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第63話
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子どもの頃から、熱を出すと家族全員のあまあまが更にべたべたにあまくなる家庭で育った所為で、どーも要らぬ世話を焼いてしまうというか、かまってしまうというか。
どうやらそーゆーのに慣れていないらしい久賀は、珍しくタジタジしててちょっとおかしかった。
まず、姉ちゃんを筆頭に、仕事から帰ったばかりの父親と、塾から戻った弟が次々と部屋を覗きにきて「こんばんは、はじめまして」から始まり「熱があるそうだが体調は大丈夫かい」と父。
「お家に連絡をいれておきますね。あらあら、今日は誰もお家にいないの?まぁまぁ」と姉。
「具合悪いのに家に1人とか大変じゃない?泊まっていけばいいよ!なぁ、父さん」と弟。
いやぁ……我が家族ながらすげぇ。本人の意思そっちのけで、お泊まり決定。
てっきり丁重にお断りをされるものだと思ったら、ベッドの上で姿勢を正し、深々と頭を下げて「一晩 ご厄介になります」と久賀。
予想外すぎて、喜びの実感は後から徐々にやってくる。
寝不足で体調不良のヤツに必要以上に構うつもりはねぇが……こいつが眠るまでの時間を、俺は独占できる。
二人きりのちょっぴりイレギュラーな、特別。
気を抜くと緩みそうになる頬を何とか押さえながら、耐熱皿に入ったおかゆを久賀に渡した。
「熱いから気をつけろよ」
「大丈夫。あだ名のひとつは野良猫だけど、猫舌じゃないから」
意味が分からんわぃ。
久賀は皿を受け取って、手を合わせて「いただきます」とちょっぴり頭を下げた。
こーゆートコロはちゃんとしつけがなってるよな。
いただきます。ごちそうさま。おはよう。こんにちわ。こんばんわ。さようなら。ありがとうとごめんなさい。
挨拶がちゃんと出来ただけで『えらいぞ!良い子だ』と大袈裟に誉められて育った輝の中では、コレは結構重要な部分。挨拶ひとつろくに出来ねぇヤツもいるからね。
「……そんな見られると、食べづらいですけど?」
レンゲを口にくわえて久賀が言った。
ついつい見守りモードになっていた俺反省。
「えーと、薬飲めよ」
水のボトルの隣に風邪薬を置いて、食い終わったら先に寝てて良いから、と言い残して部屋を出た。
俺はいまから家族と遅い晩ご飯だ。
階段をおりてリビングへ。
母親は今日は用事で実家に帰っているから、父、姉、弟と俺の四人で食卓を囲む。
話題が久賀の事ばかりだとか、二階にいる本人だけが知らない。
赤い髪にも引かない。ヒトを見掛けで判断しないトコロは、輝の家族自慢のひとつだ。
体調が悪くても姿勢を正して『世話になります』と頭を下げた姿が真実。
「兄貴兄貴っ。兄貴の友だちカッコイイーな!坂本さんと並んだら美形結界ができそーだよなー」
中学一年の弟、燿は最近背伸びをしたいのか、呼び方が兄ちゃんから兄貴に変わった。
大人ぶってはいても、甘えったな性格は隠せないんだけどな。
「ホントねー。モデルさんかと思っちゃったわー」
ねぇちゃんそれは誉めすぎです。
「じゃにー何とかってやつだろ?」
父さん……色んなところから石を投げられるから止めてくれ。頑張って娘と息子の意見に同意しようとしてるのは認めっから。後、父さんが若いころにも、じゃにー何とかさんたちの事務所もグループも存在してただろ……。
うん、家の父親は芸能関係にめちゃくちゃ疎いです。
「ねね。名前なんてゆーの。名前!」
隣に座る弟が、くいくいと裾を引っ張る。
食事中だぞとたしなめると「ごめんなさい」とちょっぴり落ち込む。うん、可愛い弟だ。
「久賀くんだよ。久賀龍二君」
「久賀くん」
「こら、さん付けしろよ」
「龍二さん!」
ぐ……っ!!!あ、あきら君!名前で呼ぶのはどうよ?何回も顔を合わせてる坂本や大山だって苗字で呼んでるのになして!俺だってな、呼べるものなら名前で呼んでみたいんだぞ……安田みたいにさ。
ナチュラルに名前を呼んだ弟に若干動揺するが、こほん、と咳払いをして気持ちを落ち着ける。いやいや。呼び方なんて重要じゃねぇもんよ、あれだ、大事なのは心です。とか意味不明なことを考えた。
そうそう、大事なのはそこじゃない。安田はお客さんだけど、俺は……オトモダチ候補だもんな。
(ピカピカと友だちに……なって、くれんのかな)
答えは結局、聞けないままだ。
ああ。悲しいな……。
「燿ちゃん。未来のお兄ちゃんになるかもしれないから、失礼がないようにするのよー」
ブブフゥー!!!
口に含んだ水を思いっきり吹き出す。
気管に入った水をケホケホする背中を、弟の手がバンバン叩いた。
「兄ちゃん!!しっかり」
「お兄ちゃん大丈夫か!ほら。ハンカチだ」
「あらあら、台拭きはどこだったかしら」
父さんからハンカチを受け取って水を吐き出し、痛む喉を差し出された水を飲んで癒やして、ふぅっと息を吐く。
「ねぇちゃん!変な冗談言うなよなぁ!!」
空になったグラスをだん!とテーブルに置いた。
「別にお姉ちゃんはおかしな事なんて言ってないわよ?」
「男同士は結婚できません!!」
イキナリ何言い出してるの、この姉はと動揺した俺は、ばしんっ!とテーブルを掌で叩き、隣からはとっても困惑した声が発せられた。
「え?姉ちゃんの旦那さんになるって意味じゃねぇの?」
弟の台詞に俺の思考は死にました。
……ひとはこれを「墓穴を掘る」と言うそうです。
どうやらそーゆーのに慣れていないらしい久賀は、珍しくタジタジしててちょっとおかしかった。
まず、姉ちゃんを筆頭に、仕事から帰ったばかりの父親と、塾から戻った弟が次々と部屋を覗きにきて「こんばんは、はじめまして」から始まり「熱があるそうだが体調は大丈夫かい」と父。
「お家に連絡をいれておきますね。あらあら、今日は誰もお家にいないの?まぁまぁ」と姉。
「具合悪いのに家に1人とか大変じゃない?泊まっていけばいいよ!なぁ、父さん」と弟。
いやぁ……我が家族ながらすげぇ。本人の意思そっちのけで、お泊まり決定。
てっきり丁重にお断りをされるものだと思ったら、ベッドの上で姿勢を正し、深々と頭を下げて「一晩 ご厄介になります」と久賀。
予想外すぎて、喜びの実感は後から徐々にやってくる。
寝不足で体調不良のヤツに必要以上に構うつもりはねぇが……こいつが眠るまでの時間を、俺は独占できる。
二人きりのちょっぴりイレギュラーな、特別。
気を抜くと緩みそうになる頬を何とか押さえながら、耐熱皿に入ったおかゆを久賀に渡した。
「熱いから気をつけろよ」
「大丈夫。あだ名のひとつは野良猫だけど、猫舌じゃないから」
意味が分からんわぃ。
久賀は皿を受け取って、手を合わせて「いただきます」とちょっぴり頭を下げた。
こーゆートコロはちゃんとしつけがなってるよな。
いただきます。ごちそうさま。おはよう。こんにちわ。こんばんわ。さようなら。ありがとうとごめんなさい。
挨拶がちゃんと出来ただけで『えらいぞ!良い子だ』と大袈裟に誉められて育った輝の中では、コレは結構重要な部分。挨拶ひとつろくに出来ねぇヤツもいるからね。
「……そんな見られると、食べづらいですけど?」
レンゲを口にくわえて久賀が言った。
ついつい見守りモードになっていた俺反省。
「えーと、薬飲めよ」
水のボトルの隣に風邪薬を置いて、食い終わったら先に寝てて良いから、と言い残して部屋を出た。
俺はいまから家族と遅い晩ご飯だ。
階段をおりてリビングへ。
母親は今日は用事で実家に帰っているから、父、姉、弟と俺の四人で食卓を囲む。
話題が久賀の事ばかりだとか、二階にいる本人だけが知らない。
赤い髪にも引かない。ヒトを見掛けで判断しないトコロは、輝の家族自慢のひとつだ。
体調が悪くても姿勢を正して『世話になります』と頭を下げた姿が真実。
「兄貴兄貴っ。兄貴の友だちカッコイイーな!坂本さんと並んだら美形結界ができそーだよなー」
中学一年の弟、燿は最近背伸びをしたいのか、呼び方が兄ちゃんから兄貴に変わった。
大人ぶってはいても、甘えったな性格は隠せないんだけどな。
「ホントねー。モデルさんかと思っちゃったわー」
ねぇちゃんそれは誉めすぎです。
「じゃにー何とかってやつだろ?」
父さん……色んなところから石を投げられるから止めてくれ。頑張って娘と息子の意見に同意しようとしてるのは認めっから。後、父さんが若いころにも、じゃにー何とかさんたちの事務所もグループも存在してただろ……。
うん、家の父親は芸能関係にめちゃくちゃ疎いです。
「ねね。名前なんてゆーの。名前!」
隣に座る弟が、くいくいと裾を引っ張る。
食事中だぞとたしなめると「ごめんなさい」とちょっぴり落ち込む。うん、可愛い弟だ。
「久賀くんだよ。久賀龍二君」
「久賀くん」
「こら、さん付けしろよ」
「龍二さん!」
ぐ……っ!!!あ、あきら君!名前で呼ぶのはどうよ?何回も顔を合わせてる坂本や大山だって苗字で呼んでるのになして!俺だってな、呼べるものなら名前で呼んでみたいんだぞ……安田みたいにさ。
ナチュラルに名前を呼んだ弟に若干動揺するが、こほん、と咳払いをして気持ちを落ち着ける。いやいや。呼び方なんて重要じゃねぇもんよ、あれだ、大事なのは心です。とか意味不明なことを考えた。
そうそう、大事なのはそこじゃない。安田はお客さんだけど、俺は……オトモダチ候補だもんな。
(ピカピカと友だちに……なって、くれんのかな)
答えは結局、聞けないままだ。
ああ。悲しいな……。
「燿ちゃん。未来のお兄ちゃんになるかもしれないから、失礼がないようにするのよー」
ブブフゥー!!!
口に含んだ水を思いっきり吹き出す。
気管に入った水をケホケホする背中を、弟の手がバンバン叩いた。
「兄ちゃん!!しっかり」
「お兄ちゃん大丈夫か!ほら。ハンカチだ」
「あらあら、台拭きはどこだったかしら」
父さんからハンカチを受け取って水を吐き出し、痛む喉を差し出された水を飲んで癒やして、ふぅっと息を吐く。
「ねぇちゃん!変な冗談言うなよなぁ!!」
空になったグラスをだん!とテーブルに置いた。
「別にお姉ちゃんはおかしな事なんて言ってないわよ?」
「男同士は結婚できません!!」
イキナリ何言い出してるの、この姉はと動揺した俺は、ばしんっ!とテーブルを掌で叩き、隣からはとっても困惑した声が発せられた。
「え?姉ちゃんの旦那さんになるって意味じゃねぇの?」
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