うそつきな友情(改訂版)

あきる

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side久賀2-2

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 少しも現実っぽくない風景に割り込んできた日常の記憶。

 たまのような汗を額に浮かべて、息を切らした同級生が、必死に足を動かしていた。
 背中には重い荷物。
 捨ててゆけば、そんなに苦しい思いをしなくてすむのに、ホント理解に苦しむ相手だ。

 苦しい呼吸の合間に、ガンバレ!と背中の荷物を励ましていた。大丈夫だと、繰り返していた。

 一歩。まるで命懸けの歩み。

 どこか泣き出しそうな、そんな色を滲ませる声音。
 大事な誰かとは似ても似つかない背中。
 それでも……。

「どうかしたの?」

 くいっと肩を引かれて視線を動かした。
 見上げた先にいるのは誰だろう。
 幼い頃、俺を背負ったあの日のあんたか?それとも……。

「…………ミ?」

「え?な、に?どうしちゃったの?」
 
 酷く狼狽えた相手は、記憶の中の顔とは似ても似つかない。
 一瞬、誰だっけコイツ?と脳がバグを起こし「だ、だいじょうぶ緋色?」と野良猫の名前を呼ばれて、漸く思考が繋がった。

 ああ、そうだった。
 只今臨時出張アルバイト中だった。

 秋から徐々に冬へと季節が移り変わる11月の三連休。
 日本じゃゆっくり出来ないからと常夏の国へと連れてこられた俺は、お客さんに引っ付かれながら二日目の昼過ぎを経過中です。
 ぽんと二人分の旅費と、相場より多めのバイト代を出せちゃう相手に少しだけ卑屈になるものの、通常のバイトを休業させられちゃってる俺にとったら、この仕事は願ってもない申し出だったわけだ。

 ホテルに着くなり、流れもムードもガン無視でベッドに相手を押し倒して、後は丸一日肉体労働に勤しんだ。なんて、勤勉な俺でしょうか。

 その後は、俺の仕事は終わったとばかりに時差ボケと寝不足と疲労の所為で鈍く襲ってくる頭痛を無視して、風景を楽しんでいる最中だった。

「いや……寝ぼけたみたい」

「ね、寝不足なの?ごごごめんね、僕ばっかり寝ちゃって。ベッド使って!!」

 キングサイズのベッドは、白を基調にした明るい部屋の中心だ。
 夜が好きな俺には壁一面の窓も、柱の白も、ベッドのシーツも明るすぎる。
 そもそも、他人の側では、眠れやしない。

「この部屋は、明るすぎるね」

「そそそうだよね!僕も同じ事を考えていたよ!!う、嬉しいなっ。君と同じ事を感じられるなんてっ!そうだよね、君にはもっと……もっと暗い色が似合うよね。あのときの君は、黒曜くろあきさんと同じくらい闇の色がとても」

 とても似合っていたよ。
 赤い血の色も、とても素敵だったと、うっとり狂気を巡らせる相手。
 
 ヤバィなぁ、選択を間違えたか?と顔には出さず、相手から目をそらす。どうしてこうなったのでしょうね、と数日前の事を思い出してみる。

 俺の記憶にはまったく残っていないのだけれど、数年前、俺が緋色ひいろというあだ名で呼ばれていた頃、どうやらコイツと接触した事があったらしい。
 もう一回言うが、俺の記憶上にはまったく存在しません。
 そもそもだ、緋色の名前は独り歩きし過ぎなんだよ。どっかのドエス帝さまの所為でな。
 有名だったのは俺ではなくてエス帝さま……黒曜こくようの方だ。
 気難しい帝王が気紛れに連れ帰った薄汚れたガキを野良猫扱いして名前までつけて側に置いたものだから、“緋色”は黒曜こくようの右腕だの愛人だのペットだのと、好き勝手な噂が広がったわけだ。

 ま、全否定はしませんがね。

 いろいろあって、現在、黒曜こくようさまは俺のバイトの雇い主な訳ですが、ビジネスな関係はあっても恋人だの愛人だのと呼ばれる位置づけではない。

 ひょろひょろと身長が伸びた所為で飽きられたってーのはまぁあるかもだが、もともと俺の唯一は黒曜こくようさまじゃないわけで、相手にされなくなったからって、豆粒ほどのダメージも無いわけですが……。
 あまりに冷たい眼差しで、仕事携帯を奪われた時は流石にムカついて『ちょっとはもと愛人に優しくしたらどうなの』と当たり散らして鼻で笑われたけどね。

 愛人だろうが恋人だろうが兄弟家族が相手でも、ビジネスはビジネスと割り切る男だ。
 裏社会に籍を置く男はルールに厳しい一面でもあるんですかね。帝王さまやら優雅さまやら……少しくらい融通きかせろやボケ。

 非難ムナシク部屋から蹴り出された所で、クラスメートと御対面。
 名前をフルネームで呼ばれて相手に説明されるまで、同じ学校のしかも同じクラスのヤツだなんて、まぁーったく気づかなかった。
 というか、きいた後でも脳みそは目の前にいる人物と接触した記憶をひとつたりとも引き出せない。

「なななんでこんなところにいるの?」

 そんな質問、さっさと流して退散すれば良かったなと、ちょっとだけ後悔しないでもない
 何と答えようかと一瞬固まったのがダメだった。

 だらだらしてる内に背後のドアが再度開いて、背中に容赦ない蹴りを受けたのは何日前のことだったか。

 無駄話はいいから失せろ、緋色。と冷たい声で罵られ、先日の奉仕の報酬だと、札束を裸で投げて寄越す冷酷男に「マジシネし。今の一発は次回の報酬に上乗せ確定だからな」と叫ぶ腕をぐいっと引かれた。
 ああ?今取り込み中と振り返ると、キラキラだけど淀んだ光を浮かべた瞳が、前髪の向こうから見上げてきた。

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