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第64話
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緊急家族会議が開かれるかと思いきや、食卓は激しく騒がしいものの大した事件にはならなかった。
弟は騒いで怒って、最後に拗ねちゃいましたけどね……。
姉はともかく、賛成こそしなかったが交際禁止令を出さなかった父親にビックリだ。それどころか、どっちかってゆーと友好的じゃないですかね。
男同士は結婚できません発言の後、弟にもっともなツッコミを入れられて、ピシリッと硬直してしまったのがいけない。
自分の失言に気づいても、一度カタチにした言葉は戻らない。
ここで久賀みたいに嘘を付きなれたヒトならば「いやいや、今のは笑うところだからね燿くん。そんなんじゃお笑い界の頂点は目指せねぇぞー☆」的な軽いノリでジョークだけどウケませんでしたなんてゆー流れに持っていけるんだけどね。俺には無理でした。
「はぁー?なに!マジかよ、にーちゃん!アノヒトと付き合ってんの?男じゃん!!」
と、大きな声で騒ぐ弟に、隣から詰め寄られて「いやっ。その……あのな、付き合ってはなくて」なんてしどろもどろに答えたら「じゃあ好き合ってんの?片思いなの!」と更に突っ込まれてもはや何も言葉にならなかった。
何も言えないでいると、弟の顔をどんどん険しくなっていく。
「マジなのマジなの兄ちゃん!ホモだよ!キモイだろ」
繊細なハートに弟のシンプルかつ辛辣な言葉が突き刺さった。
もうやめて……俺のライフはとっくにゼロです。
思わず胸を押さえてぷいっと視線を逸らした。
どうやら弟は俺の態度が大変気に入らなかったらしく、もはや飯どころじゃない。
「嘘だ!冗談だろ!!だって兄ちゃんの初恋は、みゆき姉ちゃん(ご近所さんで輝の幼なじみ)だろ!後、ベッドの下とか、本棚の奥とか、机の上から二番目の引き出しに隠してるおかず本も至ってノーマルじゃん!」
弟が特大爆弾を投下しました。
「ぬわぁぁぁぁ!!あーきらーっ!」
家族の前でなんちゅー事を言いやがりますかぁぁぁ!そしてなぜそれを知っているぅぅぅ!
暴走する弟の口を慌てて塞いだ。
燿がじたばたと手をバタつかせた。
「むー!むむむー!!」
「それ以上一言だって喋んじゃない!」
燿がしつこく暴れて、茶碗やコップを薙ぎ倒す。
箸が弾かれて、床に転がった。
そして絶対零度の冷気が、親愛なる姉上様から発せられた。
「輝ちゃん、燿ちゃん。仲がいいのは喜ばしいことだけど、食事中はもう少し大人しくしないと、お姉ちゃん怒っちゃうわよ」
微笑みを浮かべて発せられた台詞に、俺たち兄弟は示し合わせたかのように、ピシッと動きを止めた。
兄と弟は、互いにゆっくりとした動作で距離をとり、食事再開。
まったくもう、と呟きながら落ちた箸を拾った姉がシンクに向かう。
暫くして、父親が口を開いた。
「お父さんはお兄ちゃんの父親だから、諸手を挙げて賛成はしかねるなぁ」
怒るわけではなく、ほんの少しの困惑を滲ませた静かな口調だった。
「同性愛となると偏見も障害も異性愛より増えるからなぁ。父親としては愛する息子に苦しい道を歩んでなんか欲しくないねぇ」
「そうだそうだ!ホモなんて反対!!」
「確かに賛同しかねるけどね。お兄ちゃんのキモチはお兄ちゃんの自由だからな」
僅かに目尻を下げて、父さんはそういった。
「ちょっ!!ダメだって父さんっ!俺は兄ちゃ……兄貴がホモとかイヤだぞ!」
「あら、お姉ちゃんは反対しないわよ。愛に性別も国境も人種も関係ないわー」
「姉貴!」
……どーしようか。本人そっちのけでどんどん話が進んでいくぞ。まだ、自分はハッキリそうだと肯定はしていないのに。
(俺って、そんなわかりやすいか……?)
三人の会話にドキドキしながら居たたまれない気持ちになる。けれども、何処までも味方になってくれる姉と、息子の将来を案じながらも理解を示そうとしてくれる父に、言葉には出来ない感謝が胸内に生まれた。
自分は本当に恵まれていると思う。
「父さん!息子が道を踏み外さないように正すのが親の愛じゃねぇの!」
踏み外した、事になるのかな、道を。
「息子が選んだ生き方をそっと見守るのも愛だねぇ」
にっこりと、目尻に笑い皺をつくりならが父が言った。
どっちも正論、だと思う。どちらか片方だけが正しくて、もう片方が間違っているわけじゃない。
「心配は出来ても、人生を肩代わりはしてあげられないからなねぇ。支えることや励ますことは出来ても、実際に偏見や理不尽な差別に立ち向かって乗り越えてゆくのは輝くんたちだ。嫌な思いをしたり、とても傷つきながら、それでも歩いていかなければならない。
だから、よく考えなさい」
選ぶこと、愛すること、生きること、立ち向かうこと。
思考しなさい。
たとえ答えが出なくとも、ただ立ちすくむだけでは、人は何も得られない。
立ちすくむだけでは、何ひとつ得られはしない。
弟は騒いで怒って、最後に拗ねちゃいましたけどね……。
姉はともかく、賛成こそしなかったが交際禁止令を出さなかった父親にビックリだ。それどころか、どっちかってゆーと友好的じゃないですかね。
男同士は結婚できません発言の後、弟にもっともなツッコミを入れられて、ピシリッと硬直してしまったのがいけない。
自分の失言に気づいても、一度カタチにした言葉は戻らない。
ここで久賀みたいに嘘を付きなれたヒトならば「いやいや、今のは笑うところだからね燿くん。そんなんじゃお笑い界の頂点は目指せねぇぞー☆」的な軽いノリでジョークだけどウケませんでしたなんてゆー流れに持っていけるんだけどね。俺には無理でした。
「はぁー?なに!マジかよ、にーちゃん!アノヒトと付き合ってんの?男じゃん!!」
と、大きな声で騒ぐ弟に、隣から詰め寄られて「いやっ。その……あのな、付き合ってはなくて」なんてしどろもどろに答えたら「じゃあ好き合ってんの?片思いなの!」と更に突っ込まれてもはや何も言葉にならなかった。
何も言えないでいると、弟の顔をどんどん険しくなっていく。
「マジなのマジなの兄ちゃん!ホモだよ!キモイだろ」
繊細なハートに弟のシンプルかつ辛辣な言葉が突き刺さった。
もうやめて……俺のライフはとっくにゼロです。
思わず胸を押さえてぷいっと視線を逸らした。
どうやら弟は俺の態度が大変気に入らなかったらしく、もはや飯どころじゃない。
「嘘だ!冗談だろ!!だって兄ちゃんの初恋は、みゆき姉ちゃん(ご近所さんで輝の幼なじみ)だろ!後、ベッドの下とか、本棚の奥とか、机の上から二番目の引き出しに隠してるおかず本も至ってノーマルじゃん!」
弟が特大爆弾を投下しました。
「ぬわぁぁぁぁ!!あーきらーっ!」
家族の前でなんちゅー事を言いやがりますかぁぁぁ!そしてなぜそれを知っているぅぅぅ!
暴走する弟の口を慌てて塞いだ。
燿がじたばたと手をバタつかせた。
「むー!むむむー!!」
「それ以上一言だって喋んじゃない!」
燿がしつこく暴れて、茶碗やコップを薙ぎ倒す。
箸が弾かれて、床に転がった。
そして絶対零度の冷気が、親愛なる姉上様から発せられた。
「輝ちゃん、燿ちゃん。仲がいいのは喜ばしいことだけど、食事中はもう少し大人しくしないと、お姉ちゃん怒っちゃうわよ」
微笑みを浮かべて発せられた台詞に、俺たち兄弟は示し合わせたかのように、ピシッと動きを止めた。
兄と弟は、互いにゆっくりとした動作で距離をとり、食事再開。
まったくもう、と呟きながら落ちた箸を拾った姉がシンクに向かう。
暫くして、父親が口を開いた。
「お父さんはお兄ちゃんの父親だから、諸手を挙げて賛成はしかねるなぁ」
怒るわけではなく、ほんの少しの困惑を滲ませた静かな口調だった。
「同性愛となると偏見も障害も異性愛より増えるからなぁ。父親としては愛する息子に苦しい道を歩んでなんか欲しくないねぇ」
「そうだそうだ!ホモなんて反対!!」
「確かに賛同しかねるけどね。お兄ちゃんのキモチはお兄ちゃんの自由だからな」
僅かに目尻を下げて、父さんはそういった。
「ちょっ!!ダメだって父さんっ!俺は兄ちゃ……兄貴がホモとかイヤだぞ!」
「あら、お姉ちゃんは反対しないわよ。愛に性別も国境も人種も関係ないわー」
「姉貴!」
……どーしようか。本人そっちのけでどんどん話が進んでいくぞ。まだ、自分はハッキリそうだと肯定はしていないのに。
(俺って、そんなわかりやすいか……?)
三人の会話にドキドキしながら居たたまれない気持ちになる。けれども、何処までも味方になってくれる姉と、息子の将来を案じながらも理解を示そうとしてくれる父に、言葉には出来ない感謝が胸内に生まれた。
自分は本当に恵まれていると思う。
「父さん!息子が道を踏み外さないように正すのが親の愛じゃねぇの!」
踏み外した、事になるのかな、道を。
「息子が選んだ生き方をそっと見守るのも愛だねぇ」
にっこりと、目尻に笑い皺をつくりならが父が言った。
どっちも正論、だと思う。どちらか片方だけが正しくて、もう片方が間違っているわけじゃない。
「心配は出来ても、人生を肩代わりはしてあげられないからなねぇ。支えることや励ますことは出来ても、実際に偏見や理不尽な差別に立ち向かって乗り越えてゆくのは輝くんたちだ。嫌な思いをしたり、とても傷つきながら、それでも歩いていかなければならない。
だから、よく考えなさい」
選ぶこと、愛すること、生きること、立ち向かうこと。
思考しなさい。
たとえ答えが出なくとも、ただ立ちすくむだけでは、人は何も得られない。
立ちすくむだけでは、何ひとつ得られはしない。
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