42 / 155
第三部 世界のすべて
尾崎諒馬=鹿野信吾から藤沢へのメールを受けて
しおりを挟む尾崎諒馬=鹿野信吾から藤沢へのメールを受けて
Web小説「殺人事件ライラック~」の連載ではなく、直接、尾崎諒馬=鹿野信吾から藤沢へメールが来た。
内容は自分が本当に「尾崎諒馬」だと証明すべく第十八回横溝正史賞の受賞を巡っての話だった。
授賞式とか、その後のパーティーでの話とか……
ちなみに出版された「思案せり我が暗号」の巻末に載っている選評以上に詳しい選評の内容を角川は教えてくれたとのことで、そのことも詳しく書いてあった。
各選考委員の得点は五段階で、
宮部みゆき B
内田康夫 A
北村薫 特A
とのことで、ここまでは高評価だが、最後……
その人 Dです。Eでもいいくらいだ。
とぼろくそにけなされたらしい。
あと、応募時のペンネーム「いるまんま」の「る」に「流」という漢字を使ったことで、とある作家と同類だとか思われたらしい。
藤沢はその「とある作家」の作品を知っていたが、流石にそれは尾崎諒馬が可哀そうな気がした。そもそもその「とある作家」は「小説」を書いていない。
あと……
いや、これ以上書くのはやめておこう。
必要なら本人が書くだろうから……
それより密室はどうなったのだろう?
Web小説「殺人事件ライラック~」はどうなっていくのだろう?
この章は藤沢が書いた。取り込まれるかはわからんが……
※藤沢さん、尾崎です。いただいた文章、今回も、ほぼ、そのまま、使わせてもらいます。(ただ一部省略してます)
また、それを読んだ後の鹿野信吾と私――尾崎凌駕のやり取りを付けておきます。
尾崎凌駕:なぜ「針金の蝶々」を書くのを辞めたんだい?
鹿野信吾:前に、登場人物を読み上げてもらっただろう?
探偵とワトスン役以外はすっかり忘れていた。
つまりは「登場人物に申し訳ない」そういうことだ。
名前さえ付ければあとはどうでもいい……
名前は単なる識別記号――
それがいやだった……
本当は僕は人間が描きたかった……
しかし、未熟な僕にはその力がなかった……
尾崎凌駕:つまり、本格ミステリーより純文学ということかい?
横溝正史より太宰治? あ、武者小路実篤だったか……
鹿野信吾:いや、それでも本格物が書きたいのだ。
横溝正史賞の受賞パーティで北村さんと少しだけ話をした。
「これから本格物を書いていくのですか?」そう訊かれ、
「はい」と真っ直ぐな気持ちで僕は返事したのだ。
ただそのあとすぐにこう付け足した。
「ただ、それだけでは駄目だと思っているので……」
それに北村さんは優しい笑顔で「なるほど」と答えてくれた……
つまりはそういうことだ。
僕は受賞パーティで憂鬱だった……
それを宮部さんはしきりに気遣ってくれた。
「選考会で意見が割れるというのは実はいいことなんですよ」とか……
「自分の好きな風に書けるって、ほんとはうらやましいことなんですよ」とか……
内田さんは受賞パーティに来ていなかったから話はできていない……
ただ、あの人が……
まあ、仕方ない部分もあるが……
自分が望んだことだ……
尾崎凌駕:あの人……
その人も北村さんもミステリーにおいては本格原理主義者だったっけ?
鹿野信吾:虚無への供物にこんな話がある
精神病院の閉鎖病棟――その鉄格子を挟んでどっちが内でどっちが外か?
北村さんとその人で大きく評価が割れたんだ……
はて? どっちが内でどっちが外か……
尾崎凌駕:なるほどね
虚無への供物か……
つまりはミステリー同好会『威圧』
これも暗号なんだろう?
鹿野信吾:そう IBMとHAL
イアツとアンチ
尾崎凌駕:それで
「世界の【悪意】のすべてを一身に引き受けたような、そんな探偵小説を書くんだ」か……
で、水沼……
しかし、世界は広い。【悪意】のすべては無理じゃないか?
世界のすべてというからには舞台を全国に広げて……いや、空間を広げるだけでなく、時間軸も広げて、太古の昔から……
まさかね。
鹿野信吾:その考えはくだらない。
逆に世界を狭く――極力狭くするんだ。
世界には登場人物は二人しかいない。
それは作者と読者。
尾崎凌駕:うーん、すると【悪意】はどうなる?
鹿野信吾:すべては作者の【悪意】
それは読者に向けられる。
尾崎凌駕:なるほど!
確かに虚無への供物……
アンチ・ミステリー……
しかし読者は反発するだろう?
鹿野信吾:当然だ。
反発は読者の【悪意】となって作者に向けられる。
尾崎凌駕:それを作者は一身に引き受けなければならない。
そういうことか……
鹿野信吾:「死者の微笑」では【悪意】を【善意】に替えてみた。
尾崎凌駕:なるほどね……
まあ、このくらいでやめておこうや。
鹿野信吾:大学の推理小説愛好会なら、こんな風な作品も通用するだろうけど……、いや、無理じゃないか、ただただ独り善がりのミステリー談義を並べ立て、さて全体を見直せば、「暗号」をオモチャにしただけのこと
少し毒があるが、「思案せり我が暗号」の自己評価はそういうことだ。
ただ、それは本望だった。
最後に一つだけ……
「思案せり我が暗号」に暗号の定義が書かれている。
暗号とは「第三者に秘匿して『意志』を伝える手段」
そう尾崎凌駕に言わせている。
勿論本来は「意志」ではなく「意思」が正しい――つまりは誤植なんだが、敢えてその誤植を残したんだ。
あの「思案せり我が暗号」を書いた作者の「意志」を示したつもりなんだ。
チェスタトンを引用し「暗号をどこに隠すか?」という問答の答えとして「暗号小説の中に」そう書いている。
第三者に秘匿して僕はその人への暗号を「思案せり我が暗号」の中に隠した。
いや、隠してはいない。あからさまに示している。
それが――
「世界の【悪意】のすべてを一身に引き受けたような、そんな探偵小説を書くんだ」
その一文だった……
Dです。Eでもいいくらいだ。
作者の「読者に向けた【悪意】」はそのまま作者に跳ね返ってくる。
それを僕は一身に引き受けた。
ただ、それだけのことだ。
つまりはアンチ・ミステリー……
気障っぽく、純文学的に、気取って書けば……
檸檬だよ……
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語
jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ
★作品はマリーの語り、一人称で進行します。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
隣人意識調査の結果について
三嶋トウカ
ホラー
「隣人意識調査を行います。ご協力お願いいたします」
隣人意識調査の結果が出ましたので、担当者はご確認ください。
一部、確認の必要な点がございます。
今後も引き続き、調査をお願いいたします。
伊佐鷺裏市役所 防犯推進課
※
・モキュメンタリー調を意識しています。
書体や口調が話によって異なる場合があります。
・この話は、別サイトでも公開しています。
※
【更新について】
既に完結済みのお話を、
・投稿初日は5話
・翌日から一週間毎日1話
・その後は二日に一回1話
の更新予定で進めていきます。
忘却の艦隊
KeyBow
SF
新設された超弩級砲艦を旗艦とし新造艦と老朽艦の入れ替え任務に就いていたが、駐留基地に入るには数が多く、月の1つにて物資と人員の入れ替えを行っていた。
大型輸送艦は工作艦を兼ねた。
総勢250艦の航宙艦は退役艦が110艦、入れ替え用が同数。
残り30艦は増強に伴い新規配備される艦だった。
輸送任務の最先任士官は大佐。
新造砲艦の設計にも関わり、旗艦の引き渡しのついでに他の艦の指揮も執り行っていた。
本来艦隊の指揮は少将以上だが、輸送任務の為、設計に関わった大佐が任命された。
他に星系防衛の指揮官として少将と、退役間近の大将とその副官や副長が視察の為便乗していた。
公安に近い監査だった。
しかし、この2名とその側近はこの艦隊及び駐留艦隊の指揮系統から外れている。
そんな人員の載せ替えが半分ほど行われた時に中緊急警報が鳴り、ライナン星系第3惑星より緊急の救援要請が入る。
機転を利かせ砲艦で敵の大半を仕留めるも、苦し紛れに敵は主系列星を人口ブラックホールにしてしまった。
完全にブラックホールに成長し、その重力から逃れられないようになるまで数分しか猶予が無かった。
意図しない戦闘の影響から士気はだだ下がり。そのブラックホールから逃れる為、禁止されている重力ジャンプを敢行する。
恒星から近い距離では禁止されているし、システム的にも不可だった。
なんとか制限内に解除し、重力ジャンプを敢行した。
しかし、禁止されているその理由通りの状況に陥った。
艦隊ごとセットした座標からズレ、恒星から数光年離れた所にジャンプし【ワープのような架空の移動方法】、再び重力ジャンプ可能な所まで移動するのに33年程掛かる。
そんな中忘れ去られた艦隊が33年の月日の後、本星へと帰還を目指す。
果たして彼らは帰還できるのか?
帰還出来たとして彼らに待ち受ける運命は?
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち
ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。
クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。
それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。
そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決!
その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる