うそつきな友情(改訂版)

あきる

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第94話

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 パクパクと、久賀の唇が動いた。
 虚ろな瞳に俺を映す久賀が、音にならない言葉をつむいだ。

(なに?なにを言いたいの、久賀?)

 何を、伝えたかったのだろう……俺は、その答えを、知ることが出来なかった。

 乱暴に髪を掴まれて久賀の体が浮いた。
 久賀を引き寄せながら、狂気に満ちた男がわめく。

「俺が誰だ、って?はははっ!お前はそうゆうヤツだったな!いつもっ、いっつもひとりだけ白けたツラをして、周りを見下していやがったなぁ!!あの人の側で、あの人の影で、まるで自分が最強みたいなツラをしてやがったなぁ!!!この腰抜けがっ」

 男の拳は、赤く染まっていた。
 だらりと力無く垂れた久賀の腕が、拳が振り下ろされる度に揺れた。

「っ、止めろよ!止めて、くれよ!久賀が」

 死んじゃう。

 ガキの喧嘩で、コレは酷すぎるよ。
 どんな理由があっても、たとえ久賀の方が悪くても、こんなことが、許されていいわけがない。

「俺を見ろ緋色!忘れたとは言わせねぇ!!てめぇーにつけられた傷だ。汚い手をつかって俺を破滅に追い込んだっ……てめぇーの所為で俺はっ、キングに見離されたんだぜぇー!!何もかも、緋色ぉぉぉ!!」

 テメーの所為だ。



 怒りと狂気に染まった拳が振り下ろされた。
 久賀はもう、指先すら動かない。
 男が掌を開くと、支えを失った身体は冷たい地面に転がった。

 ずしりと、石のようなモノが、胸を塞ぐ感覚に支配された。

 世界が遠い。


 ゆらりと、風に吹かれた赤い髪が、小さく揺れた。

 唇も、頬も、赤い色だ。

 久賀には赤色がとても似合うけれど、今は少しも嬉しくないし、そんな色、見たくない。


「……く、くがー!!!」


 口を塞ごうとする指に噛みついた。短い悲鳴をあげた男に殴られたけど、構わずがむしゃらに叫んだ。


「嫌だ。ヤだ!!寝ないで、久賀っ!頼むからさぁ!」

 死という言葉を形にしたら、それが現実になってしまいそうで、あえて別の言葉を叫んだ。

 寝ないで、久賀。行かないで。
 勝手にひとりで、遠くになんか、行ってしまわないで。



 振り返らない、後ろ姿が思い浮かんで、頭を左右に振った。

 神さま。
 彼を連れて行かないで下さい。
 まだ、俺はなにも、何一つ、してないんだ。

 守ってやると勝手に誓った約束も果たしてない。
 悲しみに触れることも、癒すことも出来てなくて、抱き締めることも、カケラくらいの幸せすらあげてない。
 もっと、たくさん、一緒にいろんな事をしたい。いろんな物を見たい。

「起きて!しっかりしろよ、くがぁぁ!!」

 本心を……お前に伝えてすらいない。

 まだ言ってないよ、久賀。
 誰よりも、大好きだってこと。
 俺はまだ、言えてない。

 今まで出会ってきたすべての人よりも、お前が好きだと………誰より愛おしいと想う、心。

 ちっとも、伝えてないよ……。

「いい加減に大人しくしろ!!」

 拳を振り下ろされても暴れる俺に、彼らは切れて、ぐっと首をおさえつけられた。
 俺は。
 俺は、はじめて、心の底から他人を憎む。コイツラを心の底から呪う。

 息苦しさに喘ぎながら「テメェ等全員っ!!絶対に許さないからな」と叫んだ。

 悔しい。悔しいよ。

 夢の未来道具があったら、迷うことなく使うよ。子どもの夢なんか知ったことか。

『テレポーテーションは使えません、残念ながら。んーどこでも○アとか持ってない尾上』

『ねぇよ。あったら乱用しまくりだって』

『例えば?』

『あ。毎朝ギリギリまで惰眠を貪って、予鈴が鳴り終える前に教室まで移動する』


 俺の夢道具の使い方案を聞いて、久賀が楽しそうに笑った。

 あまりにも馬鹿笑いされて、じゃあお前だったら何に使うんだよ、と訊く俺にアイツは『銀行強盗』なんて人としてダメな答えを返してきた。

 誰が聞いても呆れかえる答え。
 だけど、いま、アイツにドアが与えられたとしたら、きっと、俺の手を掴んで、二人で逃げるために使ってくれるだろう。

 助けないって言ったくせに、振り下ろされたパイプから、俺を庇って殴られたみたいに。

 うそつき。

 俺が、守ってやるって、そう決めたのに……俺が。


 酸素が足りなくなって、頭の芯が痺れるような感覚に陥った。
 
 思考も、ままならない。ただ、久賀の姿だけが脳裏に焼き付いている。


「おぃ、このガキはどうするんだ?」

「あ?テキトーに痛めつけて、今後、緋色の側に近寄らねぇ程度に脅せとよ」

「面倒くせぇ。ま、おかげで緋色の居場所がわかったんだ、ヨシとするか」

「おぅ、じゃ……あそぼーか、おちびちゃん?」

 会話は随分と遠い場所から聞こえてくるようだ。
 チカチカと視界が点滅し、端から暗闇が忍びよりかけてようやく、首にあった手が離れた。


 大量の空気を吸い込んで、げほげほと咳き込んだ。

 苦しい。

 ぐっと肩を押さえ地面に仰向けに転がされた。
 ずしりと重い体が乗っかってきて、ざわりと肌が粟立った。

(な)

 にやりと笑った茶髪男に見下ろされて、さーっと血の気が引いた。


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