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side久賀2-1
しおりを挟む穏やかな眠りは、たった二人の側でしか得られなくなった。
ひとりは俺の従兄弟(ホントは半分血の繋がった兄ちゃんなんだけどね)の史ちゃん。
もうひとりは俺の心の恋人であるトモだ。
さんざん激しいセックスに励んだ後も、気力と体力を消費し尽くした真夜中だって、他人の気配があると満足に眠れやしなかった。
朝まで意識がぶっ飛んだ事はあったけれど、それは望んで得た眠りではないし、目覚めは最悪以外の何でもない。
豊満な乳房をもった好みのお姉さま方が相手でもやっぱり同じで、ヤることをやり終えたらさっさとホテルから撤退するのが俺のスタイルだ。
ま、それが原因でお客さんを逃しちゃった事もあるんだけど。
冷たいとか、ムードがねぇとか、だいたいそんな感じ。
朝まで甘い余韻に浸りたいのは男も女も大差ねぇな。
ビジネスに影響が出てるのにやっぱり熟睡は出来なくて、しかも無理して朝まで相手に付き合った結果、寝不足がたたって連日悪夢のオンパレード。
ついに限界が来て、道端でケロケロ吐きながら必死に歩き、トモに助けを求めたのはずいぶん前の事だ(史ちゃんは俺のバイト(ウリ)の事は知らないから、こんな時に頼れるのはトモだけなんだよね)。
それからはもう諦めた。
客が減るのは由々しき問題だが、睡眠不足でタたないなんて事態が発生したら、それこそ客を失うってゆーか干される。
そんなわけで、いま手元に残っているのは本当にセックスする事だけが目的の客で、肉体的に満足したらアフターサービスはいらねーってゆードライなヒトばっかりだ。
人がシャワーを浴びてる内に、金を残して先に帰るお姉さんなんかもいて、俺的にはものすごーく楽で良い。
永野さんなんかは、事が終わった後は別室に籠もって仕事をし始めるから、寝室は俺の独占状態になる。
鍵をかけても許されるそこでは、熟睡は出来なくとも体力を回復するくらいなら出来るわけだ。
そんなわけで、随分といろいろな客を相手にしてきた俺だけど、最近はホント楽な相手ばかりだったんだよ。どこぞのドエス帝王さま以外は。
ぺったりと、身体をひっつけて肩に額を乗せてきた相手が、とても甘い声音で野良猫を呼んだ。
「緋色、すき」
陶酔混じりの声音には、ちょっとだけ狂気の色が混ざっていたけど、それは俺には関係のないハナシ。
窓際の椅子に腰掛けて、外に広がる景色をみている。
一面の、コバルトブルー。
空と海の境界線が美しい二種類のブルーによって、層が生み出されている。
空をゆるりと漂う雲と、ビーチの白。
眩しい日差しは、11月の日本から連れ出された俺には優しくない気がする。そもそも、オ○ケはキライだが昼より夜が好きなわけで、オバ○が襲ってこないなら俺は昼夜逆転生活を提唱するわけだ。○バケが……以下略。
シリアスな雰囲気を紛らわすために、脳内でアレこれと頭の悪いことを考えてはいるんだけど、ネチっこい陰湿な執着を漂わせる相手の側では無意味に近い。
ああ、帰りたいな。と、表情には出さずに心の中で唱えてみた。
そして、どこに?なんて疑問が浮かんで、心は現実から少しだけ浮遊する。
どこに、帰りたいんだろう。帰る場所なんか、あっただろうか。
ゆらゆら、景色が揺れている。
こんなに鮮やかなブルーではなかったけど、それは確かに海での出来事だ。
空の色も曖昧で、砂の色は灰色で、それでも海の壮大さは変わらなかった。
はじめてみたその迫力に、バカなガキが舞い上がりサンダルも脱ぎ捨て裸足で駆けまわった結果、貝殻を踏んづけて足の裏を怪我をした。
オマケに服のまま海に突っ込んで、全身がベタベタの海水まみれ。傷口に塩水がしみて、どうしようもなかった。
『泣くな。男だろう』
大きな手が、雑に頭を撫でていく。
自分が濡れることも構わずにケガをしたガキを背負って、熱い日差しの中を歩くヒト。
歩調に合わせて、視界が揺れた。
おっきな背中に、いつか、とひとり誓った。
いつか、コノ背中に追いつこう、と。
ゆらゆら、世界が揺れる。
暑さなんて少しも気にならずに、大好きな背中をぎゅっと抱きしめた。
世界で一番大好きだと、子どもの無邪気さを演じて告白したら、『俺も好きだよ』と優しい声音が返ってきて、ソレだけで心は幸せに満たされた。
好きに種類があるなんて、まだ少しも知らなかった子ども。知る必要もなかった幼い日。
それは家族愛でも兄弟愛でも友愛でもなくて、憧れと依存が混じった恋慕だった。
ゆらゆら、背中が揺れる。
ゆらゆら、視界が揺れる。
目を閉じたらすぐそこに、あの日の俺たちが居る。
幸せな時だ。今すぐ帰りたい幸せの……。
『しっかりしろよ!もうすぐ保健室につくからな、久賀!』
不意に蘇った声に、パチリと両目を開いた。
目の前は一面のコバルトブルー。
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