うそつきな友情(改訂版)

あきる

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第69話

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 パタンと小さな音を立ててドアが閉まる。
 ひんやりした廊下で数秒、立ち尽くした。
 楽しいキモチは、一瞬で走っていって、笑顔も消えてしまう。

「輝ちゃん」

 名前を呼ばれて視線を移動させると、やんわりと微笑む姉がすぐ側にいてくれた。
 いつだって味方になってくれると、わかっているヒトだ。

「姉ちゃん……ハナシ聞いてた?」

「少しだけ、ね」

 土鍋を乗せたトレーを姉が受け取りながら答えてくれる。

 久賀はひたすら笑顔だったけど、笑って話すような内容なんかじゃなかったよね。

「おかゆ、全部食べてくれた」

「そう、良かったわね」

「アイツさ、甘いのキライなんだよ。胸やけして大変なんだ」

「優しい子なのね、久賀くんは」

「意地悪だよ。性格悪いし、嘘つきだし、気紛れで意味わかんないし」

「そう」

「強がるし、猫かぶりだし、節操無しで、誠実さ皆無だし……」

 ひとりでいようとするし、自分の方がきっと沢山の悪意に傷ついて苦しい思いをしてきたはずなのに、俺に「何かあったか」って訊いてくれる。
 「お前は大丈夫」って言って不安な俺を労ってくれる。
 多分、演技でも気紛れでもなくて、ホントの心で、心配してくれる。
 だけど、心配はさせてくれないんだ。
 優しくしようとしたら、笑って拒否るし、差し伸べた手は、いつだって振り払われる。
 気まぐれに俺を振り回して、夢中にさせて、ほんの少しだけ距離が近づいたのかと思ったら、瞬きの間に遠ざかってしまう。

「輝ちゃん、大丈夫?」

 まるで小さな子どもを相手にするような仕草で、姉が頭を撫でてくれた。
 弟が男を好きになるイキモノだと知っても、姉の無償の愛は何一つ変わらなかった。
 心が軽くなる、弱音を吐いてもいいんだと、安心する。

 久賀には、そんな相手がいるだろうか。


 ―親兄弟に恋愛趣向が同性に向いてる所為で責められる心配はねぇよ―


 あの言葉は……久賀は親兄弟に責められたことがあるってことなのかな。
 だから、従兄弟と二人で住んでるの?家族のことを話したがらない理由もそれなのかな?

 想像の範疇はんちゅうでしかない。真実はアイツが語るまでわからないままだ。

「姉ちゃん、俺ね」

「なぁに」

「俺はホモじゃないから心配すんなって、久賀に言われたんだ。だけど……俺」

「うん」

「…………俺さ、アイツとダチになったよ。これから、友情を培っていくんだ。友人として、側にいるんだ。側に、いたいんだよ」

「そう、大事なのね。とっても大好きなのね」

「うん、大好きなんだ」

 泣きたくなった。
 高校生にもなってこんなにしょっちゅう泣いてるなんて、ダセェしちょっと涙腺おかしいよな。


 胸の中に確かにある、好きだと思う感情。
 恋なのか、憧れなのか、友情なのか、思い込みなのか。

 ヒトは自分が抱く様々な想いに、どんな理屈のもとに名前をつけているんだろう。

 久賀に恋をしていると思う俺と、お前はこっち側じゃないよと断言するアイツ。
 

「姉ちゃん、ごめん。俺、あいつの友だちになりたかったんだ。ホントにそれだけだったんだよ」

「何を謝る必要があるの?アナタはただ自分が望む道を進めばいいの。たとえ何があってもお姉ちゃんだけは、ずっとずっと輝ちゃんの味方だから。忘れないでね」

 言外に同性を好きになった後ろめたさを含めて詫びる俺に、姉はそう言って笑い、頭を撫で続けてくれた。

 たぶん俺は、姉にだけは、知っておいて欲しかったんだと思う。どこまでも味方でいてくれる姉にだけは、俺の中に息づく想いを吐き出したかった。

 胸の真ん中にある、確かな気持ち。

 いつか、いつの日か、涙を流すほどの切なさは消えてしまって、思い返すことに胸が痛まなくなって、ああ、でもきっと恋だったよと、懐かしむだけの思い出なにかになったとしても、今はまだ俺の心の中心で赤々と燃えているもの。

 恋だと、名前をつけた感情いろ

「誰にも言わないで。俺は友情で十分だから。やっとトモダチの位置に立てたのに、サヨナラなんてイヤなんだよ。だから、秘密にして、姉ちゃん」

 恋人にはなれないから、友人でいようとする俺の真意を知っても、姉は何も言わなかった。

 たぶん、胸の中の想いを恋だと誰かに示すのは、これが最初で最後だ。

 俺は友情だと、うそをつき続けるよ。

 誰に何を訊かれても、弟に追求されても、俺は友情だと言い続ける。
 うそつきな俺の精一杯で演じる、うそつきの友情。

 ただアイツの側で笑うために、友情を演じようと、そう誓った。






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