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第21話
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手触り最高な毛並み…………おっと違った、髪の毛の滑らかな誘惑から気力を振り絞って逃れる。
許されるならば一晩中、この感触を堪能して、心ゆくまで撫で回したい。
ふわふわぬくぬく布団みたく、俺もぎゅってされてぇな……。
やめよう、望みが無さすぎて悲しくなる。
それにしても、だ、さっきから理解の範疇を越えるだの、意味不明だの、変だのなんだのって言い過ぎじゃね?というか、俺に言わせれば……。
「俺、まだお前に一度も金を払ってないんだけど」
お前の方が意味不明なんだけど、久賀さん?
三度の飯より、睡眠より、雄の自尊心よりも、久賀の中では金が勝る。
金稼ぎのためならば、嫌いなヤツにサイコーの笑顔で愛想をふって、初対面の相手にカラダを切り売りすことも容易いらしい。
筋金入りの守銭奴なのに、俺からは一度も現金を受け取っていない。
ほら。コイツの方がよっぽど意味不明だよね。
久賀は片方の目だけを器用に細めながら「お前金もってんの?」なんて意地の悪い質問を寄越した。
コイツの悪友&喧嘩相手いわく『赤毛のにゃんこはバリ高い』とのことだ。
実際に一体どれだけの稼ぎがあるのかは怖くて聞けないが、秘密を知った日に聞いた『乗客をつかまえたら一晩で六桁の金が手に入る』という発言から考えてみても、アルバイトくらいしか収入源がない"善良で平凡"な高校生の稼ぎと比べたら、天と地ほどの差があるだろうよ。
そして、一晩で×万~××万を稼いじゃう相手にだ、まだ一度も代金を支払っていないという、ね、考えるのも恐ろしい。
「うっ……こ、今年のお年玉がまだ手付かずだから、取り合えずそれで……」
「……ぶっ!ははははっ!」
大爆笑された。何なんだよ一体。
どこに笑いの要素が含まれていたのかイマイチ不明だ。
たまぁーに思うのだけど、久賀の笑いのツボはちょっとずれたところにあるようだ。
「対価は現物支給されてるから、お、お年玉は、ぶはっ!あははははっ……はぁ、い、いらなねぇですよ。大事に使えよオガミン、あー腹イテェ」
もしかしてお年玉がツボったのか?変なヤツだな。
それに、守銭奴主義はどこいった。 現物支給って…………。
「寝床と飯」
「お、ちゃんと覚えてたか。偉い偉い」
「物凄くバカにされてる気がする」
「はははっ」
その笑顔は肯定ってことですかね。
久賀は慈善事業なんて死んでもやらない派。
ギブアンドテイク。
貸し借りなし。
そんな久賀に俺がバイトの報酬として提供してる物が、ベッドと晩御飯、もしくは朝御飯、あるいは両方だ。
ちなみに、久賀さんは家無き子ではない。
帰る家も当然ベッドもある。
それに、料理の腕も抜群な愛するおにーさまこと、従兄弟の史彦くんと一緒に暮らしているから、家に帰ってもヒモジイ思いなんてしていないだろう。
ソレを踏まえて考えてみると、俺が支払う現物支給に対価と言えるだけの価値があるとは思えない、よ、ね?
俺も思えない。
いまだ謎だ。
なんか、あれだ。
うん、わかってる。
自意識過剰ってゆーか、自惚れが過ぎる事くらい、ちゃんとわかってる。
でもさ、お金に固執する男が俺からはソレを受け取らないなんて、そんなことされるとほんのちょっと、ホントに少しだけ、もしかして、俺って、ちょっとは特別なの?なんて、バカみたいな勘違いをしちゃいそーになる。
わかってるよ。ただの願望だ。
実際のところ、コイツの特別席のチケットは完売済で、この先予約すら出来そうもない。
調子に乗ったら自分の心が傷つくだけだって事くらい、ちゃんと分かってはいるんだよ。
「ヒトの事バカにしてないで、いい加減黙れば」
そして寝てしまえ。
掛け布団を無理矢理被せて「はい、今すぐ目ぇ閉じる!」と命令すれば「えー。アルバム見たかったのに」なんてワガママが返ってきた、が、コイツのワガママに付き合っていたら本来の目的が果たせないのでシカトする。
俺がこいつを買う理由。
俺がこいつに望んだことと、願ったこと。
「夕飯の時間になったら起こしてやるからさ、それまで寝てろよ。"フリ"でもいいから」
他人の気配がある場所では眠れないという相手にそう命令すると、久賀は呆れたようにうっすらと笑った。
疲労が滲む顔に完璧なうそつきの笑顔を張り付けて、静かに色っぽく笑う。
傷付いてカラダが軋み、心が痛みに喘いでいても、平気なフリをしてこいつは笑う。
「ホントお節介なままだね」
溜め息混じりにそう呟いて、客の望みを叶えるために、久賀は静かに目蓋を閉じた。
小さな親切大きなお世話と言われた日を思い出した。
あの日はまだ、知らなかった。
何気ない日々の小さな出来事ひとつに心が舞い上がったり、無力な自分に絶望することも、知らなかった。
俺の望み通り目を閉じて眠ったフリをする横顔をじっと見る。
近くて遠い、彼と俺。
多分、俺は選択を間違った。
過去を振り返ってみても、いつ、どこで間違ったのかも、何をすれば良かったのかも、わからない。
戻ることも、進むことも出来ず、歪な関係のまま、また今日が終わってゆく。
「おやすみ……」
ゆっくり、目を伏せる。
がむしゃらに遠ざかる背中を追った日々。僅か数ヵ月前のことなのにもうずっと昔のことのように思えた。
『俺も行くから逃げんな!!』
どんな関係でもいいから、側にいたいと、そう強く願わせる想いの名前も、あの時の俺はまだ知らなかった。
許されるならば一晩中、この感触を堪能して、心ゆくまで撫で回したい。
ふわふわぬくぬく布団みたく、俺もぎゅってされてぇな……。
やめよう、望みが無さすぎて悲しくなる。
それにしても、だ、さっきから理解の範疇を越えるだの、意味不明だの、変だのなんだのって言い過ぎじゃね?というか、俺に言わせれば……。
「俺、まだお前に一度も金を払ってないんだけど」
お前の方が意味不明なんだけど、久賀さん?
三度の飯より、睡眠より、雄の自尊心よりも、久賀の中では金が勝る。
金稼ぎのためならば、嫌いなヤツにサイコーの笑顔で愛想をふって、初対面の相手にカラダを切り売りすことも容易いらしい。
筋金入りの守銭奴なのに、俺からは一度も現金を受け取っていない。
ほら。コイツの方がよっぽど意味不明だよね。
久賀は片方の目だけを器用に細めながら「お前金もってんの?」なんて意地の悪い質問を寄越した。
コイツの悪友&喧嘩相手いわく『赤毛のにゃんこはバリ高い』とのことだ。
実際に一体どれだけの稼ぎがあるのかは怖くて聞けないが、秘密を知った日に聞いた『乗客をつかまえたら一晩で六桁の金が手に入る』という発言から考えてみても、アルバイトくらいしか収入源がない"善良で平凡"な高校生の稼ぎと比べたら、天と地ほどの差があるだろうよ。
そして、一晩で×万~××万を稼いじゃう相手にだ、まだ一度も代金を支払っていないという、ね、考えるのも恐ろしい。
「うっ……こ、今年のお年玉がまだ手付かずだから、取り合えずそれで……」
「……ぶっ!ははははっ!」
大爆笑された。何なんだよ一体。
どこに笑いの要素が含まれていたのかイマイチ不明だ。
たまぁーに思うのだけど、久賀の笑いのツボはちょっとずれたところにあるようだ。
「対価は現物支給されてるから、お、お年玉は、ぶはっ!あははははっ……はぁ、い、いらなねぇですよ。大事に使えよオガミン、あー腹イテェ」
もしかしてお年玉がツボったのか?変なヤツだな。
それに、守銭奴主義はどこいった。 現物支給って…………。
「寝床と飯」
「お、ちゃんと覚えてたか。偉い偉い」
「物凄くバカにされてる気がする」
「はははっ」
その笑顔は肯定ってことですかね。
久賀は慈善事業なんて死んでもやらない派。
ギブアンドテイク。
貸し借りなし。
そんな久賀に俺がバイトの報酬として提供してる物が、ベッドと晩御飯、もしくは朝御飯、あるいは両方だ。
ちなみに、久賀さんは家無き子ではない。
帰る家も当然ベッドもある。
それに、料理の腕も抜群な愛するおにーさまこと、従兄弟の史彦くんと一緒に暮らしているから、家に帰ってもヒモジイ思いなんてしていないだろう。
ソレを踏まえて考えてみると、俺が支払う現物支給に対価と言えるだけの価値があるとは思えない、よ、ね?
俺も思えない。
いまだ謎だ。
なんか、あれだ。
うん、わかってる。
自意識過剰ってゆーか、自惚れが過ぎる事くらい、ちゃんとわかってる。
でもさ、お金に固執する男が俺からはソレを受け取らないなんて、そんなことされるとほんのちょっと、ホントに少しだけ、もしかして、俺って、ちょっとは特別なの?なんて、バカみたいな勘違いをしちゃいそーになる。
わかってるよ。ただの願望だ。
実際のところ、コイツの特別席のチケットは完売済で、この先予約すら出来そうもない。
調子に乗ったら自分の心が傷つくだけだって事くらい、ちゃんと分かってはいるんだよ。
「ヒトの事バカにしてないで、いい加減黙れば」
そして寝てしまえ。
掛け布団を無理矢理被せて「はい、今すぐ目ぇ閉じる!」と命令すれば「えー。アルバム見たかったのに」なんてワガママが返ってきた、が、コイツのワガママに付き合っていたら本来の目的が果たせないのでシカトする。
俺がこいつを買う理由。
俺がこいつに望んだことと、願ったこと。
「夕飯の時間になったら起こしてやるからさ、それまで寝てろよ。"フリ"でもいいから」
他人の気配がある場所では眠れないという相手にそう命令すると、久賀は呆れたようにうっすらと笑った。
疲労が滲む顔に完璧なうそつきの笑顔を張り付けて、静かに色っぽく笑う。
傷付いてカラダが軋み、心が痛みに喘いでいても、平気なフリをしてこいつは笑う。
「ホントお節介なままだね」
溜め息混じりにそう呟いて、客の望みを叶えるために、久賀は静かに目蓋を閉じた。
小さな親切大きなお世話と言われた日を思い出した。
あの日はまだ、知らなかった。
何気ない日々の小さな出来事ひとつに心が舞い上がったり、無力な自分に絶望することも、知らなかった。
俺の望み通り目を閉じて眠ったフリをする横顔をじっと見る。
近くて遠い、彼と俺。
多分、俺は選択を間違った。
過去を振り返ってみても、いつ、どこで間違ったのかも、何をすれば良かったのかも、わからない。
戻ることも、進むことも出来ず、歪な関係のまま、また今日が終わってゆく。
「おやすみ……」
ゆっくり、目を伏せる。
がむしゃらに遠ざかる背中を追った日々。僅か数ヵ月前のことなのにもうずっと昔のことのように思えた。
『俺も行くから逃げんな!!』
どんな関係でもいいから、側にいたいと、そう強く願わせる想いの名前も、あの時の俺はまだ知らなかった。
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