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第50話
しおりを挟む久賀の様子がすこぶる変だ。
多分、久賀を知る人なら誰でも同意してくれると思います。
今日の久賀は変だ。おかしい。
先週末までは普通でしたよね?何があったんですか?と、問い詰めたいくらい様子が変なのだが、現状、俺も絶賛混乱中で、微動だに出来ない状態です。
「なぜだ……」
なぜ、こうなった?と、無駄に整った顔を真横に、現実ですか?夢ですか?な自問自答を繰り返すこと5回目だ。
先週末から今日までの数日で何が起きたのか、どーしてこんな状況になってるのか、まったく理由がわかりません。
落ち着け俺。先週は何かあったか?と記憶を探ってみる。
バイトをどうにかして止めさせようと息まく俺と、右へひょろりん左へひらりんと逃げる久賀。
いい加減にしろよと、久賀の態度に腹を立て逃げる久賀を追いかけていたら、いつの間にやらチキンレース(根性試し/どっちが先に参ったって言わせるか競争)状態になっていた。
もしくはドッグレースの犬だな。
休み時間ごとに追いかけっこがはじまるから、いつの間にやらギャラリーが増えて賭けとか……はじめたのは一体誰だ。
【生徒の自主性を重んじる】が校風だけどもだ、流石に賭けはダメじゃないか?という俺の主張の方が完全なアウェーでしたね、解せない。
とにかく、先週までは久賀は通常通り「真面目な話は嫌いだよー」と逃げまくってましたよね。
毎朝、口も開く前から駆け出すのやめて。挨拶しようとしただけだから。と何回か落ち込みました。
それが、何がどうしてこうなったのか……だれか説明してください。
ヒトの布団で、ヒトの体を抱きかかえて、丸くなって寝てるのは、警戒心が強くて嘘つきで節操なしの久賀さんですよね?
人の気配があると眠れねぇんだよ、近づくな的な発言をされたのはそう昔のことではないですよね。
近づいて触ろうとしたら、手を払われたし、寝ぼけて首のとこ絞められたし、滅茶苦茶イヤそうな顔をされたし、別の誰かを寝言で呼ばれもしたし……うん、痛かった。
思い返すたびに心はしくしくと痛んだ。
空洞ができちゃったみたいに、胸の真ん中に違和感があった。
女々しい自分が嫌で、でも好きってキモチが消せなくて、どうしようもなくて。
恋を自覚してたった数週間。こっそり泣いた回数は恥ずかしくて言えない。
夢に見た回数はさらに恥ずかしくて絶対に秘密だ。
「どーしてこうなった……?」
心臓をバクバクさせながら、間近にある顔を凝視する。
こうやっていると、こいつは間違いなく完璧でパーフェクトだ。
何故ならば冷たい言葉もヒトをからかう軽口も聞こえないからだ。
誰彼かまわず口説いちゃう軽薄さも、眠っていたら分からないからだ。
近付くなよと麗しく笑ってヒトを追い詰める瞳も、瞼の下に隠れているからだ。
いっそこのまま、ガラスの棺に閉じこめちゃえ、なんて怖いことを考えてみたり。
でも本当にそうなったら、たった半日で寂しくて、堪えられなくなるだろう。
声がききたくなるし、瞳が見たくなるし、笑顔が見たくなる。
名前を呼んで、ふざけたことを言って、動いて、こっちを見て、一緒に笑って。
そんな事を願いながら、ガラスの外側でメソメソ泣くことになる。その自信がありまくる。そんな女々しい自信はいらねぇなと、自分の思考にげんなりして息を吐いた。
頭を動かして、机の上の時計に視線を向けた。
現在時刻を確認する。
時計は18時36分を表示していた。
まもなく1時間と30分が経過しますよ、久賀さーん。
眠る相手に心の中で語りかけた。声は出してないから、当然聞こえないけどね。
別に起こしたい訳じゃない。
ただ、何かを考えていないと、至近距離にある誰かさんの存在の大きさに、精神が悲鳴をあげてジタバタしたくなる。ドキドキしすぎて叫びそうになるわけだ。
実際……大荒に荒れた。
何が起きたの?から始まって、何が起きてんの!になって。顔が近い!体が密着しているー!!ちくしょー!なんでそんなにキレイな顔してんだよ顔面偏差値違いすぎて凹むわしかも若干いい匂いがするとかなんだよにおい嗅いでいいのかよぉぉうわぁ俺がキモイ俺の思考がきもいぃぃぃ!!と、1時間ほど不整脈と戦った。あと、自分の気持ち悪ぃ思考に若干へこんだ。
「どうして、こうなった」
近くの、コンビニに行った帰りだった。
お菓子と飲み物を買いに出て、好きな相手を持ち帰りしてくるなんて……いや、そんな高度な技術持ち合わせてねぇや。
たまたま、道の端で具合が悪そうなヒトを発見し、それが何だが見覚えありまくりな赤い髪で、つか、久賀じゃねぇかよオイ生きてるのっ!と、慌てて駆け寄ったのは本日の16時頃の出来事です。
冬の空は、夜を連れてるのが早い。
太陽は駆け足で沈んでいくし、気温はどんどん下がっていく中、大した防寒もしないでヘロヘロになりながら歩いている久賀を見つけたときは、マジで心臓が口から飛び出すかと思った。
救急車を呼ぼうとしたら、病院がキライだから嫌だとワガママを言うコイツに阻まれた。
いったいお前はいくつのガキですかぃこのヤろう。
「子どもか!!」
力の限りつっこみをいれると、クツクツと久賀が笑った。
ドキリと心臓がはねる。
笑ってる。機嫌良く笑っている。どうしよう、多分こんなことを考えている場合じゃない。場合じゃない……のは、分かって、ます。
(め、めちゃうれしいっっ)
思わず地面に突っ伏してしまいたくなるのを、どうにか堪える。
これはホントに恋なんだろうか。
そんな可愛らしい言葉で片づけられるような熱じゃないんだ。
だいたいこれが恋なら、今まで俺が付き合った女の子たちに向けてきた感情は、いったい何だったんだよ。
天と地ほどの差がある。
相手を想って泣いちゃうなんてコトは、女の子相手にしたことがない。
笑顔ひとつで舞い上がるほど、キモチが暴走したことはない。
「デートの帰りですか?」
そんな、ね、何でもない一言で、舞い上がっていたキモチが叩き落とされたり。
そりゃ……久賀は俺のキモチなんて知らないからさ(言ってないもん。バレたら拒否られるモン)しゃーないですが、マジでもう、コイツ。
「お前って、俺の心をへし折る天才だよな」
「わー、ほめられた」
「褒めてねぇーし。んっと、バカな話してる場合じゃねぇや。電話しなきゃ」
「いや……時報にかける必要性はねぇーでしょ。お前、緊急ダイヤルもわかりませんか」
「さっきは気が動転してたんだよ!110番にかけりゃぁいいんだろ」
「警察を呼ばれた瞬間俺は脱兎の如く逃げ去ります。オガミン、素でボケなくていいよ」
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気が動転していたって言い訳は二回使ってもOKでしょうか?
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