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11 第3皇子
しおりを挟む「おねえさま!こんなところに一人でいらしたのね」
図書館の側にあるベンチで、うまく隠れていたはずだったのに、今日はとうとう見つかってしまった。
ベッティは相変わらず取り巻きを引き連れている。
「何か御用かしら?」
「用がなかったら声をかけてはいけないの?」
「そうじゃないけれど、わざわざこんなところまで来るなんて・・・」
「ベッティが声をかけてるんだから、そんな嫌味を返さなくてもいいじゃないか」
「傲慢なお前と仲良くしようとしている優しい気持ちがわからないのか」
「家でもそうやってあたしを無視して・・・」
無視はしてないんだけど・・・、と、思ったが、下手に怒らせても大事になるのは困るので、シャーロットは黙っていた。
「なんとかいえよ」
取り巻きの一人がシャーロットの肩を押した。
ありえない・・・一般科の生徒が貴族令嬢に勝手に触れるなんて・・・。
だが、ベッティを妄信している様子に、シャーロットは恐怖を感じていた。
怖い・・・誰か、助けて・・・
「何をしている」
声をかけてきたのは第3皇子、ウィリアムだ。
シャーロットは慌ててカーテシーをしようとした。
「よい、ここは学園内だ、堅苦しい挨拶は必要ない」
「ありがとうございます」
「で、何をしている」
「いえ、あの・・・」
何をしているか、と聞かれたが、シャーロットは絡まれていただけで、なんとも返事ができなかった。
「あたし、シャーロットお姉さまと何とか仲良くしたくて・・・」
ベッティがそういいながら両手を前に組み、うるんだ目でウィリアムを下から見上げるようにして近づいた。
「おい、気安く近寄るな!」
護衛の一人がベッティを遮ろうとしたのだが、ウィリアムが手を振ってそれを止めた。
「どういうことだ?」
「あの、あたしのお母さんが公爵家の後妻になるんです。
なのに、シャーロットお姉さまが元平民だからって、それを認めてくれなくて・・・。
あたし、仲良くしたいのに・・・」
そういってベッティは両手で顔を覆った。
まるで、演劇を見ているようだわ、シャーロットはそう思った。
だが、取り巻きの連中はその姿に同情し、ベッティを慰める言葉を使う。
彼らの中では奇妙な正義が出来上がっているのだろう。
虐げられるか弱い少女を守る騎士にでもなったような気分なのかもしれない。
「それは・・・ひどい話だな」
ウィリアムはそう言った。
第3皇子のウィリアムは身分の低い母親から生まれた。
そのため何の後ろ盾もない、それをコンプレックスに感じている。
王家としてはほかの王族と同様に扱っているのだが、本人は、勉強ができないのは自分にはあまり良い教師をつけてもらえなかったからだ、と思い込んでいる。
思い込みが激しく、しかも王族としてのプライドは誰よりも高い。
王や王妃が何度か注意するのだが、一人だけ生まれが違う事をひがみ、素直に受け入れることがない。
あまりの態度に、1年間辺境伯のところに送られ、根性を鍛えなおしてもらっていたのだ。
ただ、辺境伯からは、
あまり改善していない、矯正は難しい とさじを投げられた手紙が届いている。
あまり物事を深く考えない質のウィリアムは、目の前のベッティの言葉を簡単に信じた。
シャーロットをにらみつけ、ベッティをかばうようにして連れて行った。
「どうしよう・・・早くお兄様とアレク様に連絡しないと」
シャーロットは急いでジャンのところまで向かい、簡単に状況を説明して、メッセージを託した。
ジャンは大きくうなずくと、
「お嬢様のお帰りの時間にはここに戻っていますから、ご安心ください」
そういってくれた。
大騒ぎにならないことをシャーロットは祈った。
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