尊心や尊厳を投げ捨ててまで他人に身を委ね、金を稼がなければならないのか。
 どんな事情があるのか知りたい。そして、出来るならウリなんかしなくて良いように、助けになりたい。

「お節介だね、オガミン。『小さな親切、大きなお世話』だ」

 久賀はすっと立ち上がるとひらひら手を振りながら、屋根の端っこまで歩いていった。 
 裏道側に面する方。大きな木の近くだ。

 な、んだろ、なんか……すごく嫌な予感がする!

 がばっと体を起こして、屋根の端っこに立つ相手を追った。

「久賀っ!!」

「お前なんかに、何が出来るよ」

 背を向けたまま冷たく言い放った後、久賀は屋根を蹴って飛び降りた。

 三階を優に超える高さだ。

「久賀っ!」

 無意識に伸ばした手は当然のように宙を掴むだけだった。 
 
 ザザッと木の枝が大きく揺れて、音を立てる。
 地上から3メートルくらいの高さにあった太い枝を掴んだ久賀は、振り子の要領で前方へと働く力を利用して飛び上がり体を空中で回転させた。

 ストンと、軽やかな動きで地面に着地する。
 あまりの華麗さに言葉もなく見惚れてしまった。

 ささっと肩にくっついていた葉っぱを払う仕草もカッコ良すぎ。なんだあの男。いったい何者ですか。
 運動神経がいいとか、そーゆー問題でもないだろう。
 恐怖心とか、ねぇのお前。

 ふっと視線が屋根へと向けられ、木々の隙間から目を合わしドキリとする。
「ぢゃあね」と軽く手を上げて立ち去ろうとする相手に慌てた。
 登ってきたとこから降りてたら、確実に見失う。

 絶対に説得するんだと息巻いていた俺は、後先も考えずに叫んだ。

「俺も行くから逃げんな!!」

 勢いに任せて屋根を蹴った。



 冷静になってこの日を思い出す度に、なんと愚かなことをしたのだろうと自責の念にかられる。
 愚かしい行動の理由なんて、恋に狂っていたからとしか言いようがないだろう。

 恥ずかしい事だが、ホントどうしようもない。


 自覚するまでもう少し。
 あの雨の日に落ちてしまったのは、絶対に実らない恋の落とし穴だった。


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