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第一章 悪役令嬢は『壁』になりたい

11.一番守りたいもの(side ウィル)

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十三でリリーと共に学園に入り、更にそれから一年が経った頃のことだった。

ゼイムスから

「リリーと縁を切れ。そうでなければリリーをお前と同じ目に遭わせてやる」

そう言われた。


僕は四年前よりも背が伸びて力も強くなった。
リリーのおかげで魔術を習い、人を害する方法も、呪う方法も覚えた。

だからもうゼイムスと双子達になど負けはしないと思って正面切って歯向かったのだが……。

王太子であるゼイムスには強力な守護の魔術がかけられていて、僕のまだ未熟な魔力ではかすり傷一つ付けることが出来なかった。




背後から羽交い絞めにされ、魔術で吹っ飛ばしたお返しにとばかりに双子の一方からこれまで以上に強く鳩尾を膝で蹴り上げられ。
もう一方から眉間を強く殴られたところで、散々覚え込まされていた無力感に囚われた。

体からズルズルと力が抜けてしまい、そのまま深く項垂れる。

魔術を覚えた今、体の傷はすぐさま治せる。
しかし、心の傷は長い時間が経ってもそう簡単に癒えたりなどしない事をすぐさま思い出させられた。


「どうか彼女にだけは酷い事をしないで」

初めて自らゼイムスの足に縋り、そう懇願した。

情けない。
情けなさ過ぎて涙が出てしまいそうなくらい悔しい。

けれど、これがリリーを守る為に今の僕に出来る全てだった。

そんな僕を見下ろすゼイムスは酷く気を良くしたようで

「いいだろう。お前がオレに逆らわない限り、リリーの前では理想の王子様のフリを続けてやるよ」

そう言ってさも楽しくて仕方がないと言った様に、最後に一度強く僕の顔を蹴り上げた後で声を上げて嗤った。




「どうしたの? 顔が真っ青よ??」

その日の昼休み、リリーがそう言っていつもの様に僕の頬に触れ僕の目を覗き込んだ。

先程ゼイムス達に殴られた傷や痣は、リリーに心配かけないように魔法でとっくに治していたが、その陽だまりの様に温かな手が触れてくれた部分は痛みの記憶さえ消してしまうようだった。

リリーの綺麗なエメラルドの瞳と目が合えば、さっき感じた絶望感も、悔しさも全て忘れられるような気がする。

だからこそ余計に

『あぁ、僕はこれを失うのか』

そう思えば悲しみに胸が押しつぶされてしまいそうだった。






******



リリーを守る為、早く彼女を僕から遠ざけなければと思うのだけれど、どうすればいいのかが分からない。
心に嘘をついて酷い事を言えば、リリーはいつか見た悪夢のように、僕を置いてどこか遠く離れて行くのだろうか?

リリーを守る為、急がないといけない事は分かっている。
それでも彼女を遠ざける方法など全く思いつかないような振りをして、彼女と他愛もない話をしていた時だった。




「リリーはローザの事を誤解している。君にいったい僕たちの何が分かる!? 知ったような口を利かないでくれ!!」

心の中がぐちゃぐちゃなせいで、思わず強い口調でそんな事を言ってしまった。
声を荒げるつもりなんてこれっぽっちもなかったのに。

はっとしてリリーを見れば、彼女は悲し気に瞳を揺らしていた。

すぐにリリーを傷つける気はなかったのだと謝ってしまいたかった。

しかし、教室の窓からじっとこちらを見ていたゼイムスと思いがけず目が合ってしまったから。
僕にはそうする事が許されなかった。


走り去っていく彼女の足音を俯き聞いた後、ゼイムスがいた窓の方を向けば、既にヤツの姿はなかった。
泣いて去って行く彼女を追って行ったのであろうゼイムスは、さも偶然出くわした振りをして彼女を理想の王子様のフリをして慰めて見せるのだろう。






******


それから僕はリリーを守る為、ゼイムスの守護さえも打ち破れる程強くなる事をただひたすらに求めた。


しかし、リリーをゼイムスから守る為、彼女との距離を置き続ければその溝は日に日に深くなって、何時しか彼女と目が合うことさえ珍しくなってしまった。
そしてそれと反するように、ゼイムスの婚約者として楽し気に笑うリリーを目にする事は増えていった。


彼女が楽し気に笑ってくれているのならそれに安堵すべきなのに……。
やはり彼女がいるのが僕の隣でない事は苦しくて仕方がなかった。
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