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第36話
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しばらく項垂れていると、再び背中をつんつんと指で押された。
「オガミン?もしかしてくたばった?」
久賀さんの問い掛けにも反応する力が湧きません。
ごめんね。ダメージが大きすぎて軽く死んでるから、俺のことはもう放っておいて下さい。
だめなヤツです。
俺は下心ありありだったみたいです。
友人だとか、どの口で抜かす。
久賀が永野さんから金を受け取っていた現場を目撃した日。あの日、久賀にキスをしたのも、よくよく考えれば嫉妬したからじゃねぇーのか俺。
ウリなんか止めろよってしつこくしたくせに、今は自分がお客さんになってるしね。
そして、金で繋がった最低な関係なのに、側にいられることを喜んじゃってるしね、心が。
キスもそれ以外のこともしなくていいだなんて、嘘も大概にしよう。
望んでいるじゃないか。
屋根から飛んじゃうくらい、必死じゃないか。
(サイテーなのは俺の方だ)
サイテーだと久賀を責めたけど、俺の方がもっとダメな気がする。
うそつきなのは俺も一緒だ。
「おーがーみー。だからさぁ、そんなに警戒しなくてもいいって」
「いや、久賀さんあのさ、俺ね、ダメなヤツみたいで」
「あ?お前がダメなコトくらい知ってるよ。だから何もしねぇーって。あと何で突然『さん付け』なの、オガミン」
「はい?」
どういう意味だろう。
会話が繋がってない。
そりゃそうだ。俺は俺の本心を久賀に伝えていないんだから。
あと『さん付け』したのはいたたまれないからです。
それからあんまし関係ないけど、お前だってヒトのこと色んな呼び方するじゃん。そしてオガミン言うな。
土下座を止めて、体の向きを動かして久賀と向き合った。
えーと、どーゆー意味?と首を傾げながら訊ねたら「だから、お前はウリは『ダメ』なんだろ」と言われた。
確かに、俺はコイツのウリを止めさせたくて、それは紛れもない本心だから、そこはコクリと頷いて同意した。
「だから『なにもしない』よ。キスしたのも、アレも悪かったな」
謝られた。
アレってゆーのは多分トイレの中の出来事で……俺は赤くなりながら、こくこくと頭を縦に振るので精一杯だった。
そんな俺を見ながら、久賀が口の端だけを上げて笑った。
自分の額を指差して示し「汚れてるよ」と言った。
土下座の時に額に土がついたらしい。
掌で額の汚れを払い落としながら、落ち着けと自分に言い聞かせた。勝手に早くなる鼓動に、どうすればいいんだ?と誰にでもなく問いかける。
小さな微笑にさえ、呆れるくらいに心が揺れ動かされた。
何もしないと久賀は言った。
すでに共犯だから脅す必要もないでしょ?と意地悪く笑った。
コイツの言うとおり「買います」宣言しちゃった時点で、俺も共犯だ。
秘密の漏洩は自らの首を絞めるのと同じ。
もっとも『バラしてやる』と言ってしまったのは売り言葉に買い言葉みたいなモノだから、最初から誰にもバラすつもりは無かったんだけどね。
そんなこと知りもしない久賀は、俺の言葉に内心焦りまくりだったらしい。
「キスされたから男と寝るのに興味あんのかなぁーと思ったら、カンが外れるし予想の斜め上いくし、マジで理解不能『金は払うけどキスもセックスもいらないからカラダを休めてー』なんて、馬鹿の発想としか思えない」
呆れた口調でそう言って、久賀は目を閉じた。
「寝たふりするから、一時間経ったら声かけて」と、そんな事を言う相手に「フリじゃなくて寝ろよ」と返したら「他人の気配があると眠れない」と言われて、また勝手に心がシクシクと痛んだ。
信用されてないんだなぁと、分かりきっている事なのに、勝手に心が傷を負う。
凝視しても、もう『見るな』とは言われなかった。
『どうしてキスしたの?』と訊かれなくて良かった。訊かれても、答えられなかったから。
きっと『どうして』の疑問なんて浮かばないくらい、俺なんかには興味ないんだろうな。
そんな事を考えて苦しくなった。
キスも、セックスも、いらないなんてうそだ。
きっと俺は、誰よりも望んでいる。
自分の欲を自覚して、打ちのめされる。
俺は。
俺は何をやっているんだろう。
きれいな言葉を並べて、久賀を非難して。
だけどホントは、嘘ばかりを並べていた。
うそばかりを並べている。
欲しいモノを、欲しく無いと、突っぱねて。
恋心を友情だと、言い張って。
なんてー。
「まだ俺と……トモダチでいてくれる?」
今まで俺たちの間にあったのは一方的な友情で、久賀はただ友情を演じていただけだ。
それを知った時は本当の友人になりたいと思ったけれど、今の俺はコイツの特別に……恋人になりたいと思っている。
だけど、そんな事は天地がひっくり返ってもおこらない。だから、うそつきな友情でいいと自分を騙す。相手を騙す。
なんて―浅ましい。
「そうだな……同じクラスだしね」
目を開けずに久賀が言って、その後はもう一言だって話してはくれなかった。
せめて……クラスが変わってしまっても友人だと言ってもらえるように、努力しよう。
久賀の隣の壁に背中を預けて足を抱え、額を膝にくっつけて目を閉じた。
うそつきな二人の。
うそつきな友だちごっこの、始まりの日だった。
「オガミン?もしかしてくたばった?」
久賀さんの問い掛けにも反応する力が湧きません。
ごめんね。ダメージが大きすぎて軽く死んでるから、俺のことはもう放っておいて下さい。
だめなヤツです。
俺は下心ありありだったみたいです。
友人だとか、どの口で抜かす。
久賀が永野さんから金を受け取っていた現場を目撃した日。あの日、久賀にキスをしたのも、よくよく考えれば嫉妬したからじゃねぇーのか俺。
ウリなんか止めろよってしつこくしたくせに、今は自分がお客さんになってるしね。
そして、金で繋がった最低な関係なのに、側にいられることを喜んじゃってるしね、心が。
キスもそれ以外のこともしなくていいだなんて、嘘も大概にしよう。
望んでいるじゃないか。
屋根から飛んじゃうくらい、必死じゃないか。
(サイテーなのは俺の方だ)
サイテーだと久賀を責めたけど、俺の方がもっとダメな気がする。
うそつきなのは俺も一緒だ。
「おーがーみー。だからさぁ、そんなに警戒しなくてもいいって」
「いや、久賀さんあのさ、俺ね、ダメなヤツみたいで」
「あ?お前がダメなコトくらい知ってるよ。だから何もしねぇーって。あと何で突然『さん付け』なの、オガミン」
「はい?」
どういう意味だろう。
会話が繋がってない。
そりゃそうだ。俺は俺の本心を久賀に伝えていないんだから。
あと『さん付け』したのはいたたまれないからです。
それからあんまし関係ないけど、お前だってヒトのこと色んな呼び方するじゃん。そしてオガミン言うな。
土下座を止めて、体の向きを動かして久賀と向き合った。
えーと、どーゆー意味?と首を傾げながら訊ねたら「だから、お前はウリは『ダメ』なんだろ」と言われた。
確かに、俺はコイツのウリを止めさせたくて、それは紛れもない本心だから、そこはコクリと頷いて同意した。
「だから『なにもしない』よ。キスしたのも、アレも悪かったな」
謝られた。
アレってゆーのは多分トイレの中の出来事で……俺は赤くなりながら、こくこくと頭を縦に振るので精一杯だった。
そんな俺を見ながら、久賀が口の端だけを上げて笑った。
自分の額を指差して示し「汚れてるよ」と言った。
土下座の時に額に土がついたらしい。
掌で額の汚れを払い落としながら、落ち着けと自分に言い聞かせた。勝手に早くなる鼓動に、どうすればいいんだ?と誰にでもなく問いかける。
小さな微笑にさえ、呆れるくらいに心が揺れ動かされた。
何もしないと久賀は言った。
すでに共犯だから脅す必要もないでしょ?と意地悪く笑った。
コイツの言うとおり「買います」宣言しちゃった時点で、俺も共犯だ。
秘密の漏洩は自らの首を絞めるのと同じ。
もっとも『バラしてやる』と言ってしまったのは売り言葉に買い言葉みたいなモノだから、最初から誰にもバラすつもりは無かったんだけどね。
そんなこと知りもしない久賀は、俺の言葉に内心焦りまくりだったらしい。
「キスされたから男と寝るのに興味あんのかなぁーと思ったら、カンが外れるし予想の斜め上いくし、マジで理解不能『金は払うけどキスもセックスもいらないからカラダを休めてー』なんて、馬鹿の発想としか思えない」
呆れた口調でそう言って、久賀は目を閉じた。
「寝たふりするから、一時間経ったら声かけて」と、そんな事を言う相手に「フリじゃなくて寝ろよ」と返したら「他人の気配があると眠れない」と言われて、また勝手に心がシクシクと痛んだ。
信用されてないんだなぁと、分かりきっている事なのに、勝手に心が傷を負う。
凝視しても、もう『見るな』とは言われなかった。
『どうしてキスしたの?』と訊かれなくて良かった。訊かれても、答えられなかったから。
きっと『どうして』の疑問なんて浮かばないくらい、俺なんかには興味ないんだろうな。
そんな事を考えて苦しくなった。
キスも、セックスも、いらないなんてうそだ。
きっと俺は、誰よりも望んでいる。
自分の欲を自覚して、打ちのめされる。
俺は。
俺は何をやっているんだろう。
きれいな言葉を並べて、久賀を非難して。
だけどホントは、嘘ばかりを並べていた。
うそばかりを並べている。
欲しいモノを、欲しく無いと、突っぱねて。
恋心を友情だと、言い張って。
なんてー。
「まだ俺と……トモダチでいてくれる?」
今まで俺たちの間にあったのは一方的な友情で、久賀はただ友情を演じていただけだ。
それを知った時は本当の友人になりたいと思ったけれど、今の俺はコイツの特別に……恋人になりたいと思っている。
だけど、そんな事は天地がひっくり返ってもおこらない。だから、うそつきな友情でいいと自分を騙す。相手を騙す。
なんて―浅ましい。
「そうだな……同じクラスだしね」
目を開けずに久賀が言って、その後はもう一言だって話してはくれなかった。
せめて……クラスが変わってしまっても友人だと言ってもらえるように、努力しよう。
久賀の隣の壁に背中を預けて足を抱え、額を膝にくっつけて目を閉じた。
うそつきな二人の。
うそつきな友だちごっこの、始まりの日だった。
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