神と従者

彩茸

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第三部

群れ

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―――御鈴と俺が頼むから糸繰と仲良くしてくれと楓華に頼むと、彼女は渋々
頷いた。とりあえずと自己紹介をしている楓華と糸繰を横目に、着々とかき氷を
作る準備が整っていく。

「え、そうなの?!」

 楓華の驚いた声が聞こえ、そちらを見る。

「何かあったのか?」

 そう聞くと、糸繰がメモを差し出してきた。

〈蒼汰の名前は主に話してないって言ったら、驚かれた。〉

「え、そうだったのか?」

〈名前まで報告する必要はないだろうって思ってたのが始まりだけど、その後は
 何となく主に教えたくなくて。〉

 俺の言葉に糸繰はそう返すと、〈今は聞かれても絶対教えない。〉と付け加えて
 笑みを浮かべる。

「・・・糸繰って、蒼汰のこと好きなの?」

 楓華が聞く。糸繰はきょとんとした顔をした後、メモにペンを走らせた。

〈好き、っていうのが何を指しているのか分からないけど。蒼汰は、俺の大切な
 兄弟だから。そういう意味なら、好きだ。〉

「何か恥ずかしいな・・・」

「圭梧もここまで素直だと良いんだけどね」

 俺の言葉にクスクスと笑った楓華は、そうボソリと呟いて圭梧を見る。
 すると、聞こえていたのか圭梧が言った。

「面と向かって言うのは恥ずかしいものなんだよ。・・・まあ、俺は好きだぜ?
 のこと」

 わざとらしく笑みを浮かべる圭梧に、楓華が顔を赤くする。その様子を見ていた
 晴樹さんと優花さんは、何処か嬉しそうな様子で笑みを浮かべていた。



―――かき氷を食べながら、談笑する。一度に大量のかき氷を口に入れた所為で
頭が痛くなっている糸繰に、苦笑いを浮かべながら御鈴が痛みを消してやる。
それを見て、あるあるだよなと圭梧が笑う。
そんなこんなで過ぎていく時間。気付けばもう夕方で、そろそろ帰ろうかと俺達は
立ち上がる。

「令、寝てないで帰るぞ」

「お腹いっぱいだあ・・・」

 満腹になりゴロゴロとしていた令を抱きかかえて玄関へと向かうと、ゾワリとした
 寒気を感じた。
 ・・・久しぶりだ、この感覚。そう思っていると、糸繰も何かを感じたようで俺の
 服をそっと掴む。

「あー・・・ごめん、帰るのちょっと待ってもらえるか?」

「僕達ちょっと出てくるね」

 静也さんと晴樹さんがそう言って玄関の扉に手を掛ける。

「あの、俺も行きます」

 令を地面に降ろしそう言うと、気付いてるんだと晴樹さんは呟き、笑みを浮かべて
 言った。

「じゃあ、ちょっとだけ手伝ってくれる?この時間は危ない奴が多いから、気を付け
 てね」

 そう言って扉を開け飛び出していった静也さんと晴樹さんを追いかけるように、
 俺も飛び出す。
 さも当然のように糸繰も付いてきたのだが、まあ良いかと駆け出した。

「御鈴は令と留守番な!」

 振り向いてそう言うと、御鈴はコクリと頷く。圭梧と楓華も出て行く気はない
 ようで、心配そうな表情をしながらも俺達を見送った。



―――二人を追いかけ、森の中へ。足を止めた静也さんと晴樹さんは、追い付いた
俺と糸繰を見る。

「あれ、糸繰も来たんだな」

〈来ない方が良かったか?〉

 静也さんの言葉に、糸繰はそう返す。すると静也さんは、笑みを浮かべて言った。

「いや、手伝ってくれるんならありがたい。大妖怪がこっちにもいるってだけで、
 相手も警戒してくれるだろうしな」

「あ、糸繰」

 俺が声を掛けると、糸繰は首を傾げる。俺は糸繰の胸に人差し指を当て、口を
 開いた。

「妖術は禁止な。それと、体調悪くなったらすぐに言うこと。良いか?」

 コクリと頷いた糸繰に、よし!と俺は笑みを浮かべる。

「・・・さて、来たよ」

 晴樹さんがそう言って腰に付けていたホルダーから銃を取り出す。静也さんも腰に
 提げていた刀を抜くと、晴樹さんと共に前方を見つめた。

『柏木』

 そう言って、俺も手元に柏木を出現させる。
 ・・・現れたのは、鋭い爪を持った二足歩行の狼の群れ。その中心に見える一回り
 大きな妖を見て、呟いた。

「鬼・・・」

 糸繰とは違い、物語に出てくるような代表的な鬼の姿。唸り声を上げている狼達を
 率いているようなその鬼は、糸繰を見ると顔を顰める。

「上位種が何故そこに居る」

 こいつも喋るのか。そう思っていると、糸繰が一歩前に進み出た。

「あ、おい!ちょっと待てって!」

 静也さんが止めようとすると、糸繰は小さく笑みを浮かべて静也さんを見る。
 静也さんは何かを察したのか、それ以上止めることなく糸繰から一歩下がった。
 敵意を感じさせない歩き方で、糸繰が狼の群れに近付いていく。そして群れの
 前まで行くと、鬼に見えるようにメモを掲げた。
 何を書いたのかは分からないが、メモを読んだ鬼は糸繰を睨み付ける。

「俺様に指図するだと?たとえ上位種でも、容赦はしないぞ」

 鬼が狼の群れに合図を送る。
 その瞬間、狼の群れが一斉に糸繰へと攻撃を仕掛けた。

「待っ・・・!!」

 俺が飛び出そうとした瞬間、数匹の狼が宙を舞う。それを晴樹さんが正確な射撃で
 射貫き、爪を振り回しながらこちらに向かってきた数匹の狼を静也さんが斬り
 捨てた。

「流石鬼って感じだね」

 晴樹さんが狼の群れを見ながら言う。俺もそちらに再び視線を向けると、地面に
 倒れ伏す狼を平然と踏みつけている糸繰の姿があった。
 糸繰が、再びメモを鬼に見せる。激昂した様子の鬼が糸繰に向かって驚異的な
 速度で拳を振り下ろすも、糸繰は涼しい顔をしてそれを避ける。反撃と言わん
 ばかりに地面を蹴った糸繰は、そのまま跳躍して鬼の脳天にかかと落としを
 食らわせた。

「ガッ・・・」

 鬼が膝を突く。ストッと着地した糸繰が鬼に再びメモを見せると、鬼は忌々しげな
 顔で口を開いた。

「何故だ、何故している。上位種はもっと強いはずだ、俺様を舐めている
 のか?それに先程から帰れ帰れと・・・」

 ユラリと鬼が立ち上がる。数歩下がった糸繰に向かって、鬼が咆哮を上げるように
 叫んだ。

「舐められるのは好かん!貴様を叩きのめす!!」
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