アルザカリア

pizzeman

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10.擬態

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「今なんて言いましたか?」

 聞こえていたが聞こえていないふりをした。意識が少しでも生き残るために時間を稼ぐ言葉を出したのだ。

「昨日の夜は何をしていたかと聞いていたんだ。何か言えないことがあったのか?」

 絶体絶命であった。ここで回答を失敗したならば殺されるかもしれない。体の内側から汗が湧き出てくる。急激に体温が低下していき、小刻みに震え始める。全て服のうちだけなので青年に気づかれてはいないだろう。

「寝ていたよ。いつも通りに」

 アルザは嘘をついた。だが一つの危機を乗り越えたという行動がわずかに安心感を体に与えてくれた。

「そうか。ならいいんだ」

 表情を一つも変えずに青年は部屋から出て行った。
 部屋には沈黙が流れ始める。この部屋の中でアルザはただ本を開いたまま、座り込んでいた。体の震えは止まったようで汗も少しづつであるがひいてきている。

 アルザが本を読もうとした瞬間にまたノックが響き渡る。だが先ほどの音と違いとても軽い音であった。アルザは「どうぞ」と返した。部屋に入ってきたのはカリアであった。

「ねえ、すごく暇なんだけど」

 とてもつまらなさそうな顔をしてカリアが入ってきた。いつもならば勢いがあるはずだが雨の日は驚くほど何もしなくなる。まるで天気と気分がつながっているみたいだ。

「私は全然暇じゃないよ。むしろいつもよりも忙しい感じかな」

 カリアと対照的にアルザは充実しているかのように微笑んだ。

「またいつもみたいに本を読んでいるの? つまんないの」

「つまらなくなんてないよ。本を読んだら知識がたくさん手に入るし頭もよくなる。読書っていいことばかりなんだよ」

 先ほどのことを忘れたかのように明るく振舞うアルザだった。緊張が解けたばかりなのかいつもよりも口数が多いようだ。

「じゃあじゃあ、今まで読んだ本の中で面白かった知識とか教えてよ」

「うん、いいよ。どんな本がいい?」

 アルザとカリアは本棚の前に立った。アルザは自信満々にカリアがどんな質問をしてくるか楽しみに待っていた。しかしカリアは本を眺めたまま動かなかった。選ぶのに時間がかかっているのかと思われた、だがカリアの回答はアルザの予想を超えてきた。

「ごめん、漢字読めない」

 本棚にあるのはどれも難しそうな物ばかりであった。外で遊ぶことに全力なカリアはあまり勉強をしていなくて漢字が読めないようだ。

「だったらトランプとかで遊ぼうよ」

「そうしよう、難しいものは嫌いだもん」

 雨の日はおとなしく過ごす。それだけは変わらなかった。
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