うそつきな友情(改訂版)

あきる

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番外編 friends(of Scarlet)

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 頭に二度も受けた攻撃に「ハゲたら責任とれよなー」なんてブツブツ呟いている西河原に近づいた椎名は、いつでも全力で大袈裟な友人にいつもより若干、愉しげな声音で話し掛けた。

「“こころみ”の代償は随分痛かったんじゃないか、阿呆」

「阿呆呼ばわりするなしっ。阿呆はりゅーだもーん」

 まったくりゅーの意地っ張りー、友人思いなのは俺のセリフだしと、んべっと舌を出しながら言うと、西河原はスマホがあたった場所を掌で撫でて、まぁ、ホントはそんなに痛くないんだけどねーと笑った。

「りゅーとオガミはどうなったよ」

 椎名の肩越しに前方を見やり、何だか、きゃはきゃはな雰囲気で廊下を駆け出した友人+αの姿にぶふっっ!と吹き出した。

「何アレ何アレっ、ちょーいい感じに見えませんかぁー奥さん!」

「誰が奥さんだ。さてな、龍二のバカは筋金入の猫被りだ。千匹か二千匹は軽く背負っているからな。平々凡々なチビにアレの外面シールドを打破できるか……微妙だな」

「うーん。肩こりそー。トモピーにも無理な事が平凡くんに出来るのかなぁー。やっぱ、傷が浅い内に諦めさせてあげた方がいいのかにゃー」

「ガッツリ試したクセに何を言う。そもそもそんな優しさがあるならば、チビに「協力してやる」なんてセリフは吐けないだろう」

 並んで廊下を進みながら、不良とヤンキーは共通の友人のあまりの“壊れ加減”を案じて、色々画策したりと忙しい。

「だってさー。思ったよりオガミはイイコだったんですよー?根性あるし。ヘコタレないし。うむ。りゅーにやるの勿体無いかも。あんにゃイイコが“全力後ろ向き根暗冷血下半身男”に傷つけられちゃうなんてかわいそかわいー」

「可哀相に可愛いがついた時点で、お前の同情は嘘臭いだけだ。お前に遊ばれるのも、チビにとったら不幸だろうよ」

「にゃはは。ま、冗談はさて置き、オガミーはどうよ。俺はダークホースだと思うけど。だってさ『あいつの秘密ペラペラ喋んな、久賀が悲しむだろ。訊いた俺が悪いんだけど』だってさ。傑作っつーか、ちょっぴりおバカさん?」

 馬鹿ではなく真っ正直バカだな。と、二人で顔を見合わせる。
 嘘で武装した龍二を相手にするには、少しばかり直情ばか過ぎるかもしれないが、逆にその純真さが武器になるかもしれない。

「素直なのか変なとこで潔癖ってゆーか頑固なのか。好きなヤツの情報なんだからさ、ぐいぐい喰いつきゃいいのにねー」

「喰いついてきたら、教えるつもりは毛頭無かったくせにな」

「そりゃぁ、ダチの情報は安くないでしょー」

 十人に喧嘩売られても、お断り。
 その倍の人数だったら、誕生日か身長なら教えてあげてもいいかも。
 モチロン俺に勝ったらだけどねー。と喧嘩好きなヤンキーはふざけ口調でケラケラ笑う。

「まぁ。でも、りゅーの外見だけに興味あるみたいな、ちょっぴり遊びたいだけの子たちとは違うみたいだし、次からは真面目に協力してあげよーかな。ソッコー振られるかもだけど」

「しかし、疲労が限界値を突破したとはいえ、他人ひとの側では眠らないノラの寝顔をみたんだ。可能性はゼロではないだろう」

「だよだよ!それにはマジでびっくり。第2のトモピーじゃん」

「出来れば近江弟を越す人材であって欲しいが……ま、取りあえずは目指せ近江弟レベル」

「にゃはは。トモピーを越えろオガミー。うん、ちょー無謀な気がする。俺らも、むぼー?」

「無力で無責任ではある」

「あー。仕方ない仕方ない。俺らはか弱いからね。りゅーみたいな頑固なペシミストなんて相手にできねぇーもん」

 ひらひら手を振りながら、お手上げーとわざとらしく溜め息をつく西河原。
 友人が本気で笑わなくなり、心が死んだまま身体だけを利用する理由を知っている二人だからこそ、自分たちでは救いの言葉ひとつ満足に吐けやしないと自覚している。

 泣くことも、愛することも止めて、ただ償いのためだけに命を浪費するバカを哀れだとは思ってやれない。
 愚かしいとは思うけど、身体を利用してでも金を稼ぐという目的をつくらなければあのバカは生きる事が出来なかった。

 ただ呼吸をし続けるために、生きて金を稼ぐために、あらゆるモノをアイツは捨てた。
 プライドとか尊厳とか自由とか愛情とか仲間とか。

 家族は半分だけ血の繋がった二人の異母兄以外は捨てて、トモダチも近江知也近江弟だけを選んで残し、後は切り捨てた。

 俺たちは?と訊くほど、西河原も椎名も愚かではなかった。

 縋るような、縋られるような関係ではなくて、哀れんだり同情したりも違う。
 ただ、あいつが幸せになればいいなと、願うことは自由で、側にいることも黙って離れていくことも自由。

 親友と呼ぶには少しばかり歪みすぎていて、ただの友情を主張するには三人とも近すぎる。
 愛情を語れるほどに純真ではないが、恋人よりもお互いを理解してやれたりする。

 特に付き合いの長い凸×2のコンビは、アイコンタクトで会話が出来るほどお互いを知っている。だけど多分、別れが明日訪れたとしても、生きる事の足枷にはなり得なかった。

 友が選び決断したモノが、例えば自らを殺す事であったとしても、それが揺るぎなき決意であった場合、彼等はお互いに止め合ったりはしない。

『そうか、それは残念だ』と落胆し『寂しくなるねー』と涙を零す事はあっても、終わりを選択した友を引き止めたりはしないだろう。だから、救えない。

 身勝手に頑張れとか、苦しくても生きろよ、なんてセリフはひとつも“本気”の気持ちで言葉にする事はできず、救ってはやれない。
 明るい光が満ちている方へは、どんなに頑張っても連れ出してやれないから、それを可能とする誰かを望んでいる。

 過去にも怯まず、冷たさや残忍さにも挫けず、想い返されない苦しさも乗り越えて、ひたすらに好きだと叫ぶような、そんなバカがアイツの側にあればいいのにと、願うくらいしか出来ない。

「問題なのは、オガミーが態度に出まくりな事かな。りゅーはガチ好意からは逃げる傾向があるよねー。オガミの心が折れないか心配」

「それは此処で議論しても無駄だろう。チビの心次第だ」

「だーよーねー。オガミーの方は、俺がさり気なくサポートするからさ、シーナはりゅーを宜しく」

「そうだな、取りあえず現状維持だ」

「うぃ、現状維持で」

 状況を見つつ、臨機応変に対処します。
 願わくば、残酷で臆病な友に伴侶が出来ることを願って。

 なんにも知らない子羊……もとい子犬を一匹、気難しい友人にあてがってみよう。それが友人の生きる糧になればと願い、しかし恐らく一番にはなれないだろうなと予想しながら、それでも無責任に押しつけてみる。

「やっぱ、無責任で無力だよなー俺たち」

「ついでに“残酷”も付け足しとけ」

「うははははっ、それは最初から自覚してるお!ごめんにゃーオガミー。でもガンガレ」


 半分くらい本気のキモチで謝って、でも押しつぶされるほどの罪悪感なんて二人とも持ち合わせてはいなかった。


 赤毛の猫を愛する友人たちの、秘密の計略。
 こたえが出るのはまだ先のハナシ。

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