25 / 29
【第四章.燃えカス月子の一生】
【二十五.絶望するまで】
しおりを挟む
それから三年間。
熾神月子は迷子のままだった。優しいお母さんとして朝陽ちゃんを撫でる熾神月子。苛立つ度に手を挙げてほっぺたを叩く熾神月子。叩く度、傷付いて泣く。茜の夢を見る度、許してと泣く。火傷の痛みに、耐えかねて泣く。
それでも、熾神月子は何度目かの人生を懸命に生きた。生き続けた。出版社の仕事も、係長でがんばっていた。
だけどそれももう、限界に見えた。
『ねえ、茜。熾神月子は何度人生をやり直してるの?』
『五十六回だね……美影ちゃんと一緒にね』
『……どうすれば燃えカスの私を助けられるかな』
『ほら、これ。使いなよ。お姉ちゃんが、くれたやつだけど』
『これって……』
私は、そこに書いてみた。今の、五十六回目の自分の人生を見てきた、その思いを。
──よくがんばったね。もうクリアしにおいでよ。
そして……郵便受けに入れた。
◇
熾神月子は手紙を見るなり泣き出した。ちょうど、一緒に郵便受けに入っていた三重県の観光案内のチラシと一緒に抱きしめて。毎日、毎日手紙を読んでは泣いていた。どういう訳か、観光案内のチラシもセットだと思っているらしく、そのチラシをぼんやりと眺めた。
◇
あっという間に半年が過ぎた、ある早朝のことだった。
「朝陽、朝陽! だめ、だめよっ! 目を覚まして! 朝陽ぃっ!」
「まま、みて、みて。あさひ、いざなみさまになれたみたい」
その日たまたま悪夢にうなされた朝陽ちゃんは、もちうる全ての発火能力をつかって家を全部燃やした。その炎は団地中に瞬く間に燃え広がって、棟を全焼させた。熾神月子は娘を抱きしめて、燃え盛る部屋から出るので精一杯だった。
『るるるるーるるー』
上機嫌に真っ赤なドレスを翻して花のワルツを踊る美影の横で。
何人死者が出たのか、何人助かったのか……途方に暮れてそんなことを考えながら、真っ黒な煙を吐くアパートだったモノを見ていると、朝陽ちゃんが無邪気に聞いてきた。
「お母さん、どうして泣いているの」
ぷつん。
熾神月子の中で張り詰めていた何かが音を立てて切れた。そして、こう言った。
「……朝陽。お母さんとちょっとお出かけしようか」
「どこ?」
「お母さんも、わかんないや。……ごめん、ごめんね」
その目に大粒の涙を浮かべたまま、母だったその女のひとは、にっこりと笑って抱きしめた。
◇
熾神月子は迷子のままだった。優しいお母さんとして朝陽ちゃんを撫でる熾神月子。苛立つ度に手を挙げてほっぺたを叩く熾神月子。叩く度、傷付いて泣く。茜の夢を見る度、許してと泣く。火傷の痛みに、耐えかねて泣く。
それでも、熾神月子は何度目かの人生を懸命に生きた。生き続けた。出版社の仕事も、係長でがんばっていた。
だけどそれももう、限界に見えた。
『ねえ、茜。熾神月子は何度人生をやり直してるの?』
『五十六回だね……美影ちゃんと一緒にね』
『……どうすれば燃えカスの私を助けられるかな』
『ほら、これ。使いなよ。お姉ちゃんが、くれたやつだけど』
『これって……』
私は、そこに書いてみた。今の、五十六回目の自分の人生を見てきた、その思いを。
──よくがんばったね。もうクリアしにおいでよ。
そして……郵便受けに入れた。
◇
熾神月子は手紙を見るなり泣き出した。ちょうど、一緒に郵便受けに入っていた三重県の観光案内のチラシと一緒に抱きしめて。毎日、毎日手紙を読んでは泣いていた。どういう訳か、観光案内のチラシもセットだと思っているらしく、そのチラシをぼんやりと眺めた。
◇
あっという間に半年が過ぎた、ある早朝のことだった。
「朝陽、朝陽! だめ、だめよっ! 目を覚まして! 朝陽ぃっ!」
「まま、みて、みて。あさひ、いざなみさまになれたみたい」
その日たまたま悪夢にうなされた朝陽ちゃんは、もちうる全ての発火能力をつかって家を全部燃やした。その炎は団地中に瞬く間に燃え広がって、棟を全焼させた。熾神月子は娘を抱きしめて、燃え盛る部屋から出るので精一杯だった。
『るるるるーるるー』
上機嫌に真っ赤なドレスを翻して花のワルツを踊る美影の横で。
何人死者が出たのか、何人助かったのか……途方に暮れてそんなことを考えながら、真っ黒な煙を吐くアパートだったモノを見ていると、朝陽ちゃんが無邪気に聞いてきた。
「お母さん、どうして泣いているの」
ぷつん。
熾神月子の中で張り詰めていた何かが音を立てて切れた。そして、こう言った。
「……朝陽。お母さんとちょっとお出かけしようか」
「どこ?」
「お母さんも、わかんないや。……ごめん、ごめんね」
その目に大粒の涙を浮かべたまま、母だったその女のひとは、にっこりと笑って抱きしめた。
◇
2
あなたにおすすめの小説
それなりに怖い話。
只野誠
ホラー
これは創作です。
実際に起きた出来事はございません。創作です。事実ではございません。創作です創作です創作です。
本当に、実際に起きた話ではございません。
なので、安心して読むことができます。
オムニバス形式なので、どの章から読んでも問題ありません。
不定期に章を追加していきます。
2026/1/14:『でんしれんじ』の章を追加。2026/1/21の朝4時頃より公開開始予定。
2026/1/13:『こえ』の章を追加。2026/1/20の朝4時頃より公開開始予定。
2026/1/12:『あけてはいけない』の章を追加。2026/1/19の朝4時頃より公開開始予定。
2026/1/11:『みきさー』の章を追加。2026/1/18の朝4時頃より公開開始予定。
2026/1/10:『つかまれる』の章を追加。2026/1/17の朝8時頃より公開開始予定。
2026/1/9:『ゆうじんのかお』の章を追加。2026/1/16の朝4時頃より公開開始予定。
2026/1/8:『ついてきたもの』の章を追加。2026/1/15の朝4時頃より公開開始予定。
※こちらの作品は、小説家になろう、カクヨム、アルファポリスで同時に掲載しています。
百物語 厄災
嵐山ノキ
ホラー
怪談の百物語です。一話一話は長くありませんのでお好きなときにお読みください。渾身の仕掛けも盛り込んでおり、最後まで読むと驚くべき何かが提示されます。
小説家になろう、エブリスタにも投稿しています。
意味が分かると怖い話(解説付き)
彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです
読みながら話に潜む違和感を探してみてください
最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください
実話も混ざっております
熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)
MisakiNonagase
恋愛
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。
還暦の性 若い彼との恋愛模様
MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。
そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様を書いたストーリーです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる