サウザンド・ジョブ・オンライン ~あるみならい僧侶の話~

アヤマチ☆ユキ

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第1章 はじまりの街 編

015 2日目の朝 <04/03(水)AM 05:01>

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 サウザンド・ジョブ・オンライン(Thousand Job Online)略してTJO、かつて5年に渡りプレイしていたオンラインゲームに似た世界? にやってきた俺は、ゲーム時代と同じ職を目指す事に決め、冒険の準備や初日の探索を終え、想定外の幸運(不運?)でLVを6まで上げた。
 しかし死亡した場合に『復活』出来るのか? 確証が持てなくなった俺は安全性を重視し、LVUPのボーナスポイントを全てVITに振って、MAXHPを増やしてから眠りについたのだった。



……さま…ご……
 「………」何かが…俺のほっぺたの辺りをムニムニしている。いや…プニプニしている。ぷにぷにpn……

「ご主人さま~、ごじだよ~」
 「………」ご主人様~ぁ? お前は執事かぁ~、ごしゅじんさmがひtぢkzzdkn

「ね~、ご主人さま~、ごじだよ~」
 「………」ん~? 目をあけると目の前に野良猫がいる。俺のほっぺたを前足で交互に、踏み踏み、踏み踏みふみfmふmm…

「ご主人さま~、ご~~じ~~~」
 「………」ん? ここは…どこプニ? 俺がごじで…猫が…三毛猫が……

「……ミケネコ?」
「も~、ご主人さま~、ごじだよ~」
 意識が少しはっきりしてきた。視界の右下の方へ意識を向けると<04/03(水)AM 05:04>と表示されている。そして目の前でミケネコが、俺のほっぺたを前足で交互にムニムニ押し続けている。う~ん、肉球はぷくぷくのぷにぷにだな…猫っぽい。その前足の両脇の下に、両手の親指をひっかけて持ち上げ、高い高いをしてやる。

「も~ご主人さま~」
 寝ぼけている俺を見て、ミケネコが尻尾をフイッ、フイッと揺らし呆れている。また評価が下がったようだ。そのまま持ち上げたミケネコを、ぷらんぷらんとしばらく左右に振ってから、ベッドの横に下ろし身体を起こした。
 なんだかつらい。寝る前はそれほど眠さも疲れも感じて無かったのに、昨日1日で思った以上に疲れていたらしい。空腹や喉の渇きも含めて、どうもその辺が鈍感? になっている気がする。
 無理が出来るが、その分の反動もきっちりやって来る…そんな風になってるのだろうか? ともかく意識して、休憩や睡眠をとるようにしておいた方が良さそうだ。

「よし、とりあえず朝飯前に、昨日と逆のルートで大きくまわって、夜中に出て見つかっていない宝箱が無いかをチェックする」
「ぎゃくのるーと?」
「あぁ、すぐに人が多くなる東、南、西を先に見て、最後に北だ」
「『たからばこ』と『くろいの』みつけて、しあわせになる~」
「そうだ、それと黒いのが消えて『袋』(遺産)だけ残ってる時もある。それでも幸せになる」
「『ふくろ』もみつける~」

 とりあえずの予定をミケネコに伝えたので部屋を出て鍵を閉める。宿屋の受付に行くと、やはり昨晩と同じ量産型おばちゃん(CV:くじら)が居た。
 たまには…お姉さん(CV:藤田 咲)とかに交代してもいいのよ?

「おはよう兄ちゃん、早いね」
「おはよう、飲み水を貰えると聞いたんだが」
 道具屋のおっさん情報をたずねてみる。

「井戸水でいいなら、裏の井戸でいくらでも汲んで飲んでいいよ、顔とかもそこで洗っとくれ」
「わかった、ありがとう」
 ともかく、しっかりと許可を得た。知識で知っていても≪許可を得ず≫勝手に使用したりすると、『善行悪行値ペナルティ』となる可能性がある。許可は大事だ。ミケネコを連れ井戸へ向かう。

 「………」そう言えば≪こういう井戸≫で、バケツみたいなのを放り込んで引き上げるのは、実際にやるのは初めてだな。ヒモのついたバケツを井戸に放り込んで引き上げる。結構重たい…バケツから手ですくって顔を洗い、うがいをしたりして、さっぱりした後で少し飲んでみた。水だ…もっと井戸水臭さ? みたいなのがあるかと思った。

「ミケネコも飲んでみるか?」
 手ですくってミケネコの前にそっと出す。ピチャピチャ、ピチャピチャと舐めてから

「もっと≪ぬるい≫ほうがいい~」
 と感想を言った。そう言えばよく猫は『人間が用意するきれいな水』よりも、『汚い水たまりの水』とかを飲んでいるが、汚いからじゃなくて「ちょうどいい感じのぬるさ」だから飲んでいるらしい。『汚いぬるい水 >>>>>> 冷たいきれいな水道水』 という事だ。
 冷たいとお腹壊すとかなのかね。熱いのは『猫舌』でダメで、冷たいのは『猫腹?』でダメ、とか? 自由人(自由猫)のようでいて難儀だな。

 まぁミケネコの飲む水についてはまた考えよう、インベントリから昨日買った『樽(中)』を取り出してバケツの水を入れる。バケツ1杯で1/3ってところか…あと2回…重い。せめてお寺によくあるガシャコン、ガシャコンするポンプがあると楽なのになぁ。飲み水を確保して樽(中)をインベントリに戻す。樽(中)100%になった。
 中身は不明なんだな…≪何か≫が100%だ、不審すぎる。
「おい貴様っ、この樽の中身はなんだ? ペロ…水だ」
 まぁそんな事はどうでもいい。

 視界の右下の方へ意識を向けると<04/03(水)AM 05:32>と表示されている。結構手間取った。

「よしっまず東口だ」
「は~い」
 ミケネコを連れて宿屋を出たところで、果物が並ぶ露天にある『サクランボ』が目に入った。1つ5Gと書いてある。確か所持金は 1,014Gだったな。適当に2つくっついているサクランボを手に取って、店員らしきおばちゃんに差し出す。当然量産型だ。

「これを貰おう」
「毎度~、10Gだよ」
 おばちゃんに10Gを手渡す。その『サクランボ』を1つ『インベントリ』に、もう1つを『ミケネコのストレージ』に放り込んだ。ミケネコが少し首を傾げたが、耳をプルプルッと振るわせると「もう慣れた」といわんばかりに、何事も無かったかのように歩きだした。

 「………」ちなみに、NPCショップで購入する場合は、アイテム等は当然『鑑定済み』である。そのため今後もしフィールドで『サクランボ』を発見しても、最初からサクランボだとわかる。その代わり『鑑定時の初回経験値ボーナス』は≪得られない≫のだ。痛し痒し…といった所であろう。まぁ5Gのサクランボの初回鑑定ボーナス程度の内は、そこまで気にする必要も無いのだが。
 ちなみにショップで目にしただけでは鑑定済みにならない。それだとショップを見てまわるだけで、初回鑑定ボーナスが全て消滅してしまうからだ。
 草(不確定名)などを鑑定して、薬草という確定アイテムに変わり『初めて自分の所持品に入った時』にボーナスが入っているのだろう。だから最初から『鑑定済みを購入』して、自分の所持品にした時点でボーナスは消えてしまう…と、そんなところか。
 当然プレイヤーショップでも、交換(トレード)、譲渡でも、とにかく『鑑定済みを入手』するとボーナスは消える。


 そんな事を考えている内に東口についた。まだ薄暗く人通りも無い。6時前だしな。そのまま門を通過し街を出て、しばらくまっすぐ東に向かう。
 街の周囲100m以内に宝箱がある可能性はゼロと言ってよい。街付近はプレイヤーで溢れているから宝箱がPOPする余地が無い。しばらく歩いて十分に街から離れたところで大回りで南に移動する。
 先に東、南、西をまわる理由はもう2つある、見晴らしが良いため早朝で薄暗くても、宝箱が見つけやすいのだ、そして北の森は薄暗いと宝箱が見つけにくい。さらに『イルカモネ山猫』も見つけにくく危険度があがってしまう。

「ご主人さま~、たからばこ!」
 ミケネコが尻尾をウネウネさせながら報告してくる。草むらの陰に箱が落ちている。幸先がいい。

「いいぞミケネコ、朝飯の後でバリ好きーだ」
「やった♪」
 「………」まぁ俺だけ食べるのは気がひけるから、元々朝飯の後でバリ好きーを出す予定だったのだが、こういうのは言わぬがノーズ、いや花だ。
 気になる中身は……

「ん? 『青銅の長剣』?」
「せいどーのちょーけん?」
「え~っと…12,000Gだったかな? …うん、アタリだ」

 「………」う~ん、昨日が『鉄の長剣』(20,000G相当)だっただけに微妙な感じだ。『青銅』で1ランク落ちるのはいいんだが、何も長剣でなくとも――。
 ………いや、こういうのは≪慣れたらダメ≫だ。謙虚さを忘れてはダメだ。NPCに売っても20%で2,400G、あの『ブタスキノコ』2つ分なのだ。欲しいプレイヤーが居れば10,000Gぐらいで売れるかもしれない。「早起きは三文の得」と言うが、三文は100円ぐらいらしい。つまりこれはもの凄いラッキーな出来事なのだ。

「よしっ、やったぞミケネコ! この調子で幸せになろう」
「どんどんみつけて しあわせになる!」
 うんうん、ミケネコのテンションも上がったようだ。褒めてのばす。前向きに行こう。しばしミケネコのアゴの下をコショコショする、尻尾もウェーブしている。
 ちなみに宝箱の中身だが、最寄りの街、村のNPCショップの品揃えの中で、”平均以上の品からランダム”に選出されているらしい。これにより先ほどの『サクランボ』×1(5G相当)…といった大ハズレなどは、出ない仕組みとなっている。逆にこんな低LV地帯で、いきなりミスリルソード、オリハルコンアーマーなどの、バランスを大きく崩す様な、レア装備品なども出ないようになっているらしい。

 「………」この辺りの草原には、これといって収集する素材も無い。ひたすら宝箱や黒ネーム、遺産等を探しながら移動をする。たまに「未知のアイテムか?」と思って見つめてみるが、鑑定済みの安物ばかりだ(一応ミケネコのストレージに放り込んでいるが)周囲には『シマブタ』LV2が少なくなり、『バルーンラビット』LV1の姿が目立つ様になってきた。

 ん? 少し開けた場所に『小さな袋』が落ちている。見つめてみると……
《名:キリエ の遺産 所有者:なし 〈最期〉バルーンラビットLV1と戦って敗れる》

 周囲を見渡してみる、人影は無い。黒ネーム状態ならペナルティムービー中で、回収に来た本人とハチ会わせる可能性はゼロなのだが、≪遺産だけ≫という状態は(復活出来るのであれば)本人は復活している、…という事だからハチ会わせる可能性がある。
 いくら『遺産は拾ったプレイヤーのモノ』という決まりでも、本人の目の前で拾うのは気が引ける。街の入り口の方をじっと見る…誰も出てくる気配は無さそうだ。さっと遺産の入った『小さな袋』を拾って、そのまま立ち去る。

「ご主人さま~しろいひとだよ~」
 ちょうど南口から真南に来たあたりで戦闘中のプレイヤーに遭遇した。
相手は『バルーンラビット』LV1。プレイヤーのLVは2だが、『みならい斥候』なので攻撃力不足なのか、てこずっているようだ。

「治癒魔法[ヒーリング]」
 HPが半分をきったので範囲ギリギリから、1度だけ治癒魔法をかけてあげ様子を見る。



「結構です」〔※1〕
 「………」ありゃ、余計なお世話だったようだ。お詫びして立ち去ろう。

「ごめんなさい」
 (※F8キーで「ごめんなさい」、英語圏の人には「I'm sorry」と表示される)

「行こう、ミケネコ」
「は~い」

 TJOで辻ヒーラーをやってるとよくある光景だ、気にしても仕方が無い。引き続き大周りで宝箱を探しつつ西口方面に向かう。ついでにかなり離れたので先ほどの『小さな袋』の中身を確認してみる。…21Gだった。そもそも復活出来るのか? という根本的な問題もあるけれど、金額的に≪どうでもいい≫から回収に来なかったのかも知れない。
 ちなみにこの『小さな袋』も『ランダムPOP宝箱』と同様に、中身を取り出すと消えて無くなる。宝箱との違いは≪持ち運べる≫という事と、≪額によって袋の大きさが変化する≫という事だ。ともかく21Gを巾着袋にしまう。サクランボ4つ分だ、ラッキーなのだ。

 周囲にうようよ居た『バルーンラビット』LV1が減りはじめ、入れ替わりに『伯爵はくしゃくレグホン』LV3がコケコケ言いはじめた。この辺りはもう西口周辺だろう。
 辺りもかなり明るくなってきた。視界の右下の方へ意識を向けると<04/03(水)AM 06:48>と表示されている。7時前か…。

「ご主人さま~ふたりいるよ~」
 ミケネコに言われてそちらを見ると、LV1の2人組で『伯爵レグホン』LV3と戦闘中だった。旗色は良くは無い、しかし複数人の場合は『辻ヒール』は面倒なのだ。
 例えば先ほどの場合でも、ソロプレイヤーだったから「結構です」「ごめんなさい」で終わりだったが、複数人で「結構です」「ありがとう」とか、「ありがとう」「結構です」「ありがとう」等とバラバラな反応をされると、どうしていいかわからなくなってしまう。
 他のゲームは知らないが、TJOのゲーム時代の経験上は、パーティに対しての辻ヒールは控えた方が良い…という結論だった。パーティなのだし協力して乗りきってくれるだろう。

「1人じゃない時もいい」
「は~い」
 その場をそっと立ち去って、宝箱を探しつつ北へ向かっていく。少しずつ北の森が近付いてくる。

「とりあえず昨日と同じ様に、『森の端』で素材を収集しながら宝箱も探すぞ」
「ぶたすきのこ さがすっ!」
「あ~、あれは見つかりにくいと思うが、その意気や良し」
「そのいきやよし~?」
「やる気があっていいぞ、という意味だ」
「そのいきやよし~!」
 うんうん、使い方がおかしいが、やる気があるのは良い事だ。しばしミケネコのアゴの下をコショコショしてやってから、宝箱を探しつつ北の森での素材収集をはじめたのだった。


---------------------------------------------------------------------------
LV:6(非公開)
職業:みならい僧侶(偽装公開)(みならい僧侶)
サポートペット:ミケネコ/三毛猫型(雌)
所持金:1,025G
武器:なし
防具:布の服
所持品:8/50 初心者用道具セット(小)、干し肉×9、バリ好きー(お得用)80%、鉄の長剣、樽(中)100%、コップ(木)、サクランボ×1、青銅の長剣


〔※1〕TJOでは戦闘ではなく様々な行為、行動によって経験値が得られるため、必ずしも回復は『善意のボランティアとは限らない』…のだが、それでもTJOでは慢性的な僧侶不足のため大抵は喜ばれる。
(僧侶が余っていれば、味方僧侶の経験値稼ぎの邪魔になりかねないが、僧侶不足のため相手の思惑はどうあれ回復してもらう=単に回復アイテムが浮いて助かり、また回復を行う必要が無くなれば、攻撃だけに専念できるので大幅に戦闘が楽になるからである)

 また暗黙のルール(ローカルルール)として、『定型チャットでその意思を伝える』というモノがある。キーボードのF9~F12にはそれぞれ、F9「ありがとう」、F10「結構です」、F11「はい」、F12「いいえ」…と割り当てられており、戦闘中でも1タッチで即座に会話(意思の伝達)が出来るようになっている。
 回復されてありがたいなら F9「ありがとう」、迷惑であればF10「結構です」を押せばよい。ちなみにこれらは『PCの地域設定』に対応しており、相手が『英語を選択』していると、相手側で F9「Thank you」、F10「No thank you」、F11「Yes」、F12「No」…等と、『自動的に変換されて表示』されている。


「ご主人さま、あさよわいの~?」
「いや、寝起きは良い方なんだがな…」
「よくないよ~」
「う~ん、なんか…ん~」
「ん~?」
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