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20 夢が現実になる

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  話し合いから数日後、エマーリアはシャーロットを連れて王宮へ向かっていた。

「お母様、王妃様とのお茶会ですか?」

「そうね、ちょっと王妃様にお願いをして、今日はそれをかなえてもらうために伺うのよ」

「何をお願いしたの?」

「ふふっ、幸せになるための準備?かしら」



エマーリアは王妃アントワーヌに手紙を書いた。

夢の話はまだ伝えていない。

ただ、体に少し不調があるが、専属医師の判断に納得がいかないので、別の医師に診てもらいたいのだが、専属医師に知れると困るので、内密に診察できるように協力してほしい、と。

王妃からの返事は喜んで協力する、王宮医師に診てもらうように手配しておく、との返事をもらえた。

しかし、手紙の最後に、 エマーリア自慢の娘、シャーロットも一緒に連れてくるように とあった。



王妃には2人の王子がいるが、王女はいない。

エマーリアが度々シャーロットの可愛さを自慢していたので、エマーリアのお願いを聞く代わりに、シャーロットとの面会を望んだのだ。

エマーリアが診察してもらう間、シャーロットとお茶をするのを大変楽しみにしていた。



「母上、ご機嫌ですね」

「あら、アレク、どうしたの?」

「鍛錬の時間になるので、今から向かうところでした。

そしたら母上が嬉しそうに準備をされていたので、思わず声を掛けました」

「あら、そんなに楽しそうだった?うふふ、今から来るお客様がたのしみでね」

「どなたがお見えになるのですか?」

「マルクス公爵夫人よ」

「ああ、学園時代から仲良しの」

「そう、それと、彼女自慢の娘も来るの」

「そうですか、では、ご挨拶してから鍛錬に向かいます」

「あら、そうしてくれるの?じゃあ、鍛錬には少し遅れると伝えて」

王妃が侍女に指示を出すと、すぐさま侍女が伝令に行った。



シャーロットの為にお茶やお菓子、リボンやレースなどを準備している様子を、第2王子アレクサンドルはぼんやりとみていた。



「王妃殿下、公爵夫人と公爵令嬢がお見えになられました」

そう言って案内されてきたエマーリアとシャーロットを見て、アレクサンドルは衝撃を受けた。



あれは、天使か?妖精か?まぶしい、可愛い、は~、なにあれ・・・

「公爵家が長女シャーロットでございます」

声もかわいい、音楽を聴いているようだ。

「?」

首をかしげて、なんて可愛さ、このまま抱きしめたら消えてしまうかな?

そっと触れてみたらどうなるんだろう?



「アレク!!大丈夫?」

はっとして周囲を見ると、王妃も公爵夫人も驚いた顔をしている。

ようやく自分が公爵令嬢の手をそっと握っていることに気づいた。

「ああああ、し、し、失礼した。だ、第2王子のアレクサンドルで、です」

「どうしたのアレク?」

王妃様が怪訝そうに息子を見る。

明らかに挙動不審になっている。

おかしくなった息子が面倒になったのか、王妃が従者にアレクを鍛錬に連れて行くように指示をした。

「アレクサンドル殿下、鍛錬頑張ってください」

連れていかれるアレクサンドルにシャーロットは激励のつもりで声をかけた。

驚いたように目を見張ったアレクサンドルはそのまま真っ赤になってしまった。



「どうされたのかしら?」

シャーロットはその様子に驚いたようにエマーリアに問いかけた」

「さあ、シャーロットの可愛さに驚いたんじゃない?」

「そんな事より、早く座って、エマ」

「まだ挨拶が・・「そんなのどうでもいいわよ、私と貴女の仲じゃない。

ここは私の私室だし、早くシャーロットちゃんを紹介してっ」」



王妃にシャーロットを紹介し、しばらくは一緒にお茶を楽しんだ。

「そろそろ医師が来る頃ね」

王妃がそういうと、先ぶれとともに、中年の女性が入ってきた。

王室医務官の一人らしい。

診察は隣の部屋で行うらしい。

初めて王宮に来て、王妃と過ごすシャーロットへの配慮のようだ。



「ありがとう、アン、シャーロット、お行儀よくね」

そういってエマーリアは医師とともに隣の部屋へ移動した。



その後、診察が終わるまで、王妃はシャーロットとおしゃべりを楽しみ、何度かリボンやレースを髪に結んだりして、堪能した。



その日の夜、

「父上、母上、お願いがあります」

アレクサンドルがいきなりそう言って部屋に入ってきた。

「先ぶれもなく、珍しいな、なんだ?」

「マルクス公爵令嬢を私の婚約者にしてください」

「は?いきなり何を「私は今日、天使に会いました。あんなに可愛い、声もまるで音楽のよう・・・。

あんな素敵な天使がいたなんて。ですから、他の誰かに取られてしまう前に、お願いします!!」」

王と王妃は顔を見合わせた。

「まあ、マルクス公爵家なら身分的には問題ないが・・・」

「少し年齢に差がありますが、アレクがこんなお願いをするなんて、初恋なのね。

相手がシャーロットちゃんなら、私は賛成よ」

「まあ、公爵に打診はしてみるか」

「ぜひとも!」



数日後、第2王子からの婚約話に、ゼルマンは頭を掻きむしった。

「フリッツに聞いていたのに!忘れておった!!!」

「あら、本当にアレクサンドル様が一目ぼれしたみたいね。

フリッツの夢の通りだわ」

クスクスとエマーリアは笑った。



同じ日に、王室医務官からの診察結果も届いた。

エマーリアは病気にかかっていること。

症状はまだ出ていない初期の段階であること。

ちょうど新薬が開発されており、その治療をお勧めする、とのことだった。

新薬を開発し、治療に当たっているのは、

「タンク男爵・・・」

またもフリッツの夢のとおりだった。





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