うそつきな友情(改訂版)

あきる

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第62話

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 久賀の兄ちゃんが容赦ないってことがわかった。
 それにしても、家族のことを話すのは嫌そうだったのにさ、どーしたよこいつ……まだ、寝ぼけてんのか。

 アルバムを見る目は穏やかで、昔の事を話してくれた声音も優しいけれど、やっぱりどこか遠い。
 そして、ふと気がついた。
 浮かんでいる感情の色は異なるけれど、横顔はあの雨の日のこいつと同じだと。
 遠い場所を見ている目が、同じだった。

 笑っているけど、ホントは悲しくて……泣いているような、そんなイメージを抱かせるこいつの目。
 雨の日の印象が強すぎるから、そんな風に思うのだろうか?

「お姉さんと仲良いんだな。愛されてベタベタに甘やかされたんだろう。良くわかる。俺もあんなに可愛い姉さんだったら欲しかったな」

 幼い頃は姉と一緒に写っている写真ばかりだ。ブラコンを公言してはばからない姉は、確かに弟ふたりをあまあまに甘やかした。
 
 二人目の弟が生まれるまで、彼女の深い愛情は俺ひとりのものだった。

 幼い俺も、もちろん姉が大好きだった。お母さんとお父さんとどっちが好き?なんて、面白がって尋ねる親戚のおばさんたちに、世辞も建て前も知らない純真な子どもは「いちばんはお姉ちゃん」とハッキリ答えるくらい優しい姉にべったりだった。しかし、怒らせると両親よりも怖い。

 久賀は、どうだったんだろう。
 口調なんかから察するに、二人いるらしい兄の事は、大切に思っているみたいだが、愛したからって愛し返されるとは限らない。
 俺には姉弟に手酷く傷つけられた記憶なんてないし、そんな悲しい事は想像もできないけれど、日本中のすべての家族が円満な日常を得られているわけではないという事を、理解できないほど子どもじゃない。

(久賀は、兄弟仲いいの?)

 知りたかったけど、訊けなかった。
 アルバムに向けられる目は遠い。
 ここではないどこかを見ている気がした。

 憧れと、悲しみが入り交じる目は、うその仮面じゃなくて、ホントのこいつだ。
 きっと、そうだ。
 でも、どうしてだろう。
 うそじゃないお前がすぐ側にいるのに、ひどく、寂しい……。

「飯、食ってくよな」

 無理矢理、話題を変えた。
 こっち見ろよと、乱暴なことを考えていた。

 そんな小さな四角い本の中にあるのは、思い出だけだ。
 しかも、その中に久賀はいない。
 そんなモノを、そんな寂しそうな目をして見るなよ。

 楽しい思い出が欲しいなら、俺が一緒につくってやるのに。

 決して手に入らない幻を追いかけているような。
 そんな悲しい目。

 うそつきな外面がゆるゆるなのは、やっぱり体調が悪い所為なんだろう。
 本心と向き合えるのは願ってもないが、コイツが寂しそうだったり悲しそうだと、俺は嫌だ。

「お姉さんの手料理。魅惑的だ。が、しかし問題がひとつ」

 真面目な顔して久賀がこっちに顔を向けた。

 やっと視線が合う。
 そんな小さな事で、心臓は速度を増す。

「も、問題って?」

 ただ事じゃねぇって雰囲気を醸し出しやがったので、ついついそれに乗ってこっちも緊張する。
 声を潜めて、ごくりと咽を鳴らした。

「2日ほど飯をまともに食ってないから、固形食はリバースする自信が大いにある。むしろ自信しかない」

 ブイッと指を二本立てた久賀が、真剣な眼差しで言った。
 それは確かに大問題である。
 そして、久賀さんのテンションは寝る前からオカシかったが、起きた後も御覧の通り。ま、2日間の睡眠があわせて二時間ちょっとじゃあ脳みそトチ狂って当然といやぁ当然だが。

「な、久賀。ちょっと熱はからせてくんない?」

 いくらなんでも、トチ狂いすぎだろーと思った訳ですよ、ええ。


で―。




「へい!おかゆ一丁おまち!!」

「おー!」

 トレーに乗せた熱々のお粥を持って、部屋のドアをあけた。
 拍手なんかされたけど、そんな盛り上がる場面でもない。

「飯だ飯だ。美人さんの手作りだ」

 るんるんと鼻歌でも歌い出すんじゃねぇかってくらい、上機嫌なとこ大変もーしワケねぇですが。

「ゴメン。おかゆ作ったのは俺です」

「………………もりさがるわー」

 コテンと、壁に頭をくっつけて、大袈裟に落胆する相手。この野郎。なんて失礼なヤツでしょー。
 ま、俺だって女の子に料理つくってもらった方がウレシいけどさ。


「うっさいな!おかゆくらい誰が作っても大差ねぇだろ」

「バカヤロー。お粥なめんなよ!中国四千年の歴史に謝れ。ちっ、仕方ネェな。輝ちゃんの手料理、食ってやろうじゃねぇーですか」

「ちゃんづけすんな!後、なにその上から口調!あ、体調悪いのにわざわざ机に移動しなくていいって、モヤシっ子。ベッドから出んな」

 いつもと明らかに様子がおかしい久賀は、やっぱりって言うか当然というか、寝不足と肉体労働(?)の所為で発熱していやがりました。
 そんなわけで、体温測って、アルバム取り上げて、ベッドに押し込んで、薬を飲ませるには胃に食べ物をぶち込まなきゃなとマッハでお粥を作り、現在に至る。

 
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