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第82話
しおりを挟む『おほしさまと みにくくておおきなけもの』
むかし、むかし。
遠いお空の端っこに、小さな世界がありました。
世界の端っこの暗い森の側には、大きくて醜い真っ黒な獣が住んでいました。
獣はとても寂しがり屋なのですが、獣の姿はとても恐ろしく体もとても大きかったので、みんなから怖がられて嫌われていました。
寂しがり屋な獣は、いつもひとりぼっちでした。
その絵本は、臆病で不器用で醜い寂しがり屋の獣の話だった。
人は獣を嫌って恐れていたけれど、獣は人が好きだった。
石を投げられても、汚い言葉で傷つけられてもヒトの側に寄り添おうとした。
だけど、獣の行動は、全てが裏目にでる。
ある日、川で溺れそうな子どもを助けたら、獣が足を引っ張った事にされた。
またある時は、木に登って下りられない猫を助けようとしたら、木は折れてしまって、それを目撃した人たちに小さな生き物を襲って食べようとしていたと責められた。
それから、食べものが少ない冬に、山や森を駆け回って集めた木の実や、山菜をみんなにわけてあげようとしたら、獣が貴重な食べものを独り占めしている所為で、俺たちが食べるモノがないんだ、と恨まれた。
獣はそれでも一生懸命がんばるのだけれど、人々は獣を恐れて憎むばかりで、ほんの僅かな歩み寄りすらしてはくれなかった。
人々は獣に石を投げ、農具や猟銃を手に取り、獣を追いやった。
獣は、とうとう深くて暗い森の中から、出てくることさえ許されなくなってしまった。
暗い森の中、獣はしくしくと泣いて暮らした。
(なんか……暗いハナシだな、おい)
これは子どもの情緒教育的にどーなの?
ミナミちゃんは「りゅーちゃんがくれた」って嬉しそうに言ってましたけども……チョイスミスじゃねーですかね、久賀さんよ。
ちらりと、美波ちゃんに視線を落とすと、絵本を見ながら「つづき読んで」とねだられる。
「えーと、美波ちゃん。別の絵本にしない?」
これはちょっと、暗くて悲しいハナシみたいだし。
穏やかに笑って見せたけど、彼女は「やー!おほしさまみるのー」と、ちょっぴり不機嫌さんになってしまった。
「これ、パパの本だもん」
だからこれが良い。と彼女は言った。
それを聞いてちょっとビックリする。
パパの本ってことは。
「この本の作者は、美波ちゃんのパパってこと?」
「んー?ミナミ良くわかんない」
ことり、と首を傾けながら美波ちゃんが言った。
どうやら俺の質問が難しかったらしい。
絵本の表紙を見たが、作家の名前は横文字だった。
うーん、わからない。
後で久賀に訊いてみよう。
どうしてもこの絵本を読んでほしいらしい美波ちゃんに、服を引っ張られて「つづきー」と強請られた。
そういえば、燿がちっちゃい時も絵本を読んでやったなぁ。と、昔を懐かしむ。
美波ちゃんの頭を撫でてやって、次のページを開いた。
「ひとりぼっちで泣いてくらすケモノのあしもとには、なみだのいけができました」
泣き続けて、やがて涙の池は湖になった。
水面には輝く星たちと、醜い自分の姿が映っていた。
世界は美しかった。
柔らかな月の光も、星の瞬きも、風に揺れる木々も。石を投げ、武器を振りかざす人の姿さえも、獣の目には美しく見えた。
そんな世界の中で、獣だけが醜くて……孤独だった。
涙の湖に映る美しい世界と、醜い自分との隔たりに、涙は止めどなくあふれ、水面を揺らす。
ひとりぼっちの獣は、夜空に向かって吼えた。
『どうかぼくに友だちをください。そして叶うならば、もうだれもぼくをおそれなくてすむように、ぼくを人間にしてください』
獣は心の底から、天に住む誰かに願った。
そんな獣の願いはある日、空から落ちてきた星によって叶えられる。
小さなその星は、ずっと獣を見守っていたのだという。
星は、頑張り屋さんな獣に、とっておきのプレゼントをあげた。
星の持つ不思議な魔法で、獣は人間の姿へと変わることが出来たのだった。
獣はびっくりしたけれど、すぐに嬉しくなってたくさんのお礼を言った。
『ありがとうおほしさま、こんなにすてきにおくりものを、ぼくははじめてもらったよ』
獣が喜ぶと、星も幸せそうにピカピカと光った。
そして物語は進んでいく。
人の姿を手に入れた獣は、人間の友だちをたくさん作った。
人は誰も彼を黒い獣だと気づかない。
優しくて力持ちで気のいい獣をみんなが好きになった。
毎日、たくさんの笑顔と、たくさんのお土産を両手に抱えて、獣は星が待っている森の端の家まで帰ってくる。
ドアをあけると、ちいさな星は『おかえり』とピカピカの笑顔で出迎えてくれた。
『ただいま』と言えるその幸せを、獣は何よりもの宝物だと思った。
獣は生まれてから、いまが一番しあわせだった。
そして、めでたしめでたしで終わったのなら、きっと幸福な気持ちになれただろう。
物語は、そこで終わりではなかった。
悲しい悲しい結末が、彼らを待っていた。
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