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第66話
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悔しいのか、悲しいのか、分からずに立ちすくんだ。
何にも、こんなちっぽけなことすら、満足に出来なくて、情けない。
「尾上?」
キシッとベッドが小さく鳴く。
せっかく布団を被せたのに、久賀が起き上がった。
あー……何やってんだよ、馬鹿。いや、俺の所為か。
ベッドに腰掛け、どーかしたの?と、人の顔を覗き込む相手。
いたたまれないって、きっとこーゆーキモチのことを言うんだ。
「これ……食ったの?」
「ん?食えって持ってきただろ。あ、薬もちゃんと飲んだぞ」
「甘かった、だろ」
「ん、ああ。殺人的甘さでちょっと泣けた。お前、料理したこと無いだろう」
初歩的ミス以前の問題と、久賀はクスクス笑う。
なんでだろう。
こんなの食べられないって怒っても良かったのに。お前、甘いもの嫌いだろ。無理して食べる必要なんてなかったんだ。
久賀はクスクスと、綺麗な笑みをこぼす。
それが演技なのか本心なのか俺には分からない。
だけど、土鍋の中のお粥は空っぽで、コイツは俺のことをちっとも責めたり、怒ったりしなかった。
俺はコイツに、お粥ひとつだって、まともに作ってあげられないのに。
「こんなの……」
なんにも、なにひとつ、あげられない。
「こんなの食うなよなっ馬鹿。捨てろよ!」
こんな風に、行き場のない憤りに振り回されて、八つ当たりみたいなことをしている。
責めたいのは自分自身なのに、なんで久賀にこんなキツいこと言ってんの俺っ。
あと、泣けばいいってもんじゃねぇだろ。
(うぜぇ……俺、ウゼェ)
ごしごしと腕で乱暴に目元を擦る。
感情のコントロールが出来ない。小さな子どもじゃあるまいし。
握り拳を作っていた方の腕を、きゅっと握られた。
冷たい指だ。
手の冷たいヒトは心があったかいという、根拠のない戯れ言を思い出した。
「なんかあったのか?」
見上げてくる目の奥。
そこに見え隠れする優しさも、作りモノなのだろうか。
甘いお粥を食べたことも、アルバムを見て笑っていたのも、全部、今を無難に過ごすための演技だろうか。
(いや……だなぁ)
自分が。
そんな風に、いちいち疑って、コレは演技か、アレは本心かと、そんな事ばかり気にしている。
訊きたいことも訊けずに、ひとりで立ち止まっている。
そんな自分が弱くて、キライだ。
俺の目の前で、俺を見て、俺を心配してくれるコイツが、ちゃんとホンモノであればいいのにと願っている。だけどコレが全て演技なら、俺は自分が傷ついて悲しいから、だから。
「ゴメン、俺が、俺が間違えて……馬鹿なのは俺なのに」
演技だとそう決めつけて、自分の心を押し込める。
優しいと感じるとき、嬉しいと思うとき、自惚れるなと自身に命じる。
恋するキモチが、勝手に暴走しないように友情の名前をつけて自分を押し込める。
必死に、心を隠して、好きな相手にうそをつく。
「八つ当たり、です。ゴメンナサイ」
恋が心を脆くするように、嘘も心を弱くするのかもしれない。
久賀の視線は真っ直ぐに向けられた。嘘つきなくせに、何度見ても見飽きない、キレイな目だ。
理不尽な怒りをぶつけた俺を、コイツは責めなかった。
冷たくされたら悲しいのに、優しくされても苦しいのは何でだろうな。
「次は、食うなよ。いや、次は姉ちゃんに作ってもらうから大丈夫だけどさ。無理されると、なんか、嫌だ」
「別に毒を盛られたわけじゃないし」
「殺人的に甘かったんだろ。ホント、何で食べちゃうかな。文句言って良かったんだ。我慢するなよな」
「んー……尾上が、俺に食わせるために作ったから」
「はい?」
「俺のためにわざわざ作ってくれたんでしょ。だったら、食べるよ。捨てちゃうなんて勿体ねぇ。それに優雅……椎名にはもっと凄い料理を大量に出されたことがあるし、あれに比べたらなぁ」
アレはキツかった、と、遠い目をする久賀。
どんなヒドい料理だったんだろう、なんて疑問が浮かぶ……いや、そんな事より、いま、もの凄く嬉しい事を言われたのでは?
(俺が、作ったから……?)
「ヒトに飯作ってもらうの、好きなんだよね。甘い粥も吐くほどキツくは無かったよ。ちょっと胸焼けする程度」
「駄目じゃん」
あはは、と久賀が笑う。
俺の失敗を笑い飛ばして、はい、このハナシはこれでおしまい、と言ってくれた。
ビックリするくらい優しくて……俺は、どうしたらいい?
答えは、頭よりも心の方が知っている。
ほとんど無意識だった。
衝動の赴くままに、相手を抱きしめていた。
片手は掴まれたままだったから、もう片方の手だけでちょっぴり不格好に首にしがみつく。
何にも出来ず、何にも与えられず、自分の気持ちすら偽って、それでも側に居たいと心は叫んでいた。
何にも、こんなちっぽけなことすら、満足に出来なくて、情けない。
「尾上?」
キシッとベッドが小さく鳴く。
せっかく布団を被せたのに、久賀が起き上がった。
あー……何やってんだよ、馬鹿。いや、俺の所為か。
ベッドに腰掛け、どーかしたの?と、人の顔を覗き込む相手。
いたたまれないって、きっとこーゆーキモチのことを言うんだ。
「これ……食ったの?」
「ん?食えって持ってきただろ。あ、薬もちゃんと飲んだぞ」
「甘かった、だろ」
「ん、ああ。殺人的甘さでちょっと泣けた。お前、料理したこと無いだろう」
初歩的ミス以前の問題と、久賀はクスクス笑う。
なんでだろう。
こんなの食べられないって怒っても良かったのに。お前、甘いもの嫌いだろ。無理して食べる必要なんてなかったんだ。
久賀はクスクスと、綺麗な笑みをこぼす。
それが演技なのか本心なのか俺には分からない。
だけど、土鍋の中のお粥は空っぽで、コイツは俺のことをちっとも責めたり、怒ったりしなかった。
俺はコイツに、お粥ひとつだって、まともに作ってあげられないのに。
「こんなの……」
なんにも、なにひとつ、あげられない。
「こんなの食うなよなっ馬鹿。捨てろよ!」
こんな風に、行き場のない憤りに振り回されて、八つ当たりみたいなことをしている。
責めたいのは自分自身なのに、なんで久賀にこんなキツいこと言ってんの俺っ。
あと、泣けばいいってもんじゃねぇだろ。
(うぜぇ……俺、ウゼェ)
ごしごしと腕で乱暴に目元を擦る。
感情のコントロールが出来ない。小さな子どもじゃあるまいし。
握り拳を作っていた方の腕を、きゅっと握られた。
冷たい指だ。
手の冷たいヒトは心があったかいという、根拠のない戯れ言を思い出した。
「なんかあったのか?」
見上げてくる目の奥。
そこに見え隠れする優しさも、作りモノなのだろうか。
甘いお粥を食べたことも、アルバムを見て笑っていたのも、全部、今を無難に過ごすための演技だろうか。
(いや……だなぁ)
自分が。
そんな風に、いちいち疑って、コレは演技か、アレは本心かと、そんな事ばかり気にしている。
訊きたいことも訊けずに、ひとりで立ち止まっている。
そんな自分が弱くて、キライだ。
俺の目の前で、俺を見て、俺を心配してくれるコイツが、ちゃんとホンモノであればいいのにと願っている。だけどコレが全て演技なら、俺は自分が傷ついて悲しいから、だから。
「ゴメン、俺が、俺が間違えて……馬鹿なのは俺なのに」
演技だとそう決めつけて、自分の心を押し込める。
優しいと感じるとき、嬉しいと思うとき、自惚れるなと自身に命じる。
恋するキモチが、勝手に暴走しないように友情の名前をつけて自分を押し込める。
必死に、心を隠して、好きな相手にうそをつく。
「八つ当たり、です。ゴメンナサイ」
恋が心を脆くするように、嘘も心を弱くするのかもしれない。
久賀の視線は真っ直ぐに向けられた。嘘つきなくせに、何度見ても見飽きない、キレイな目だ。
理不尽な怒りをぶつけた俺を、コイツは責めなかった。
冷たくされたら悲しいのに、優しくされても苦しいのは何でだろうな。
「次は、食うなよ。いや、次は姉ちゃんに作ってもらうから大丈夫だけどさ。無理されると、なんか、嫌だ」
「別に毒を盛られたわけじゃないし」
「殺人的に甘かったんだろ。ホント、何で食べちゃうかな。文句言って良かったんだ。我慢するなよな」
「んー……尾上が、俺に食わせるために作ったから」
「はい?」
「俺のためにわざわざ作ってくれたんでしょ。だったら、食べるよ。捨てちゃうなんて勿体ねぇ。それに優雅……椎名にはもっと凄い料理を大量に出されたことがあるし、あれに比べたらなぁ」
アレはキツかった、と、遠い目をする久賀。
どんなヒドい料理だったんだろう、なんて疑問が浮かぶ……いや、そんな事より、いま、もの凄く嬉しい事を言われたのでは?
(俺が、作ったから……?)
「ヒトに飯作ってもらうの、好きなんだよね。甘い粥も吐くほどキツくは無かったよ。ちょっと胸焼けする程度」
「駄目じゃん」
あはは、と久賀が笑う。
俺の失敗を笑い飛ばして、はい、このハナシはこれでおしまい、と言ってくれた。
ビックリするくらい優しくて……俺は、どうしたらいい?
答えは、頭よりも心の方が知っている。
ほとんど無意識だった。
衝動の赴くままに、相手を抱きしめていた。
片手は掴まれたままだったから、もう片方の手だけでちょっぴり不格好に首にしがみつく。
何にも出来ず、何にも与えられず、自分の気持ちすら偽って、それでも側に居たいと心は叫んでいた。
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