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第一章

渦巻く画策⑥エリィの過去②

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「セーラ姉さん、一緒に勉強し……」
「はぁ?何っ!自分がちょっと出来るからって!」
 セーラがエリィを突き飛ばすと、エリィが手に持っていた教材をばら撒いてしまう

「セーラ!あなた何て事を!」
駆け寄るベラはセーラのほほを平手で叩く!
「――いたっ!」

「エリィ、大丈夫?怪我はない?」
「……大丈夫です、それよりセーラ姉さんが……」
「いいのよ、あの子は悪い事をしたのだから、エリィのように良い子だったらよかったのに……」
「そんな……そんなことないですお母様!セーラ姉さんは……」
「エリィうるさい!良い子ちゃんぶってんじゃないわよ!エリィ……エリィ……いっつも!」

泣き出すセーラをよそに、ベラはエリィを心配する

 エリィばかりを可愛がる母親、エリィばかりを気遣う父親、エリィに対する嫉妬が膨らむセーラはどんどんゆがんでいった

 エマとセーラは二人で行動するようになり、エリィが近付いても無視をし目が合っても憎まれ口を言う

 エリィが十歳の頃には家族はバラバラになっていた

「エマ姉さん、今日お誕生日ですね」
「……そうだけど」
「お菓子を作ってみたので良かったら貰ってくれませんか?」
「……そこ置いといて」
「あ……ありがとうございます!嬉しい……です」

 エマの十四歳の誕生日、部屋にお菓子を作って持っていったエリィはエマが貰ってくれた事に感激し涙を流しながら部屋を出た

 今日は少しでもエマに近付けたことが嬉しくて笑みがこぼれるエリィだったが、お昼のお勉強も終わりセーラの部屋を通ると話し声がする

「ちょっと見てよこれ、手作りだって!」
「ええ!何それ?食べると思ってんの!笑える」
「絶対食べないわよ!こんなの!」
「じゃあ何で受け取ってんの?」
「捨てるためよ」
「ハハッ何それ、ひどっ」

 ――喜んで欲しかった 
 こんな話は聞きたくなかった
 以前の姉妹のようになりたかった 
 狭くても家族がいつも一緒の部屋に居て笑い合いたかった
 もう戻れないなんて思いたくなかった
 涙が止まらなかった
 全部、自分のせいだと思った――

 エリィは家族と必要以上に関わらないようになり
 言われたことはしっかりとこなし、お客様が来た時も丁寧に対応し誰が見ても立派な貴族の娘になった

お出かけをするようになったのは、家で居場所が無くなったと感じたからだ

 この街には孤児院があり、よくそこにかよっていた
 十歳のエリィとしては同世代の子とお話ししたりするのは楽しかった

 特に仲良くなったのは「ネネ」という七歳の子だった
 孤児院の子というのは基本的に街の子達からイジメにいやすい

 なかでもネネは獣人族と人族との「混血」ということでイジメに遭うことが多い
 混血であるネネは獣耳があるので獣人族であると一目で分かってしまう
 奴隷制度は無くなっていたが差別的な風潮は今もまだ残っている

 エリィが見かける時も大抵、街の子に石を投げられたり耳を引っ張っられたりされていることが多い

「何やっているの!やめて!」
 
「うわっ!うその貴族が来た!逃げろ!」

 アッシュハート家が「神託しんたく」を授かる予定で貴族になったことは街の人々も疑心暗鬼だ
 実際にまだエリィは「神託」を受けていないので影で良くない噂をする者も少なくない

 いくら十歳のエリィが助けに来ても何も怖くない、逆に二人とも石を投げられることもあるのが現実だ

「ネネちゃん、大丈夫?」
「うん!エリちゃんいるから、ネネ大丈夫!」

孤独という面で特に共通点がある二人は姉妹のように仲良くなっていった
 
 ただこの孤独な子にも腹違いの兄がいる

「あっオーキッド様!会いに来てくれてうれしい……です」
「やあネネ、ごめんね、なかなか会いに来れなくて」
「レイ様!」
「エレノアもネネも、いつになったら呼び方変えてくれるのかな?」
「えっだって……オーキッド様は身分が……」
「兄妹なんだよ、兄と呼んでくれないか?」
「……おっお兄……ちゃん?」
「ありがとう、ネネ」
「レイ……さん」
「ありがとう、エレノア」

 二人の女子は顔が赤くなり、恥ずかしくてお互い抱きしめ合っている
 レイは十四歳、妹のネネはレイの父親が獣人族の女性との浮気で出来た子で七年経って最近発覚し、孤児院にいるということでレイがよく様子を見に来るのだ

 混血なので貴族であるオーキッド家ではそんな事実は無いものとしてとらえている
 ただ幸いな事に、この孤児院はグリディア王国が援助しているらしく衣食住には困らない

 しばらくして、三人はよく一緒にいるようになっていた
 一人ぼっちのネネの話し相手をしてくれるエリィにレイは感謝し、なるべくレイも一緒にいれる時間を作っていたのだ

「ネネちゃん、体調良くなさそうですね」
「でもね、お医者さんが診てくれてるの!すぐ良くなるって言ってた」
「ネネ……今日ホントに大丈夫か?」
「うん!楽しみにしてたんだ!」

 今日は約束していたお出かけの日、綺麗な花が一面咲く丘でエリィの手作り料理を三人で食べようとレイの提案だった

 ただその丘は子供には少し険しい岩山いわやまで体調の悪そうなネネには厳しいのではとエリィとレイは心配していた
「やっぱり今日はやめておこう」
「そうですね……キツそうです……」
「大丈夫だよ……ここまで来たんだから」
「お兄ちゃん、ネネ行きたい!」
「…………いや、今日は戻ろう」
レイが戻ることを決意した時だった

「お兄ちゃ………」
「――!」
「ネネ!」「ネネちゃん」
 丘までもう少しの場所で戻ろうとすると、急にネネの意識が薄くなり倒れてしまったのだ

 その拍子に頭を打ちネネは出血してしまった

「ネネちゃん!レイさん、ネネちゃんが!」
「エレノア、ネネの上半身を抱き上げて!」
「はい!」
 レイは的確な対応と勉強中の治癒でネネを治すと、すぐに孤児院専用の治癒院に連れて行き安静にさせた
 
あれから何日か過ぎてもエリィはネネの入院する治癒院に通っていた
「ネネちゃん調子はどう?」
「エリちゃん!来てくれてありがとう」
 ネネの怪我はすっかり良くなっているが相変わらず体調が悪い様子で最近は治癒院のベッドで過ごすことが多くなっているのだ

「ネネ、来たよ」
「お兄ちゃん!嬉しい!」
「ネネ、ゆっくりでいいからちゃんと治そうね」
「うん、治ったら「約束の丘」に行こうね」
「今度は転ぶなよ!」
「怪我してもお兄ちゃんがいるから大丈夫だよ!」
「おいおい」
「だってお兄ちゃんは「世界一の治癒士」になるんだもんね!どんな怪我も一瞬で治しちゃう「世界最高の治癒士」がネネのお兄ちゃんなんだ!」
「……頑張らないとな」
「お兄ちゃんなら絶対出来るよ!ネネの「ヒーロー」なんだから!」

 二年の闘病生活の末、ネネは亡くなった

 九歳だった、最後は衰弱してせほそっていた

 エリィとレイは悲しみを分かち合い、大人になっていく

 
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