85 / 135
第67話
しおりを挟む
何にも出来ない、うそつきで卑怯な俺を、許して欲しいと、心の中で願った。
手首を掴んでいた手がするりと離れて、ポンポンと背中をあやすように叩かれた。
「……やっぱり、何か言われたか?」
「なにか、って?」
「ん…………ホモは病気だとか?」
「……っ!」
思いもしなかった言葉に俺は言葉を失った。
え。いま、何て言ったの。
無言で相手を見下ろすと、久賀はわずかに目を細めた。
「んん、もしかして図星か。お姉さん俺たちのことカンチガイしてたみたいだし、家族に誤解されて嫌な思いでもしたのか?悪かったな。明日にでもちゃんと弁解して」
「ぁ、違う!言われてない、そんなんじゃなくてちょっと衝撃ってゆーか、えっと……お前は誰かに言われたことあるの……その、病気だとか?」
そんな、心をえぐる酷い言葉を、誰かに言われたのか?
久賀は、いつも通りのちょっとふざけたような口調で「なんだ、違うならいいや」と言った。
背中にあった掌が離れていく。
途端に寂しくなって久賀の肩に置いてあった手をぎゅっとして、服を握りしめると「おっと、捕捉された」なんて、作り口調でふざけられた。
そんな、冗談を言うような場面でもないのに。
「お前、誰にそんな酷いこと言われたんだよ」
「ん。どしたよ。なに熱くなってんの。深呼吸、深呼吸。ひっひっふーだぞ」
「ふーざーけーんなー!」
むぎゅっとほっぺたをつまんで軽く左右に引っ張った。いたたたっと大袈裟に痛がる仕草も嘘っぽい。この野郎。ヘラヘラしやがって。
シリアスなムードなんか嫌いです、な久賀を相手にマジメなハナシなんて五分と保たない。
「ギブギブ、ほっぺが伸びちゃう」
痛がってるのに嬉しそうで「ドエムかっ!」と突っ込みを入れ、溜め息をひとつ吐いて、指の力を少し強めた。
「やっぱ許さん!ちゃんと答えるまで、逃がさねぇ」
「おおうっ。いつになく強気の輝ちゃんにりゅーじさんったらドキドキしちゃうわ。優しくしてね、はにぃー」
「おう、泣かしたるぜ、ダーリン」
ケラケラ笑いながら逃げる久賀を追ってベッドにダイブした。
布団を被せたり枕をぶつけたりと、片方が病人だってことも忘れて、二人でジャレあった。
久賀のバイトのことや、うそつきな外面や、恋心も知らなかった時みたいに、バカなことを言って、ふざけ合った。
だって、久賀が笑うんだよ。
作り物じゃなくて、うその仮面じゃなくて、ただ楽しくて仕方ないって顔で、笑うんだ。
この笑顔のためなら、何だって出来るのにと、枕を投げつけながら思う。
飾りっ気のない16歳の、ホンモノの笑顔だ。そう信じられる。
大人びたスーツを着て、本心を隠す不敵な笑みを唇の端っこに浮かべて、望んでもない相手と寝るような、そんな姿とはちっともリンクしない、ただの高校生の姿だ。
俺が勝手に信じてる、本来のコイツの姿。
「うー。ギブ。俺の、負けです」
久賀は両手を広げて、降参のポーズを見せた。
肩で息をしながら、ぐっと握り拳を作り「勝った」と呟く俺。冷静に考えると病人に勝ったからって、ちっとも自慢にはなりはしない。
「うあー……薬でちょっち気分が良くなったからって、アホなコトしちゃったよ」
「あ。熱あったね、そーいえば」
うん、なにやってるかな俺は。
病人相手にプロレスごっこ。
マジで状況考えろし。
後先考えないでバカをやってしまうのは、俺たちがガキだからだろうか。
あまりの馬鹿さ加減がツボったのか、久賀がぶぶっと吹き出して笑いはじめた。
「あー……はじまったよ、久賀の馬鹿笑いが」
「いや、だって、アホらしいでしょう。俺ら何やってんの?つか、病人相手にガチになるとか尾上ったら意外と鬼畜」
「うっさい、手加減したし。アホなのは今更だろー」
ボスっと、久賀と上下逆さまにベッドに寝ころんだ。
天井を見上げながら「具合悪いのにスミマセンネ、マジで」と片言で謝ってみる。
「ん……まぁ、気が晴れたからいいや。2日くらい、陰鬱な気配にベッタリされて、ちょっとメンタルヤバかったし」
「お前は一体、何をやってるんだ久賀さんよ」
「あはは。内緒」
多分、バイトのことなんだろうな、とは思ったが、突っ込むと折角機嫌よく笑っている久賀の気分を害してしまいそうで、小さな溜め息を吐いて終わらせた。
さっきの、久賀の言葉がくるくると頭の中を回っている。
追求したって、きっと久賀は教えてくれないし、憤るだけ無駄だって事は分かっていた。
けど。
「久賀」
「ん?なぁに」
「次、誰かに酷いコト言われたらさ、教えろよ」
「ん……なんで?」
「俺が怒るから」
ホモが病気だとか、偏見も甚だしい。
ただ、好きになっただけだ。
好きになったヒトが、同性だっただけだ。
それは、暴言を吐かれるほどに罪なのか?
「お前が笑って流すなら、俺がキレて怒ってやるんだ。自由恋愛だほっとけって言ってやる」
身勝手といわれても、久賀が誰かにひどい言葉を投げつけられたら、俺は辛いし悲しいし、腹が立つと思う。
手首を掴んでいた手がするりと離れて、ポンポンと背中をあやすように叩かれた。
「……やっぱり、何か言われたか?」
「なにか、って?」
「ん…………ホモは病気だとか?」
「……っ!」
思いもしなかった言葉に俺は言葉を失った。
え。いま、何て言ったの。
無言で相手を見下ろすと、久賀はわずかに目を細めた。
「んん、もしかして図星か。お姉さん俺たちのことカンチガイしてたみたいだし、家族に誤解されて嫌な思いでもしたのか?悪かったな。明日にでもちゃんと弁解して」
「ぁ、違う!言われてない、そんなんじゃなくてちょっと衝撃ってゆーか、えっと……お前は誰かに言われたことあるの……その、病気だとか?」
そんな、心をえぐる酷い言葉を、誰かに言われたのか?
久賀は、いつも通りのちょっとふざけたような口調で「なんだ、違うならいいや」と言った。
背中にあった掌が離れていく。
途端に寂しくなって久賀の肩に置いてあった手をぎゅっとして、服を握りしめると「おっと、捕捉された」なんて、作り口調でふざけられた。
そんな、冗談を言うような場面でもないのに。
「お前、誰にそんな酷いこと言われたんだよ」
「ん。どしたよ。なに熱くなってんの。深呼吸、深呼吸。ひっひっふーだぞ」
「ふーざーけーんなー!」
むぎゅっとほっぺたをつまんで軽く左右に引っ張った。いたたたっと大袈裟に痛がる仕草も嘘っぽい。この野郎。ヘラヘラしやがって。
シリアスなムードなんか嫌いです、な久賀を相手にマジメなハナシなんて五分と保たない。
「ギブギブ、ほっぺが伸びちゃう」
痛がってるのに嬉しそうで「ドエムかっ!」と突っ込みを入れ、溜め息をひとつ吐いて、指の力を少し強めた。
「やっぱ許さん!ちゃんと答えるまで、逃がさねぇ」
「おおうっ。いつになく強気の輝ちゃんにりゅーじさんったらドキドキしちゃうわ。優しくしてね、はにぃー」
「おう、泣かしたるぜ、ダーリン」
ケラケラ笑いながら逃げる久賀を追ってベッドにダイブした。
布団を被せたり枕をぶつけたりと、片方が病人だってことも忘れて、二人でジャレあった。
久賀のバイトのことや、うそつきな外面や、恋心も知らなかった時みたいに、バカなことを言って、ふざけ合った。
だって、久賀が笑うんだよ。
作り物じゃなくて、うその仮面じゃなくて、ただ楽しくて仕方ないって顔で、笑うんだ。
この笑顔のためなら、何だって出来るのにと、枕を投げつけながら思う。
飾りっ気のない16歳の、ホンモノの笑顔だ。そう信じられる。
大人びたスーツを着て、本心を隠す不敵な笑みを唇の端っこに浮かべて、望んでもない相手と寝るような、そんな姿とはちっともリンクしない、ただの高校生の姿だ。
俺が勝手に信じてる、本来のコイツの姿。
「うー。ギブ。俺の、負けです」
久賀は両手を広げて、降参のポーズを見せた。
肩で息をしながら、ぐっと握り拳を作り「勝った」と呟く俺。冷静に考えると病人に勝ったからって、ちっとも自慢にはなりはしない。
「うあー……薬でちょっち気分が良くなったからって、アホなコトしちゃったよ」
「あ。熱あったね、そーいえば」
うん、なにやってるかな俺は。
病人相手にプロレスごっこ。
マジで状況考えろし。
後先考えないでバカをやってしまうのは、俺たちがガキだからだろうか。
あまりの馬鹿さ加減がツボったのか、久賀がぶぶっと吹き出して笑いはじめた。
「あー……はじまったよ、久賀の馬鹿笑いが」
「いや、だって、アホらしいでしょう。俺ら何やってんの?つか、病人相手にガチになるとか尾上ったら意外と鬼畜」
「うっさい、手加減したし。アホなのは今更だろー」
ボスっと、久賀と上下逆さまにベッドに寝ころんだ。
天井を見上げながら「具合悪いのにスミマセンネ、マジで」と片言で謝ってみる。
「ん……まぁ、気が晴れたからいいや。2日くらい、陰鬱な気配にベッタリされて、ちょっとメンタルヤバかったし」
「お前は一体、何をやってるんだ久賀さんよ」
「あはは。内緒」
多分、バイトのことなんだろうな、とは思ったが、突っ込むと折角機嫌よく笑っている久賀の気分を害してしまいそうで、小さな溜め息を吐いて終わらせた。
さっきの、久賀の言葉がくるくると頭の中を回っている。
追求したって、きっと久賀は教えてくれないし、憤るだけ無駄だって事は分かっていた。
けど。
「久賀」
「ん?なぁに」
「次、誰かに酷いコト言われたらさ、教えろよ」
「ん……なんで?」
「俺が怒るから」
ホモが病気だとか、偏見も甚だしい。
ただ、好きになっただけだ。
好きになったヒトが、同性だっただけだ。
それは、暴言を吐かれるほどに罪なのか?
「お前が笑って流すなら、俺がキレて怒ってやるんだ。自由恋愛だほっとけって言ってやる」
身勝手といわれても、久賀が誰かにひどい言葉を投げつけられたら、俺は辛いし悲しいし、腹が立つと思う。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
僕の王子様
くるむ
BL
鹿倉歩(かぐらあゆむ)は、クリスマスイブに出合った礼人のことが忘れられずに彼と同じ高校を受けることを決意。
無事に受かり礼人と同じ高校に通うことが出来たのだが、校内での礼人の人気があまりにもすさまじいことを知り、自分から近づけずにいた。
そんな中、やたらイケメンばかりがそろっている『読書同好会』の存在を知り、そこに礼人が在籍していることを聞きつけて……。
見た目が派手で性格も明るく、反面人の心の機微にも敏感で一目置かれる存在でもあるくせに、実は騒がれることが嫌いで他人が傍にいるだけで眠ることも出来ない神経質な礼人と、大人しくて素直なワンコのお話。
元々は、神経質なイケメンがただ一人のワンコに甘える話が書きたくて考えたお話です。
※『近くにいるのに君が遠い』のスピンオフになっています。未読の方は読んでいただけたらより礼人のことが分かるかと思います。
虚ろな檻と翡翠の魔石
篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」
不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。
待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。
しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。
「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」
記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる