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【第三章.妹】
【十九.助言】
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──それから、何度も妹に会いに行った。ごめんね、ごめんね。会う度に伝えた。でも、茜は特に気にもしてない様子だった。
「だって、お、お姉ちゃんの見ているもの、ぜ、ぜーんぶ見えるから。お姉ちゃんが、あ、茜の目なの」
けれど地獄にいる私にはわかった気でいた。妹は私を許してなどいない。自分の事しか考えていない私のことなど許すはずがない、と。
それが誤りだと気付いた時には、何もかもが遅すぎた。
◇
「茜」
「なあに」
冷たく、温度のない面会室。今は夏のはずなのに、冷房も適温のはずなのに、どうしてこんなに指先が、足先が冷えるんだろう。
「か、悲しいの?」
「……ううん、妹に、大好きな妹に会えたんだもの、悲しいわけないよ」
「ふ、ふふ。見えるよ」
何が、見えているんだろう。くりぬかれて、虚ろになったその眼窩に何が映っているのだろう。
「お姉ちゅんの、未来」
「未来?」
そうだよ。妹は笑う。
「変えたいんでしょ。負けちゃったから」
「負けた? 何に?」
「いざなみさまごっこ。……美影ちゃんとの勝負に」
いざなみさまごっこ? 美影と? 確かにしつこく言ってくるけど、勝負ってなんだろう。
「ううん、するんだよ、勝負。この先、ずうっと、美影ちゃんとね。そしてその決着がね、五千八百二十二日後に着くんだよ」
「ごせん……?」
今日は後ろにいるのは「せんせい」だから美影には聞かれていない。でも、未来? 勝負? 何を言っているのかわからない。
「あさひちゃん。その子を巡って戦うの」
あさひ? ……デジャヴだろうか。初めて聞くはずなのにとても懐かしい。
「初めてじゃない。五年も一緒にいたじゃんか、お姉ちゃんったら。今までも何度も思い出そうとしてた。今朝だって、頑張っていたよ」
「……夢の中まで見れるの?」
うん、と妹はにっこり笑った。
「お姉ちゃん、もう何度も何度も、数え切れないくらい繰り返してるんだよ。……思い出してみて。ね?」
「時間です」
「茜とのやくそくだよ。ね。思い出して。思い出せたら、美影ちゃんとのいざなみさまごっこ、お姉ちゃんの勝ちだから」
そう言うと、盲目なのに未来まで見える妹は、「せんせい」に連れられて面会室から退室していった。
◇
この日は一人で来ていた──というか、お母さんは最初の二回くらい一緒に行ったきり、後は全部一人で行っていた。だから、妹の言葉を聞いていたのも私一人だった。だから。
『ねえねえ、おきがみつきこちゃん。今日はどんな話したの? ねえ、教えてー?』
「今日は──えと、なんだっけ」
美影がいつの間に記憶に介入・改ざんしていることに気付けなかった。
茜が懸命に訴えたこの世で一番大切なはずの助言は、この日から長きに渡って失われたままとなるのであった。
◇
「だって、お、お姉ちゃんの見ているもの、ぜ、ぜーんぶ見えるから。お姉ちゃんが、あ、茜の目なの」
けれど地獄にいる私にはわかった気でいた。妹は私を許してなどいない。自分の事しか考えていない私のことなど許すはずがない、と。
それが誤りだと気付いた時には、何もかもが遅すぎた。
◇
「茜」
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「ふ、ふふ。見えるよ」
何が、見えているんだろう。くりぬかれて、虚ろになったその眼窩に何が映っているのだろう。
「お姉ちゅんの、未来」
「未来?」
そうだよ。妹は笑う。
「変えたいんでしょ。負けちゃったから」
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いざなみさまごっこ? 美影と? 確かにしつこく言ってくるけど、勝負ってなんだろう。
「ううん、するんだよ、勝負。この先、ずうっと、美影ちゃんとね。そしてその決着がね、五千八百二十二日後に着くんだよ」
「ごせん……?」
今日は後ろにいるのは「せんせい」だから美影には聞かれていない。でも、未来? 勝負? 何を言っているのかわからない。
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あさひ? ……デジャヴだろうか。初めて聞くはずなのにとても懐かしい。
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「……夢の中まで見れるの?」
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◇
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◇
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