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第61話 「朝日の中で」
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旅館の中庭に、朝の光が差し込みはじめていた。
障子を開けると、清々しい空気が部屋いっぱいに流れ込む。
昨夜の名残がまだ胸の奥にじんわりと残っていて、ひなたと顔を合わせるたびにどちらも少し照れくさそうに視線を逸らした。
それでも――。
小さく微笑み合うと、不思議と心があたたかくなる。
「朝ごはん、行こっか」
「う、うん……」
ひなたの返事は少し上ずっていた。
並んで廊下を歩く。木の床がみし、と音を立てるたび、まるで時間がゆっくり流れているような気がした。
食堂に入ると、香ばしい味噌の香りが迎えてくれる。
焼き魚に温泉卵、湯気を立てる味噌汁、そして小鉢に並んだ季節の野菜。
どれも見た目からして丁寧に作られていて、旅館の心配りを感じさせた。
「わぁ……おいしそう」
ひなたが小さく感嘆の声を上げる。
その表情があまりに自然で、俺はつい見惚れてしまった。
「こういう朝ごはん、なんか落ち着くね」
「うん……翔真さんと一緒だと、もっと美味しく感じるかも」
ひなたが照れたように笑いながら言った瞬間、胸の奥がじんわりと温かくなる。
俺は箸を持ちながら小さく呟いた。
「俺も……そう思う」
二人して顔を見合わせ、思わず笑ってしまう。
昨夜とは違う、穏やかで静かな幸せがそこにあった。
◆
朝食を終えた後、旅館の女将に「中庭の池が見頃ですよ」と勧められ、二人で散歩することにした。
石畳の道を歩くと、池の水面に朝日が反射してキラキラと輝いている。
その景色を眺めながら、ひなたがそっと俺の手を取った。
柔らかくて、温かい手。
昨日よりも、少しだけ強く握り返してくれる。
「こうして歩くの、なんか夢みたいだね」
「夢だったら、ずっと覚めなくていいけどな」
その言葉に、ひなたは頬を染めて笑う。
朝の風が、ふたりの髪を揺らした。
池の鯉が跳ねる音、遠くで聞こえる鳥の声、木々の間を抜ける風の音――
すべてが穏やかで、優しい時間だった。
手を繋いだまま、旅館の回廊を歩く。
途中、ひなたが少し立ち止まり、俺の袖を引いた。
「ねぇ……翔真さん」
「ん?」
「この時間、ずっと続いたらいいのにな」
その一言が、心に深く染みた。
俺は何も言わずに、ただ彼女の手を強く握り返す。
陽の光が、ふたりの影を長く伸ばしていた。
それはまるで、これから先もずっと繋がっていく未来を映しているようだった。
障子を開けると、清々しい空気が部屋いっぱいに流れ込む。
昨夜の名残がまだ胸の奥にじんわりと残っていて、ひなたと顔を合わせるたびにどちらも少し照れくさそうに視線を逸らした。
それでも――。
小さく微笑み合うと、不思議と心があたたかくなる。
「朝ごはん、行こっか」
「う、うん……」
ひなたの返事は少し上ずっていた。
並んで廊下を歩く。木の床がみし、と音を立てるたび、まるで時間がゆっくり流れているような気がした。
食堂に入ると、香ばしい味噌の香りが迎えてくれる。
焼き魚に温泉卵、湯気を立てる味噌汁、そして小鉢に並んだ季節の野菜。
どれも見た目からして丁寧に作られていて、旅館の心配りを感じさせた。
「わぁ……おいしそう」
ひなたが小さく感嘆の声を上げる。
その表情があまりに自然で、俺はつい見惚れてしまった。
「こういう朝ごはん、なんか落ち着くね」
「うん……翔真さんと一緒だと、もっと美味しく感じるかも」
ひなたが照れたように笑いながら言った瞬間、胸の奥がじんわりと温かくなる。
俺は箸を持ちながら小さく呟いた。
「俺も……そう思う」
二人して顔を見合わせ、思わず笑ってしまう。
昨夜とは違う、穏やかで静かな幸せがそこにあった。
◆
朝食を終えた後、旅館の女将に「中庭の池が見頃ですよ」と勧められ、二人で散歩することにした。
石畳の道を歩くと、池の水面に朝日が反射してキラキラと輝いている。
その景色を眺めながら、ひなたがそっと俺の手を取った。
柔らかくて、温かい手。
昨日よりも、少しだけ強く握り返してくれる。
「こうして歩くの、なんか夢みたいだね」
「夢だったら、ずっと覚めなくていいけどな」
その言葉に、ひなたは頬を染めて笑う。
朝の風が、ふたりの髪を揺らした。
池の鯉が跳ねる音、遠くで聞こえる鳥の声、木々の間を抜ける風の音――
すべてが穏やかで、優しい時間だった。
手を繋いだまま、旅館の回廊を歩く。
途中、ひなたが少し立ち止まり、俺の袖を引いた。
「ねぇ……翔真さん」
「ん?」
「この時間、ずっと続いたらいいのにな」
その一言が、心に深く染みた。
俺は何も言わずに、ただ彼女の手を強く握り返す。
陽の光が、ふたりの影を長く伸ばしていた。
それはまるで、これから先もずっと繋がっていく未来を映しているようだった。
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