うそつきな友情(改訂版)

あきる

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side久賀3-2

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 俺の妄想と願望が創り出した彼が、空を指さして微笑んだ。

『涙が落ちそうな時は空を見上げるんだ。青く澄み渡った真昼の空でも、灰色や真っ黒い雲に覆われた日でも、彼方には変わらずピカピカの光があって、何時でもお前を見守ってくれている』

『星はずっと獣を見守っているのだから』

 たぶん、きっと、信じてはいた。それを教えてくれたのが唯一のあなただったから。
 だけど、そんな綺麗なおとぎばなしを、信じ続けられるほど、純真ではなかった。
 
 俺にとってあなたは唯一の星だった。何ものにも代えがたい、光だった。
 あなたにとって俺は、庇護すべき可哀想な子どもでしかなかった。
 それは確かに愛情だったけれど、俺が欲しいものではなかった。
 あなたの唯一が俺じゃないことが悲しくて、許せなかった。

『ほら、目を開いて見渡してごらん。耳を澄ませて聞いてごらん。お前を孤独の縁から救い出す、ピカピカな光が見えて、切なる呼び声が聞こえるだろう』

 あたりを見渡しても、空と海と雲と砂浜があるだけだ。繰り返されるのは波の音くらいで、呼び声なんかちっとも聞こえない。

 空を見上げても星は見えない。
 どんなに目を凝らしても、彼方にある星を、青色の中に見つけることは出来ない。


 いつの間にか彼の幻影まぼろしも消えてしまって、今度こそ俺は独りになる。

 呼び声なんか、ちっとも聞こえないよ。
 もう誰も、俺を呼んだりはしないんだ。
 俺を呼ぶのも、抱き締めて、大好きだと言ってくれたのも。

「あなた、だけだったよ」

 俺の【好き】と、あなたの【好き】は違ったけれど、それでも、側にいてくれたのはあなただけだ。
 

 頭を撫でてくれた手があたたかかった。
 抱き締めてくれる腕が力強かった。
 俺の名前を呼ぶ声が優しかった。
 おぶってくれた広い背中が好きだった。

 愛した。この世界で唯一、彼だけが特別だった。


 好きに種類があるなんて知らなかった。
 知る必要も無かった頃から、彼だけが愛おしかった。

 そして、今でも変わらず、歪みきった俺の心には、あのヒトの幻が住んでいる。

 だけど、幻は幻でしかなくて、現実のあなたはもう俺を呼んだりしない。
 いや。今は幻聴さえも聞こえない、か。 

 それでも、青いばかりの空を見上げて、必死に目を凝らして、探している。見えない光を、探していた。

『目を開いて見渡して』

 けれど、何も見えないんだ。
 瞬きをすれば、俺が創り出した風景も闇に溶けて真っ暗になる。

『耳を澄ませて聞いて』

 もはや、波の音すら聞こえない。
 暗い、暗い闇の中だ。ああ、いっそ、あなたを連れて死んでしまおうか……なんて、身勝手な願望を抱いてみたり。

『お前を孤独の縁から救い出す、ピカピカな光が見えて、切なる呼び声が聞こえるだろう』


 うそつき。
 闇に沈んだ世界に光なんてないし、誰の声も聞こえないよ。
 あなたが居ないのに、誰を見ろって言うんだ。
 なにを聞けと言うんだ。

 手を離すなら、頭を撫でなければ良かったんだ。
 愛せないのなら、抱き締めなければ良かったんだ。
 置き去りにするくらいなら、最初から、俺に、優しさなんて……。


「久賀」


 ぎゅっと、誰かに手を握られた。
 温かな熱が、繋いだ場所を起点に、全身に広がる錯覚。
 
 そして、小さな獣が走っていく姿を見る。
 それは、凍えそうな冬の日だ。
 昼間から飲んで暴れる男の視界から逃れるために、獣は薄着のまま外へと飛び出した。
 すり減ったサンダルと、ブカブカのシャツと、穴が開いたズボン。
 空は泣き出しそうに暗く、風は肌に突き刺さるように冷たかった。
 薄汚れた体と、じんじんと痛む指先。
 寒さをしのぐために潜り込んだのは、人気無い公園のドーム型の遊具。
 毛むくじゃらの動物。

 そしてー。

『どうして泣いてるの?さむくて泣いてるの?』

 キラキラしたなにかが……ちいさくて、あたたかな手が、凍えた指先を包み込んだ。
 
『なかないで』

「いかないで」



 真っ暗な世界に響いた声は、まるで祈りのようだった。


 パチリと、目をあける。
 いつかとおんなじ、暗い闇を吹き飛ばすあり得ないくらいキラキラな光があった。
 少しの陰りもない、きれいな光が、ぴかぴかの魂がそこにある。

 透明な滴を湛える瞳を見上げながら“冗談でしょう?”といっそ死にたい気分。

(まさか……アレが俺の星だって言いたのか、あなたは)


 ピカピカの光と、切ない呼び声。
 ああ……何かの間違いだ。いくら何でも、俺の好みからは外れまくってるよ。

 泣き虫でうるさくてシツコイ。お人好しなワンコじゃねぇか。ペットを飼う気はサラサラありません。

 男の手がワンコを押さえつけて、首を絞める。
 苦しげに歪む顔を見たら、視界は赤色に塗り潰された。

 アイツが呼ぶ声のあとに、誰かが緋色を呼んだ。


 ウルサい、な……。
 うるせぇ。
 うるせぇよ!どいつもこいつも、緋色緋色うるさいんだよ。

 はっ。そんなにアレが恋しいなら、仕方ねぇな。
 殴り合いでも壊し合いでも殺し合いでも、気が済むまで付き合ってやろうじゃねぇか。


 特別にタダで。
 出血大サービスに感謝しやがれ、クソヤロウ。
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